第38話 クローンと魔法少女。

 ゲートを抜けると、王都の真上に出た。

 「王都に戻るぞ」

 「分かった」

 マーベラスの指示に従い、開いた入口から王都の中に入る。

 「ここがドワーフの王都の中なのですか?」

 台座に運ばれながら通路を出た後、メルルがロボットや戦艦だらけの納庫を見回しながら言った。

 ドワーフのイメージと大きく異なるメカメカしい風景を目にすれば、当然の反応だろう。

 「機械技術を物凄く発展させた結果だそうよ」

 クラウディアが、疑問に応える。

 台座が止まった後、側に来た整備班の誘導に合わせて、マジンダムを移動させた。

 「それにしてもどうして魔法の世界から離れるようなことをしたのですか? しかもメルルまで連れて」

 マジンダムを止めたところで、マリルがクラウディアに、メルルを連れて乗ってきた目的を尋ねた。

 「あのままではメルルを含めて邸の者達が拘束されると思い、あなた達と行くことにしたのです」

 「お母様、邸の者達は大丈夫でしょうか?」

 メルルが、不安そうに尋ねた。

 「きっとマルスがうまくやっていますよ」

 「それなら安心ですね」

 クラウディアの説明を聞いて安心したのか、表情を緩めていく。

 「もう降りていいぞ」

 画面越しに手を振っているマーベラスからの通信だった。

 「許可が出たから降りよう」

 「そうね。この中に四人はさすがに狭いし」

 今現在のコックピットには、四人が乗っていたのだ。

 「前から思っていたのだけれどマリルはいつもそんな姿勢で乗っているの?」

 クラウディアが、パイロットシートの右側に立って、操縦倬に手を乗せているマリルの乗り方に付いて尋ねた。

 「当たり前じゃないですか。他にどんな乗り方があるというのです?」

 突然の問い掛けにもかかわらず、すらすらと嘘の説明をしていくマリルの対応力の高さに、感心せずにはいられない。

 「メルル、あなたの時はどうでしたか?」

 「私の時は守の膝に乗せられましたけど」

 メルルが、膝を指さしながら説明した。

 「まさかマリルにも同じことを?」

 クラウディアが、突き刺すような鋭い視線を向けながら重い口調で問い詰めてくるので、脅されているような気分になった。

 「いつもこの姿勢ですよ」

 マリルと同じく冷静な口調で答えた。これまでの経験があればこその芸当である。

 「本当ですか~?」

 納得いかないらしく、疑いの目を向けながら食い下がってくる。

 「どうした? 早く降りてきてくれ」

 マーベラスから催促の通信が入ってくる。

 「この件はまた後でじっくり話すことにしましょ」

 「はい・・・」

 素直に返事をすることしかできなかった。

 下に集まっているドワーフ達を驚かせないよう、転送魔法ではなく右手に乗って降りていく。

 「こっちに来てくれ」

 呼ばれるままマーベラスの側に行った。

 「大王、ご無事に戻られましたこと心よりお喜び申し上げるでおじゃります」

 クダラの帰還を喜ぶ言葉に合わせて、将校達がマーベラスに頭を下げていく。

 「それよりも光学迷彩用のスモッグを出して王都を隠せ」

 「承知したであります」

 バロッケンの腕輪操作の後、正面に表示されたモニターに煙で覆われていく王都が映し出され、覆い尽くすと周囲の景色と同化していった。

 「これで少しは時間が稼げるだろ」

 「何からだよ?」

 マーベラスが、無言で指差すモニターを見ると、上空に巨大な魔法陣が展開して、大勢の魔法使いが出てくるのが見えた。

 「おいおい、なんで魔法使いがここに来るんだ? 条約はいいのかよ」

 「不可侵条約を破棄するつもりなのでしょうか?」

 「魔法の世界から逃げた反逆者を捜すっていう口実があるから来たんだろ。逃げた相手が議長に反抗した者なら尚更だ」

 ジョバンが、冷静な口調で魔法使いが来た理由を推察していく。

 「王都を隠しているスモッグは魔法使いの探査魔法も妨げるからその間に対策を練ろう」

 「そうだな」

 「じゃあその前に初めて来た二人を紹介しておこう。前に来たクラウディア先生の旦那で俺の親友のジョバン・パプティマスだ。そちらの可愛らしいお嬢さんは?」

 マーベラスが、メルルに優しく微笑みながら問い掛けた。

 「私はジョバンとクラウディア・パプティマスの娘メルル・パプティマスと申します」

 初対面となるマーベラスや大勢のドワーフを前にしても、物怖じすることなく続柄と名前を言った。

 「あらあら。可愛らしいこと」

 マリューが、目線を合わせるように膝を折りながら声を掛けた。

 「マリル姉様に似ていらっしゃいますが、ご親族の方ですか?」

 「どういう関係だと思う~?」

 クイズでも出すように聞き返した。

 「姉上様ですか?」

 「マリル、聞いた~聞いた~? 姉上様だって~」

 満足気に声を弾ませた。姉と思われて、よほど嬉しかったのだろう。

 「私の本当のお母様、マリュー・アウグストゥスよ」

 マリルが、やや呆れた声で種明かしをした。母親の悪ノリに耐えられなかったに違いない。

 「母上様だったのですか。それではこれから宜しくお願いいたします。マリューおば様」

 「お・ば・さ・ま?」

 マリューは、笑顔で固ったまま、メルルに言われた言葉を一語一語噛み締めるように声に出していき、その様を見た守を含むほとんどの者達は、表情を強張らせ、格納庫内の空気が一気に激ヤバな雰囲気に包まれていった。

