第29話 ドワーフと魔法少女

 

 目を開けるとマジンダムのコックピットだった。

 「・・・生きてるのか?」

 両手で体中を触って、異常は無いか確かめていく。

 気を失ったことで世界樹の光を消えてしまったので、悪魔の世界に居たら死んでもおかしくないからだ。

 「なんともないみたいだけど、ここはどこだ?」

 慣れたコックピットなのに違和感を抱いてしまうのは、回りの雰囲気があまりにも穏やかだからだ。

 「っ! マリルは、マリルはどうなった?!」

 状況を把握していく中、マリルのことを思い出し、シートから離れて様子を見ると、座ったまま気を失っているだけだった。

 「良くはないか」

 生ていることに安心したが、素直に喜べなかった。

 頭には、悪魔の証である角が生えていたからだ。

 「とりあえず起こすか。マリル! マリル!」

 また首を締められるという警戒心から、すぐに逃げられるように、大声で呼び掛けるだけにした。

 「守・・・?」

 目を覚ましたマリルが、ぼんやりした口調で、名前を呼んでくる。

 「だ、大丈夫か?」

 身構えたまま、異常は無いか尋ねる。

 「う、うん。ここはどこ?」

 普通に返事ができるので、暴れる心配は無いと思えた。

 「分からないけど悪魔の世界じゃないことだけは確かだ」

 「悪魔・・・・」

 そう呟いてから体中を触って、自分の状態を確認していく。

 「私、悪魔のままなんだ・・・」

 二本の角を触ったまま顔を下げて、落胆の声を上げた。

 その様子を見て、何とも言えない暗い気持ちになっていく。

 「そうだ。さっきは・・・ごめんなさい」

 顔を伏せたまま謝ってきた。悪魔の世界で、首を締めたことを思い出したのだろう。

 「それはもういいからモニターを見てここがどこだか確認してくれないか?」

 安全な場所であるか確認するべく、山と森と花畑という大自然の広がる風景を見るように言った。

 「もしかしたら・・・」

 顔を上げてモニターを見たが、自信が無いのか言葉を詰まらせた。

 そこへ画面に小さなものが、映り込んできた。

 「虫か?」

 映っているものをよく見ると、自分が知っている存在であることが分かった。

 「シグナス」

 モニターに映っているのは、暴走する弟のシグナレスを止める為に共闘した後、額に加護のキスをしてくれた妖精のシグナスだった。

 「シグナスが居るってことは」

 「妖精の世界みたいね」

 「シグナス。本当にシグナスなのか?」

 確認の為に外部スピーカーを使って、呼び掛けてみる。

 「その声は守! やっぱり守なのね!」

 シグナスが、嬉しそうにメインカメラのフレームをバンバン叩いて、返事をしてくる。

 「そうだよ。だからフレームを叩くのはやめてくれ」

 「ごめんなさい。つい、嬉しくて。だけどほんとに良かった~。グレートマジンダムを見て乗っているのは守だとは思ったけど声を聞くまで確信が持てなかったから」

 「俺達本当に妖精の世界に来たんだな」

 「そうみたいね。私も来るのは初めて」

 話している間に妖精が集まってきて、画面を埋め尽くしていく。

 妖精とはいえ、無数に集まってくるとさすがに気持ちが悪い。

 「外に出るからこれ以上集まるな。マリル、外に出るぞ」

 「出たくない」

 嫌そうに言ってきた。

 「分かった。そこに居ろ」

 返事をしてからハッチを開けて、一人で外に出た。

 マジンダムから出た途端、澄んだ空気と草木の匂いをいっぺんに吸ったことで、機械の中では感じることのない清々しい感覚に包まれた。

 「守、私達の世界へようこそ」

 シグナスは、目の前に降りると蒼い服を着た人間態に変身して、歓迎の言葉を口にした。

