第24話 デスグレートと魔法少女。 ~戦闘編~
マリルと一緒に暖炉の部屋に居る。
自分の部屋に居ないのは、昨晩一緒に寝た為に、嫌でも妹のことを思い出してしまうからだ。
何もせず、長椅子に座って頭を垂れていた。大切な妹を敵に奪われて利用された挙句、取り戻すことができなかったという敗北感が、無気力にさせているのだ。
なお、ホオガは、念の為に自室で休ませていた。
「いつまでそうしているつもりだ?」
どのくらい時間が経ったかは分からないが、顔を上げて、マリルに声を掛けたが、反応は無かった。
「いい加減に顔くらい上げろよ。ずっとそうしていても何にもならないぞ」
「私、最低だ」
顔はそのままに小さな返事が返ってくる。
「何が最低なんだ?」
「メルルに凄く酷いこと言ったの。あの子が私のことを心配してくれているのは分かっていたのにリュウガのことで頭がいっぱいになってて」
「それで断片を封印していた白い本を盗んでペーパーマスターに渡したのか」
ペーパーマスターが、どうやって白い本を入手したのか分かった。
「あの子のこと大切に思っていたのに、こんなことになるなんてほんと最低だ。姉の資格なんてない」
言い終えるなり、黙ってしまった。
「そうやって落ち込んでも仕方ないだろ。あいつは明日来るんだぞ。対策練ろうぜ」
「練ってどうするのよ?」
「あいつに勝って二人を取り戻すに決まってるじゃないか」
「なによ、急に兄上様ぶっちゃって」
顔を上げるなり、物凄く刺のある返事をしてくる。
「なんだよ。急に」
「何年も会っていなかったくせに、たった一日二日話したくらいで兄上様の信頼を取り戻したつもりかって言っているの」
「それを言ったらマリルだって同じじゃないか。メルルと何年も会ってなかったんだろうが!」
あまりの言われように大声で怒鳴り返してしまう。
「私の場合は家柄の事情よ。あの子のことを思わない日は無かったわ!」
マリルも負けじと怒鳴り返してくる。
「俺だってそうだよ。柊が泣いているんじゃないかって思ってたよ!」
「だいたい、守のせいで話がややこしくなったのよ。あなたが羨ましいって、メルルに言われたわ!」
「俺だって柊に同じこと言われたぞ。全然そんな関係じゃないっていのによ!」
それから二人は、互いを罵り、暖炉の部屋に罵声を響かせていった。
「・・・・」
言葉が途切れたところで、お互いに何も言わなくなった。これ以上言い争っても無駄だと分かったからだ。
いつまでも続く沈黙に耐えられず、立って部屋から出ていこうとした。
「それ、持っていきなさいよ」
鋼兄妹が買っ土産袋を指差してくる。
返事もせずに袋を持って乱暴にドアを開け、閉めないまま出ていった。
「まったくなんなんだよ! あいつはっ! こっちだって腸煮えくり返っているってのによ~!」
守の大声が、部屋の隅々にまで響き渡る。
行くところもないので、仕方なく自分の部屋に入るなり、怒声を上げているのだ。
マリルに罵られたことで、悲観に暮れていた心情が怒りに変化したのである。
「俺だってな、泣いて済むならそうしたいよ!」
喚きながら壁を力いっぱい蹴ったことで、暖炉の部屋から持ってきた土産袋が倒れた。
蹴った振動が、壁に立て掛けていた袋に伝わったのだろう。
元に戻そうと袋に近付く中で、一枚の封筒が飛び出ていることに気付いた。
「これなんだ?」
拾って中を見ると、四人が写っている写真だと分かった。
スカイツリーの展望台で撮ったものだった。
全員が笑顔を浮かべていて、それを見ている今の自分とは別人みたいだった。
取り出した写真を両手で持って、額に当てながらベッドに座り
「ごめんな。柊」と小さな声で謝った。
写真を離して顔を上げ、ベッドから立って、部屋に備え付けの机に向かい、中から青色の小箱を取り出した。
箱を開けると、中には妖精の女王からもらった世界樹の種が入っていた。
自分の家に置く気にはなれず、邸の部屋に置いていたのだ。
種に手を伸ばし、取る寸前のところで止め、数秒後には蓋を閉めて、机に戻していた。
今使うべきではなく、自分の力だけで解決しなければならないと思えたからだ。
それから写真だけを持って、暖炉の部屋に向かった。
部屋の前に着くと、ドア越しに知らない声が聞こえてくる。
