第31話 大王と魔法少女。

 「・・・きて。起きて」

 声掛けと体を揺らされたことで、目を開けるとマリルの顔があった。考え事をしている内にソファで寝ていたらしい。

 「どうした?」

 「時間通りにドワーフの艦隊が来たから呼びに来たの」

 「じゃ行くか」

 体を起こした後、マリルの転送魔法で中央広場に移動すると、魔法使いの一団とドワーフの艦隊が待っていた。

 「もしかして俺が最後?」

 「そうよ」

 「これで全員揃ったでおじゃるな。少しは休めたでおじゃるか?」

 「まあね。あんたは今まで何してたんだ?」

 「ここの技術部門と話をしていたのでおじゃる。なかなか盛り上がったでおじゃるぞ。それとあれに色を塗っていたでおじゃる」

 クダラの指差す先に立っているマジンダムは、変色していた部分に塗装が施されて、元通りの姿になっていたのだ。

 「どうしたんだ。これは?」

 「あまりにも見映えが悪かったので同じ色材と思えるを塗ったのでおじゃる」

 「その割りには全然違和感無いな」

 近くに行ってじっくり見ても、元の色と全く見分けがつかなかった。

 「我らの技術を使えばこれらい雑作もないのでおじゃる」

 「それなら俺の許可くらい取ってくれよ。俺のロボットなんだから」

 「アウグステゥスの許可は取ったでおじゃるよ」

 「そういうことか」

 「そんなことよりも早くお母様を」

 マリルが、クラウディアの返還を急かす。

 「今連絡を入れるでおじゃる。バロッケン、麿でおじゃる。代表を連れて降りてきて欲しいでおじゃる」

 クダラが、腕のリングで連絡を入れる頭上の戦艦の一部が開いて、クラウディアを右手に乗せた青ロボが降下してきた。

 着地した青ロボは、片膝を着いて右手を降ろした後、コックピットハッチが開いて、バロッケンがワイヤーで降りてきた。

 「クダラ無事であるか?」

 「機体共々無傷でおじゃるよ」

 自身の機体を指差しながら返事をした。

 「では、代表を返すのである。クラウディア殿」

 バロッケンが、杖を差し出しながら言った。

 「それでは失礼いたします」

 クラウディアは、右手から降りて、バロッケンから杖を受け取った。

 「お母様!」

 マリルは、クラウディアに駆け寄っていった。

 「マリル」

 「お母様、何もされていませんか?!」

 声を掛けながら全身をくまなく見ていく。

 「そんな泣きそうな顔をしなくても大丈夫です。なんともありませんよ」

 「ですが、またお母様を失うのは嫌です! もうあんな哀しい思いをするのは嫌なんです・・・」

 マリルは、クラウディアに抱き付いて泣き出した。その姿は二つ名前を持つ強大な魔法使いではなく、母を思う一人の少女そのものであった。

 「大丈夫です。あなたの母はここに居ますよ」

 クラウディアは、マリルを優しく抱き締めた。

 「感動の場面ですね」

 「拙者も目頭が暑くなったでござる~」

 「もう目から汗が止まらへんわ~」

 「素直に泣いてるって言いなさいよ~」

 従僕四人は、感動に打ち震え、周囲の魔法使いの一部も泣いていた。

 「感動でおじゃる~」

 「感極まったである~」

 「あんたらまで泣くのかよ!」

 泣いているドワーフ二人に突っ込みを入れる。

 「感動の場面なんだから泣くのは当然でおじゃる」

 「親子愛に種族は関係無いのである」

 「そうかい、よく分かったよ」

 「無事でなによりだ」

 ジョバンが、苦笑しながらクラウディアに声を掛けてきた。

 「あら、いらしてたの?」

 「いらしてたの?じゃない。ドワーフの世界に行くなんてほんとに無茶をしてくれるな」

 「ごめんなさい。つい冒険心が疼いてしまいまして」

