第21話 妹と魔法少女。 ~邂逅編~

 「もう機械樹が見えてくるぞ。手順は分かってるな?」

 「もちろんでございます」

 「がってん承知でござる」

 「任せてや~」

 「大船に乗ったつもりでいてちょうだい」

 守の呼び掛けに対して、マジンダムに憑依している従僕達が返事をしていく。

 「もうあんな高さにまでなっているのか」

 視界に入る機械樹は、今にも空へ届きそうな高さになっていたのだ。

 「守様、急ぎましょう」

 「分かってる。もう少し近付きたかったけどここから上昇するぞ。メルル、準備はいいな?」

 「も、もちろんよ」

 声の震えから緊張が伝わってくる。

 「心配するな。俺達が付いてる」

 少しでも落ち着かせようと、優しい言葉を掛ける。

 「心配しなくてもちゃんとやれるわよっ!」

 「今だ!」

 「ルデチツ!」

 メルルの詠唱の後、マジンダムの着地地点が大きく盛り上がって、機体を持ち上げていく。

 「もう限界・・・・」

 メルルが、苦しそうな声で限界を告げてくる。

 「よく頑張ったな。後は俺達に任せろ!」

 守は、SDマジンダムをその場からジャンプさせた。

 「ホオガ!」

 「任せるでござるっ!」

 ホオガの返事に合わせて、背中のノズルから猛烈な勢いで炎が噴き出し、最大噴射並の勢いで、マジンダムを上昇させていく。

 それに呼応するように、機械樹の表面から尖った岩が一斉に突き出てくる。

 「フウガ!」

 「はいは~い」

 フウガの返事の後、マジンダムの足底から発生した猛烈な風が、機体の機動力を格段に向上させ、岩攻撃を軽やかな動きで回避していった。

 SDマジンダムが、頂へ到達しようとしたところで、機械樹は岩の代わりにケーブルを束ねた触手を出してきた。

 「ライガ!」

 「任せてや!」

 ライガの返事に合わせて、SDマジンダムの指先から放射される稲妻が、触手を撃ち砕いていく。

 攻撃を掻い潜って頂上部に到達した途端、機械樹は花弁を閉じるように駅の屋根を付け合わせて、ホームに降りられないようにしてしまった。

 「くっそ~! これじゃ中に入れないぞ」

 停止すれば攻撃を受けるので、愚痴りながらもSDマジンダムに回避行動を取らせ続ける。

 「あの中に入れればいいのよね?」

 メルルからの提案だった。

 「そうだ。あの中にマリル達が居るからな」

 「透過魔法なら屋根を抜けて中に入れるかもしれないわ」

 「そんな魔法あるんだな。マリルが使ったことないから知らなかったよ」

 「使う必要がなかっただけでしょ」

 「なるほど、それじゃあ、その透過魔法を頼むぜ」

 「使いたいけど、このままじゃ大き過ぎて無理。マジンダムを小さくしないと」

 「守殿、ここは我らにお任せを」

 「わいらが攻撃を防ぐさかいにその隙に入ってや!」

 「リュウちゃん、お二人を護ってあげて!」

 「分かった。お前達頼んだぞ! 守様!」

 「メルル、マジンダムから出るタイミングで巨大化魔法を解除するんだ」

 「分かったわ!」