「誰か居るのか?」
考え始めたところで、ドアが開きかけたので、思わず玄関まで走って、身を隠してしまった。
それから声が遠ざかるタイミングで、顔を出すとマリルは、知らない女性と歩いた。
後ろから見ているので、白い服を着たマリルよりも少し背が高く、メルルのような金髪ということしか分からなかった。
二人は、話ながら奥へ行った。
誰も居ない部屋に行く気がしなかったので、外に出て時間を潰すことにした。
外はすっかり夜になっていて、夜空には月と星が煌めいていた。
こちらの気も知らず呑気だなと思いながら顔を下げて、歩き出したところで、あるものが目に止まった。
「白い本じゃないか」
見付けたのは、黒い魔導書の断片を封印する為の白い本の燃えかすだった。
「あの野郎、こんなところにポイ捨てしやがって~。明日は絶対に負けないからな」
かすを拾い上げ、ペーパーマスターへの闘志を胸に部屋へ向かった。
ドアを開けて中に入ると、まるで時間が巻き戻ったように、同じ場所に座って顔を伏せたマリルが居た。
「まだそんなことしてんのか、顔上げてしゃんとしろ」
厳しい声を掛ける。
「なによ、急にやる気なんか出して」
顔を下げたまま返事だった。
「さっき一緒に居た女の人は誰だ?」
「見てたの?」
違う話題だからか、少しだけ顔を上げて聞いてきた。
「階段を降りたところで見たんだよ」
「あの人はメルルのお母様よ」
「それじゃあ」
「そう、私の養母。今は名字を戻しているから戸籍上は元だけど」
「なんで、その人が来たんだ?」
「メルルのことを連絡したからに決まっているじゃない」
「それでなんか言われたのか?」
「ちゃんと解決しなさいって言われたわ」
「それだけかよ。随分冷たいな」
「そうじゃないわ。私とお父様の立場を考慮した上での言葉よ。娘が魔導書の人質なされたなんて知られたら私もお父様も処罰確定だもの」
「マリル達のことを考えた上での言葉ってわけか」
「自分の生んだ娘が人質に取られているんだから本心では心配で堪らないはずよ」
マリルは、養母を必死に擁護した。
「なら、その言葉に報いる為にも絶対に二人を助けようぜ」
「なんで、そんなにやる気なの?」
「やる気を出さなくてどうすんだよ。なにしろ俺達は最低の兄上様と姉様なんだからな」
「最低ですって? どういう意味?」
怒りを表情に出しながら聞き返してくる。
「言葉通りだよ。妹のことを考えているとか言いながら、あんな目に合わせてるんだぞ。最低でなくてなんなんだっていうんだ」
「・・・・そうね」
説明に納得したのか、素直な返事をしてくる。
「ただな、最低ってことはもう落ちようがないんだ。だから今度はお互いに昇れるところまで昇って最高の兄上様と姉様になって妹の笑顔を取り戻そうぜ」
言い終わった後、持ってきた写真を差し出す。
「・・・・そうね。この笑顔を絶対に取り戻さないとね」
マリルは、写真を見て、泣きそうになるのを堪えながら返事をした。
「ようやくやる気になったみたいだな」
「これからどうするの?」
「まずは魔力補給だ。帰ってから何も食べていないだろ。明日はたっぷり使うことになるから今の内にたらふく食べておけ」
「そうね。けど、料理は誰がするの?」
「俺がやる。おじさんに鍛えられた腕を存分に振るってやるよ。だから厨房借りるぞ。それと食材はあるよな?」
「たぶん」
「それじゃ、厨房行ってくる」
意気揚々と厨房へ向かった。
「マリル~飯出来たぞ~」
数十分後、出来立ての料理を運んでいった。
「これって私が好きな料理じゃない。どうして守が作れるの?」
「こいつに指示してもらったんだ」
扉の中から、土塊のリュウガが入ってくる。
「リュウガ、どうしてここへ?」
「主様が、心配だからに決まってんだろ。料理している最中に厨房に来たから料理方法を指示してもらったんだ」
「喋れないのによく言っていることが分かったわね」
「身振り手振りにアイコンタクトで分かるんだよ。前にも言ったけど俺達同志だからな」
「なんの?」
「超○金」
関係性について、きっぱりかつはっきりと言い切る。
「道理でリュウガの部屋にいっぱい飾ってあるわけだわ」
自分には理解できない繋がりに対して、マリルは苦笑いを浮かべている。