 「まったく少しは歳を考えてくれ」

 「歳が・・・なんですって?」

 クラウディアが、表情はそのままに凍てつくような鋭い視線をジョバンに向けた。

 「わ、悪かった。今のは無かったことにしてくれ」

 ジョバンが、珍しくひきつった表情で、謝罪の言葉を口にした。年齢の話は禁句らしい。

 「それでドワーフからはどんな扱いを受けていたんですか?」

 クラウディアの雰囲気を変えるべく、別の話題を振った。

 「クダラ男爵とバロッケン伯爵の奥様方からとても丁重な扱いを受けましたよ。出して下さったお茶もおいしかったですし。そうそうクダラ男爵は六つ子ちゃんのパパなんですよ」

 クラウディアは、世間話をするような口調で、ドワーフの世界で体験したことを話した。

 「あんた、子供居るんだな」

 「別にいいでおじゃろう。バロッケンなんて十二人でおじゃるぞ」

 クダラが、恥ずかしさを紛らわすようにバロッケンを指差しながら言った。

 「我は子供が大好きなのである」

 「だからといって十二人は励み過ぎでおじゃる」

 「家庭の事情はもういいからさっさとドワーフの世界に行こうぜ」

 「待ちなさい」

 声のする方に目を向けると、宙に浮く神輿に乗った最高議長が、クラウドを連れて、近付いて来るのが見えた。

 議長の登場にジョバンやクラウディアを含めた魔法使い達が、一斉に片膝を付いていく。

 「苦しゅうない。全員、立ちなさい」

 議長の穏やかな声に合わせて、全員が立っていく。

 「議長、どうされました?」

 ジョバンが、来た理由を訊ねる。

 「ドワーフの世界に行く者達を見送りに来たのだ。鋼守、こちらに来なさい」

 議長に呼ばれ、確認を取るようにマリルを見ると無言で頷いたので、言われた通りに前に行った。

 「俺に用か?」

 ため口の問い掛けに対して、クラウドが怒鳴ろうとしたが、議長が左手を出して止めた。

 「君の勇気を讃えて見送りに来たのとこれを渡したかったのだ」

 そう言って、右手に持っている指輪を差し出した。

 「それは?」

 「勇気ある者に送る魔法石を指輪に加工した物だ。持っていきなさい」

 「分かった」

 指輪を受け取って、近くで見ると中心に赤い宝石があって、輪には魔法の文字がびっしり書き込まれていた。

 「気を付けて行きなさい」

 「ありがとう」

 指輪を右人指し指に嵌めて、マリル達の元に戻った。

 「じゃ行くか」

 その呼び掛けに応えるように、マリルと従僕達が頷いていく。

 「リュウガ達も行くのか?」

 「我ら四人はマリル様の従僕なのですから当然でしょう」

 「謹慎も解かれているので問題無しでござる」

 「もう置いてきぼりは勘弁やで」

 「私達抜きで戦うなんて許さないんだから~」

 四人が、それぞれの思いを述べていく。

 「マリルはいいのか?」

 「いいわよ」

 「じゃ、行くか」

 「気を付けてな」

 「マリル、必ず帰って来るのですよ」

 「分かっています」

 マリルは、ジョバンと視線を交わし、クラウディアと抱擁してからマジンダムの右手に乗った。

 パネル操作で、コックピットに移動する中、マリルはジョバンとクラウディアに手を振り続けていた。

 「それでどうすればいい?」

 スピーカーで、ロボットに乗ったクダラとバロッケンに移動方法を訊ねる。

 「そのマジンダムとやらは飛べるでおじゃるか?」

 「飛べるよ」

 「それなら我等を収用した戦艦の後に続いてゲートに入るのである。レッドエースなら入れられたであるが、マジンダムは無理であるからな」

 「分かった」

 赤と青ロボが収用された後、上昇して戦艦の後に続いてゲートに入った。

 