 守は、マジンダムを機械樹に接近させ、その間に背を向けながらハッチを開けて、メルルを連れて外へ出た。

 それからメルルが巨大化魔法を解き、マジンダムが縮み始めるのに合わせて、機体から離れた従僕三人が精霊本来の姿に戻り、守達に迫る岩や触手を破壊していく。

 「しっかり掴まってて!」

 「死んでも離すもんか!」

 守は、玩具サイズに戻ったマジンダムを左手に持ち、右手で杖を強く掴んだ。

 リュウガは、烏に分散して、ドーム型の防護壁を形作って二人を覆い、飛んでくる破片から守った。

 機械樹が目前に迫る中、メルルの詠唱に合わせて杖の魔法石が輝き、前方に魔法陣が展開される。

 「中に入るわよ!」

 「いいぞ!」

 三人は、魔法陣を通じて中に入った。


 「お願い・・・。お願いだから・・・もう止めて・・・・・」

 マリルは、息を切らせながら柊の両肩を掴んで、木刀を持って叫ぶのを止めるよう訴えていた。

 柊は、見た目を上回る体力の持ち主で、捕まえて抑えるのに大変な労力を要したからだ。

 その暴れっぷりを前に中に居る一般人達は、この状況で頭がおかしくなったと思い、遠くに離れて哀れな視線を向けていた。

 「しかし、このままでは埒があきません。妖め、さっさと出てきて私と勝負なさいっ!」

 マリルの願いも空しく、柊が木刀を構え直して大声を上げている中、透過魔法によって天井を抜けてきた守、メルル、リュウガが姿を現した。

 「あれは守とリュウガ?! どうしてここへってもう一人はメルル~?」

 いきなり出現した戦友と従僕に混じった妹を見て、驚嘆の声を上げる。

 「マリルさん、やっと妖が出てきましたよ! 妖がっ! さあ、尋常に私と勝負なさい!」

 柊が、落ちてくる三人に対して、木刀の切っ先を向ける。

 「今は避けるのが先っ!」

 マリルは、衝突を避ける為、柊の手を引いて、三人の落下地点からどかした。

 「マリル様、ご無事でございますか?」

 メルルを両手で抱えながら華麗な着地を決めたリュウガが、マリルの安否を確認してくる。

 「守は?」

 「あ? えっと・・・・そちらに」

 リュウガが、いつになく気まずそうに右を見るので、視線の先を追うと、うつ伏せの状態のまま動かず、どう考えても死にかけている守が居た。

 「きゃ~! 守~!」

 マリルは、守に駆け寄り、柊達が見ているのも構わず、回復魔法を掛けて傷を癒した。

 「俺は・・・・そうか。天井から落ちて死にかけたんだっけ」

 完全回復した守が、ぼんやりとした声を出しながら体を起こす。

 「兄上様っ!?」

 柊が、ビックリするほどの大声で守を呼んだ。

 いきなり天井から現れ、そのまま落ちて死にかけ、今日知り合ったばかりの女性に蘇生させられた男が、会いたがっていた兄だったのだから当然の反応だろう。

 「柊、やっぱりここに居たか。無事で良かった」

 妹の無事な姿を見て、ほっと胸を撫で下ろす。

 「兄上様。本当に守兄上様なのですね・・・」

 柊は、本人であることを確かめるように何度も呼び掛けてくる。

 奇妙過ぎる形で再開したのだから無理もない。

 「そ、そうだよ」