「それに俺とリュウガだけじゃないんだぜ」
その言葉に続いて、従僕三人が料理を持って入ってくる。
「三人共、もう平気なの?」
「大丈夫でござる」
「もうへっちゃらやで」
「ご心配をおかけしましたわね」
三人が、それぞれの状態を報告していく。
「良かった。本当に良かった」
マリルは、目に涙を溢れさせた。
「早く食べろよ。冷めちまうぞ」
「うん」
マリルは、運ばれた料理を全部食べていった。
「ごちそうさま」
出された料理を全て平らげたマリルは、缶コーヒーを飲みながら食後の挨拶をした。
「・・・お粗末さまでした・・」
息切れしながらの返事だった。マリルの凄まじい追加発注に対応したことで、へとへとになっていたのだ。
「満腹になったところで話してくれ。リュウガに何があったんだ?」
リュウガが、土塊になった詳細に付いて尋ねる。
「リュウガは精霊じゃなくてホムンクルス、土で造った人形に命を宿したものよ」
「ゴーレムと何が違うんだ? 原理は同じだろ」
「サイズの違いね。私の世界では人間サイズはホムンクルス、巨大なものはゴーレムと呼び分けているの」
「なるほど、それでこっちが本来の姿なわけか?」
「魔力がもっと高ければ、人間に近い形にできたんだけど、リュウガを造った時はまだ子供だったからこれが限界だったの」
「それがどうなってあんな美形になったんだ?」
「地上最強と謡われたダークドラゴンの牙を使ったの」
「俺達が前に倒したブラックキングドラゴンよりも強いのか?」
「あれのご先祖様。私のご先祖様は討伐隊に加わっていて、討伐成功の褒美に授かってからはアウグステゥス家の家宝になっていたの」
「その破片を入れることでリュウガ自身の魔力を上げて美形にしたわけか」
「魔力が上がれば形も好きなように形成できるから。それと顔のデザインは欠片をもらったご先祖様をモデルにしているの」
「なるほど、ご先祖様は美形だったわけだ」
「ちょっぴり加工はしているけどね」
「その牙を入れればリュウガは元に戻るんだな」
「そうよ」
「だったら、そいつも絶対に取り返そうぜ」
「せやかて、リュウはん抜きではキツいんちゃいますか? ほおはんから聞いた魔剣レベルの木刀もありますし」
「あの木刀なら私がなんとかするわ」
一同の前にかぐやが現れた。
「かぐや、どうしてここへ?」
ホオガが、驚きの声を上げる。
「もちろん戦いに赴く為ですわ」
「前に自分は攻撃属性じゃないって言ってたじゃないか」
「想い人を傷付けられれば話は別。それに私なら木刀の九十九神に対抗できる霊力を持っているから十分な戦力になるはずよ」
「それはいいとして、ホオガと付き合っているってほんと?」
気になっていた質問をしてみた。
「ほんとよ。ねえ~ホオガ様」
「ほんとでござるよ。守殿。機械樹の一件以来よく話すようになり、それからすっかり息統合してお付き合いしているのでござる」
ホオガは、かぐやと手を繋ぎながら説明した。
「マリル、これって有りなわけ?」
「まあ、うちは恋愛禁止じゃないし」
「そうか、とりあえずこのベストメンバーで明日はデスグレートをぶちのめすぞ! お~!」
右腕を振り上げながらの雄叫びに対して、その場に居る全員が続いた。
朝になり、玄関の扉がノックされた。
約束通り、ペーパーマスターがやってきたのだ。
「みんな、いいな?」
問い掛けに全員が頷く。
それから扉を開け、ペーパーマスターと対面した。
「おはようございます。皆様、お揃いのようですね。おや、一人だけ初めてお目にかかる方がいらっしゃいますが、どなた様でしょうか?」
ペーパーマスターが、初対面となるかぐやに付いて尋ねてきた。
「そこのお嬢さんが抱えている日本人形の九十九神。あんたをぶちのめす為にこの
かぐやは、マリルが抱えている本体を指差しながら説明した。
「なるほど、メンバー増員ですか、他の精霊の方々も復帰されたようですし、昨日以上に楽しめそうですな。実に良いことです」
物凄く楽しそうに弾んだ声で話している。
「なあ、お前はどうしてそこまで楽しみに拘わるんだ?」
ふと頭に思い浮かんだ疑問を口にする。
「私が、なんであるかはもうご存知ですよね」
「黒い魔導書」
