第30話 交渉と魔法少女。
「ここはどこだ?」
「魔法の世界」
「妖精の世界じゃないのか?」
「別物を女王の許可妖無く持ち込むわけにはいかないから」
シグナスが、画面越しに見える青ロボを指さす。
「そういうことか。そういえばマリルは?」
「そこよ」
シグナスが指差す方を見ると、マリルは隅に居て、頭を抱えたまましゃがんでいた。
「どこかケガでもしたのか?」
返事の代わりに体を左右に振ってみせる。
「じゃあ、どうしてそんなとこに居るんだよ?」
「今の姿を見られたくないからに決まっているでしょ」
しゃがんだまま言い返してくる。
「それはそうだけど戻るって約束だろ」
「あれは妖精の世界へよ」
「それでも外に出た方がいいと思うぞ」
「なんで?」
「あれ見みろよ」
モニターを指差し、ジョバンを含む魔法使い達が周囲を囲んでいる光景を見せた。
「この姿を見たら悪魔ってことで何をされるか分からないわ」
「だからってずっとここに居てもしょうがないんだからどうしてその姿になったか理由を話して分かってもらうしかないだろ」
「私の今までの扱いを考えれば信じてくれるとは思えないわ」
「大丈夫、私も口添えするから」
「そうしてくれると助かる。ほら外に行くぞ」
「いや」
「クラウディアさんやメルルが来てたら会わないわけにはいかないだろ」
「・・・分かったわよ」
ハッチを開け、渋々立ったマリルと妖精体型に戻ったシグナスと一緒に外へ出た。
「鋼守にアウグストゥス卿、降りてこい」
ジョバンが、魔法使いを代表するように声を掛けてくる。
「今、降りるよ」
レッドエースの右手に乗って降りた。
「ドロシー・スカーレットから事情は聞いたぞ。悪魔の世界へ行ったそうだな?」
「行ったよ」
「それもアウグストゥス卿を連れて」
「そうだ・・・」
「そのアウグストゥス卿はどこに居る?」
「ここに居ます」
隠れるように背中に居たマリルが、重い足取りで姿を現す。
「その姿はいったい?」
悪魔になったマリルを見て、信じられないといった声を出す。元養女の変わり果てた姿を見れば当然の反応だろう。
「悪魔だ! アウグストゥス卿が悪魔になったぞ~!」
マリルの姿を見た魔法使いの一人が、大声を上げたことで、あっという間に混乱が広がり、悲鳴が上がっていく。
「静まれ! どういうことか事情を話してくれないか」
ジョバンが、落ち着いた声で事情を訊いてくる。
「悪魔の世界に行き魔力を戻すのと引き換えにこの姿にされてしまったのです」
「鋼守、貴様~!」
事情を聞いたジョバンが、怒りを剥き出しにした凄まじい形相で、襟を掴んできた。
「止めなさい!」
シグナスが、ジョバンの顔前に飛び入り、大の字ポーズを取って止めに入った。
「妖精だ。妖精が居るぞ~!」
シグナスが登場したことで、集団に別のざわめきが広がっていく。
「守はマリルの魔力を取り戻す為に危険を顧みずに悪魔の世界へ行ったのだから責めることは妖精である私が許さないわ」
「・・・・分かりました。あなたのご意志を尊重しましょう」
ジョバンは、落ち着いた様子で手を離したが、瞳に宿る怒りは消えていなかった。
「そういえばリュウガ達はどうしたんだ?」
「自宅待機を命じている。アウグストゥス卿がいつでも戻れるようにな」
「だから居ないのか」
「ところであの青いのはなんだ?」
レッドエースに抱き付いたままの青ロボを指さす。
「あれはドワーフが乗ってるロボットだ」
「今のドワーフはあんなものに乗るのか?」
「知らないのか?」
「ドワーフとは技術発展の相違から決別して交流が無いんだ」
「マリルがそんなこと言ってたな。そうそう乗ってるのはバロッケン伯爵っていうおっさんだ」
「バロッケン伯爵、中に居るなら出てきたまえ」
ジョバンの言葉に対して、青ロボからの反応はなかった。
「そんな威圧的な言い方じゃ駄目だろ」
「それなら君が説得してみろ」
「分かった。バロッケン伯爵、降りてきて話し合おうぜ。悪いようにはしないからさ」
さっきと同じく無反応だった。
「駄目じゃないか」
「仕方ない。シグナス説得してくれ」
「分かったわ。ロボットに乗っているバロッケン伯爵、降りてきてここに居る人達と話をして」
