第18話 脱獄犯と魔法少女。

 「こんばんわ」

 「だ、誰だっ?!」

 「はじめましてですね」

 「そんなことよりどうやって入ってきた?」

 「ここにはあらゆる力が存在しますから私が中に入れる力を持っていたとしても不思議ではないでしょう」

 「それもそうだな。それで俺に何の用だ?」

 「恨みを晴らしてさし上げたいと思いまして」

 「恨みだと?」 

 「あなたをここへ入れた人へのですよ」

 「あいつのことか。思い出しただけで腹が立つぜっ!」

 「私に協力していただければその恨みを晴らさせて上げようというのです」

 「そういう話を持ち掛けてくるからにはここから出してくれるってことだよな」

 「もちろんですとも」

 「ようし、それならやってやる。そしてマリルとかいう小娘に恨みをたっぷり晴らしてやるぜ~!」

 「ふっふっふ。契約成立ですな」


 日常。

 それは人間が、いつも行っている行動を指す言葉である。

 守は、その日常の中にいた。

 朝起きて朝食を食べ、学生の本分を果たすべく、登校しているのだ。

 魔法の力によって巨大化するロボットに乗って戦うという、アニメの主人公みたいなことをしているが、そのことを知っている人間は自分だけなので、他人の目を気にする必要は全くなかった。

 ちなみにマリルと一緒に登校することはない。

 邸から転送魔法で、直接移動しているからだ。

 「ねえ、ねえ。明日のハロウィンだけど何のコスプレするか決めた?」

 「もちろん魔法使いでしょ~」

 「それ去年と一緒じゃん。今年はカボチャ頭にしたら~?」

 「野菜の頭なんて絶対にいや~」

 道行く学生達が、明日開催のハロウィンの話題で盛り上がっている。

 巨大ロボットアニメとは、無縁のイベントだけに興味は無いが、本物の魔法使いと毎日顔を合わせている身としては、妙な気持ちになってしまう。

 校舎が見え始めた辺りで、黒髪のオールバック、黒いスーツ、裏地が真っ赤な黒マントというドラキュラの扮装をした男が歩いてくるのが見えた。

 周囲の学生が、いくらなんでもハロウィンには早過ぎじゃないか?とひそひそ声を上げるのも構わず歩いている。

 怪しいとしか思えないので、目を合わせないようにしながら足を動かしていく。

 男とすれ違い間際に、左手を上げ、契約魔法から発生させた光の幕を展開した。

 音は鳴らなかったものの、膜は男の左手が変異している鋭い刃を受け止め、火花のような光りの粒を飛び散らしていた。

 その突然の事態を目にした周囲の学生達が、悲鳴を上げながら学校へ逃げていく。

 「どうして防げた?」

 男は、表情を崩さず、驚いたような声で問い掛けてきた。

 「あんた、見た目から怪しいし、契約魔法が危険だって教えてくれたんだよ」

 表情を変えず、冷静な口調で返事をする。この手の襲撃には慣れているからだ。

 (マリル、物凄くヤバい奴が出た! 早く助けてくれ!)

 質問に答えながら契約魔法を通して、マリルに助けを求める。

 相手が、異能者とあっては無理もない。

 助けを求めている間に力で押し負け、地面に倒されてしまう。

 「初手を防がれた時は驚いたがただの人間じゃないか。死ね」

 男が、拍子抜けしたような顔をしながら、左手の刃を大きく振り上げてくる。

 「ロチオマズナイ!」

 掛け声と共に男に電が落ちて、全身に電流が行き渡った後、煙を上げながらその場に倒れた。

 「助かったぜ。マリル」

 「へぇ~マリルって呼ばせてるんだ」

 「マリル・・・・じゃない?」

 いつも聞いている声と違うので、思わず首を傾げてしまう。

 「守、大丈夫っ?!」

 背後から聞き覚えのある声を耳にして、振り返ると声の主はマリルだった。

 「マリルかって、おいっ。なんて格好してるんだ!」

 マリルから視線を外しながら、服装に付いて指摘する。

 「え?・・・・きゃあぁぁああ~!」

 マリルは、自身の格好を見た途端、火が出るくらいに顔を真っ赤にして、大声を上げながら下半身を両手で覆った。

 上半身はきちんと制服を着ているのに対して、下半身には有るべきはずのスカートが無く、白い下着が丸出しだったからだ。

 声を出し終えた後、ペンダントを回して、スカートを着用した完璧な制服姿を取った。

 「な、なんなんだよ。さっきの格好は~?」

 顔を真っ赤にしたまま、しどろもどろな口調で文句を言った。白い下着を見たことによって、心臓がバクバク鳴るほどに興奮してしまったからだ。

 襲撃という攻撃的事態には慣れているが、この手の破廉恥な事態には、全く慣れていないのだから仕方がない。

 「し、しょうがないでしょ。守の声を聞いてなりふり構わず来たんだから」

 マリルが、顔を赤くしたまま言い返してくる。恥ずかしさが残っているせいだろう。

 「そ、そうだったのか。悪かったな」

 自分の為に下着丸出しでやってきたという事情を聞いて、怒鳴ったことに対して素直に謝った。

 「アウグステゥス卿、そろそろこちらに注目して欲しいのですが」

 会話に割り込んでくる声を聞いたことで、別の魔法使いが居たことを思い出す。

 声の主は、黒いとんがり帽子に同じ色のマントと服を着て、先端に魔法石の付いた杖を持っているマリルと同い年くらいの少女だった。

 「もしかしてドロシー?」

 マリルが、少女の名前らしき固有名詞を口にする。

 「お久しぶりですね。アウグステゥス卿」 

 マリルとは対称的に、ドロシーと呼ばれた少女は、敬語で返事をした。

 「何をしに来たの?」

 「脱獄犯がこの世界に逃亡したことを伝えにきたのです」

 「脱獄犯?」

 マリルの質問に対して、返事の代わりに地面に倒れている男に視線を向けた。

 「それならここの後始末をしてから私の邸で話をしましょ」

 「分かりました」

 「俺は?」

 自身を指差して指示を仰ぐ。

 「とりあえず学校に行ってて。必要があれば召喚するから」

 「分かった」

 返事の後、マリル達から離れて、登校という日常に戻った。

 