 「おば様だって~」

 激ヤバな雰囲気の中にあって、クラウディアだけは腹を抱え、大声で笑っているのだった。

 「クラウディア、何笑ってんのよ!」

 マリューが、格納庫に響くほどの声で呼び掛ける。

 「だっておば様よ。おば様~」

 「あんただっておばさんでしょうが~!」

 「私は先生と呼ばせているから」

 「メルルちゃん、どうして私をおば様って呼ぶのかしら?」

 先程の激昂が嘘のように、落ち着いた声で問い掛けた。

 「同級生のお母様のことはみんなおば様と呼んでいるからです」

 怯えることなく事情をきちんと話した。

 「せめてマリューさんにしてくれるかしら~?」

 「・・・分かりました。マリューさん」

 やや腑に落ちない感じで、要求通りに呼んだ。

 「それでいいわ」

 マリューは、ようやく表情を緩め、それに合わせて周囲の緊張も解れていった。

 「それでこれからどうするんだ?」

 「とりあえず警戒体勢を維持したまま上で話そう。整備班は作業に戻れ」

 一行は、エレベーターに乗って展望室に移動した。

 「皆様、お待ちしておりました」

 「お茶の用意ができております」

 エレベーターから出ると、レイラとマルガが出迎えの言葉を口にしていった。

 「これはこれはクラウディアさん」

 「またお会いできて嬉しいですわ」

 「私もとても嬉しく思います」

 再会した三人は、近所の奥さんのような口調で、喜びを分かち合った。

 「今日は娘と主人も一緒ですの」

 話ながらメルルとジョバンに右手を向けた。

 「メルル・パプティマスです」

 「ジョバン・パプティマスだ」

 「まあまあ可愛らしい」

 「あらあらいい男ですわ」

 二人が、見た感想を言っていく。

 「皆様、こちらへ」

 レイラが、席へ案内していった。

 「メルルちゃんはうちの子と遊んでくれないかしら? あなたの話を聞いてからずっと会いたいって言っていたの」

 「私も魔法使いの一人として参加したいです」

 「メルル、これは私達だけでなく魔法使い全体に関わることですからここはマルガさんのお願いを聞いてあげなさい」

 「姉様」

 マリルに救いを求めるように呼び掛けた。

 「メルル、これはとても大事なお話しだからまずは私達だけで話させてあなたの力が必要な時は呼ぶから」

 言い聞かせつつ、フォローを忘れない見事な返しだった。

 「分かりました」

 「じゃあ、こっちに来て」

 メルルは、マルガと一緒にエレベーターに乗って、展望室から離れていった。

 「ちゃんと姉様してるんだ~」

 先程のやり取りを見てたマリューが、嬉しそうに言った。

 「姉妹の絆はしっかり結んでいますから」

 「それでこれからどうするんだ?」

 各自が、お茶を飲んでいったタイミングで、話題を振った。

 「我々の潔白を証明して魔法の世界との衝突だけは絶対に避けないとな」

 「それには証拠か証人が必要だが、それができそうなカイサルは灰になってしまったし」

 「証拠品である指輪は守が飲んで吐き出してしまいましたしね」

 話しているマリルから、怖い視線を向けられてしまう。

 「あんな小さなもの細かくできるわけないだろ。あっそうだ」

 言い終えた直後に大声を上げた。

 「どうしたのよ。急に変な声出して」

 「カイサルといえば、これ持ったままだった」

 ズボンのポケットからカイサルの指を取り出す。

 「なんでそんなグロテスクなもの持ってんのよ?!」

 周囲が驚く中、マリルが引き気味の表情で、事情を尋ねてきた。

 「灰になる前に光を出して握った指が灰にならずに残ったんでポケットに入れたまま持ってきちゃったんだよ」

 「そんな気色の悪いものさっさと捨てなさいよ。ホオガ、あれ燃やして」

 「承知したでござる」

 ホオガが、右手から炎を出して近付いてくる。

 「待て待て! それ使えるかもしれないぞ!」

 マーベラスが、椅子から立ってホオガを止めた。

 「父上殿、何故止めるのでござる?」

 「その指が使えるからだ」

 「使うってまさか魔法で生き返えらせるとか言うんじゃないだろうな」

 「結論から言えばそうだが魔法じゃなくて科学の力を使う。クダラ、バロッケンすぐにクローン再生の準備をしろ」

 側に控えているクダラとバロッケンに命じた。

 