 「良かった」

 「なんでほっとするの?」

 「いや、ほら、前の時は裸だったし」

 前回人間態に変身した時は、全裸という自然な姿を晒し、それを見てしまったことで、マリルの魔法によって、外へ放り出されるという理不尽な目に合わされたのだ。

 「さすがに同じことはしないわよ」 

 シグナスは、楽しそうに笑いながら言った。

 「それで俺達をこの世界に連れて来たのは女王なのか?」

 「女王様ではないわ」

 「じゃあ誰なんだ? この世界に連れて来れるんだから相当な力の持ち主だろ」

 「それはこれから女王様がお話になるわ。それよりもマリルは? 中に居るんでしょ」

 「それが、ちょっとな・・・」

 「何かあったの?」

 「まあ、見てもらった方が早いか」

 「首の傷とも関係あるの?」

 「そうだ」

 「傷を治したら中に入りましょ」

 「悪い」

 シグナスに傷を治してもらった後で、コックピットに戻った。

 「マリル、シグナスを連れて来たぞ」

 「なんで連れてくるのよ!」

 シートの陰から怒鳴り声が発せられた。

 今の姿をシグナスに見られないように隠れたらしい。

 「女王がここに連れて来た理由を話すから外に出る説得役として連れてきたんだよ」

 「だったら守一人で行って。私はここに残るから」

 「そこに居たって何にもならないだろ」

 「それ以上何か言ったらさっきみたいに首締めるわよ」

 「お前な~」

 言い返そうとしたところで、シグナスが左手を前に出して止めた。

 「ここは私に任せて」

 「分かった」

 シグナスは、小さく頷いた後、シートの陰にいった。

 その後は物音一つ聞こえず、何をしているのか分からない不安から様子を見に行こうとしたが、今行けばマリルが荒れると思い我慢した。

 少ししてシグナスの後に続いて、マリルが姿を見せた。

 「マリル」

 とりあえず名前を呼んでみる。

 「女王様の所へ行くわ」

 「そうか」

 「ごめんなさい」

 脇を通り過ぎる際に小さい声で謝ってきた。

 それを聞いて小さく笑った後、外に出て、シグナスに抱えられながら降りた。

 「今回ばかりはやられたな」

 マジンダムを見ながら言った。

 世界樹の光が薄れた時に、悪魔の世界に触れた箇所が、腐蝕したように茶色に変色していたのだ。

 「私のせいよね」

 マリルが、暗い表情で言った。

 「気にするなよ。じゃあ、女王の所へ行こうか」

 「その前にあれを飲んでいって」

 シグナスが、指差さす方向からは、ミルク色の液体が入った二つの器が、近付いてくるのだった。

 「器が動いているけど何かの魔法か?」

 「下を見て」

 言われた通りに下を見ると、器を運んでいるのはシグナレスだった。

 「久し振りだな~」

 「また会えたわね」

 「ああ、そうだな」

 「シグナレス」

 「あ、あの時は悪かったよ」

 恥ずかしそうに、視線を逸らしながら謝ってきた。

 「いいさ。もう終わったことだからな」

 「私も気にしていないわ」

 「なら良かった。それよりも早く取ってくれよ。けっこう重いんだ」

 言われた通りに器を取って、マリルに一つを差し出す。

 「今の私が飲んでも平気なの?」

 その質問に頷くシグナスを見て安心したのか、器を受け取った。

 「これはなんだ?」

 「この世界の花の蜜で作った飲み物よ。飲めば元気になるわ」

 「そういうことなら」

 マリルに顔を向け、頷き合ってから飲んだ。

 甘味のあるまろなかな口当たりに反して、清水のようなすっきりした喉越しで、飲み終った後は、細胞の隅々まで浄化されていくような、今まで経験したことのない爽やかな感覚が、体全体に伝わっていた。