 (邸に来て)

 マリルの声が頭に入ってきたのは、クラスの担任が出席を取っている最中のことだった。

 「鋼守」

 「はい」

 返事をするタイミングで、暖炉の部屋の椅子に座っていた。

 元々座っていた状態からの召喚だったので、姿勢的な違和感がない反面、目に入ってくる情報は違和感だらけだった。

 まず、いつもなら向かい合わせに座っているマリルは右手の長椅子に座り、その後ろに従僕達が並び、向かい側の長椅子には赤髪の少女が座っているという、これまで見たことのない状況下に身を置いているからである。

 いつもと違う配置のせいか、部屋の雰囲気も違っている気がした。

 「どうぞ」

 リュウガが、目の前に缶コーヒーを置いた。それからテーブルに視線を移すと、二人の前にも置かれていてることが分かり、マリルの指示なのだろうと思った。

 「俺が呼ばれたってことはマジンダムが出撃する可能性があるんだな」

 「そういうこと。話をする前に紹介するわ。こちらは私の世界から来たドロシー・スカーレット」

 改めて紹介されたドロシーに目を向けると、帽子やマントを脱いでいる為か、初対面の時よりも少しだけ雰囲気が柔らかく感じられた。

 それと顔がはっきり見えることで、マリルと同レベルの美少女であることに加えて、気品を感じさせる姿勢から高貴な身分なのかと思った。

 「はじめまして。鋼守」

 ドロシーの第一声は、挨拶の後にフルネームを呼ばれることだった。

 「俺のこと知ってるんだ」

 フルネームは予想外だったので、思わず驚いてしまう。

 「もちろんよ。向こうの世界であなたを知らない者は居ないわ」

 「俺って有名人なんだな」

 異世界内での意外な状況を聞かされて、さらに驚きが増していく。

 「普通の人間でありながら上位の魔法使いの補佐をしている特例な存在なんだから嫌でも知らされるわよ」

 「俺って特例中の特例なんだっけ」

 以前マリルに言われたことを思い出す。

 「マリルの補佐だから許されているだけど通例ならとっくの昔に記憶を消されているところよ」

 「そこまで知っているならマジンダムのことも」

 「もちろん知っているわ。認知度ならあなた以上よ。自分がどういう立場にあるのか本当に知らないのね」

 「マリルからそういう話を一度も聞いたことないからな」

 真意を確かめるようにマリルに視線を向ける。

 「必要がなかったから言わなかっただけ。ドロシー、そろそろ本題に入ってくれないかしら」

 マリルが、その場の雰囲気を一変させるような重い声で、話題の変更を口にする。

 「そうね。脱獄犯がこの世界に逃げてきたの」

 「その脱獄犯を捕まえろってことか。だけど範囲が広過ぎだろ。この世界のどこに逃げたのか分かってるのか?」

 「ここに来ることは間違いないわ。脱獄犯は全員マリルが捕まえた犯罪者達だから」

 「つまりマリルに恨みを晴らしに来てるってわけか」

 「そういうことか。思い当たる犯人とか居ないのか?」

 「有り過ぎて分からないわ。何百人と捕まえてきたから」

 「なるほど、朝襲ってきたのはその一人ってわけか」

 「彼は覚えているわ。私が初めて捕まえた人だから」

 「どんなことしたんだ?」

 「変異魔法の使い手で、自分の手を変形させた刃で女性の服を切り裂くのが趣味の変態」

 表情が苦々しくなっていくので、話すが嫌なのだと分かった。

 「その犯人がなんで鋼守を襲ったの?」

 「俺がマジンダムのパイロットだからだろ。そのことで何回も襲われているからな。えっとスカーレットさん?」

 「ドロシーで構わないわ」

 「ドロシーは犯人確保の手伝いに来たのか?」

 「違うわ。マリルの監督」

 「監督~? マリルが脱獄犯をちゃんと捕まえられるかどうかを見に来ただけなのか?」

 自分でも気付かない内に、声に苛立ちが込もっていた。

 「簡単に言えばそうね」

 「朝、俺を襲った奴には攻撃したじゃないか」

 「あれはあなたを助ける為の緊急措置よ。あなたに何かあったら大問題だから」

 「そうだとしても脱獄犯を逃がしたのはそっちの落ち度なんだから補佐するのが筋だろ」

 「犯人は魔導書の関係者なの」

 「なんで分かるんだよ?」

 「これを見て」

 ドロシーが、テーブルに置いてある丸い物に手を触れると表面が光って、鮮明な立体映像が投影された。

 「それは?」

 「メモリープレート。この世界でいうところの映像記録装置よ」

 それから見た映像には、犯罪者を牢から出している紳士の姿が映っていた。

 「あいつの仕業か。あの野郎、マリルの世界にまで行けるのかよ」

 「何者かは分からないみたいだけど、マリルの報告からすると断片の関係者なんでしょ。こんな事態になったのも今だに断片を全部回収できずいることが一番の原因なんだからマリルに非があると考えられても仕方ないと思うけど」