「その私が、どうやって造られたのかはご存知ですか?」
「邪悪な魔法使いが呪文や秘法を書きまとめた本なんだろ」
黒い魔導書に付いて、マリルから聞いた話を元に返事をする。
「その解答では五十点ですな。元々はただの娯楽魔法の教本です」
「どういうこと!?」
驚いたように声を上げたのはマリルだった。自身の話が否定されたのだから無理もない。
「私は幻影や花火の出し方といった娯楽魔法の教本でしたが、ある時から邪悪な魔法使い達が私を隠れ蓑にして悪の魔法の術式を書き込むようになりましてね、そうしたことを繰り返す内に真っ黒に染まっていきまして、黒い魔導書と呼ばれるようになったのです」
予想外の解答に一堂は言葉を失った。
「それでお前の最後の所有者が、あのおばさんだったわけだ」
「あの方にはとても感謝していますよ。魔法連邦の大議事堂に封印されていた私を開放してくださったのですから。それと君にもね、守君」
杖の先で差される。
「俺、何かしたか?」
「開放される寸前の私を叩いたでしょう。あの行為によって、より強く覚醒することができて、アキハバラで過ごす内に感情というものが芽生えていきましてね。そうして私の根底にあるのは娯楽ですから楽しみを追い求めて色々なことをしてきたというわけなのですよ。真っ黒なので少々邪悪ではありましたが」
ペーパーマスターの話が終わるなり、マリルを含む周囲の者達から、批難という感情がおもいっきり込められた視線の集中砲火を浴びせられてしまう。
「おい、ちょっと待て! なんだ、その目は? 俺が叩いたから半分は封印できたんだぞ。もし、全部開放されていたらどうなっていたと思う!?」
てんぱりながら過去の所業の正統性を訴える。
「まあ、もっと酷いことになっていたでしょうな」
「ほら、みろ。本人もこう言っているじゃないか」
藁にもすがるような気持ちで、ペーパーマスターの言葉を肯定しまくる。
「あのね~。敵にフォローされてどうすんのよ」
マリルは、額に手を当てて呆れ返った。
「さて、私が何者か分かったところで戦いの続きとまいりましょうか」
「その前にメルルと柊ちゃんの無事な姿を見せて」
「いいでしょう。不安なまま勝負に入っては本気を出せないでしょうからね」
ペーパーマスターが、杖を一振りすると、両目を瞑った状態の妹二人が姿を現した。
「メルル!」
「柊!」
マリルと一緒に二人に駆け寄り、従僕達は救出を手助けしようと身構えかけたが、胸の赤いページを見て動きを止めた。
「賢明な判断です。昨日も言いましたが、勝てば無傷でお返しすることは保証いたしますよ」
「あなたを倒して、必ず妹を取り戻すわ!」
マリルが、自身の強い決意を声に出す。
「そのいきです。では、始めましょうか」
屋敷から出た一同は、荒野の決闘のように向かい合い、その数秒後に守達はマジンダムに搭乗し、ペーパーマスターはデスグレートに変化した。
「戦いの前のこの緊張感、癖になってしまいそうです」
「ガイアハンマー!」
マジンダムが、両手に召喚したハンマーを使って、先制攻撃を仕掛ける。
「昨日よりもやる気を感じられる攻撃ですね。では、こちらも」
デスグレートが、両手を龍に変形させ、鉄球を口で受け止め、ハリケーントマホークと同じくあっさり噛み砕いた後、口から斧、槍、鉄球といった近接武器を連射してきた。
「アースシールド!」
鎖を捨て、召喚したアースシールドで防御しつつ、真横に飛んで射線上から離脱して、踏ん張るポーズを取ると全身が真紅に染まっていった。
「バーニングウェーブ!」
真っ赤な両拳で、おもいっきり地面を叩いた直後、津波のように吹き出した焔が、武器を弾くほどの猛烈な勢いで、デスグレートへ押し寄せていった。
「これはまたド派手な新技というやつですな」
デスグレートは、避ける代わりに右足で地面を割り、その割れ目に焔の波を落としていった。
その隙にドロップキックで飛び込んでいったが、バックジャンプで回避された後、着地と同時に足元から焔の波を発生させる。
「マジンダムにいったい何が起こったのですかな?」
壁を作って焔を防ぐ中、マジンダムの突然の変化に対して、興味津々に尋ねてきた。