 「ほんとに元気出るな」

 「私もこういうの飲むの初めて」

 「二人共元気が出て良かったわ」

 「シグナレスも元気そうじゃないか。死刑は無いまでも牢屋に閉じ込められたりしてるのかと思ったぜ」

 「これを見ろ。これを」

 言いながら背中を向けてくる。

 「羽が無いわね」

 「羽を取られる罰を受けただからだよ」

 「それじゃあ不便しょうがないだろ」

 「空は飛べないわ、変身できないわ、こき使われるわでほんと悲惨な毎日を送っているよ」

 「あれだけのことをしたんだから当然でしょ。五百年後には戻してもらえるんだから我慢しなさい」

 シグナスが、きつい声で釘を刺す。

 「それで女王はどこに居るんだ?」

 「付いてきて」

 シグナスの後に付いて歩き出す。

 建造物といった文明に関連するものが一切存在しない、自然だけの空間を歩いていると、ここが別世界であることを再認識させられた。


 「ここよ」

 着いたのは、東京タワークラスの大樹の前だった。

 「あのでっかい木はなんだ?」

 マジンダムより遥かに巨大な大樹を見上げながら尋ねる。

 「この木は世界樹の種の親木でこの世界の象徴なの」

 シグナスが、説明している間に、大樹から出る光の粒が一つに合わさって、女王になった。

 「もしかして妖精の女王って大樹の精霊みたいなものなのか?」

 「親木の意思の集合体よ。女王様、お二人をお連れしました」

 シグナスが、ひざまずきながら報告する。

 「鋼守、マリル・アウグストゥス久しいな」

 女王独特の風のような声が、周囲に流れていく。

 「女王様、またお目に掛かれましたことを光栄に思います。ただこのようなお見苦しい姿で申し訳ありません」

 マリルが、シグナスと同じくひざまずきながら会えたことへの感謝の言葉を述べていく。

 こんな姿になっても礼儀を忘れない姿勢を目の当たりにして、感心せずにはいられない。

 「姿は気にせずともよい」

 「ありがとうございます。守も立ってないでひざまずきなさいよ」

 「そんな必要はない」

 「それでどうして俺達をここへ連れてきたんだ?」

 女王の言葉に甘えるように、ため口で用件を尋ねる。マジンダムから降りても平然と向き合っていられるのは、悪魔と直接話したことで、緊張の度合いが薄れたのだろう。

 「妾ではない」

 「じゃあいったい誰がやったんだ?」

 「その前にどうして悪魔の世界に行きながら死なずに済んだ? 普通の生き物ならあの世界の悪気に耐えられない筈だ」

 「あんたがくれた世界樹の種のお陰だよ。あれが無かったら二人共死んでたぜ」

 「その種をどうしたのだ?」

 「悪魔と戦った時に勢いに任せて飲んだ」

 「世界樹の種を飲んだのか?」

 「そうだ」

 「ふふふ、あはははは!」

 女王は、大声を上げて笑い、その様に圧倒されて、見ていることしかできなかった。

 「やはり強運の持ち主は妾でさえ思い付かないことをするのだな」

 「そんなに可笑しいのか?」

 「世界樹の種を飲み込んだのはお前が初めてだからな」

 「確かに普通なら飲み込んだりはしないわね」

 マリルが、呆れ顔で言った。

 「危機的状況だったんだから仕方ないだろ」

 「それでどうする? お前が望むのなら種に戻すこともできるぞ」

 「このままでいい。また使うかもしれないからな」

 「分かった」

 「それで誰がこの世界に連れてきてんだ? この世界に連れて来るくらいだから相当な力の持ち主だろ」

 「天使だ」

 「天使~?」

 意外な解答に思わず、おうむ返しをしてしまう。

 「妾よりさらに上位の存在だ」

 「そうなのか?」

 「私も初めて聞いたわ」

 「天使のことは知らないのか?」

 「少ししか知らないわ。悪魔みたいに直接関わることは無いから」

 「じゃあ天使との契約者は居ないわけだ」

 「そういうこと」

 「だけどなんで天使が俺達を助けたんだ?」

 「妾にも分からん。あの方とはこの世界が創造された時から会っていないからな」

 「それで俺達をどうするつもりなんだ?」

 「何もせぬ。お前達を元の世界に帰すだけだ」

 「そうか。それなら良かった」

 「私は帰りたくない」

 マリルが、拒否の言葉を口にする。

 「戻らないでどうするんだよ?」

 「ここに残る。今の姿を見られたくないから」

 「残念だが異世界の者を住まわすことはできぬ」

 「女王もこう言ってるぞ」

 「だったら他の世界でいい! 元の世界以外ならどこだって構わないわ!」

 「どうやって他の世界に行くんだよ?」

 「こうするのよ!」

 マリルは、詠唱を唱え、目の前に魔法陣を展開させた。

 「なんでそんなことできるんだ?」

 「魔力を戻されたことを忘れたの?」

 「そういえばそうだった」