 「それでもちゃんと集めているんだからそこまで問題視しなくたっていいだろ。一枚だけでも強敵になることだってあるんだぞ」

 「そう言うあなたも関っていることでしょ。なんでも発動した魔導書を地面に叩き落としたそうじゃない」

 説明するドロシーの目付きは、少しばかり鋭くなっていた。

 「あれは魔導書が飛んでいくのを防ごうとした不可抗力のようなものであってだな~」

 痛いところを突かれてしまい、気付かない内に視線は泳ぎ、話し方もしどろもどろになっていた。

 「とにかく脱獄犯を全員捕まえればいいだけのことでしょ」

 マリルが、重い一言を言い放つ。

 「そういうこと」

 その返事に対して、ドロシーが満足気に微笑む。

 「ところで二人はどういう関係なんだ? なんだか知り合いみたいな感じだけど」

 この部屋に転送されてから、一番気になっていることに付いて尋ねる。

 「学生時代のクラスメイト」

 答えたのはマリルだった。

 「だから、こうして名前を呼んで普通に話すことを許してもらっているの。本来なら階級違いで敬語を使わないといけないから」

 「ドロシーの方が階級下なんだ」

 「私はまだ入ったばかりだから。だからマリルと違って制服も黒一色ってわけ」

 言われてからドロシーを改めて見ると、服及び立て掛けてある帽子とローブも黒かった。

 「それでいったい誰が逃げたの?」

 「今、リストを見せるわ」

 ドロシーが、プレートに手を伸ばす。

 「そうだ。あのおばさんは逃げたのか?」

 「おばさんって?」

 「えっと・・・混沌の魔女だっけ」

 「彼女なら牢に居るわ。重罪犯を逃がすほど警備だって甘くはないわよ」

 「脱獄犯が現れたから行ってくるわ」

 「そうみたいね」

 マリルとドロシーが、視線を合わせながら言った。脱獄犯の気配を察知したのだろう。

 「リストは見なくていいのか?」

 「現場対応するわよ」

 「俺は?」

 「ここに居て。マジンダムの出番があるようなら召喚するから」

 そう言って、マリルは従僕と一緒に転送魔法で移動した。

 「まったく」

 ボヤきながら前を向くと、ドロシーと目が合った。

 いきなり二人切りになってしまったので、何を話したらいいのか分からず、言葉が出てこない。

 「ああ、そうだ。ありがとう」

 最初に口から出たのは、ドロシーへの感謝の言葉だった

 「何のこと?」

 ドロシーが、不思議そうに首を傾げる。

 「朝、助けてもらった礼を言ってなかったから」

 言葉の意味を説明する。

 「あなた、イメージしていたよりもずっと良い扱い受けてるのね」

 「どういう意味だ?」

 予想と違う返事に戸惑ってしまう。

 「マリルの補佐っていうからもっと奴隷とか下僕みたいな扱いを受けているのかと思ってたから」

 ドロシーが、微笑みながら言葉の意味を話す。

 「何が言いたいんだか分からないんだけど」

 含みのある微笑みを前に、猜疑心が募っていく。

 「学生時代のマリルはすごく近寄りがたい雰囲気だったけど、あなたへの接し方を見ていると変わったなって思ったの」

 「それっていい意味なのか?」

 「もちろんよ」

 「マリルにライバル心とか無いのか?」

 「どうして、そう思うの?」

 「いや、なんとなく。髪も赤いし」

 「私の髪の色とライバル心に何の関係があるの?」

 ドロシーが、自身の赤髪を見ながら不思議そうに尋ねてくる。

 「いや、俺が見ているアニメの影響だから気にしないでくれ」

 「そう? じゃあ私もアキハバラに行って監督の仕事をしてくるわ」

 ドロシーは、帽子とローブを身に付け、杖を手にした後、転送魔法で移動した。

 「さてと、マリルから召喚されるまでやることもないし、学校に戻ることもできないし、ここはとりあえずTVでも見ながらお菓子を食べて缶コーヒーを飲もう」

 一人になったところで、部屋を出て、台所へ向かう。

 ホオガに食事を作る際にお菓子がどこに入っているか、しっかり把握していたのだ。

 「さっすがリュウガ、うまそうなものばかり揃えているな」

 冷蔵庫にぎっしり詰まっているお菓子の中から、自分好みのものを選んで、取っていった。


 マリルが、反応を感じた区画内にある一番高いビルに着いて見たのは、器物破損や窃盗などをしながら、暴れ回っている脱獄犯人から逃げ惑う一般人達だった。