シグナスが、頭部まで飛んでいって、説得の言葉を掛けると、胸の装甲が開いてバロッケンが姿を見せ、コックピットハッチの脇に付いているワイヤーに手足を掛けた状態で、地面に降りてきた。
バロッケンは、等身が低い半面、体格はがっしりしていて、いかにもドワーフといった見た目だったが、軍服に似た服を着ている為に野蛮な感じはなかった。
魔法使い達は、ドワーフは見慣れているらしく、マリルやシグナスの時のような大袈裟な反応はしなかった。
「シグナスの言うことは聞くんだな」
「妖精からの頼みとあっては断れないのである。それにしても何故人間が居るのだ?」
「あんたを倒したロボットのパイロットだからだよ」
「なるほどお主が鋼守というわけか。しかし人間にはあのようなロボットを造る技術は無いはずであるが」
「レッドエースは理由ありなんだ」
「それよりも不可侵条約を無視してここへ来た目的を話してもらおう」
「そこの不届き者達を捕まえる為である」
言いながら守とマリルを指差していく。
「あの二人が何をしたんだ?」
「我が世界に不法侵入し、警告を無視した上、偵察機を破壊したのだから処罰されても仕方あるまい」
「二人をドワーフの世界に連行していく気か?」
「その通りである」
「君の条件を素直に飲むと思うか?」
周囲の魔法使い達が、バロッケンに杖を向けていく。
「話し合いと言っておきながらこれであるか。しかしあれを見ても同じことが言えるであるかな?」
バロッケンが言い終えるタイミングで、空に無数の戦艦が出現し、その中の一隻から赤ロボが降下してきた。
「さっきの奴か。もう修理が済んだのかよ」
「あの赤いロボットを知っているのか?」
「戦ったばかりだからな」
赤ロボが、青ロボの近くに着地した際に強風が発生して、周囲の魔法使い達が吹き飛ばされそうになっていく。
シグナスは、守の背中に素早く隠れることで、強風をやり過ごしていた。
「バロッケン~無事でおじゃるか~?」
赤ロボから外部スピーカーを通して、クダラの声が発せられる。
「おお~い、クダラ~! ここであるぞ~!」
バロッケンが、元気いっぱいに両手を振ってみせる。
「無事でなによりでおじゃる~」
「いきなり現れて姿を見せず挨拶も無しとは礼儀を欠いているのではないかね?」
ジョバンが、クダラの行為を避難する。
「杖を向けておきながら姿を見せろとは異なことでおじゃる。撃たれると分かりながら生身を晒す馬鹿は居ないでおじゃろう」
「いいだろ。全員、杖を降ろせ」
ジョバンの命令によって、魔法使い達が杖を降ろしていく。
「これでいいか?」
「いいでおじゃる」
返事の後、赤ロボのハッチが開き、中から出てきたクダラが、バロッケンと同じくワイヤーを使って降りてきた。
「貴殿の礼儀には敬意を評するでおじゃる。では早速我が世界にて無礼を働いたそこの娘と男を引き渡すでおじゃる」
「マリ、いやアウグゥトゥス卿が不法侵入と器物破損をしたからだな」
「そうでおじゃる」
「アウグストぅス卿、何故そのようなことをしたのだ?」
「悪魔の姿に変えられ、自暴自棄になって別の世界に行ったらドワーフの世界だったのです」
頭の角を指差しながら説明する。
「あ、悪魔でおじゃる~!」
「悪魔である~!」
マリルの姿を見たクダラとバロッケンが、身を寄せ合いながら叫び声を上げる。
「姿だけで本物の悪魔ではないわ」
シグナスが、二人を落ち着かせようと、マリルの現状に付いて簡単に説明する。
「妖精が言うのであれば信じるのでおじゃる」
「右に同じである」
「これで分かっただろ。マリルは悪魔じゃないって」
「なんで人間がここに居るのでおじゃる?」
クダラは、バロッケンと同じく、横柄な態度で接してきた。
「なんで俺には上から目線なんだよ?」
「そりゃあ人間だからに決まっているでおじゃろう」
「その通りである」
きっぱりと言い切ってくる。
「あんたらが人間をどう思っいるかようく分かったよ。それであんたらは俺達に戻って偵察機を壊したことを大王に侘びさせたいんだよな」
「その通りである」
「じゃあ俺だけ連れてけ。偵察機を壊したのは俺が乗るレッドエースなんだし」
「お主だけでなくアウグスレトゥスという女も連れて来いとの仰せでおじゃる」
「なんで俺だけじゃダメなんだよ?」
「初めに無礼を働いたのはアウグストゥスなのだから大王にお詫びするのは当然であろう」