 ゲートを抜けて着いたのは、マリルを追いかけた時に来た暗雲と岩だらけの場所だった。

 「ドワーフの都市じゃないのか?」

 戦艦に向かって、スピーカーの声で呼び掛ける。

 「大王がここをご指定されたのだ」

 戦艦からスピーカーよる返事が来る。マジンダムは通信機能が欠落しているので、会話にはスピーカーを用いるしかないのだ。

 「で、その大王はどこに居るんだ?」

 「下に居る黒い服を着たお方でおじゃる」

 下方の拡大映像を表示すると、クダラの言葉通り、真っ黒なマスクとマントを付けた男が立っていた。

 「見るからに怪しいぞ」

 「顔を隠す必要なんてあるのかしら?」

 「大王って実は物凄く変な奴なんじゃ」

 「私もそんな気がしてきたわ」

 大王を変人扱いしながらマジンダムを着地させ、その後に戦艦から出てきた赤と青ロボが続いた。

 「鋼守とマリル・アウグストゥス降りて来い」

 大王の第一声だった。

 「どうする?」

 「ここは言うことを聞いておきましょう。リュウガ達はそのままでいて」

 「承知」

 それからマリルの転送魔法で、大王の正面に移動した。

 「はじめまして、私がドワーフの大王だ」

 近くで聞く大王の声は、機械で加工されたようなトーンだった。

 「なんでそんな変な格好をして顔を隠してるんだ? クダラやバロッケンみたいに軍服でいいじゃん」

 「ちょっとわけ有りでな。まずはバロッケンに危害を加えさせなかったことに礼を言わせてくれ」

 「それなら私もお母様を無事に帰してくれたことに感謝するわ」

 人質の扱いに付いて、礼を言い合う。

 「それで俺達をどうするつもりなんだ?」

 「そのことだがアウグストゥス卿を引き渡せば無人機破壊の件は不問にして君とロボットの帰還を許そう」

 「なんだ、その条件は? 裁きを受けるとしたら無人機を壊した俺だろ」

 「直接的な罪は君にあるが君とロボットを返せば魔法使いとの関係がこじれることはないし、アウグストゥスを留めておけば我々の安全も保証されるというわけさ」

 「ドワーフ側に都合が良過ぎるんじゃないか」

 「君に裁きを加えてもいいが元の世界に帰れなくなってもいいのかね? 君が居なくなれば親族が心配するだろ?」

 「・・・・」

 柊達に会えなくなると思うと返す言葉が無い。

 「それに私ならその娘を元に戻すこともできるぞ」

 マリルの角を指差しながら言った。

 「本当なの?!」

 マリルが、大王の話に飛び付いた。元に戻れる可能性を示されたのだから当然の反応だろう。

 「今の話は本当なのか?」

 「本当だ。ただしこの世界に残ることが条件だがね」

 「私、残るわ」

 「そんなあっさり決めていいのかよ?」

 「元の姿に戻れるかもしれないんだから少しの可能性にも賭けるわよ」

 「お前をここに残す為の嘘かもしれないぞ」

 「嘘で言うとは思えないわ」

 「大王、マリルを元に戻した後はどうするんだ?」

 「ここに永住してもらう。戻して帰すのなら初めから残るようには言わないさ」

 「つまり二度と魔法の世界に行かせないってことか」

 「そういうことだ」

 「私はそれでも構わないわ」

 マリルが、承諾の言葉を口にする。

 「本当にそれでいいのかよ。元に戻れても魔法の世界に帰れなくなるんだぞ」

 「このままでいるよりはずっといいわよ」

 「ジョバンやクラウディアさんになんて言えばいいんだよ?」

 「元に戻れたって伝えて」

 視線を逸らすように俯きながら話す辺り、本心ではないことが容易に読み取れる。

 「そんなこと言えるわけないだろ」

 「なら、どうすればいいのよ?」

 「大王。俺と勝負しろ」

 大王を指差して、挑戦を申し込む。

 「君が勝ったら?」

 「マリルを元に戻した上で全員魔法の世界に帰らせてもらう」

 「私が勝ったら?」