 「まったく好き放題やってくれるわね」

 ボヤきながら一般市民全員を避難させた。

 「馬鹿なことは止めなさい! 用があるのは私でしょ」

 脱獄犯達に大声で呼び掛けて、自身の存在をアピールすると、百人前後の視線が、一斉に向けられてくる。

 「やっと来たか。あの野郎の言葉通りだったな」

 「今こそ恨みを晴らしてやる」

 「私達の恨みの深さを思い知るがいいわ」

 「復讐の時だ~!」

 脱獄犯達の口から、次々と恨み言が飛んでくる。

 「ところでその格好何?」

 真顔で言い返す。

 「俺達の格好が変だっていうのか?!」

 一番前に立っている男が、脱獄犯を代表するように自分達の恰好に付いて、聞き返してきた。

 「うん」

 きっぱりかつはっきりと返事をする。

 脱獄犯全員が、魔法使いや狼男にカボチャ頭というハロウィンの格好をしていたからだ。

 「しょうがないだろ。このアキハバラって所に連れて来られて着替えるように渡された服がこれだったんだからよ」

 「そういえば桜が明日はハロウィンって言ってたわね」

 ハロウィンと照らし合わせることで、事情を理解した。

 「ちくしょ~! こんな格好する羽目になったのもみんなお前のせいだ。俺達が今日までどんな思いで生きてきたと思ってんだ?!」

 「さあ、私も自分のことで精一杯だったから」

 その返事に対して、脱獄犯達が一斉に罵声を上げてきたが、犯罪者だけにその語彙力は酷く、アキハバラ中が卑猥な言葉に包まれていく。

 ただ、どれだけ酷いことを言われようとも、捕まえたという余裕から全然意に介さなかった。

 「みんな~やっちまえ~!」

 男が、言い終えるタイミングで、脱獄犯達が手から炎や電に光弾を飛ばしてくる。

 前面に巨大な防御魔法陣を展開して、全ての攻撃を防いでいった。

 「これよ! これ~! 魔法使いの戦いはこうでなくっちゃ」

 戦いの真っ最中であるにもかかわらず、声を弾ませて喜びを露わにする。

 断片との戦いは、魔法天使やお札の偉人に九十九神といった変なものだらけだったので、脱獄犯とはいえ魔法使い同士で戦えている事に対して、不謹慎にも心が弾んでしまったのだ。

 「こっちの番ね」

 防御魔法陣を解くなり、脱獄犯達に向かって

 「ストレートサンダー!」と腰に巻いているガンホルダーから取り出した玩具サイズのイエローキングから、太い電を大放出させる。

 敵が魔法使いということで、対マジカルプリン用にフウガが作ったガンマン風衣装にしているのだ。

 放たれた電は、地面に当たって大爆発を起こし、一部の脱獄犯達を吹き飛ばしていく。

 その最中、背後に展開した多数の魔法陣から、脱獄犯達が攻撃してきたが、その攻撃が届く前に、背中に防御魔法陣を展開した。

 「背後から攻撃? いかにも犯罪者がやりそうなことね。タイタンハリケーン!」

 左手に持ったグリーンエンペラーを掲げながら発生させた大竜巻によって、脱獄犯達を上空へ吹っ飛ばす。

 そこへ真下に展開した魔法陣から、一人の男が顔を出してきた。

 「女性の足元に現れるなんて下品極まりないのかしら。エクスプロージョンパンチ!」

 右手に持ち替えたホワイトクイーンに展開した真っ赤な魔法陣を地面に叩き込んで、黒焦げにしてやった。

 「話に聞いていた通り人型の変な杖から魔法を出したぞ!」

 「あんな杖があるなんて信じられない!」

 「というか、使っていて恥ずかしくないのかしら?!」

 脱獄犯達が、ロボットを持ちながら魔法を使っていることに対して、口々に難癖を付けていく。

 「やっかましい~! こ~の犯罪者共が~! 全員まとめて牢屋に送り返してくれるわ~! ピンポイントホール!」

 魔法の使用方法に対する難癖を耳にして、怒りに火が付き、顔を真っ赤にしながら発した怒号に続いて、左手のブルーカイザーを突き出し、地面に大穴を空けて脱獄犯を落としていった。

 「ファイヤーボンバー!」

 間髪入れずに穴へ向けて、ホワイトクイーンから発射した火の玉を叩き込んで、巨大な火柱を上げさせる。

 「他愛もない。所詮はただの低級犯罪者ね」

 憤りたっぷりの声を出しながら、気絶している脱獄犯をドロシーが居るビルの屋上へ転送魔法で送っていく。

 