「グレートマジンダムバーニングフォーム。憑依している精霊の特性を魔力で増幅して機体に反映をさせているんだよ!」
言いながらデスグレートに接近して両手を壁に当てるなり、爆発を立て続けに起こし、何十発目の爆発でバラバラに破壊してみせた。
「防御が駄目なら攻撃とまいりましょう」
龍に変えた両手をマジンダムの両拳に噛み付かせた途端、手は大きく膨張して爆発した後、肩まで一気に爆裂していった。
「おお~これは予想以上の力ですね」
デスグレートは、両腕を再生させながらつま先を龍に変え、マジンダムの両足に絡ませるなり急上昇して上空へ引っ張り上げ、地面に向かって放り投げた。
落下するマジンダムは、飛行魔法によって急停止した後、緑色に変わるとその場から見えなくなった。
「どこへ行きましたかな?」
辺りを見回すデスグレートの真後ろに現れ、背中にキックを叩き込んで地上へ蹴り落とした。
と思いきや、地上へ着く前にデスグレートの落下地点に現れ、顎にパンチ当てて叩き上げ、飛んでいった先に現れては攻撃を仕掛けるという連続攻撃を行った。
「これはまた俊敏ですな。いったいどういうことでしょうか?」
バーニングフォームの時と同じく、デスグレートが驚きの声を上げる。
「ハイスピードフォーム。地上ではマッハ以上のスピードで動けるんだよ!」
その言葉通り、ブラックキングドラゴンを四方八方から攻めた時とは異なり、目にも止まらぬスピードで攻撃しているのだった。
「これはさすがにきちんとした手を打たないといけませんな~」
デスグレートは、全身からページを出して、周囲に張り巡らせていった。
バーニングフォームにチェンジして、キックをページに当てた直後、大爆発して後方に吹っ飛ばされてしまった。
「そうそう、言うのを忘れていましたが、周囲のページには触れると爆発するように仕掛けをしておきました」
実にムカつく言い方をしてくる。
「それならこれだ。グレートマジンダムサンダーフォーム!」
二人の合唱の後、マジンダムの全身が、黄色に染まっていく。
「今度はどんなことをするのですかな?」
「炎、風とくれば次は雷に決まっているだろ」
「いやってほど痺れさせてあげるわっ!」
「サンダースプラッシュ!」
二人の合唱の後、手足を広げたマジンダムの全身から一斉に発射された弓矢状の稲妻が、ページを爆破していき、それによって生じた隙間を狙って飛び込み、肉薄したデスグレートの顔面に向けて右ストレートパンチを打ったが、口から出てきた木刀によって弾き返されてしまった。
「あなたは実に当てになりますな」
デスグレートは、木刀を両手で構えながら迫ってきた。
「木刀を使ってきたか。かぐや、出番だぞ!」
マリルの膝の上に乗っている人形に呼び掛けた。かぐやは従僕と違ってマジンダムに憑依できないので、本体である人形をマリルの膝の上に乗せることで参戦させているのだ。
「あんたに軽々しく命令されるおぼえはないわ」
「んだと~!」
「かぐや、頼んだでござるよ」
「お任せくださいませ。ホオガ様」
あまりの対応の違いに物凄く腹を立てたが、戦闘の真っ最中なので我慢することにした。
「ほら、そこの真っ黒い木刀の九十九神、居るのは分かっているんだから出てきなさいよ」
マジンダムの頭上にゆらめくオーラのように出現したかぐやの呼びかけに応じるようにして、デスグレートから同じ方式で仙人のような姿の九十九神が姿を現した。
「あんた、九十九神歴何年? 私、三百年なんだけど」
かぐやが、喧嘩を売るようなヤンキー口調で問いかける。
「三百年じゃと? 儂は六百年じゃ。この小娘が!」
木刀九十九神は、おもいっきり怒鳴り返してきた。
「年齢なんぞ関係ないわ! このくそじじいが~!」
「小娘が抜かしてんじゃないわい!」
二体の九十九神は、罵り合った後、互いに接近して拳を突き出した。
二つの拳が、互いの顔面に炸裂し、いわゆるクロスカウンター状態になる。
それから拳を引いた二体は、激しい殴り合いを展開していく。
「自分で言ってた設定完全否定かよ。しかも殴り合いって九十九神の戦い方って拳を使うんだな」
あまりのバイオレンスな戦いっぷりを目の当たりにして、どん引きしてしまう。
「そんなことはいいから今は本体の木刀をどうにかすることが先決よ!」
「そうだった」