 「ここがクローン工場か。ロボットや戦艦以外にもこんな技術まで持ってたんだな」

 あの後、一同は格納庫とは別場所にあって、大小様々なカプセルが並ぶ工場に来ていた。

 「魔法の研究所とは随分と趣が異なりますわね」

 クラウディアが、珍しく驚いたような感想を漏らしていた。

 「ここは食糧増産の為に開発された場所なんですよ」

 「食糧とクローンにどんな関係があるんだ?」

 「良い品種を手早く増やす為だ。自然が少ないこの世界では質のいい食材の提供には必要不可欠なんだよ」

 その言葉を証明するように、カプセルに入っているのは牛や豚に似た生き物達で、水槽には魚介類らしきものも見えた。

 「よく見るとホムンクルスの生成法と似ているな」

 「その技術も使われているのよ」

 「そのお陰で性能が向上して、より良い状態で提供できるようになったでおじゃります」

 「まさかとは思いますが、人間はやっていませんよね?」

 マリルが、少し不安そうな顔で尋ねた。

 「安心して。民の再生は禁止してるから。死んだ人間を生き返らせるなんて理を曲げることだから。ただ今回は特例だけど」

 「大王、準備ができたでおじゃります。始めてもよろしいでおじゃりますか?」

 クダラが、左手の腕輪から表示したパネルを見ながら、作業開始の許可を求めた。

 「いいぞ」

 正面に見える人一人が入れそうなカプセルに青い培養液が満たされると、入れられてい指が、欠損箇所から泡を出し始め、徐々にカイサルの形を作っていく。

 「本当に再生できるんだな」

 「我々の技術なら朝飯前なのである」

 バロッケンが、自慢気に言った。

 「終わったでおじゃります」

 十数分後にクダラが、作業の終了を告げた。

 「悪魔のままじゃないか」

 培養液の中で浮いているカイサルは、人間ではなく悪魔の姿だったのだ。

 「悪魔の指だから仕方ないさ。カイサルの状態を確認しろ」

 「はっ」

 培養液が抜かれた後、天井部から照射された光が、カイサルの全身を照らしていく。

 「問題無いでおじゃります」

 「よし、カプセルから出せ」

 カプセルのカバーが下りた後、隣に設置されているアームが、カイサルの体を掴み、用意しておいたベッドに乗せる。

 「後は記憶が残っていることを願うだけだな」

 「完全な状態で再生できたのですから記憶も残っているのではないのですか?」

 マリルからの問い掛けだった。

 「脳からならまだ可能性は有るが指からだとなんともいえないな。クローンは基本的に形を再生する為の技術だからね」

 「それよりも縛ったりしなくていいのか? 暴れたりしたら大変だぞ」

 「これだけの魔法使いが揃っているし、君も居るんだからどうとでもできるさ」

 「それもそうか」

 「よし、カイサルを起こせ」

 「了解であります」

 クダラのパネル操作で、ベッドから出てきた注射器の付いたアームが、カイサルの首筋に薬を投与した。

 全員が、警戒する中、カイサルがゆっくり目を開け「ここはどこだ?」

と周囲を見回しながら第一声を放った。

 「ドワーフの王都だよ。自分が誰でどうなったのか覚えているか?」

 マーベラスが、全員を代表して問い掛ける。

 「カイサル・フローレンス、確か灰にされたはずだが?」

 自分の体を見たり、触ったりしながら返事をした。

 「俺が拾った指を使ってクローン再生させたんだよ」