 返事をする声は、十分過ぎるほど堅くなっていた。状況がどうあれ、妹と対面したことで、緊張しているのだ。

 「兄上様、どうしてすぐに来てくださらなかったのですか? 私、凄く心細かったです・・・・」

 柊が、話している内に両目に涙を溢れさせていく。兄と会えたことで、張り詰めていた強がりという糸が急速に緩んだのだろう。

 「ごめん」

 守は、謝罪の一言しか返せなかった。

 「まあ、それはいいです。誰にでも都合よくいかないことはありますから。しかし見知らぬ女性が一緒というのは如何なものでしょうか」

 メルルに視線を向けながらの言葉だった。

 「さらに巨大ロボットの玩具を持ってくるなんて信じられません」

 視線をメルルから左手に持っているマジンダムに向けながらの言葉であった。

 「それはその~色々と事情があってだな~」

 一般人には到底信じられない要因ばかりなので、うまい言い訳が思い浮かばず言葉に詰まり、表情も強ばってしまう。

 「私、なんだか腹が立ってまいりましたわ」

 柊の両目から涙が消え、その代わり全身に怒気を含んだオーラが溢れ出していく。

 「ひ、柊さん?」

 柊の豹変を前にして、身の危険を感じ、自分でも気付かない内に後退りしていた。

 「兄上様の馬鹿!馬鹿! 馬鹿~!」

 柊は、木刀を振り回しながら向かってきた。

 「柊、俺が悪かった! 許してくれ~!」

 謝りながら必死に逃げ回った。死にかけることに慣れているとはいえ、故意にやられたくはないからである。

 なお、鋼兄妹のやり取りを見ている一般人は、恐怖を抱きながらさらに距離を取るのだった。

 「マリル姉様~!」

 メルルが、リュウガから離れて、マリルの胸に飛び込んでいく。

 「姉様! 姉様~!」

 迷子の子供が、母親に再開した時のように名前を連呼してくる。

 「メルル、あなたどうしてここへ? いったい何をしに来たの?」

 軽く抱き返しながらも、予想外の妹との対面に戸惑いを隠せない。

 「マリル姉様に会いに来たに決まっているじゃありませんか~」

 「私、何も聞いていないわよ。お父様とお母様はこのことを知っているの?」

 「・・・・言っていません。事前に言えばあれこれ言い訳をして会ってくださらないじゃないですか」

 言い訳しながらも、どこか責めるような口調になっていた。

 「お話は後ほどということで今はこの中から出ましょう」

 リュウガが、その場を絞める一言を口にする。

 「そうだ。早いとこ出ようぜ」

 やっとのことで柊を落ち着かせた守が、息も絶え絶えに賛同する。

 柊はというと、木刀を袋にしまってはいたが、表情は不機嫌なままなので、機嫌が直るには、もう少し時間がかかりそうだった。

 「マジンダムがあれば全員どうにかできるわね。リュウガ、マジンダムを上に」

 「承知!」

 リュウガが、守から受け取ったマジンダムを掲げるのに合わせて、マリルは大規模な転送魔法を発動させ、駅の構内を含むアキハバラに居る全一般人を別場所に避難させた。

 「それじゃあ俺達も移動しよう」

 「そうね」

 マリルは、四人と一緒に移動した。

 