神様同士の激しい殴り合いが展開される中、召喚したグレートブレードをマジンダムに持たさせて、デスグレートに向かって行く。
二体の巨大ロボットが、激しい打ち合いを繰り広げている一方、九十九神達は殴り合いの末に両手を組み合わせた力比べに移っていた。
「やるな。小娘。だが、何故三百年も差のあるわしに対抗できる? その力はいったいどこからくるのだ?」
「愛の力よ!」
「愛だと~?!」
「そうよ。愛は全てを制するのよ! 愛の頭突き~!」
かぐやの渾身の頭突きが、木刀九十九神のおでこに炸裂した。
「これでトドメよ! 百花繚乱突き!」
言葉通り、花の如きパンチを木刀九十九神に叩き込んで、完全消滅させた。
「今よ!」
その言葉の後、かぐやは人形に戻った。
「任せろ! これでどうだ!」
マジンダムの放った渾身の一撃が、木刀を根本から叩き折った。
「うおおわああ~!」
本体である木刀の破片が、地面に落ちながら縮む中、九十九神の叫び声が辺り一面に響き渡った。
「まかさあの木刀が折れたのですか?」
デスグレートが、やや驚きの声を出す。
「サンダースラッシュ!」
グレートブレードをしまった後、マジンダムをサンダーフォームに変え、雷を宿した両手でデスグレートの両腕を切断した。
「サンダーローリングスラッシュ!」
雷を宿した右足からの回し蹴りによって、両足を切断する。
「サンダーブイレーカー!」
稲妻ほとばしる右手でデスグレートの胸部を抉って、内部を露出させると、半分同化しているメルルと柊が姿を見せた。
「クリムゾンナックル!」
マジンダムを通常形態に戻し、両手にナックルを装備させて、炎を宿した状態で損傷個所に触れ、再生を遅らせている間に両肘を曲げて、コックピットを近付けていく。
「簡単には渡しませんよ」
デスグレートは、切断された両手両足を龍に変えて、妨害に向かわせてきた。
「ホオガ! ライガ! お願い!」
「承知!」
マリルの指示で、マジンダムから分離した背中と両足が、ホワイトクイーンとイエローキングに変形し、専用武器で龍頭の迎撃に当たっていく。
胸部にコックピットを寄せながらハッチを開け、人形を置いて外へ出たマリルが、デスグレートの内部に入っていった。
「うまくやれよ。マリル」
マリルは、白い手袋を付けた両手から強い光を出して、柊とメルルに貼り付けられたページに触れ、爆発魔法の解除に取り掛かった。
「やってくれましたね~。守君」
マジンダムのコックピット内に入ってきた数十枚のページが、ペーパーマスターと化した。
「守!」
敵の浸入を察知したマリルが、マジンダムの方を振り返る。
「ここは俺に任せてマリルは作業に集中しろ!」
返事をして、ハッチを閉じた。
「まさか、ここまでやられるとは思いませんでしたよ」
「何言ってんだ。お前は初めから負けていたんだよ」
「それはいったいどういう意味ですかな?」
「お前が巨大化させたロボットはな、マジンダムのアニメに出てくる悪役ロボットで最終回前にやられるんだ。そんなやられメカを使った時点でお前は負けていたんだよ!」
右人差し指で、ペーパーマスターを指しながら敗北を言い渡す。
「いいえ、あなたを殺せば私の勝ちです」
ペーパーマスターは、先を鋭く尖らせた杖を突き出してきた。
「甘いぜ!」
余裕の微笑みを見せながら上着を脱いで、真っ白に塗られた上半身を露にした。
そうすると杖は、届く前に先端からページ状に分解して、体に吸い寄せられていった。
「これはいったいどういうことでしょうか?」
ペーパーマスターが、初めて焦りの表情を見せた。
「この白いのは、お前が昨日捨てた封印用の白い本から作っクリームなんだよ。マリルが夜なべして作ったんだ。とくと味わいやがれ!」
まるで自分のことのように自慢する。
「なんと、そこまで考えていたのですか?」
「あったりまえだろ。俺達の大事なもの取られたんだからな! お前のお楽しみもこれまでだ!」
言いながら右拳でペーパーマスターの顔面をおもいっきりぶん殴ると、杖と同じようにページ状に分解して、体に貼り付くことで封印したのだった。
一方、マリルは二人の爆発ページを解除するべく、白い手袋から魔力を放出し続けていた。