 悪魔の姿に変えられたことに気を取られ、魔力のことはすっかり忘れていたのだ。

 「それでどうするつもりだよ?」

 「魔法使いを知らない世界に行くのよ」

 そう言って、魔法陣の中に入ってしまった。

 「何考えてんだ! あのバカっ!」

 マリルの無謀な行動を見て、罵声を上げてしまう。

 「これからどうするのだ?」

 「マリルを連れ戻すに決まってるだろ。どこに行ったか分からないか?」

 「探知することは可能だが、お前一人で行くのか?」

 「レッドエースで行く。あれは無傷だからな」

 「レッドエース?」

 「マジンダムが分離したロボットの一機だ。シグナレスは覚えていだろ?」

 「よく覚えているよ。あの赤いのが出てきた時は驚いたぜ」

 「俺はレッドエースを取ってくるからその間にマリルがどこに行ったか探知してくれ」

 「分かった」

 女王に背を向け、走ってマジンダムの元に向かう。

 「もうすぐだなってなんじゃこりゃ~?!」

 マジンダムを置いてある場所に辿り着くと、全身花だらけだった。

 「お前等、俺のマジンダムに何してるんだ?」

 妖精相手に怒鳴るわけにもいかず、感情を圧し殺した震える声で、目的を尋ねる。

 「ゴツゴツしてて可愛くないからお花で飾って可愛くして上げたのよ」

 妖精の一人が、無邪気かつ能天気な口調で、花だらけにした意図を説明をしてきた。

 「マジンダムは可愛さを求める緩い存在じゃないんだよ」

 「なによ~。ちょっとくらいいいじゃな~い」

 「そうそう私達には超珍しいものなんだから~」

 妖精達が、束になって文句を言ってくる。

 「それなら今からもっと珍しいものみせてやるから離れてくれないかな」

 出せる限りのお願い口調で、マジンダムからどくように言った。

 「本当だな?」

 「嘘だったら承知しないぞ~!」

 妖精達が、確認を取りながらどいていく。

 「それとこの花もどかしてくれ。これじゃ乗れないぞ」

 「それは私がやって上げる」

 後ろから声を掛けてきたのは、シグナスだった。

 「シグナス、どうして来たんだ?」

 「あなたに付いて行く為よ」

 「どんな世界に行くのか分からないんだぞ。俺の世界に来た時みたいに倒れたらどうするんだ?」

 「大丈夫。対策は取ってあるから」

 「だいたい女王は許可したのか?」

 「もちろんよ。でなければ付いていくなんて言わないわ」

 「分かった。それならこのカラフルなマジンダムをどうにかしてくれ」

 「任せて」

 一歩前に出たシグナスが、両手を横に振ると花は一斉に消え、マジンダムは元の姿に戻った。

 それからシグナスにコックピットまで運んでもらった。

 「椅子のサイズは大丈夫か?」

 中に入り、シートに座りながら、前方シートに座るシグナスに座り心地を訊いた。

 「大丈夫よ」

 「よし、損傷は外装だけだから問題無いだろうけどちゃんと分離してくれよ」

 損傷個所を示すデータ画面を見ながら分離操作を行うと、マジンダムは不安を感じさせない安定した動作で、五機のロボットに分離していった。

 「どうだ。お前等凄いだろ~!」

 レッドエースの外部スピーカーを通して、外に居る妖精達に自慢するように言った。

 「ほんとだ。すご~い!」

 「こんなの見たの初めて~!」

 「人間ハンパねえ~!」

 妖精達が、驚嘆の声を上げていく。

 「これだよ! これ~! 俺が求めていた感想は!」

 妖精達から望んでいた感想を聞けたことで、両手を振り回すほどに大満足した。

 「良かったわね。それじゃあ女王様の所へ戻りましょうか」

 シグナスが、やや引いた表情で先を促した。

 「そうしたいけどこの大きさじゃ花とか踏むぞ」

 レッドエースが、歩けそうな隙間は、どこにも無かったのだ。

 「このロボットは飛べないの?」

 「飛べるけど、ここでジェット噴射したら周囲の自然を焼いちまう」

 「そういうことなら任せて。みんな、このロボットを女王の所まで運んでちょうだい」

 「ようし、任せろ」

 「それくらい朝飯前よ」

 シグナスの呼び掛けに応じた妖精達が、レッドエースの周囲に集まり、体から出した光で機体が覆われると足は地面から離れ、宙に浮いた状態で運ばれていった。

 「妖精ってこういうこともできるんだな」

 「私達の力を使えば簡単なことよ」

 どこか自慢気なのは、気のせいではないだろう。

 「これがレッドエースか。マジンダムよりも小さいのだな」

 女王が、レッドエースを見た感想だった。

 「レッドエースは五機の中では二番目に小さい機体だからな。それでマリルの居場所は分かったのか?」

 「すでに把握してゲートも開けている」

 女王の隣には、魔法陣が展開していてた。

 「じゃあ、行ってくる」

 「シグナス、頼んだぞ」

 「分かっています」

 それからレッドエースを魔法陣に入れた。

  