 「相変わらず凄い魔力ね」

 遠くからマリルの戦いを監視して、送られてくる脱獄犯のデータ照合をしながらの一言だった。

 「本当にいつ見ても凄いですなあ」

 「あなたの怪しい気配に気付かないとでも思って?」

 背後に立つ紳士に対して、杖を向けながら質問した。

 「私の気配を感じ取るとは大したものです。さすがは向こうの世界から遣わされただけのことはありますな」

 「お褒めいただきどうも」

 返事に続いて杖から出した炎で、紳士を火だるまにする。

 「心配しないで。死なないように調整してあるから。まあ気絶くらいはすると思うけど」

 「くっくっく。お優しいお心遣いに感謝いたします。しかし、この程度の炎では私をどうすることもできませんよ」

 紳士は、体に付いた埃を払うように、右手を軽く動すことで、自身を燃やしている炎を簡単に揉み消してみせた。

 「あ、あなた、いったい何なの?」

 予想外の事態を前にして、顔から余裕が消え、驚きの表情を浮かべてしまう。

 「楽しみを求める者とでも言っておきましょう」

 「それならあなたを捕まえて正体と目的を明らかにしてあげるわ」

 ドロシーが、挑発的な言葉を言いながら杖の先を、再度紳士に向ける。

 「あなたにも興味は沸きましたが、今はやりたいことがあるのでこれにて失礼させていただきます。それと彼等は返してもらいますよ」

 「させるものですか!」

 そう言って、攻撃した時には、送られてきた脱獄犯達もろとも消えていった。

 「本当にあれはなんなのかしら?」

 ドロシーは、紳士が立っていた場所を見ながら不可解な気持ちを声に出した。


 それから少しして、穴の中から強烈な発光現象が起きた後、カボチャ頭に手足の付いた巨人が姿を現した。

 「もう巨大化~? これじゃあ、マジンダムで戦わないといけないじゃない」

 目の前のカボチャ頭を見て、マジンダムで戦わなければならないことをボヤいた後、ホルダーから出したロボットを組み立てて、グレートマジンダムを完成させた。

 マジカルプリン戦にて組み立てられなかったことへの反省と後悔から、血の滲むような努力を重ね、一人で合体させられるようになったのである。

 「あれ、何?」

 召喚された守が、カボチャ頭に付いて尋ねる。

 「ハロウィンの格好をした脱獄犯が断片の力で合体して出来たの」

 「なんだかんだでいつも通りの相手だな」

 「守もそう思うんだ?」

 「うん」

 二人は、お互いに頷きあった後、巨大化したマジンダムに乗った。

 「先手必勝ファイヤーボンバー!」

 カボチャ頭に向かって、マジンダムの両手が作り出す巨大な火の玉を投げると、前面に展開した魔法陣によって、散らされてしまった。

 「あいつ、防御魔法が使えるのか?」

 「脱獄犯とはいえ魔法使いだから」

 マリルの言葉を証明するように、カボチャ頭が右手に展開した黄色の魔法陣から電を放射してくる。

 すぐに防御魔法陣を展開して、電を防いでいるところへ、足元に展開された魔法陣から猛烈な勢いで噴出した水柱によって、上空に持ち上げられてしまう。

 「ブリザードタイフーン!」

 マジンダムの右手に展開した白い魔法陣から放射する竜巻を浴びせたことで、凍らせた水柱を左パンチで破壊した。

 「フレイムアローキック!」

 降下しながら赤い魔法陣を通って、カボチャ頭にキックを放つ。

 カボチャ頭が、上昇して攻撃をかわしたことで、マジンダムはマリルが空けた大穴に入ってしまった。

 それから上空を見上げると、カボチャ頭が口から炎を吐き出してきた。

 「アースシールド!」

 左手に召喚した盾で、炎を防ぐ。

 カボチャ頭の炎を受け止め続ける中、シールドの表面が赤く輝き始めていく。

 「シールドリバース!」

 二人の掛け声に合わせて、シールドを前面に突き出した瞬間、表面から発射された炎が、カボチャ頭の炎を押し返し、全身を丸焼きにして落下させた。

 「どうだ。修理に合わせて追加されたアースシールドの新機能の威力はっ!」

 九十九神に斬られた後、修理と同時に敵から受けた攻撃の威力を倍にして跳ね返す機能を追加したのだ。

 飛行魔法で穴から出たところで、地面に倒れて所々に焦げ目の付いたカボチャ頭と対面する。

 「トドメだ! ダブルストレートサンダー!」

 左右の人指し指から電を放射したが、カボチャ頭は当たる寸前で姿を消してしまった。

 「消えただと?」

 「転送魔法よ。油断しないで」

 マリルが言い終わらない間に、マジンダムの背後にカボチャ頭が出現した。

 マジンダムは、振り返えるなり、カボチャ頭の右腕を掴んだ。

 「魔力の気配ですぐに分かったわ」

 「真後ろに現れるっていくらなんでもお約束が過ぎるだろ。エレクトリックハンド!」

 マジンダムの右手を通して、カボチャ頭に大量の電気を流し込んでいく。

 凄まじい電流に晒されたカボチャ頭は、体から幾筋もの真っ黒な煙を上げながら動きを止め、落下しながらバラバラになって、脱獄犯に戻っていった。

 「よし、断片の回収だな」

 次の行動を提案した矢先、カボチャ頭は跡形も無く姿を消してしまった。

 「また転送魔法かよ」

 「今のは例の紳士の仕業だけどね」

 マリルが、悔しそうに言った。

 

 「それで結局全員取り逃がしたというわけね」

 暖炉の長椅子に座っているドロシーからの言葉だった。

 あの後、アキハバラを元に戻して、邸へ引き上げたのだ。

 「ドロシーだってマリルが送った脱獄犯取られたじゃないか」

 「それは、その~」

 ドロシーは、バツが悪そうに視線を逸らして、口ごもってしまった。痛いところを突かれたからだろう。

 「そんな顔するなよ。あの紳士のことだ。絶対にまた来るさ」

 少しだけ優しい声で慰めの言葉を送る。言い過ぎたと思ったからだ。

 「なんでそんなことが分かるの?」

 「カボチャ頭を回収したからだ。これまで負けた奴は放置してきたけど今回は回収したから絶対に何か企んでいるに決まってる」

 これまでの経験を踏まえた説明をする。

 「守の言う通りその可能性は十分有るわね」

 マリルが、賛同の意思を示す。

 「そうなんだ」

 「けど、どんな奴が来たって負けやしないけどな」

 「随分な自信ね。魔法の使えない人間の言葉とは思えないわ」

 「グレートマジンダムが最強無敵の巨大ロボットだからだ」

 絶対的な自信に満ちた言葉を返す。

 「よっぽどグレートマジンダムを信頼しているのね」

 「自分の愛機を信頼しなくてどうすんだよ。おたくらでいえば杖を信頼するのと同じだぞ」

 「そういうものなんだ」

 「それでマジンダムを初めて見た感想はどうだった?」

 ドロシーに対して、期待の眼差しを向けながらマジンダムの感想を尋ねる。

 「予想以上に大きかったわね。あまりの大きさに圧倒されたわ」

 「それだけ?」

 「他になんて言えばいいの?」

 「強そうとか、カッコいいとか、フレイムアローキックまでの動作がたまんないとか、そういう具体的なことだよ」

 具体的な感想例を上げていく。

 「え~・・・」

 ドロシーが、どうしたらいいのか分からず、助けを乞うようにマリルを見ると、顔を左右に振るだけだった。

 「まったくなんだってマリルといいドロシーといい魔法使いって奴は巨大ロボットの良さが全然分からないんだ~?」

 欲している感想が得られないと分かり、頭を抱えながら嘆きの言葉を口にする。

 その言葉に対して、部屋に居るほとんどの者が無反応で居る中、ただ一人リュウガだけが、守に同調して悲し気な表情を浮かべていたのだが、そのことに気付いた者は一人として居ない。