初めは動きもしなかったが、守がペーパーマスターを封印するタイミングでページが剥がれ、手袋に触れた直後に軽い爆発を起こしたが、構うことなく二人をデスグレートから引き剥がしていった。
「守、二人をお願い!」
マリルは、魔法で二人を宙に浮かせた後、守に声を送った。
「分かった!」
ハッチを開けて、移動してくる二人を受け止める。
「後はリュウガの核を」
奥で同化している偽物玩具へ向かい、手袋の輝きを使って、引き剥がしていていく。
「後少し・・・・やったわ!」
偽物玩具を引き剥がして喜びに沸いた直後、デスグレートがバラバラに崩れ始めた。
「マリル、早く脱出しろ!」
「分かっているわよ!」
マリルは、偽物玩具を抱えたまま、飛行魔法で脱出しようとしたが、崩壊のスピードの方が早く、バランスを崩して落ちてしまった。
「マリル掴まれ!」
コックピットから出て、手を伸ばしたが、後一息のところで届かなかった。
「マリル~!」
落ちていくマリルに向かって、悲痛な叫び声を上げる中、二人の手を繋ぎ合わせる者が現れた。
「・・・・・・リュウガ」
マリルは、自身のもっとも親い従僕の名前を呼んだ。
リュウガは、応える代わりに主を引っ張り上げて、マジンダムのコックピットの中へ放り込んだ。
「リュウガ、どうしてここへ?」
「合体した後、ホワイトクイーンのバーニアの中に隠れていたんだってさ。まったく無茶な奴だ。普通だったらバーニア噴射で焼き尽くされていたところだぜ」
リュウガの代わりに説明する。
「あなた達、ほんとに意志疏通ができるのね」
マリルが、呆れ気味に言う。
「なんたって、俺達同士だからな」
リュウガの肩を抱くと、それに応じて肩を抱き返した。
二人が、そんなやり取りをしている最中、残ったページが最後の悪足掻きとばかりに集まったが、デスグレートとしての原型を一切留めていない歪な化け物だった。
「ひでえ形だな」
「守が、司令塔を封印したから統率が取れていないんでしょ」
「ようし決着つけるぞ。グレートドッキングだ!」
号令に合わせて、全員が合体コールを行い、グレートマジンダムへ合体した。
マジンダムを見たデスグレートが、全身から炎と雷を乱射し、複数の龍頭を伸ばしてきたが、それらの攻撃をものともせず、真正面から突撃して、歪みきった顔面に右パンチを当てた。
「これは柊の分!」
「これはメルルの分!」
「これはホオガの分!」
「これはライガの分!」
「これはフウガの分!」
「これはリュウガの分!」
名前を言いながらデスグレートを殴っていく。
「そしてこれは俺の」
「私の」
「分だ~!」
ダブルストレートパンチを胸にぶち当てて、後方へ突き飛ばした。
「天より来たりて我が敵を斬れ! グレートブレード!」
天上に展開した魔法陣から再召喚された剣を両手で持って、剣先を目の前の敵に向ける。
「ホオガ! ライガ! フウガ!」
「承知!」
従僕の返事の後、唾に付いている赤、黄、緑の魔法石が強く輝いた状態で、剣先を頭上に掲げると刃から光が溢れ、天を突き破るほどの光刃を構築した。
「エレメントスラッシュ!」
マジンダムの唐竹割によって、デスグレートは真一文字に斬られ、力を失った断片は地上へと落ちていった。
「マリル姉様」
目を覚ましたメルルが、名前を呼んでくる。
「そうよ」
「ここは?」
辺りを見回しながら聞いてくる。
「私の部屋。体は平気?」
「はい、なんともありません」
体を起こしながら返事する。
「メルル」
名前を呼ぶなり、おもいっきり引っ叩いた。
「姉様?」
メルルは、右頬を押さえながら信じられないといった顔をしていた。
「どうして、あんなことしたの?」
「え?」
「どうしてあんな危険なことをしたのかって聞いているの?」
「それは、その・・・・・」
メルルは、言葉を詰まらせた。あの時の自分の気持ちを言葉にするのが恐いのだろう。
「お願いだから二度とあんなことしないで!」
「・・・・・姉様」
「もし、メルルに何かあったら、私、私・・・・・」
その後は、声を詰まらせて泣き出してしまった。
「ごめんなさい。ごめんなさい。私、姉様の言うことが信じられなくて、あんなこと言われて訳が分からくなってあんなことを・・・・。本当にごめんなさい」