 「俺もマリルもマジンダムもあんたの好きにしていい。クダラから聞いたけどあんたマジンダムに興味があるんだろ」

 「そうだったな。もっと近くで見てもいい?」

 マジンダムを指差しながら許可を求めてくる。

 「構わないぞ」

 「じゃ、遠慮なく」

 大王は、その場から歩いて、マジンダムの側へ行き、あらゆる角度からじっくり眺めていった。

 その姿は王様というよりは、スーパーやコンビニで品物を選ぶおじさんのようだった。

 「どうだ、見た感想は?」

 「これは実にカッコいいな~」

 「分かってんじゃん」

 声の上がり具合から嘘ではないと思い、嬉しくなってしまった。

 「我々の技術とは根本的に違うようだが、どうやって造ったんだ?」

 「魔法石とロボット玩具が合わさって出来た巨大ロボットなんだ」

 「なるほど、そういうことか。道理で建造には無理のあるデザインなわけだ」

 自説に納得するようにうんうんと頷いていた。

 「それで挑戦を受けるのか?」

 「いいだろ。ただし私と戦うということはこれだけの戦力を相手にすることになるぞ」

 戦艦群がる状況を見せ付けるように、大きく両手を広げながら話していく。

 「全然問題無いぞ」

 あっさりと言い返す

 「え?」

 「これくらいならなんでもないって言ったんだ。俺達悪魔も倒してるし」

 「そうなの? クダラ、バロッケン、どうなってるんだ?」

 「初耳でおじゃります」

 「聞いてないであります」

 「俺達も言ってないし」

 「そういうことか」

 「ま、悪魔倒してなくても引く気はなかったけどな」

 「どうしてだね?」

 「マジンダムは最強無敵だからだ」

 堂々と胸を張って言い切った。

 「最強無敵とはどういう意味かね?」

 「俺の世界で物凄く強いって意味だ。どうする? やめるか?」

 「挑戦を受けよう。それと戦うのは私一人にする」

 「戦力差があるって言ったのはあんただぞ」

 「ちょっとした脅しだったが通用しないし、無駄に戦力を投入する必要もないと思ってね」

 「俺はどっちでも構わないけどマリルはどうするんだ?」

 「私もいいわ。どうせ、止めても聞かないだろうし」

 「よし、それであんたのロボットはあるのか?」

 「こんなこともあろうかとちゃんと持ってきてある」

 大王が、右手を上げると戦艦が出す光に乗って、一機のロボットが降下してきた。

 大王の背後に着地したロボットは、全身が黒く体型はスリムで、肩や肘などが鋭利な形になっていて、頭部に四本の角が付いているなど、クダラやバロッケンの機体とは別仕様であると一目で分かるデザインだった。

 「これが私の機体ブラックダビデだ。どうだ、感想は?」

 「クダラやバロッケンのロボットとは別のデザインラインでカッコいいな」

 素直な感想を告げる。

 「お褒めいただきどうも」

 顔が見えない分、声の調子から喜んでいると聞き取れた。

 「私には両方ともさっぱりだわ」

 マリルは、興味無しといった反応だった。

 「やっぱ分からないよな。それじゃあ始めるか」

 「そうね」

 「そうだな」

 大王は、セルフコントロールで降りてきたワイヤーを掴んでコックピットへ行き、二人は転送魔法で中に入った。

 「始める前に一ついいかな」

 外部スピーカーからの声だった。

 「なんだ?」

 「私の機体をマジンダムと同じにしたいのだがいいかね?」

 ダビデとマジンダムは、二倍ほどの身長差があったのだ。

 「いいぞ」

 「すまんね。クダラ、バロッケン、戦艦から乗組員を退避させろ。それが終わったらこの場から離れるんだ」

 「了解でおじゃります」

 その後、戦艦から多数のポッドが射出され、赤と青のロボットを収容した戦艦に入った後、ダビデがジャンプして、融合するように合体した後、マジンダム並みの大きさになった。