  「ここがマリルが居る世界か」

 「とても殺風景なところね」

 着いたのは、建造物が無い反面、草木も無く辺り一面岩だらけで、空は暗雲に覆われた荒涼とした場所だった。

 「とにかく今はマリルを捜そう」

 それからレーダーで周囲を探ったが、反応は無かった。

 「ここには居ないみたいだな」

 「それなら私がマリルの気配を察知するわ」

 「頼む」

 その直後、レーダーが前方から接近する影を捉えた。

 「何か来るぞ」

 「マリルじゃないの?」

 「いや、歩くにしては早過ぎるし、反応も三つある」

 「どうするの?」

 「近付いて来るのは俺が対処するからシグナスは気配を察知することに集中してくれ」

 「分かったわ」

 前方の拡大映像を表示すると、接近してくるのは真っ黒な球体だった。

 「なんだ。あれ? この世界特有の生き物か?」

 疑問を口にしながら、いつでも攻撃できるように、トリガーに指を掛けておく。

 近付いてきた黒球は、レッドエースの回りを飛びながら光を出した後、聴いたことのない音を鳴らしてくるだけで、攻撃してくる様子はなかった。

 「さっきから何をしてるんだ?」

 「マリルを見付けたわ」 

 「よし、そっちに行くぞ」

 「これはいいの?」

 黒球を指さしながら訊いてくる。

 「今はマリルの方が先だ。案内してくれ」

 「分かったわ」

 それからレッドエースの背中と足のバーニアを使って上昇し、シグナスが指示する場所に飛んでいった。

 「見付けたって何してるんだ?」

 画面越しに見えるマリルは、灰色の巨人と戦っていたのだ。

 「マリル、無事か~?!」

 外部スピーカーで呼びかけると、マリルは飛行魔法で、その場から離れていった。

 「逃げるな~!」

 追いかけるとマリルはスピードを上げ、見えなくなるまで、引き離されてしまった。

 「大丈夫なの?」

 「心配するな。レーダーでしっかり補足してるし、もうすぐ追い付けるから」

 自信満々に言った後、その言葉を証明するように、高度が下がり始めているマリルに追い付いた。

 「どういうこと?」

 「魔力を使ったせいで腹が減ったんだろ。そっちの特性も残ってて助かったぜ」

 マリルに合わせて、機体を降下させていく。

 「もう飛べないだろ。観念しろ」

 腹を押さえているマリルの側に着陸して、降伏を呼び掛けた直後、真後ろに灰色の巨人が着地してきた。

 「俺達を追ってきたのか。マリルに気を取られて全然気付かなかったぜ。それにしてもこいつレッドエースくらいあるんだな」

 灰色の巨人は、レッドエースと向き合うくらいの大きさで、筋肉質なスタイルに肘当てや脛当てに兜などの防具を付けた戦士のようなデザインだった。

 それから黒い球と同じく、口に当たる部分から音を出してきた。

 「またあの音か。いったい何なんだよ?」

 「声っぽい感じもするけど何を言っているのかは分からないわ」

 二人が、話している間に音を止めた巨人は、右手を青龍刀そっくりの刃に変形させて、斬りかかってきた。

 「攻撃してくるぞ。どうやら穏便にはいきそうにないな。レッドソード!」

 腰から出した剣で、攻撃を防ぐと、刃の間で発生した轟音が、辺りの空気を震わせていく。

 「見た目以上の硬いんだな。マリル、できるだけ遠くに離れてろ!」

 その呼び掛けに応えるように、大きくジャンプして離れていった。

 「これで心置き無く戦える」

 それから両手を前に出すことで、巨人を突き飛ばして地面に倒した。

 「パワーはこっちが上みたいだな」

 巨人は、体を起こしながら左手を銃のような形に変形させ、銃口から光線を発射してきた。

 「レーザーまで撃てるのかよ」

 機体を右側に反らして、レーザーを避けながら言った。

 「どうするの?」

 「心配するな。こっちも飛び道具で対抗だ。レッドショット!」

 そう叫んだ後、左足の外側の装甲が真横にスライドし、内部に納められている拳銃型の武器を取り、巨人に狙いを定めてトリガーを引いた。

 銃口から発射されたビームは、巨人の腹を撃ち抜き、熱膨張の後に爆発して、木っ端微塵にしたのだった。

 「これで大丈夫だろ。マリル、無事か?!」

 その呼びかけの後、正面にやってきたマリルは返事をせず、睨むようなきつい視線を向けてくるだけだった。

 「なんて顔してるんだ。とりあえず降りるか」

 「私も行くわ」

 「ここは俺とマリルだけにしてくれ。何かあれば呼ぶから」

 「分かったわ」

 それからレッドエースに武器を収納させて、片膝を付かせた。

 「これを持っていって」

 ハッチを開け、外に出ようとしたところで、シグナスがさくらんぼのようなものを差し出してきた。

 「それは?」

 「妖精の食糧で食べれば元気が出るわ」

 「ありがとう」

 食糧を受け取った後、マジンダムと同じ要領で地面に降りた。

 「何しに来たの?」

 再会するなり、怒気を感じさせる重い声を掛けられてしまう。

 「その前にこれ食えよ。シグナスが持ってきた食物だ。腹が減ってるんだろ」

 言いながら食糧を差し出す。

 「・・・・」

 マリルは、黙って受け取るなり、猛烈な勢いで食べた。よほど腹が減っていたのだろう。

 「元気になったか?」

 「シグナスにお礼を言っておいて。それで何をしに来たの?」

 「連れ戻しに決まってるだろ」

 「私は絶対に帰られないわよ」

 「メルルにクラウディアさんにリュウガ達と会いたくないのかよ?」

 「会いたいわよ。会いたいに決まっているでしょ。でもこの姿を見て。今の私は悪魔なのよ。こんな恰好で戻ったら大変なことになるじゃない!」

 話している最中、自分の姿をよく見せるように、両手を大きく広げてみせた。