 「え? 私、先程まで駅に居ましたのに何故大きなお邸が建っている見知らぬ場所に居るのでしょう?」

 柊は、突然の移動に驚き、辺りをキョロキョロ見回していた。

 「柊ちゃん」

 「なんでしょうか?」

 「ごめんね」

 マリルは、柊の目の前で人差し指を軽く振って、眠りの魔法を掛けた。

 「守」

 「分かってる」

 守は、寝ている柊をお姫様抱っこしていた。

 「リュウガ、空いている部屋に案内してあげて」

 「守様、こちらに」

 荷物を持っているリュウガに案内され、客室のベッドに柊を寝かせた。起きた時には、旅の疲れで寝てしまったという手筈になっているのだ。


 「よし、作戦会議に入ろう」

 リュウガと一緒に暖炉の部屋に入ってきた守が、戻ってきている三人を含む全員に向けて言った。

 「メルル、あなたはさっき教えた私の部屋に行っていなさい」

 「そんな、姉さま、わたしは除け者ですか?」

 「そうじゃないわ。私の任務にあなたは関係無いだけ」

 再会の時とは異なる、子供に言い聞かせるような強めの口調になっていた。

 「私だって魔法使いです。きっと姉様のお役に立てます」

 「危険過ぎるわ」

 「けど、さっきはお役に立てたじゃないですか」

 「さっきのはたまたまうまくいっただけ」

 「でもっでもっ~」

 メルルは、言葉を詰まらせた。自分の有用性を訴えたいが、適した言葉を見付けられないのだろう。

 「お願いだから今は言う通りにして」

 「・・・分かりました」

 メルルは、返事をして部屋から出ていったが、扉を閉める際には、名残惜しそうにマリルに視線を向け続けていた。

 「どうしてあの子を巻き込んだの?」

 強いというよりも鋭い口調での質問だった。

 「いきなりだな」

 「柊ちゃんを運んでいる間に事情を聞いたの。あの子の提案を受け入れてここに戻ってきたそうじゃない。それって守にも半分は責任があるってことよね」

 「あれは早く戻りたかったのとマジンダムが無いと駅に入れなかったからだ」

 「その為に妹を危険に晒したわけね」

 「仕方ないだろ。柊とマリルを助ける為だったんだから。ずっと心配だったんだぞ」

 「妹が心配なら私がメルルを心配する気持ちも分かるわよね」

 「悪かった・・・」

 謝るしかなかった。

 「・・・・この件に関してはもういいわ。メルルも無事だったし。私も守と似た状況に置かれたら同じことをしていたかもしれないから」

 マリルは、赦しの言葉を口にしたが、口調は硬いままだった。

 「お二人共、何か飲み物をお持ちしましょうか?」

 リュウガが、助け船を出すように飲み物の有無を聞いてくる。

 「いいわ。自分で出すから」

 そう言って、守の分も含む缶コーヒー二本をテーブルに召喚した。

 「それじゃあ、作戦会議を始めましょうか」

 マリルが、コーヒーを一口飲んだ後、その場を仕切り直すように言った。

 「作戦もなにも機械樹に突っ込んで断片を攻撃すればいいだけじゃないか。今度は一般人を気にする必要も無いし、マリルも居るからマジンダムも完全な力を発揮できるわけだし」

 「そう単純にはいかないわ」

 「どういうことだ?」

 「あの機械樹とかいうのは地面そのものを引き上げてる。断片を攻撃して効力を失わせたらアキハバラどころか日本の地層が大打撃を受けるのよ」

 「そんなのいつもみたいに魔法で直せばいいじゃないか」

 「建物だけならすぐにできるけど地層全体を再生するとなればそう簡単にはいかないわ。地脈の再形成もやるから時間が掛かり過ぎて避難させている人達にも悪影響が出てることになるのよ」