「確かにそうかもしれないけどシグナスはどうするんだ?」
「妖精に付いては自身に任せるそうでおじゃる」
「なんでシグナスには選択権があるんだよ?」
「我々より高位の存在であるし下手に強要して妖精の女王を怒こらせたくないからである」
「分かりやすい解答どうも。レッドエースはどうするんだ?」
「無論一緒に来てもらうでおじゃる」
「そうは言うけど先に攻撃してきたのはそっちだぞ」
「警告を無視したから武力に訴えたのである」
「警告無視されたくらいで攻撃してくるなよな。こっちは言葉が分からなかったんだぞ」
「いきなり我らの世界に来たのが悪いのでおじゃろう」
「あんたらの世界だなんて知らなかったんだよ」
言い合いは、平行線を辿るばかりだった。
「もういいわ。私が大王の所に行けばいいんでしょ」
マリルが、重い声で自身の決断を口にした。
「いいのかよ?」
「いいわよ。それで事態が治まるんだもの。もちろん守もね」
「それは構わないけど」
「お主らだけでなくあのレッドエースとかいうロボットも一緒でおじゃるからな」
「分かってるよ。それにしてもやけにレッドエースに拘るな」
「大王はお主が乗っていたレッドエースに興味をお持ちなのである」
「それならもっと凄いの見せてやるよ」
「凄いのとはなんでおじゃるか?」
「合体だ」
「合体?」
聞いたことがなかったのか、二人しておうむ返しに言ってきた。
「レッドエースは四機のロボットが合体することでもっとデカいロボットになれるんだぜ」
ワザともったいぶるように言ってやる。
「分かったである。その合体とやらを見せてもらうのである」
「よし決まりだ。ただ残りの四機は妖精の世界にあるから取ってくるまで待っててくれないか」
「そう言って時間稼ぎするつもりではないでおじゃろうな」
「どうせなら全部見せてやろうと思っただけさ。それでどうすれば許可してくれるんだ?」
「約束を破らない保証として代表者一人にご同行願うでおじゃる」
「人質ってことか?」
「捉えようによってはそうなるであるな」
「私が行こう」
ジョバンが、真っ先に名乗り出た。
「パプティマス卿、あなたは連邦の重役です。人質になるなどあってはなりません」
マリルが止めた後、誰が行くで揉め始めた。
「静まりなさい」
その一言の後、突然雹が降ってきて、言い合いをしている者達を凍えさせた。
「晴れてるのに雹が降ってきたぞ」
何が起こったのか分からずにいる中、クラウディアが姿を見せた。
「お母様、どうしてここへ?」
「あなたが帰ってきたと聞いて駆け付けたら何やらバカ騒ぎしていたのでちょっと頭を冷やしてあげたのです」
「そうだったのですか。あっ」
マリルが、今更のように頭を隠す。
「隠さなくてもよいのですよ」
「ですが・・・・」
「どんな姿になろうとあなたは私の娘です」
「ありがとうございます」
「美しい親子愛であるがそろそろ同行者を決めて欲しいのである」
「それでしたら私がなりましょう」
思いがけない提案に対して、水を打ったように沈黙した。
「貴殿は何者か?」
「ジョバン・パプティマスの妻でクラウディア・パプティマスと申します。魔法連邦の重役の妻であれば人質としては十分でしょう」
「お母様、危険過ぎます」
「そうですよ。クラウディアさんが行くことないですよ」
「これは私が決めたこと。あなた達が気にすることではありません」
クラウディアの強い決意を感じさせる重い声を前にして、誰も反論できなかった。
「本当に良いのであるな」
「もちろんですわ。その証拠として魔法使いの証である杖をお受け取りください」
クラウディアが、自分の杖を差し出す。
「分かったでおじゃる。クラウディア殿の決意確かに受け取ったでおじゃる」
クダラが、杖を受け取りながら言った。
「お母様の身にもしものことがあったら絶対に許さないから!」
「安心するでおじゃる。君の母上の身の安全は我が名に誓って保証するのでおじゃる。バロッケン戻るでおじゃるぞ」
「我はここに残るのである」
バロッケンの言葉に対して、その場に居る全員が驚きの声を上げた。
「バロッケン、何を言っているでおじゃるか? ここに残ればどのような目に合うか分からないでおじゃるぞ」
「クラウディア殿の決意に敬意を示したいのである」