 「それでもお前を連れ戻すぞ。そうでもしないとリュウガ達に顔向けできないからな」

 「みんなには戻らないって伝えて」

 「戻らないならどうやって生きていくんだよ?」

 「一人でならどうとでも生きていけるわよ」

 「それならマジンダムはどうするんだよ?」

 「あげる」

 その一言は今まで聞いた中で、一番重たかった。

 「お前、何言ってんだよ」

 「聞こえなかったの? マジンダムをあげるって言ったのよ」

 「なんでそんなこと言うのかって聞いてんだよ。マジンダムはお前の魔法石と同化した魔法使いの証だろ」

 「もうどうだっていいわよ。それに最初の頃に所有権を主張してたんだから望みが叶ったじゃない」

 「所有権も何もマジンダムは元から俺の物だ」

 「さっきから私の心の痛みも分からないくせによく戻れとか平気な顔して言えるわね」

 「心は分からないけど痛い思いなら散々してきてるぞ。腹ぶち抜かれたり上半身斬られたりとか」

 「・・・・」

 マリルは、気まずそうに顔を横に向けた。痛みの原因の大半が自分にあるからだろう。

 「とにかく放っておくわけにはいかないんだから意地でも連れ戻すからな」

 「やれるものならやってみなさいよ。今の私は魔法が使えるんだから」

 脅かすように右手から炎を出してきた。

 「そういうことならレッドエースで捕まえるまでだ。お前の魔法は効かないぞ」

 背後のレッドエースを指さす。

 「ロ、ロボットに乗らなきゃ何もできないわけ?」

 不利と思ったらしく、いちゃもんを付けてくる。

 「まあ、レッドエースに乗らなくてもどうにかできるけど」

 「何ができるっていうのよ?」

 「光の膜で魔法を防ぐ」

 言った通り左手の紋章を光らせ、光の膜を張ってみせる。

 「じゃあ、契約解除をするわ」

 その言葉の後、紋章の消滅と共に光の壁が消えた。

 「これでどう?」

 「俺、妖精の加護と世界樹の光も出せるから契約が無くても膜も出せるぞ」

 「だったらその力で私の悪魔の力を受けてみなさいよ。私が参ったって言うまで受け止められたら戻ってあげる」

 「分かった。やれよ」

 左手を降ろして無防備な体勢を取ると、マリルが右手を胸に押し当ててきた。

 この時、一瞬ドキッとしてしまう自分が情けなかった。

 「じゃあ、やるわよ」

 「いいぜ」

 そう言った後、真っ赤に目を輝かせるマリルの右手を通して、黒い光が体に入ってくると、胸を中心に黒くなるのに合わせて、全身を激痛が駆け巡っていく。

 「どう?」

 「まだまだ全然だぜ」

 おもいっきり強がってみせる中、痛みが増すに連れて、体がボロボロと崩れ始めていく。

 「ま、まだ?」

 「まだ・・・・」

 その後は、声が続かなかった。

 「やめて! それ以上やったら守が死ぬわよ!」

 レッドエースから出てきたシグナスが、大声で止めるように言った。

 マリルが、声を聞いて手を降ろした時には、消し炭寸前になっていた。

 「すぐに回復させるわ」

 側に来たシグナスの両手から出る光を浴びることで、痛みも消え、黒い体も元通りになっていく。

 「守、大丈夫?」

 シグナスの問いに応えず、二人から離れて近くの岩陰へ行くなり、口から真っ黒なものを大量に吐き出した。

 胃袋に悪魔の力が、大量に残っていたらしい。

 「マリル、あなた、守を殺す気だったの?」

 シグナスが、厳しい声で問い詰める。

 「その前になんで口に蝶を付けるの?」

 シグナスは、口元に白い蝶を付けているのだ。

 「異世界の空気に対応する為のマスクよ。前に守の世界に行って気を失ったから」

 「そういうことだったのね」

 「マスクのことより守のことでしょ。あのままだったら死んでいたわよ」

 「ちゃんと回復魔法掛けるつもりだったわよ」

 「私が来なかったら危なかったじゃない」

 「守が諦めれば良かったのよ。そうすればすぐに止めたのに」

 「諦めると思う?」

 「・・・・思わないけど」

 「だったら」

 「話はそこまでだ」

 岩陰から出て、二人の間に割って入る。

 「もう大丈夫なの?」

 「なあにもうへっちゃらさ」

 両手をぶんぶん振り回して、元気であることをアピールしてみせる。

 「うっ」

 その直後、また腹から圧力が込み上げてきて、再度岩陰に行って盛大にぶちまけた。

 吐き出し切れていなかったらしい。

 「今度こそ大丈夫だ」

 その言葉に対して、マリルとシグナスが疑いの目を向けてくる。

 さっきの醜態を見れば当然の反応だろう。 

 「念の為にもう少し回復魔法を掛けてあげる」

 「私も」

 シグナスとマリルから同時に回復魔法を掛けられると、妙な気分になってしまう。

 「本当にもう大丈夫だから早くここから出よう。マリル、さっきの根くらべは俺の勝ちでいいな?」

 「い、いいわよ」

 マリルは、横を向いて、決まり悪そうに返事をした。

 「そうと決まればレッドエースに戻るぞ」

 三人揃って、レッドエースに乗り込む。

 「シグナス、ゲートを開けてくれ」

 シートに座り、マリルが前席に座ったところで、右脇に寄り添うシグナスに指示を出した。

 「分かったわ」

 シグナスが、ゲートをあけようとした瞬間、天上から一筋の光が降ってきて、頭上で弾けた後、光の膜が広がり、周囲を囲われていった。

 「あれは何かしら?」

 「分からないけど嫌な予感がするから早いとこ戻ろう。シグナス」

 「だめ、ゲートが開かないわ。あの膜が空間を遮断してるみたい」

 「なんだって。それならこの膜から出ないとな」

 レッドエースを膜に向かって、ジャンプさせる。

 「どうやって出るつもり?」