 「つまり迂闊に攻撃できないわけか」

 「そういうこと。誰か居るの?」

 「・・・・姉様」

 マリルが、扉に向かって呼び掛けると、少し開いた隙間からメルルが申し訳なそうに顔を出してきた。

 「何をしているの? 部屋に行くように言ったでしょ」

 これまで以上に厳しい口調になっていた。

 「ごめんなさい。けど、どうしても気になってじっとしていられなくて」

 「お願いだから任務に関わらないで。もしあなたに何かあったら私がお父様とお母様に顔向けできなくなる」

 「ごめんなさい。ごめんなさい。姉様・・・・・」

 メルルは、ついに泣き出してしまい、部屋の空気が険悪な方向へと流れ始めていく。

 「その辺でいいだろ。今は言い争っている場合じゃない」

 見かねた守が、仲裁に乗り出す。

 「そうね。少し言い過ぎたわ。ごめんなさい」

 マリルは、暗い表情で自分の非を詫びた。

 「姉様が謝ることなんてないです・・・・」

 「ほら、部屋に行こうぜ。俺が連れていってやるから。マリルはその間に缶コーヒー飲んで気分を落ち着かせておけ」

 長椅子から離れ、メルルを連れて部屋から出ていった。


 「それでマリルの部屋はどう行くんだ?」

 二階に通じる階段に着いたところで、メルルに場所を尋ねる。

 「知らないであんなことを言ったの?」

 「一回行ったことあるけど電気ショック食らわされたせいで忘れたんだよ。それにあのままじゃ雰囲気が悪くなるだけだったしな」

 「守って変わってるわ。付いて来て」

 持っているハンカチで涙を拭いた後、ちょっとだけ笑顔を取り戻したメルルに連れられて、マリルの部屋の前まで行った。

 「守は姉様のことをどこまで知ってるの?」

 扉のドアノブに手を乗せたメルルからの質問だった。

 「最年少で二つ名を持った凄い魔法使いってことくらいだな」

 「半分はほんとだけど、もう半分は嘘を言ってる」

 返事をするメルルの両目は、黄色く光っていた。

 「なんでそんなことが分かる? それと目が光ってるぞ」

 「私、相手の心を読む特性を持っていて能力を使う時には目が光るの」

 「特殊能力ってやつか?」

 「生まれた時から備わっている能力のことよ」

 「マリルも持ってるのか?」

 「姉様は持っていないわ。何千人に一人の確立らしいからかなり珍しいの。そのせいで小さい頃は苦労したわ。それでどこまで知ってるの?」

 嘘を逃さないように目を光らせたまま聞いてくる。

 「マリルのご先祖様が悪魔と契約して魔力を上げたことは知ってるよ」

 見抜かれるだろうと思い、知っていることを正直に話していく。

 「誰から聞いたの?」

 「混沌の魔女が一方的に話してきたんだ」

 「それでなんとも思わないの?」

 「俺は魔法使いじゃないから気にならなかったよ」

 「そうか。だから姉様は守を信頼してるのね」

 メルルの目から光が消えた。もう疑う必要がないと判断したのだろう。

 「そういうメルルはマリルをどう思っているんだ?」

 守が、聞き返す番だった。

 「私は姉様のことが大好き。さっきのことも知ってるけど、それでも大好き」

 「姉貴だからか?」

 「それだけじゃないわ。能力のせいで人の心を不用意に読んでしまうから本当に愛してくれているお父様とお母様以外は信用できなくて部屋に閉じ籠り切りだった時にマリル姉様が来たの。これから一緒に暮らす姉様だって紹介されたわ」