「分かったでおじゃる。それならバロッケンに代わって麿が残るでおじゃるよ」
またしても意外な申し出が出てきた。
「それでは我が大王に顔向けできんのである」
「麿はバロッケンを連れて帰るとお約束したのでおじゃるからバロッケンが戻らなくては意味が無いでおじゃる。それと戻るならこれを」
言いながら杖を差し出した。
「それならばここは一度帰還させてもらうのである」
「それなら時間を決めておこう。マジンダムをここに持ってくるまでどのくらい掛かりますか?」
ジョバンがシグナスにマジンダムの運搬時間を訊いた。
「行って戻ってくるだけならこの世界で二、三時間かしら」
「それでは五時間でどうかね?」
「いいのである。それではクラウディア殿はこちらへ」
「分かりました」
バロッケンは、杖を受け取るとクラウディアを連れて青ロボの側に行き、戦艦から発射された光に引き寄せられていった。
上昇していく間、クラウディアは自分は大丈夫と分からせるようにマリルに向かって、ずっと手を振り続けていた。
青ロボが、戦艦に収監されると艦隊は、ゲートを通って消えていった。
魔法使い達は、少しの間、何もない空を眺めていた。
「お父様、どうしましょう! どうしましょう! お母様が~!」
マリルは、いつになく取り乱した様子で、ジョバンを父と呼びながら喚いた。
「落ち着きなさい。殺されると決まったわけじゃない」
マリルに掛けるジョバンの声は、これまでと違って優しく、泣きじゃくる子供を宥める父親のようだった。
「ですがっ! ですがっ~!」
残念乍らその優しい声も、取り乱すマリルには届いていなかった。
「マリル、シグナス、今度こそ妖精の世界に行くぞ」
「分かったわ」
「え?」
シグナスが返事をするのに対して、マリルは驚きの声を上げた。
「しゃんとしろよ。クラウディアさんに早く会いたきゃマジンダムを持ってくるのが一番なんだぞ」
「そうだけど」
「なら、さっさとレッドエースに乗れ。クダラ男爵、あんたもだ」
「麿も?」
クダラが、自身を指さす。
「そうだ。あんたにはレッドエースがマジンダムに合体するところを見てもらう。大王に説明する時に証人が居た方が話も早いからな」
「鋼守、勝手に決めるな。最高議長に相談もしていないんだぞ」
「それはあんたに任せるよ。シグナスもなんか言ってやれ」
「ジョバン・パプティマス、守の行動を認めなさい」
「わ、分かりました」
シグナスの一言に対して、ジョバンは苦々しい声で承諾の返事をした。
「よし、全員レッドエースに乗れ」
先頭に立って、レッドエースに向かう。
それから四人の乗ったレッドエースは、シグナスが開いた魔法陣の中に入った。
「せ、狭いでおじゃる~」
「あんたがデカいせいなんだから我慢しろ!」
コックピットの中は、四人が入っている上にクダラ男爵の体格が大きいこともあって、すし詰め状態になっていたのだ。
「着いたわ」
「ここが妖精の世界でおじゃるか?」
のどかな風景をモニター越しに見たクダラが、呆けたような声を上げる。
「外に出たらもっと凄いぞ」
「分かったでおじゃる」
ハッチを開け、クダラを先頭に外へ出ていく。
「戻ったか」
妖精の女王が、声を掛けてきた。
「どうにかね」
「ただいま戻りました」
「ご迷惑をお掛けしました」
「・・・・・」
三人が、返事をする中、クダラは口を開けたままだった。
「黙ってないで何か言いなさいよ」
「す、すまんでおじゃる。あまりの大きさに圧倒されてしまったでおじゃる」
「俺も初めて見た時は何も言えなかったから仕方ないさ」
「今度はドワーフを連れて来たのか? その理由を聞こう」
それからこの世界を出て、戻ってくるまでの経緯を説明した。
「というわけで証人として連れて来たんだよ」
「理由は分かった。しばしの滞在を許そう」
「許可が降りたから他のロボットの所に行くぞ」
ハッチを開けたまま、シグナスが呼んだ妖精達に運ばれて、四機の元に向かう。
「本当に美しい世界でおじゃる。許されるのならずっと居たいでおじゃる」
クダラが、表情を緩め、穏やかな声で言った。
「あなたの世界には無いの?」
「かつてはあったでおじゃるが今は都市の中に僅かに残るだけでおじゃるよ」
「どうして?」
「技術発展のツケでおじゃるよ」