 「いったいどんな技術だ?」

 「この世界独自の錬成術さ。では、始めよう」

 ダビデは、右手を上げると、腕全体から突き出てきた多数の大砲からレーザーを撃ってきた。

 「あれも錬成術なのか?」

 驚きながらも機体を逸らして、ギリギリの距離でかわす。

 「そうみたい」

 その後、ダビデが両手を組み合わせることで、二倍になった大砲から出すレーザーを防御魔法陣で防いだ。

 「そういやアースシールドは壊れたままだったな。あれならシールドリバースで跳ね返せたのに」

 「勝ったらあの人達に直してもらえば?」

 「いいね~。いっくぞ~」

 魔法陣を展開したまま、ダビデに向かっていく。

 「ライトニングナックル!」

 稲妻迸る右拳を突き出す。

 攻撃を止めたダビデは、視界から消えると背後に居て、避ける間もなく肥大化した右足で背中を蹴られ、うつ伏せ状態のまま地面を激しく削っていった。

 「なんだ。今の動きは? 全然見えなかったぞ」

 「あれも独自の機能かしら?」

 話している間にダビデが、全身からミサイルを発射してくる。

 「まったくどこから出して来るんだ?」

 「直接本人に訊いたら? ライトニングモード! サンダースプラッシュ!」

 マジンダムを黄色に光らせ、突き出した両手から大量の稲妻を放つ。

 ミサイルが破壊されていく中、ダビデは視界から消え、また背後に現れた。

 「そう来ると思ってたぜ。エクスプロージョンパンチ!」

 振り向き様にノーマルモードに戻して、真紅の魔法陣を展開した右拳を突き出す。

 「な?」 

 「え?」

 二人は、目の前の光景に驚くしかなかった。

 ダビデが、左手から展開した防御魔法陣で、攻撃を防いでいたからだ。

 「なんでドワーフが魔法使えるんだ?」

 「私だって分からないわよ!」

 その一瞬の隙を付くように、錨のような形に変形した両手で殴り飛ばされてしまう。

 ダビデは、その隙を逃さず、胸から出したこれまで以上の大砲から極太のレーザーを撃ってきた。

 「エレメントキャノン!」

 体勢を立て直すなり、召喚したキャノン砲のビームで対抗し、ぶつかった二つの光線は、始めは拮抗していたが、次第にマジンダム側が押し始めた。

 ダビデは、不利とみたのか、レーザーを止めて上昇することで、ビームを回避しながら右手を前に突き出した直後、マジンダムの足元に真っ赤な魔法陣が展開し、中から噴き出した炎によって、上空に吹き上げられ、待ち構えていたダビデに肩を掴まれ、電流を流しされてしまった。

 「分離しろ!」

 マジンダムは、五機に分離し、掴まれてるグリーンエンペラー以外の四機で、ダビデの腕を一斉攻撃して破壊することで、エンペラーを解放した。

 それからダビデは、両手両足を切り離して戦艦に変形させ、レッドエース以外の四機を攻撃していった。

 「予想外なことばかりしてくるな。さすがはドワーフの大王ってところか」

 「そんなことより早く決着付けて。長引くと私がもたないわ。シグナスの非常食は無いんだから」

 「そうだったな。ファイアーモード」

 レッドエースを真紅に輝かせ、右手に剣を左手に銃を持たせ、元の大きさのダビデに向かっていく。

 ダビデは、同じように右手を剣に、左手を銃に変形させて向かってきた。

 「そんな剣なんか叩き追ってやる!」

 刃に炎を宿した状態で、おもいっきり振り降す。

 「な?」

 「は?」

 二人は、また驚いた。

 ダビデは、氷を宿した刃で炎の剣を防いだからだ。

 「炎に対して氷で対抗ってわけかよ」

 「相当な使い手だわ」

 「炎が駄目なら稲妻だ!」

 炎の代わりに放電を起こして、剣を吹っ飛ばす。

 「これで決めてやる!」

 とどめを刺そうと銃口を向けた直後、ダビデが突き出す銃から出た竜巻を浴びて落とされ、地面に激突して土煙を上げた。

 「マリル様、守様ご無事ですか?」

 レッドエースの前にリュウガのブルーカイザーが降りるのに続いて、残りの三機も集まってきた。

 「俺は大丈夫だ。マリルは大丈夫か?」

 「私も平気」

 安否を確める中、上空に戦艦が集まり、中心に立ったダビデが右手を下げる動作に合わせて、船首から放射されたリング状の光波を浴びた瞬間、重圧を掛けられたように地面にめり込み始めた。