 「クローン? 聞いたことはないな。しかし何故私を生き返らせた? お前達にとって利益があるとは思えないが、なぶり殺しにでもしようというのか?」

 「そんなことはしないさ。聞きたいことがあるからだ。ホールで言おうとしたことを話してくれ」

 「いいだろ。お前が議長からもらった指輪はどんな世界に行っても居場所を知らせる道具だったんだよ」

 「やっぱりそうだったのか。それでなんで俺にそんなものを持たせたんだ?」

 「お前を殺す為に決まってるだろ」

 「なんで議長が俺を殺す必要がある?」

 「悪魔を倒せる力を持ってるんだから当然じゃないか」

 「わざわざここに大石落とさなくても他のやり方で良かったじゃないか」

 「そのやり方なら口実も言い訳も必要無いし、天使の干渉も受けずに済むからな」

 「天使って悪魔の世界に行った俺達を助けてくれたけど、いったいどこに居るんだ? 妖精の女王も知らないって言ってたけど」

 「弱点だからか分からないが俺達もどこに居るかは教えられなった」

 「じゃあ私達を狙ったわけじゃないのか?」

 マーベラスが、問い掛ける。

 「ただの好都合な偶然だ」

 「それはいったいどういう意味だ?」

 「お前達は時を止める魔法を使えるからだ。あの力は悪魔にとって厄介だからな。他の世界で使われたら困るんだろ」

 「悪魔にも色々と苦手なものがあるんだな」

 「悪魔だって世界に属するんだから弱点くらいあるさ」

 「それで議長は悪魔の契約者なんだな」

 「契約者じゃなくて悪魔そのものさ。お前が倒したゴイールと同じだよ」

 「じゃあ本当の議長はどうしたんだ?」

 ジョバンが、食って掛かるように問い掛けた。

 「どこも何も議長は初めから悪魔だったんだ」

 「それじゃあ我々はずっと悪魔に従ってきたというのか?」

 「そうさ。もっとはっきり言えば魔法使いってのは悪魔の下僕のことなんだよ」

 「悪魔の下僕~?!」

 魔法使い達の声が、ハモった。

 「魔法使いってのは誕生時に持ってて世代と供に失われていく強大な力を永久に保つ為に悪魔と契約した連中なのさ」

 「何故その事を誰も知らない? 捕らえた契約者からも聞いた事はないぞ」

 「契約者では公然の秘密だが、言えば議長に消されるから言わなかっただけさ」

 「魔法使い側の理由は分かったが悪魔は何故我々と契約する必要がある?」

 「悪魔は自分の世界から出られる分量に限りがあるし、天使に干渉されないように魔法使いを使って他の世界を監視下に置いていたのさ」

 「嘘だ! お前の言葉なんか信じられるものか!」

 ジョバンが、マリルの事で責めた時以上の声で激昂する。

 「信じる信じないはお前達の勝手さ。けどな。魔法使いって名前は悪魔に使われるから魔と使っていう字が当て嵌められてるんだぜ」

 その言葉の後、室内は水を打ったように静かになった。

 魔法使い達が、呆然した表情のまま立ち尽くしていたからだ。

 「そうそう力を失って生きてきたのがお前達人間で、一番自然な姿なんだよ。もっともお前はもう違うけとな」

 魔法使い達に追い打ちを掛けるように、聞いてもいないことを話してきた。

 「それじゃあ聞かれたこと話したから殺してやるよ」

 カイサルが、右手を向けてきた。

 「させるか、よ~?」

 右手を出したまま、拍子抜けしてしまった。防ぐものが無かったからだ。

 「これはいったいどういうことだ? 何故何も起きない? 私の力はどこへいった~?!」

 カイサルは、信じられないといった顔で、自身の両手を交互に見ながら喚いた。