 「とりあえず、このことは報告はさせてもらうわ」

 「うまいこと報告してくれよ」

 「有りのままを報告するだけよ」

 「マジかよ?」

 「守、そのくらいでいいわ」

 マリルが、話を止めてくる。

 「マリルがそう言うならいいけど」

 これ以上、首を突っ込むべきではないと思い、マリルの言葉に従う。

 「それにしてもほんとに良く食べるわね」

 ドロシーが、驚きの声を上げる。

 マリルの驚異的な食べっぷりを間近で見ているからだ。

 ドロシーの反応を見て、自分が初めてマリルが食事をする様を見た時も同じような反応だったことを思い出した。

 「それでドロシー、今日はどうするの? 向こうの世界に帰るの?」

 「事件が解決していないから残るわ。だから泊めてくれると助かるんだけど」

 「部屋は空いているから全然構わないわ」

 「話がまとまったのなら俺はバイトに行くよ」

 「もうそんな時間なのね」

 なんだかんだで、夕方になっていたのだ。

 「そんじゃ店の裏まで転送よろしく」

 「はいはい」

 マリルの返事の後、店裏に転送してもらった。

 

 その夜、守は金色荘の自室で寝ていた。

 そこへ転送魔法で、何者かが姿を現す。

 侵入者は、守に近寄り、右手から出した光を体全体に浴びせて、寝顔を確認した後、押し入れに手を伸ばした。

 「食らえっ!」

 両目を開けて体を起こすなり、右手からビー玉サイズの球を侵入者に向かって投げた。

 「きゃあ!」

 侵入者が、大きな悲鳴を上げる。

 「賊は女か。さてと顔を拝むとしますか」

 布団から体を出して、部屋の電気を付ける。

 「・・・・嘘だろ」

 賊の顔を見て、驚きの声を上げた。

 賊の正体が、ドロシーだったからだ。

 「こんばんわ」

 気楽な調子で挨拶してくる。

 「そんな格好で普通に挨拶するな」

 ドロシーは、球から発生している光の縄によって、体中ぐるぐる巻き状態で、拘束されているからだ。

 ネグリジェにくっきり浮かび上っている、マリルに負けず劣らずの豊満なボディラインの上から締め上げられているので、何気に物凄くエロい。

 「なんで、あなたがホールドボールを持っているの?」

 質問しようとする前に拘束具を所持していたことを聞かれた。

 「また脱獄犯に襲われた時の為に持っておくようにマリルから渡されてたんだ」

 「睡眠魔法が効かなかったのは?」

 「契約魔法が打ち消したんだよ」

 そう言って光る契約魔法を見せる。

 「そういうこと。なによ、解除できないじゃない!」

 紐を解こうともがきながら文句を言ってくる。

 「自分と同じレベルの魔法使いじゃなきゃ絶対に解けないって自信満々に言っていたからな」

 「なるほどね」

 ほどけないと分かったのか、観念したように大人しくなった。

 「それじゃあ、俺の部屋に不法侵入した理由を話してもらおうか」

 「パプティマス家にあなたがどんな人間か探るように頼まれたの」

 「パプティマス家?」

 「マリルの幼少の引き取り先」

 「引き取り先?」

 「マリルのこと何も知らないの?」

 意外そうな顔で聞き返されてしまう。

 「家が落ちぶれたせいでえらい苦労しながら最年少で二つ名を取ったくらいしか知らないな」

 知っている情報を話していく。

 「それ以外のことに付いては聞いてないの?」

 「聞いても教えてくれそうにないし、俺も家庭のことは話してないからな」

 自身の事情を交えて、聞かなかった理由を話す。

 「そういうことね」

 「そっちは俺を探ることに何の意味がある? ただの人間だぞ」

 「そのただの人間が年頃の娘と一緒に居るのが気になるんでしょ」

 「家庭の事情ってやつか。それだからってこんな探偵紛いなことやって何の得があるんだ? 家に頼まれたってことは任務とは無関係なんだろ」

 「これをやる見返りに昇進させてもらうの」

 「分かりやすい理由だけどやっぱりマリルへのライバル心からか?」

 「家の為よ。スカーレット家は由緒正しい名門なのに落ちぶれた家の娘に先を越されたんだもの悔しくないわけないじゃない!」

 「家柄の問題か」

 「当たり前よ。同じ日に入学して私だって血の滲むような努力したのに追い付けないくらいに先を行くんだもの。見返してやりたいって思うじゃない!」

 本音を吐き出すドロシーは、高貴な気品をかなぐり捨てた人間性丸出しの少女でしかなかった。

 「ともかく俺への調査は止めろ」

 「嘘の報告なんてできるわけないでしょ」

 「ただの人間に拘束されたってことも報告するのか?」

 調査を止めさせるのには、十分な材料を提示する。