 「やっぱり血が繋がってなかったんだな。苗字が違う時点で変だと思ったけど。マリルはなんでパプティマス家の養女になったんだ?」

 名字が違うと知った時から抱いていた疑問を口した。

 「事故でご両親が亡くなったから生前姉様の父上と友人だったお父様が引き取ったとしか教えてくれなかったわ」

 「そういう事情だったのか」

 「守の言う通り姉様は養女で血は繋がっていないけど私には大事な姉様よ。一人で苦しんでいた時に優しくしてくれた大切な姉様」

 「なんでマリルはメルルと普通に接することができたんだ?」

 「姉様は、その時から心を読まれない術を見に付けていたし、心を探っても私をちゃんと愛してくれているのが分かったから」

 「その頃からマリルは凄かったんだな」

 「そうよ。だから私にとって姉様は目標でもあるの。いつになるかは分からないけど二つ名を持って姉様と一緒に任務に向かうことが私の夢」

 「そうか、メルルなら絶対になれるさ。ただ今はその大好きな姉様を心配させるな」

 「そうね。守の言う通りだわ」

 メルルは、部屋の扉を開けて中に入りながら振り返って

 「ありがとう」と小声で言った。


 「それで何かいい案は浮かんだか?」

 「すぐに浮かべば苦労はしないわよ」

 マリルが、溜め息混じりに返事をする。

 口調が落ち着いているので、テーブルを見ると缶コーヒーが無くなっていたので、飲んだ効果だと分かった。

 「ようは一気に戻さずにゆっくり戻せばいいってことか」

 「そういうこと」

 「時を戻す魔法とかないのか?」

 「そんな都合のいい魔法なんか無いわよ。時間を動かすってことは世界の流れそのものを変えることだから世界創造レベルの力を持ってなきゃ無理」

 「マリル自身が断片の魔法を乗っ取るってのは?」

 「私が断片の力を操るってこと?」

 「それが一番の方法だと思うけど」

 「それだったら反対の力をぶつけた方が早いわ」

 「断片の上げる力に対して下げる力をぶつけるわけか」

 「そう。ただし断片の力が弱まっていることが条件になるけど」

 「力をぶつけるだけじゃダメなのか?」

 「ただぶつけるだけじゃ力がせめぎ合って崩壊の危険があるから」

 「だから断片の力を弱らせる必要があるわけか」

 「それには魔力の源である断片に直接攻撃しないといけないわ」

 「ようは中に入って断片を攻撃して力を弱らせればいいんだろ」

 「簡単に言っているけど誰が中に入るの?」

 「俺だ」

 守が、自分自身を指さす。

 「どうして守が行くの? それだとマジンダムが動かないのはあなたが一番良く分かっているでしょ」

 「そうでござる。拙者がやるでござるよ」

 「ダメだ。今回は四人がマジンダムに取り憑いた状態じゃないと意味がない」

 「なんでや、まもはん?」

 「俺が断片の力を弱めたところで転送魔法でマジンダムに戻ってビックバンキャノンで反対の力をぶつける作戦だからだよ」

 「却下」

 マリルが、きっぱりと守の作戦を完全否定する。

 「なんでだよ?」

 「守をコックピットに戻してキャノンを撃つのに最低でも一分は必要よ。人間である守に断片を一分以上弱らせるだけの攻撃を与えられると思う?」

 「確かにそれは大問題だな。くっそ~。いい案だと思ったんだけどな~」

 守は、悔しさを紛らわすように、長椅子におもいっきりもたれた。

 「確かにいいアイディアだけど私だけで使える強大な魔法が無いとどうにもならないわよ」

 「とは言っても俺の代わりになるものなんてないし。そうだ。おばさんみたいにゴーレムで代用できないか?」

 「ゴーレムは、ただの人形なんだから無理に決まっているでしょ。ところでおばさんって、誰?」

 「混沌の魔女」

 「私を魔力生成の為ならなんでもする人と一緒にしないで」

 「今、なんて言った?」

 「私を混沌の魔女と一緒にしないでって言ったの」

 「違う。その途中の言葉だ」

 「魔力生成?」

 「そう、それだっ!」

 守は、大声を上げながら両手を強く叩いた。

 「何か思い付いたの?」

 「魔力生成だよ。あのおばさんがやったみたいにマリルが生成した反対の魔法をぶつけるんだ。それなら俺が居なくても使えるだろ」

 「魔生杭はどうするの? あれの使用許可取るの物凄く大変なんだから」

 「そっか、その問題があったな。代わりになる物はないのか? 無ければ造るとかさ~」

 「簡単に言わないで。すぐに造れれば苦労しないわ。・・・・・ちょっと待って」

 マリルは、一人で考え込み始め

 「ある。あるわっ!」と顔を上げながら大声を上げた。

 「それで何を使うんだ?」

 「マジンダムよ。あれ、五体に分離できるじゃない。その機能を利用するの。魔力生成はペンタグラム方式の魔法陣だから五体なら十分代わりになるわ」

 「残る問題は断片の攻撃だな」

 「攻撃と防御の両方の備えが必要ね」

 「普通の人間が直に戦うのはヤバいんだよな」

 「魔法使いや精霊みたいに何か特別な力が無いと千葉県ランドの店員みたいに取り込まれてしまうから備えは絶対に必要。特に相手は黒い魔導書だから強力な魔法道具じゃないと歯が立たないわ」