 「殴ってぶち破る!」

 壁に向かって右パンチを出し、拳が膜に触れた途端に電気が発生し、右手を通してコックピットに伝わり、三人を痺れさせていった。

 「しまった!」

 痺れによって、操縦倬から手が離れたことで、コントロールを失ったレッドエースは、落下して地面に激突した。

 「二人共大丈夫か?」

 「平気」

 「大丈夫」

 「良かった。それとレッドエースも問題無いみたいだ」

 二人とレッドエースが無事であることに安心する。

 「パンチが駄目なら銃で試すか」

 レッドエースを立たせ、右足から出したエースショットを膜に向ける。

 そこへ膜を抜けるようにして、二体の巨人が入ってきた。

 「新手か。思ったよりも早かったな」

 二体は、どちらもレッドエースと同じ大きさで、形は灰色の巨人と酷似していたが、一体は赤色で頭部に二本の角を、もう一体は青色で一本の角を付けていた。

 「いかにもさっき倒した奴の上位機種って感じだな」

 「どうするの?」

 「とりあえず向こうの出方を待とう」

 エースショットを降ろして、直立状態にする。

 それから赤い人型から声らしきものが発せられたが、相変わらず内容は分からなかった。

 「何を言っているのかさっぱりだな」

 「あれ、きっとドワーフ語だわ」

 マリルが、音の種類を特定をした。

 「ほんとか?」

 「発音は変わっているけど学生だった頃に勉強したドワーフ語と似てるから。覚えておいて良かったわ」

 「言語形態が変わったから私が分からなかったのね」

 「ここがドワーフの世界だとするとまずいわね」

 「なんで?」

 「ドワーフとは不可侵条約が結れているから」

 「とりあえず話し合ってみよう。今言っていることを通訳してくれ」

 「邦訳魔法を掛けてあげる。それなら守やシグナスも向こうの言葉が分かるから」

 マリルの左手から出る光を頭に浴びせられると、音を声として、聞き取れるようになった。

 「またも我々の警告を無視するのでおじゃるか?」

 「黙っていないでさっさと応えるのである!」

 「おじゃる? である?」

 変な語尾を耳にして、首を傾げてしまう。

 「訳すとそう聞こえるみたい。私も驚いたわ」

 「分かった。聞こえているぞ」

 外部スピーカーを使って返事をする。

 「やっと返事をしたでおじゃるか。その"ロボット"に乗っている三人の誰の声でおじゃる?」

 「あんた達、ロボットを知っているのか? それとなんで三人って分かる?」

 「当然である。我らが乗りし物もロボットであるからな。それとお前達のやり取りは小型偵察機でお見通しなのである」

 青ロボが、頭部の近くを飛んでいる黒い珠を指差した。

 「あれは偵察機だったのか。それじゃあ、さっき倒した灰色のロボットはなんだ?」

 「あれは遠隔操作用の無人機で危険と判断した場合は攻撃するのでおじゃる」

 「なるほど、それと今話しているのは男でロボットのパイロットだ」

 「魔法で黒く死にかけた男であるか」

 「そうだよ。それでロボットに乗っているドワーフさん達は俺達をどうするつもりなんだ?」

 「不法侵入と器物破損の罪で我らが大王様の御所までご足労願うでおじゃる。裁きは大王様が下すでおじゃる」

 「このまま大人しく帰るからお互いに何も無しってわけにはいかないかな~?」

 出せる限りの猫撫で声で、妥協案を提案してみる。

 「我が警告を無視した上に無人機を破壊したのだから裁きを受けるのは当然である」

 「それはそうかもしれないけど二人はどうしたい?」

 マリルとシグナスに意見を求める。

 「この姿を見られたくないわ」

 「色々と聞かれるのは嫌だわ」

 「俺もさっさと帰りたいし、というわけで力付くで出て行くことにするよ」

 武力による強行突破を宣言する。

 「そうか。では、仕方ないでおじゃるな」

 「我々の力を思い知るのである」

 「そうそう麿の名はクダラ男爵でおじゃる」

 赤いロボットが、茶色でもじゃもじゃの髪と髭を生やした厳つい男のバストアップのホログラム映像を正面に表示させ、爵位込みで名乗ってきた。

 「我が名はバロッケン伯爵である」

 青いロボットのパイロットも、クダラと同じ方式で名乗ってきたが、こちらは髪の色は白くて、全体にカールが掛かっていた。

 「俺は鋼守だ」

 二人に合わせるように名乗った。

 「わざわざ名乗る必要あるの?」

 マリルが、ツッコミを入れてくる。

 「向こうが名乗ったんだからこっちが名乗らないのは失礼だろ」

 「そういうものかしら?」

 「確かに挨拶をしたら返すべきよね」

 シグナスが、挨拶を返したことに賛同する。

 「では、参るでおじゃる」

 クダラの言葉の後、赤ロボが地面から浮いた状態で、直進してきた。

 「ホバー走行かよ。見た目以上の性能だな」

 「感心してる場合じゃないでしょ」

 「分かってるよ。エースショット!」

 ショットを両手に持たせ、トリガーを押したままの連射モードで攻撃する。

 赤ロボは、両手から出した戦斧を高速回転させることで、ビームを弾いていった。

 「真っ赤なロボットに斧を持たせるなんてドワーフはよく分かってるんだな~」

 「今はそういうのはいいから」

 「やっぱマリルには分からないか~」

 赤ロボは、お返しとばかりに、口から炎を出してきた。

 「レッドエースに炎は効かないぜ」

 炎をものともせずに突き進みながら、右手の武器をショットからソードに持ち変えて、斬り込んでいく。

 ソードが斧で受け止められた後は、火花を散らす壮絶な打ち合いになったが、一本のレッドエースが必然的に不利になり、一瞬の隙を見て、ショットを撃うとしたが、右足で蹴り飛ばされてしまった。