 「・・・いいわ。無害って報告するから。ただ少しは確証が欲しいからその中を見せて」

 「分かった」

 押し入れを開け、ぎっしり詰まっている巨大ロボット関連のグッズを見せる。

 「もういいわ。十分よ・・・・」

 気重そうな表情で、顔を背けた。素人には少々刺激が強過ぎたようだ。

 「それよりも早く解いてくれない。苦しくてしょうがないわ」

 拘束されている体を窮屈そうに動かす。

 「分かったよ」

 電流を出している球に触れることで拘束を解いた。

 解除の仕方も聞いていたのだ。

 「じゃあ、帰ってくれるな」

 「そうするわ」

 「それには及びません」

 別の声が割り込んでくる。

 「お前は」

 「こんばんわ」

 二人の前に現れたのは、紳士だった。

 「俺の家にまで来るのかよ?!」

 「行きたい所には何処へでも行きます。魔法の世界にもね」

 「それで俺に何の用だ?」

 「君にではなくそこの方に用があるのです」

 言いながらドロシーを指差す。

 「私?」

 「変な真似はさせねえぞ」

 左手の紋章をを翳して、抵抗の意志を示す。

 「お止めなさい」

 紳士が、左手を軽く振ると朝の脱獄犯が姿を現し、光りの膜を張るよりも早く、左手の刃による斬撃によって、上半身と下半身を分断されてしまった。

 「あ? あぁ・・・・」

 突然の事態に言葉が出てこない。

 「なんてことをっ!」

 ドロシーが、杖を構えた時には、紳士に頭を鷲掴みにされていた。

 「お眠りなさい」

 その言葉通り、ドロシーは両目を瞑った後、紳士に受け止められた。

 「では、これにて失礼いたします。そうそう早く助けを呼ばないと大変ですよ」

 攻撃を命じた張本人は、気遣う言葉を言いながら姿を消した。

 そうして一人切りにされたところで、必死の思いでマリルに声を送った。

 

 「まったく久々に酷い目に合わされたぜ~」

 元に戻った体を見て、安堵の言葉を漏らした。

 あれからすぐに駆け付けたマリルの回復魔法によって、上半身と下半身を繋ぎ合わせてもらったのだ。

 安らかな表情を浮かべている一方、マリル達は不快な顔をしていた。

 上半身と下半身が繋がるという凄惨な場面を見ていたからである。

 「それにしてもパプティマス家が守の動向を探る為にドロシーを使わせるとは思わなかったわ」

 回復魔法で、治癒されている間にドロシーが自分の部屋に不法侵入してきた動機と裏にある目論見を話していたのだ。

 「そのパプティマス家とは折り合いが悪いのか?」

 「別に悪くはないけどできるだけ会わないようにしているの」

 話したくないことなのか、普段は見せることのない心苦しい表情を浮かべている。

 「ともかくあいつのことだからまた戦いを仕掛けてくるから準備しとこう」

 「そうね」

 「それにしてもあの紳士はドロシー殿をさらってどうするつもりでござろう?」

 ホオガが、紳士の行動に対して、疑問を呈してくる。

 「きっと戦う為の材料にするんだろ。魔法使いなんて滅多にないからな」

 「それじゃあ、今度の戦いはキツやないか」

 「ドロシーちゃんも加わるとなると昼間以上の強敵になるわね」

 「グレートマジンダムならどんな相手だって負けやしないさ」

 その言葉に部屋に居る全員が納得した。

 敵が、いつ来てもいいように、その日はマリルの邸に泊まることにした。


 「今日は待ちに待ったハロウィンで~す」

 TV画面のアナウンサーが、ハロウィンの開催日であることを魔法使いの格好で告げている。

 「ハロウィンになったな」

 「現れたわよ」

 マリルからの呼び掛けを聞いて、長椅子から体を起こす。

 すぐにでも戦いに行けるよう、暖炉の部屋で寝ていたのだ。

 「朝か。魔女と戦うにしては不向きな時間だよな」

 窓から射し込む陽射しを見ながら言った。

 「あの紳士に時間なんて関係ないんでしょ」

 「で、ドロシー達はどこに居るんだ?」

 「アキハバラ」

 「じゃ、アキハバラに行くとしますか」

 その一言の後、六人は転送魔法で、決戦の地であるアキハバラに移動した。

 移動地点は、従僕達の集合場所である駅の北口だった。

 そこにはドロシーを筆頭に、まだハロウィンの格好をしている脱獄犯の集団が立っていて、端から見るとパレードの参加者みたいだった。

 「ドロシー」

 マリルが、名前を呼び掛けても返事をせず、その代わりに杖を掲げ、脱獄犯と合体して、黒い帽子にマントを付け、ドロシーと同じ形の巨大な杖を持つといった魔女風味の加わったカボチャ頭になったのだった。