 「これも魔法?」

 「いいや、重力波だ。このままじゃ押し潰されるぞ。転送魔法で逃げられないのか?」

 「重力波の力が強くて五機全部は無理よ」

 「リュウガ、地面は掘れるか?」

 「できます」

 「だったら俺がいいって言うまで掘れ」

 「何をするつもり?」

 「いいからやってくれ」

 「分かりました」

 リュウガのブルーカイザーが地面に両手を突き刺して削り出すと、重力波に押されている影響で、凄まじい勢いで地中を進んでいった。

 「まだなの?」

 「まだだ。あれが出るまでな」

 「あれ?」

 さらに進んだところで、目の前に光が溢れ、下から噴き出したマグマに呑み込これた。

 マグマは重力波に押さえ付けられていたが、ブルーカイザーが開けた穴を介して、ドーナツ状に天高く噴き上げ、暗いドワーフの世界を真っ赤に染めていった。

 そのマグマから飛び出した五機は、グレートマジンダムに合体して、両足を突き出し、爪先に炎を宿した状態でダビデに急降下していく。

 その攻撃に対して、ダビデは戦艦を集めて合体した後、両手を突き出して、拳に氷を付けた状態で上昇してきた。

 空中でぶつかり合った相反する力は、刃を擦れ合わせたように猛烈な火花を上げた。

 やがて炎が氷を押し始め、そのままダビデを一気に突き破り、マジンダムに戻りながら地面に着地したのだった。

 「大王~!」

 再び現れた艦隊から出てきた赤と青ロボから、クダラとバロッケンが呼び掛けてきた。

 「ここに居るよ」

 右手を開いて、五体満足の大王を見せる。

 「無事でおじゃったか」

 「何故殺さなかったのである?」

 「別に大王に恨みはないから殺す理由はないよ」

 「私達は人殺しじゃないし」

 それからマジンダムに片膝を付かせ、右手を地面に置いて、転送魔法で大王の元に行った。

 「大王、ご無事でおじゃりますか」

 側に来たクダラが問い掛ける。

 「・・・減った」

 今にも消えそうな返事だった。

 「なんでありますか?」

 バロッケンが、確認を取る。

 「腹減った!」

 最後の力を振り絞ったような返事をした後、事切れたようにグッタリした。

 「大王~! 今すぐ食事を用意するでおじゃります!」

 その後、戦艦から降ろされた大量の食事を前に仮面を取るなり、猛烈な勢いで食べ始めた。

 「なんか、魔力補給する時のマリルみたいだな」

 「私、あんな下品じゃない」

 ぐ~。

 マリルの腹の虫であった。

 「仕方ないでしょ。魔力消費してお腹空いてるんだから」

 腹を押さえ、顔を真っ赤にしながら言い訳してきた。

 「食べていいよ」

 大王が、食べながらご相伴を提案してくる。

 「いいの?」

 「もちろん」

 「じゃあ、お言葉に甘えて」

 大王の側に座るなり、猛烈な勢いで食べ始めた。よほど腹が減っていたのだろう。

 「ほんとに食い方似てるよな」

 「まあ、親子だからな」

 「今、親子って言った?」

 「言ったよ」

 「なんでそんなこと言うの?」

 「私が父だからだ」

 「マリルのパパってドワーフだったの?」

 「そんなわけないでしょ。名前を言いなさい。名前を」

 「マーベラス・アウグストゥス」

 「合ってるけど物的証拠は?」

 「はい」

 食べながら左手にアウグストゥス家の家紋を浮かび上がらせた。

 「紛れもない証拠だな」

 「嘘よ~!」

 マリルの絶叫が辺りに響いた。

 

 

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