 「それだったらグレートブレードとアースシールドを俺が使えるサイズにすればいいんじゃないか。ビックバンキャノンは五体のパーツを使うから今回は無理だしな」

 「そうね。一番手っ取り早いわね」

 マリルは、言いながら玩具サイズの剣と盾をテーブルに召喚した。

 「じゃあ、大きくするわよ」

 マリルが、二つに両手を向け、魔力を注いで巨大化させていく。

 「こんなものかしら?」

 持てそうなサイズになり、魔力注入を止めた途端、テーブルは剣の重さに耐えきれず、みしみしと音を立てて割れてしまった。

 「おいおい、なんだよ、これ? グレートブレードってどんだけ重いんだよ?」

 守が、唖然とした様子で尋ねる。

 「盾は元の素材を強化しただけだからそんなに重くないのかもしれないけど剣はオリハルコンを使っている分だけ重さが増してるのね」

 「ダメだ~。重くて全然持てない」

 試しに持とうとしたが、全然持ち上がらなかった。

 「マジンダムはこんなに重いものを振り回しているのね」

 「さすがは最強無敵のロボットだぜ」

 「それはいいから別の道具を考えましょ」

 「精霊クラスの武器といえば前に戦った刀の九十九神がおりますやん」

 ライガからの提案だった。

 「そうね。ちょっと当たってみようかしから」

 一同は、刀があるホオガの部屋に行った。


 「それは無理だな」

 侍姿の九十九神からの返事だった。

 マリルの魔法によって、以前戦った侍の姿で顕現しているのだ。

 「なんでだよ?」

 「拙者は、この刀に宿りし九十九神の残り香のようなもの、お主達が期待しているような力はもう持ち合わせていないのだ」

 「それではどうしようもないでござるな」

 「隣の先輩に頼ってみてはいかがだろうか。拙者よりも二百年先輩なので役に立ってくれるやもしれぬぞ」

 九十九神が消えるのに合わせて、隣を見るとホオガが骨董店で買った日本人形は、床に付くほど髪が伸びていた。

 「なんだ! この人形!? すっげえ髪伸びてるけどっ!」

 守は、顔面を引きつらせ、身を引きながら恐怖を訴えた。

 奇妙な体験を数多くしてきているが、あからさまな怪奇現象には不馴れだったからだ。

 「骨董店の店主殿が曰く付きと言っていたでござるが、曰くというのはこのような仕様を指すのではござらぬのか?」

 「違う! 違う! こんなのただの怪現象だ! 怪現象!」

 「そんなことよりも今は話を聞くのが先でしょ」

 守と正反対に落ち着いるマリルが、魔法をかけると人形のイメージそのままの和風美人が出現した。

 「おお~」

 あまりの美人ぶりに全員が、感嘆のため息を漏らす。

 「あ~もうかったり~」

 和風美人の第一声は、気だるそうな一言であり、それに合わせるように首を捻る仕草をしてきた。

 「え?」

 外見から来るイメージとは大違いの言動と動作を目の当たりにした一堂は、後頭部を鈍器で殴られたような衝撃を受けて唖然とした。

 「あたしのこと呼び出しの誰~?」

 「私だけど」

 マリルが、右手を上げて返答する。

 「こういうことしないでくれる。すっごく迷惑なんだけど~」

 実に面倒くさそうにマリルに苦言を呈してくる。

 「あんた、九十九神だろ。実体化したいんじゃないのか?」

 「そんなことはね、もう百年前にやっているの。それで散々気味悪がられて、薄暗い押し入れに放り込まれたから大人しくしていることに決めたのよ」

 「そういう割には髪伸ばしてるじゃないか」

 「あれは九十九神の霊力を抑える為のちょっとした副作用。それよりも用があるなら早く言ってちょうだい」

 「協力して欲しいことがあるんだけど」

 マリルは、自分達がやろうとしていることを話して聞かせた。

 「絶対無理」

 「どうしてよ~? ケチくさいこと言っていないで協力しなさいよね~」

 フウガが、人形九十九神の返事に対して、ストレートに苦言を呈す。

 「そんな危険なことやれるわけないでしょ。あたし人形よ。攻撃向きじゃないことくらい見て分からない?」

 人形九十九神が、本体の人形を指さしながら説明する。

 「他を当たるとして、あの店には同種の品は無いのでございましょうか?」