メルルは、泣きながら何度も謝った。
「分かってくれればいいの。私も酷いことをしてごめんなさい」
「いいんです。私が全部悪いんです」
二人は、抱き合い、少しの間泣き続けた。
「姉様、その手はどうされたのですか?」
顔を上げたメルルが、両手を取りながら聞いてきた。手の表面には火傷の跡がくっきりと残っていたからだ。
「ペーパーマスターがあなた達に仕掛けた爆発魔法を解除する際に火傷したのね。自分でも気付かなかったわ」
「そのままではいけません。私が治します」
両手を握ってきたメルルの手から出る光を浴びると、火傷の跡は綺麗さっぱり消えていった。
「メルル、あなた回復魔法が使えるようになったの? あんなに苦手だったのに」
「姉様に認めてもらうように頑張りました」
「よく頑張ったわね。メルル」
「はい」
姉妹は、喜びを分かち合うように強く抱き合った。
「兄上様」
「起きたか、柊」
「今何時間ですか?」
「後二分で夜の八時だな」
「そんなに長く寝ていたのですか? 驚きです。私、ここに来てから寝てばかりいるような気がします」
「初めての東京で緊張したんだろ」
「そうかもしれませんね。けど、明日には帰らないといけないんですよね」
柊が、寂しそうに言う。
「また、長いお休みに入った時には遊びに来ても良いですか?」
拒否されるかもしれないという気持ちからか、話しながら不安そうな表情を覗かせる。
「いいよ。だたし、ちゃんと母上様の許可はちゃんと取るんだぞ」
「分かっております」
「それとさ、俺も一緒に帰えろうと思うんだ」
少しだけ真面目な顔をして言った。
「兄上様?」
「親父の目の黒い内は家には入れないと思うけど、母上様や兄上様に会うのはいいかなって思たったんだ」
「それはとても良いお考えです!」
柊が、今まで一番の笑顔を見せた。
その夜は、行々軒にて盛大な宴が催された。
おじさんも一緒にということもあったが、リュウガを元に戻せなかったことが一番の要因だった。
龍の牙と偽物玩具を分離することがどうしても出来ず、本格的な分離は向こうの世界で行われることになったのである。
柊とおじさん以外の面々は、そのことが気になったが大いに楽しみ、夜は兄妹と姉妹同士で遅くまで語り合った。
翌日、元に戻ったアキハバラ駅には、おじさんを含む一同が集まり、柊と守の見送りが行われていた。
「メルルちゃん、またご一緒に遊びましょうね」
「うん、私も楽しみにしている」
「柊殿、またでござる」
「ほな、達者でな」
「今度はもっと素敵なコスプレ見せて上げるわね」
「いえ、それは慎んでお断りさせていただきます」
柊にとって、フウガの艶姿は完全なトラウマになっていたのだ。
「守も気を付けてね」
「義姉さんに宜しくな」
「分かっているよ。おじさん」
それぞれの別れの言葉を言い合い、鋼兄弟は電車に乗ってアキハバラを後にした。
なお、破壊された木刀はマリルの魔法によって再生され、ペーパーマスターへの加勢に対する真意を問うと、無断で断片探しをさせたことに腹を立てたとうことであり、それに付いて一同が詫びると意外にもあっさりと許してくれた。元々は温和な性格であるらしい。
それから本来の主である柊の木刀袋に戻って、兄妹共々帰還することになったのだ。
「三日振りのアキハバラか」
アキハバラ駅に着いた守は、背伸びをしながら言った。
地元に戻ると、予想通り父親は会おうとせず、家に入ることも許さなかったが、母親と兄弟達とは会うことはでき、姉の子供を抱っこすることもできた。
柊の言葉通り、姉に似て可愛い顔だった。
「マリルに連絡入れるか」
マリルに声を送ったが、返事は無かった。
「まだ帰ってないのかな?」
一声掛けてから行こうと思ったが、返事がないのでタクシーで屋敷に向かった。
邸に着くと扉が開いて、元通りになったリュウガが姿を見せた。
「守様、お戻りになられたのですね」
「リュウガ、元通りになったんだな」
「この度はご心配をお掛けいたしました。それよりも一大事でございます」
「何があったんだ?」
「マリル様が、反逆の疑いにより身柄を拘束されました」
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