 「なんて反応速度だ」

 「どうして二本で戦わないのよ?」

 「もう一機居るからだよ」

 返事をしながら赤ロボから離れ、ショットを拾うなり、背後に接近してくる青ロボの足元に撃って、近付けないようにする。

 赤ロボが、その隙を付いて、斧を突き出してきた。

 「しまった!」

 直撃は免れないと諦めた直後、機体前方に展開した防御魔法陣が、斧を押し留めていた。

 「何が起こったんだ?」

 「私が防御魔法陣で止めたのよ。自分一人で戦っていると思わないで」

 マリルが、後ろを向きながら言った。

 「そうだったな」

 「私も居るから」

 シグナスが、参戦を宣言する。

 「三位一体か。いい感じだぜ~」

 「なんでそんなに嬉しそうなの?」

 「こういう状況って巨大ロボットアニメではお約束だからだよ」

 「さっぱり分からないわ」

 「私も」

 今の状況に喜んでいる守とは対称的に、マリルとシグナスは完全に引いているのだった。

 「ようし、魔法で目にもの見せてやうぜ! ガイアクラッシュだ!」

 右足でおもいっきり地面を踏んで、一直線の地割れを起こす。

 赤ロボが、右に飛んでかわす瞬間にバーニアを噴射し、機体を加速をさせ一気に距離を詰めて、ソードを振り降ろす。

 その攻撃は斧で防御されたが、パワーを押し通すことで、地面に叩き落とした。

 「トドメだ!」

 倒れている赤ロボに向けて、ショットを連射したが、青ロボから発射されたレーザーによって、かき消されてしまった。

 「ストレートサンダー!」

 振り向きながら青ロボに剣先を向け、刃から稲妻を放つ。

 青ロボは、攻撃を回避した後、両肩から稲妻を放出してきて、三つ稲妻がぶつかったことで、二機の間に激しいスパークが発生した。

 その後、青ロボの両手から出てきた鞭が、両腕に巻き付いてきた。

 「青いロボットに鞭付けるとはやるな~」

 「もういいって」

 鞭をほどこうとしたが、パワーが互角らしく、腕を動かすことができなかった。

 その間に青ロボが肩から電気を放出し、胸の球体から太いレーザーを撃ってきたが、正面に展開した防御魔法陣で防いだ。

 「早くなんとかして!」

 「分かってる!」

 そこへ背後から頭部を破壊された赤ロボが、迫ってくる。

 さっきの攻撃で、頭部に弾が命中していたのだろう。

 「どうするの?」

 「任せろ!」

 左手の向きを変えてショットを撃つことで、右の鞭を切断した後、後方の赤ロボに向かって撃ったが、斧によって弾かれてしまう。

 「やっぱりダメか。それならっレッドエースフャイヤーモード!」

 レッドエースの全身が真紅に輝き、それに合わせて右腕を引くと、青ロボの足は地面から離れ、そのまま真横に大きく振り回すことで、赤ロボに叩き付けた。

 「やるじゃない」

 「今のは思い付かなかったわ」

 マリルとシグナスが、称賛の言葉を口にしていく。

 「どんなもんだい! このまま一気に決めるぞ! ファイヤーボンバー!」

 倒れている二体に向け、銃口に発生させた巨大な火の玉を撃って、大爆発を上げさせた。

 「やったかしら?」

 「それ禁句!」

 シグナスの言葉を否定した直後、炎の中から赤ロボが青ロボを上に乗せたような形態のロボットが、姿を現した。

 「何、あの形?」

 「合体に決まってるだろ。ドワーフのロボットは合体までできるんだな」

 「どうせ、こういう状況も好きなんでしょ?」

 「まあね~」

 ヲタク特有のニヤけ顔を浮かべながら、武器を拾い、構えの姿勢を取らせる。

 合体ロボは、青ロボの胸からレーザーを、肩からは稲妻を放出してきた。

 「転送魔法で背後に移動するんだ!」

 「分かったわ」

 転送魔法で合体ロボの背後に移動して、攻撃しようとしたが、背中を向いた両手に殴り飛ばされ、体勢を崩したところに掌から光弾を撃ってきた。

 「まずい!」

 そう叫んだところで、レッドエース全体が蒼い光に包まれて、光弾をはね返していった。

 「何が起こったんだ?」

 「妖精の光で防いだの。私が居ることを忘れないで」

 シグナスが、自身の存在をアピールしてくる。

 「そうだ。シグナレスがマジンダムにやったみたいにあいつらにも植物を生やすことはできるか?」

 「できるけどそれにはあのロボットに直接光を送る必要があるわ」

 「分かった。マリル」

 「分かってるわよ」

 「よし、行くぞ!」

 左手の武器をショットからソードに変えて、合体ロボに向かっていく。

 合体ロボは、体の向きを変え、飛び道具を一斉発射してきたが、妖精の光によって無効化していった。

 距離が縮まると一本に繋ぎ合わせ、刃に炎を宿した斧を投げてきたが、剣で弾いた。

 そうして肉薄したところで、ソードを振って合体ロボの両腕を斬った後、刃の向きを変えて両足に突き刺していった。

 「シグナス、今だ!」

 その合図の後、シグナスの両手がら発せられた緑色の光りが、ソードを通して、合体ロボに伝わっていく。

 合体ロボは、胸からレーザーを撃とうとしたが、両足から生えてきた植物に全身が覆われていくと、事切れたように動かなくなった。

 それから剣をしまった後、合体ロボを両手で抱えた状態で、膜に近付いていった。

 「どうしてロボットを持ったまま膜に向かうの?」

 「こいつらは膜を通れたんだから一緒なら出られるはずだからさ」

 その言葉を証明するように、合体ロボは膜を抜け、そのまま一緒に外へ出たのだった。

 「シグナス、ゲートを開けてくれ!」

 「分かったわ」

 シグナスの詠唱の後、上空に魔法陣が展開した。

 「後はあの中に入るだけだ」

 そうして飛び立とうとした瞬間、何かが引っ掛かったような感じを受けて、真下に目を向けると、赤ロボから分離した青ロボが、背中から出したアームを左足に回して、しがみ付いているのだった。

 「まだ動くのか。離せ! 離せ!」

 振りほどこうとしたが、なかなか離れなかった。

 「見て。何か来るわ」

 マリルの指差す方に視線を向けると、偵察ロボットや戦艦の大群が向かって来ているのだった。

 「ちっ援軍か。仕方ないこのまま中に入るぞ!」

 「青いのはどうするの?」

 「このまま行く。捕まるよりはマシだろ」

 青ロボにしがみ付かれたまま、ジャンプして魔法陣の中に入った。


 

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