話しているクダラの声は、辛いことを話すように重くなっていった。
「おいおい、またかよ~」
近付いてくる四機を見て、怒りを通り越して呆れてしまった。
四機は、分離する前と同じように花だらけにされていたからだ。
「これはまた随分とカラフルなデザインのロボットでおじゃるな」
「あんな花だらけなわけないだろ。シグナス頼む」
「分かったわ」
シグナスが、四機の回りを飛んでいくと花は消え、元の姿に戻っていった。
「やれやれだぜ。四機の感想はどうだ?」
「物理や建築を無視した奇抜なデザインでおじゃるが実にカッコいいでおじゃるな」
「驚くのはこれからだぜ。その前にレッドエースから降りてくれ」
「分かったでおじゃる」
クダラを四機の近くに降ろした。
「マリル、準備はいいな」
「いいわ」
「ようし、グレートドッキング!」
二人の掛け声と操作に合わせて、五機が合体してグレートマジンダムになった。
「どうよ?」
クダラに合体の感想を自慢気に尋ねる。
「いやはや凄いでおじゃる! びっくりでおじゃる!」
「凄い! 凄い!」
「分離っていうのよりもっと凄い!」
クダラと妖精達が、拍手しながら称賛の声を上げていく。
「やっぱりこういう分かってる感想はいいよな~!」
望んでいた感想が聞けて大満足だった。
「嬉しそうで何よりだわ」
「よし、合体も見せたことだし、クダラ男爵を連れて戻るか」
マジンダムに片膝を着かせ、クダラの前に右手を差し出す。
「クダラ男爵、乗ってくれ。戻るぞ」
「分かったでおじゃる。女王様に会えましたことこのクダラ生涯の誇りにいたすでおじゃりまする」
クダラは、頭を下げなから女王に敬意の言葉を送った。
「その言葉しかと受け止めた」
「ははっ」
クダラは、再度頭を下げた後、マジンダムの右手に乗った。
「じゃあ、戻るか。女王、頼む」
女王が開いた魔法陣を通って、魔法の世界へ戻った。
魔法の世界に戻ると、到達地点である広場には、さっきと同じく大勢の魔法使い達が集まっていた。
「外に出よう」
「こっちの方が早いわ」
マリルに肩を掴まれた後、転送魔法でジョバンの前に移動した。
「ただいま戻りました」
「無事に帰ってこられたようだな」
ジョバンは、マジンダムを見ながら言った。
「マリル様~!」
マリルに向かって、従僕四人が駆け寄ってくる。
「みんな、私の姿を見てなんとも思わないの?」
頭の角を指差しながら訊ねる。
「マリル様が変わられた事情は聞いております」
「姿が変わられても我らの忠誠心は変わらないでござる」
「どこまでも付いきますわ」
「あたくし達はいつでも一緒ですわよ~」
四人が、忠義の言葉を口にしていく。
「みんな、ありがとう。それでお母様は?」
不安そうに回りを見ながら聞いた。
「まだ時間があるから何も言ってきていない」
「・・・そうですか」
「ならば母上は無事ということでおじゃる」
「どういう意味?」
「母上に何かあればすぐに言ってくるでおじゃるし、バロッケンは漢気のある男でおじゃるから約束は守でおじゃるよ。それよりも麿の愛機は無事でおじゃろうな?」
「一切手は出していない」
ジョバンが、顎で示した先には見張り付きで、無傷の赤ロボが立っていた。
「ふむ、貴殿はかなりの技量を兼ね備えているようでおじゃるな」
「妻のこともあるからな」
「そういうことでおじゃるか」
クダラが、苦笑しながら言った。
「それでクラウディアさんはいつ返してくれるんだ?」
「時間になれば必ず来るでおじゃる」
「それはどのくらい掛かるの?」
「後二時間でおじゃるな」
腕に付けている時計らしき物を見ながら答えた。
「それなら時間まで休ませてもらっていいか? カイサルに拐われてから色々あって疲れたんだ」
だるそうに肩を伸ばしながら休みを要求する。
「いいだろ。部屋は」
「来賓室でいいよ。あそこなら場所も知ってるし」
「じゃあ、送ってあげる」
マリルの転送魔法で、移動させてもらった。
「ふぅ~」
一息付いて椅子に腰掛けた瞬間、目の前には椅子に座っているジョバンが居た。
「な、なんであんたがここに居るんだって来賓室じゃないぞ?!」
今居るのは、来賓室ではなく、別の部屋たっだのだ。
「議事堂内にある私の部屋と君の部屋をリンクさせた。最上級魔法の一種だよ。本来であればもっと早くこうしたかったがね」