 リュウガが、代用品の有無に付いて尋ねる。

 「無いわね。あそこのじじい、見た目は悪いけど目利きなのは確かだから曰く付きの物なんてそうそう引き取らないわよ」

 「なんでや?」

 「売れないからに決まっているでしょ。売れたとしても後で文句言われる可能性もあるし」

 「そうなると困ったわね」

 手詰まりになった一同が、揃って考える動作をしていく。

 「さっきから何を無駄話をしてるのよ。探している九十九神ならここにあるじゃない」

 「それはどこに居るのでござるかな?」

 「今日、ここに運ばれてきた道具よ。あれには間違いないなく九十九神が宿っているわ」

 「もしかして柊の木刀か。確かに破魔の力があるって母上様が言っていたけどよく分かったな」

 「強力な力を宿しているから気配で分かるのよ。木刀ならあたしと違って攻撃属性だからあんた達の用向きには打ってつけよ」

 「やった~!」

 人形九十九神の説明を聞いた一同は、万歳三唱した。

 「そんなことよりも早く戻してちょうだい。術のせいで自分じゃ戻れないんだから」

 一同が、喜びに沸く中、人形九十九神は冷めた声で、元に戻すことを要求してくるのだった。


 「柊、入るぞ」

 守は、柊が寝ている部屋に入った。

 魔法で寝ているのにわざわざ断りを入れたのは、一応女の子の居る部屋だからである。

 何も知らずにベッドで寝ている姿は、眠り姫という言葉がピッタリだった。

 「これ、ちょっと借りるぞ」

 木刀を取りながら断りの言葉を掛ける。

 「帰ったらちゃんと話そうな」

 そう言い終えて部屋から出ていった。


 「木刀は持ってきた?」

 「ここに有るぜ」

 右手に持っている木刀を見せる。

 「テーブルに置いて」

 言われた通りに木刀をテーブルに置く。

 「なあ、この木刀の九十九神に確認取らなくてもいいのか?」

 頭に浮かんだ疑問を口にする。

 「今は一刻を争うのよ。確認を取っている時間は無いわ。拒まれて面倒なことになるかもしれないし」

 「それもそうか」

 やや、腑に落ちないながらもマリルの言葉に従った。

 マリルは、玩具サイズに戻したグレートブレードを木刀の先端に当て、詠唱を唱えて固定した。

 「これでいいわ。持ってみて」

 出来上がった木刀を差し出してくる。

 「随分簡単だな」

 「攻撃力を上げるだけだからこれくらいでいいのよ。ほら、早く」

 「分かった」

 右手で掴んだ後、両手で持って軽く素振りをした。

 「どう?」

 「これくらい軽ければ問題ないな」

 素直な感想を伝える。

 「なら成功ね。次は盾よ。守、左手出して」

 「いいけど」

 マリルは、右手で持ったアースシールドを守の左手の家紋と重ねて、詠唱を唱えた。

 「これでいいわ」

 詠唱が終わると、左手は木刀と同じように盾と繋ぎ合わさっていた。

 「盾と家紋をくっ付けたのか」

 「それによって護身と断片探査の両方を兼ね備えることができるわ。盾を構えながらでも光の強さで断片の位置を探れるはずよ」

 「分かった。ありがたく使わせてもらうよ」

 左手を軽く振って、盾の使いやすさを実感しながら返事をする。

 「それじゃあみんな、行くわよ」

 「おう!」

 マリルの声を合図にして、全員が部屋から出て行った。


 「なんの音かしら?」

 マリルの部屋で、ベッドに座っていたメルルは、窓の外から聞こえてくる大きな音を耳にして、窓辺に行った。

 そこで目にしたのは、マリルが巨大化させたリアル体型のグレートマジンダムだった。

 「あれがグレートマジンダムのほんとの姿?」

 初めて目にするマジンダムの威風堂々たる姿に、仰天せずにはいられない。

 「私が巨大化させた姿と全然違うじゃない。私、姉さまに全く近付けていない・・・・・」

 巨大ロボットのサイズ差とはいえ、姉との技量差を思い知らされたことで、今まで築き上げてきた自信が木っ端微塵に砕け散った。

 そして、アキハバラ駅を元に戻す為に飛び立つマジンダムとは反対に、両膝を付いて大泣きするのだった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る