 「クローン再生だと魔力までは戻らないようでおじゃるな」

 「そんな、それなら私は二度と元の姿に戻れないのか。それじゃあただの化け物じゃないか・・・・・」

 カイサルは、憑きものが落ちたように顔から力が抜け、床に両手と両肘を付いていった。

 「やっと大人しくなったか。早くこいつを連れて魔法の世界に戻って疑いを晴らそうぜ」

 その場に座り込んだカイサルを指差しながら、次の行動を促した。

 「今のカイサルでは無理だろうな」

 マーベラスが、否定的な返事をした。

 「どういうことだよ?」

 「オリジナルのカイサルが灰になった所はホールに居た全員が見てるんだ。クローン技術も知らない上に魔力が無いとなれば信憑性は皆無だろう」

 「マーベラスの言う通りだな」

 ジョバンが、マーベラスの意見に賛同した。

 「マリューさんとクラウディアさんはどう思いますか?」

 「今の彼を連れて戻っても意味はないわね」

 「議長が悪魔と関連していることを証明する別の方法を考えるべきですね」

 女性陣からも反対された。

 「マリルはどうだ?」

 「私も今のカイサルじゃ役に立たないと思う」

 両親の前だからか、押しの弱い感じの声だった。

 「このままじゃ何も解決しないぞ」

 「それなら君に良い考えがあるのか?」

 ジョバンが、冷静な口調で突っ込んできた。

 「それは・・・・」

 考えが無いだけに、言葉に詰まってしまう。

 「大王、ケバブから通信が入っているであります」

 「繋げ」

 「そんなことしたら外に居る魔法使いにバレないか?」

 「秘匿回線だから関知はされないよ」

 それからケバブの顔を映した画面が標示された。

 「マーベラス、さっきから魔法使い達がぶんぶん飛んでいるが、どういうことだ? 条約破りだぞ」

 「話合いがこじれたんだ」

 「そんなことだろうと思ったわ。奴等が有害物質を通ってまで来るとは思えないが、来たらそれなりの対処をするから早く解決してくれよ」

 「分かった。迷惑掛けてすまない」

 「ふん」

 ケバブは、一方的に通信を切った。

 「思っているほど時間はないな」

 「目的は議長が悪魔であることを明かせばいいだけなんだがな」

 「議長が悪魔であることを証明したいのなら私を魔法の世界に連れて行ってくれ。そうすればお前達に協力しよう」

 鬱ぎ込んでいたカイサルが顔を上げながら言った。

 「魔法の世界に戻ってどうする? 力を失ったとはいえ帰れば悪魔の契約者として裁かれる可能性もあるのだぞ」

 「それでもいい。姉上に会いたいんだ」

 「なんだかんだで姉ちゃんが心配なんだな」

 「たった一人の姉上だからな」

 「分かった。君の条件を飲もう」

 マーベラスが、了承の言葉を口にする。

 「お父様、よろしいのですか?」

 「手詰まりな状況なんだから打開するには条件を飲むしかないだろ」

 守が、真っ先にマーベラスに賛同する。

 「守まで。殺されかけたの忘れたの?」

 「俺を殺そうとしたカイサルは灰になった。ここに居るのは姉貴を心配する一人の男さ。ただし裏切ればどうなるかは分かってるよな」

 握り締めた右拳を見せながら警告を伝える。

 「・・・・・分かってる」

 「じゃあ知ってることを話してもらおうか」

 それからカイサルは、情報を話していった。


 

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