「なら、どうしてそうしなかったんだ?」
「機会に恵まれなかったんだ」
「それで目的はなんだ?」
「君と一対一で話がしたくてね」
「どんな話しだ?」
「よくも娘に大変なことをしてくれたな」
その声は非常に重く、凄まじい怒気を感じさせるものだった。
「大変って?」
「とぼけるな。今回のこと全てだ。もう少しであの子を戦いから開放できたというのに」
「どういうことだ?」
「マリルに反乱の疑いを持ち掛けたのは私だ」
「あんたが、マリルをあんな目に合わせたのか?」
意外過ぎる言葉を聞いて、頭を殴られたような衝撃を受けた。
「そうだ。黒い魔導書封印の際にメルルが人質に取られたことを利用させてもらったんだ」
「そういうことだったのか、けどあんたのせいでマリルは魔法使いとしての資格を失うところだったんだぞ!」
マリルを窮地に追いやったことへの怒りから、乱暴な口調で言い返す。
「それで良かったんだ。そうすればマリルは二度と危険な目に合わずに済からな。君はあの子の素性をどこまで知っている?」
「ご先祖様が悪魔と取引したせいで家が堕ちぶれてその再建の為に最年少で二つ名を取得したんだろ」
これまで聞いた話をまとめて言い返す。
「そうだ。そこまで行き着くのにどれだけ苦労したか知っているか?」
「それは知らない。マリルも話してくれなかったし」
「マリルは危険な任務ばかり与えられて何度も命の危険に晒されてきた。ボロボロになって帰ってくるあの子を見る度に胸が張り裂けそうになって必死に止めたがあの子は聞き入れなかった。”お父様達にこれ以上迷惑はかけない為”と言ってね」
「だから、二つ名を取得した後は家を出て戸籍を戻したんだろ」
「だが、それだけのことであの子と過ごした時間や思いが変わる訳じゃない。それに二つ名を持ったことで議会は益々マリルに危険な任務を与えるようになった。混沌の魔女討伐もその一つだ」
何度も危険な目に合わせられた相手だけに、危険な任務という言葉には納得するしかなかった。
「それが終わったら今度は黒い魔導書の封印ときた。あの子が生きている限り議会は危険な任務を与え続ける。私には我慢がならなかった」
「だから魔法使いの資格を取り下げて任務に着かせないようにしたかったのか」
「その通りだ。マリルはここ数年で一生暮らしていけるだけの財産を築いた。任務に着かなくてもなんの問題も無い」
「魔法使いでなくなったマリルにはどんな生き方が待っているっていうんだ?」
「平穏な生き方だ。結婚したいというのであれば相応しい相手を探そう。そういう平和な人生を送れたのに君が横から出しゃばってきたお陰で全てが台無しだ!」
椅子から立ったジョバンに、襟を掴まれた上に額を突き合わされてきた。
「あんたは娘としてのマリルを守りたいわけだ」
「そうだ。君はあの子の何を守れる? あんな姿にした君に!」
「俺はマリルの全部を守ってやる! 人生も魔法使いとしての資格も含めむ全部だ!」
「君にできるのか?!」
「できるさ! 妖精の加護と種とマジンダムがあればな!」
ジョバンに掴まれた手を払い除けることもなく言い切った。
二人は、しばらくの間睨み合った。
「ふ、ふふふ、あはははは!」
手を離したジョバンは、椅子に座り直すなり、声を張り上げて大笑いした。
「なんだよ? 急に笑い出したりして。何かおかしなこと言ったか?」
あまりの豹変ぶりに、どうすればいいのか分からなかった。
「いやいや、恐れ入ったよ。まさか最上級魔法使いの私に向かってここまで言い切るとはな。君はほんとに予想外な男だ。議事堂内でもやりこめるかと思ったが、うまくいかなかったのも納得だよ」
ジョバンは、額に手を当てて、頭を振りながら言った。
「くやしいが、今のマリルに一番必要なのは私ではなく君なんだろうな。いいだろ。あの子を君に託す。ただしマリルに傷一つでも付けてみろ。どのような罪に問われようとも君に重い罰を下してやるぞ」
「いいぜ。好きなようにしてくれ」
返事をするとジョバンは消え、部屋は元に戻った。
椅子に座り直して、軽くため息を吐きながら、ここ最近家族絡みの事案が多い気がした。
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