 「ドロシーが加わったことで形も変化したわけね」

 魔女風味のカボチャ頭を見て、驚かずにボヤいた。

 「マジンダムと戦わせたいんだろ。それが楽しみみたいだからな」

 カボチャ頭が、早くしろと言わんばかりに巨大な杖の先を向けてくる。

 「行くわよ」

 「おうっ!」

 マリルの呼び掛けに、五人が声を上げる。

 それから召喚したマジンダムを巨大化させ、マリルの転送魔法で搭乗し、従僕は指定の場所に憑依していった。

 「魔女っぽいカボチャ頭か」

 いつものように敵に対する感想を言う。

 「今回はがっかりしてないのね」

 「形はあれだけど魔女と戦うシチュエーションはロボットアニメにもあるからな。いつもとは違う意味で燃えてきたぜ!」

 「やる気があって助かるわ」

 カボチャ頭が、二人の会話が終わるタイミングを待っていたように、杖から炎を放射してくる。

 「アースシールド!」

 召喚して前面に出した盾で、炎を防ぐ。

 「昨日、この後どうなったのか忘れたのか?」

 「無駄口叩いていないで反撃して。シールドリバース!」

 盾から倍の太さの炎を放射し返す。

 カボチャ頭は、炎を止め、防御魔法陣を展開して炎を防いだ。

 その間にマジンダムをジャンプさせ、カボチャ頭との距離を一気に詰め

 「クリムゾンナックル!」と盾に変わって両手に装着したナックルを突き出し、魔法陣を爆裂によって破壊する。

 「このままトドメだ!」

 爆裂で怯んだカボチャ頭に、真っ赤に燃える左手を突き出す。

 カボチャ頭は、右手を刃に変形させて、ナックルを受け止めた。

 「その形、昨日俺の体を斬った奴の魔法だな。借りを返してやるぜ!」

 右手のナックルで殴り掛かるも、カボチャ頭は口から無数の小刀を発射してきた。

 突然の事態に防御が間に合わず、全身に剣を受け、さらに怯んだところを口から放射された竜巻を浴びたことで、回転しながら落下させられた。

 「このくらい!」

 飛行魔法で、地上スレスレの高度で停止できたことで、激突を免れることができた。

 カボチャ頭が、杖を掲げるタイミングで、周囲に真っ赤な魔法陣が一斉に展開し、下げる動作に合わせて、炎に包まれた隕石が発射され、着弾と同時に大爆発を起こして、マジンダムを炎で覆い尽くしていった。

 カボチャ頭が、杖を上げて隕石を止めると、マジンダムの姿はどこにもなく、爆発跡に混じって、巨大な穴が空いているだけだった。

 カボチャ頭が、穴を覗こうと着地した直後、少し離れた地面を突き破って、マジンダムが姿を現した。

 「マジンダムは地中も進めるんだよ! サンダーアーム!」

 カボチャ頭が次の行動に出る前に、電を発する右手で杖を掴んで電撃を流し込んだ。

 強烈な電撃を受けたカボチャ頭は、全身から煙を出しながらふらついた。

 「これで強力な魔法は使えないだろ」

 奪ったカボチャ頭の杖を画面越しに見ながらの言葉だった

 「そう願いたいわね」

 カボチャ頭から杖を奪うことで、魔力を半減させる作戦だったのだ。それから勢を立て直してジャンプした後、分身するように増殖していった。

 「どれだけ増えるんだよ?」

 「脱獄犯の数だけ増えたんでしょ」

 「そういうことか。それじゃあ、新技のお披露目といこうぜ」

 「そうね。グレートブレート!」

 召喚した剣をマジンダムの右手に持たせた後、カボチャ頭の大軍にではなく大空に向かって投げた。

 それを見て、攻撃が外れたと思ったカボチャ頭群が、一斉に攻撃体勢を取っていく。

 「ブレードシャワー!」

 二人の掛け声の後、空から大量の剣が雨のように降り注いで、カボチャ頭を次々に刺していく。

 「どうだっ! マジンダムの新必殺技の威力は?」

 「油断しないで。まだ全員倒せたわけじゃないんだから」

 「ほんとだ。一体残ってるな」

 画面越しには、一体のカボチャ頭が両手を上げた状態で、浮いているのが見えた。

 「あいつ何をしようとしているんだ?」

 両手の先にある青空に、黒い渦を発生させていた。

 「カオスバスターを使おうとしているんだわ」

 「なんだ。それ?」

 「異次元の力をエネルギーに変えて相手にぶつける魔法。ドロシーったらあんな高レベルの魔法を修得していたのね」

 「そんなことよりも遠距離攻撃ならさっさとビックバンキャノンで吹っ飛ばしてやろうぜ」

 「ビックバンキャノンじゃ攻撃範囲が狭すぎるわ」

 「じゃあ、どうするんだ? 打つ手無しとか言うなよ」

 「・・・・これでいくわ。アースシールドを左腕に装着したらグレートブレードをおもいっきり振れる体勢を取って」

 「分かった」

 マリルの指示通りに再召喚したアースシールドを左腕に装着し、左手にグレートブレードを握らせた。それから野球のバッターのような体勢で、ブレードを後ろ向きに構えることで、盾を前面にしながら剣を振れるようにした。

 「来るわよ。しっかり構えて」

 マリルの言葉に合わせるようにして、カボチャ頭が両手を降ろすと、渦の中心から混濁の波動が、猛烈な勢いで発射されてきた。

 見るからにヤバそうな波動を受け止めた途端、盾の表面から真っ黒な光の粒が水しぶきのような勢いで飛び散り、それに合わせて生じる凄まじい重圧がマジンダムを地面に沈め、周囲の建物を押し潰すように破壊していく。

 「なんか、すげえことになっているけど大丈夫なんだろうな?!」

 姿勢を維持するべく、コントロールスティックを強く握り、ペダルを踏みながら聞いた。

 「当然でしょ。グレートマジンダムは最強無敵の巨大ロボットなんだから!」

 「分かってるじゃん!」

 それからすぐ盾と連動するようにブレードの刃全体が、凄まじい輝きを見せ始めていく。

 「今よ! シールドリバーススラッシュ!」

 マジンダムが、二人の合唱に合わせて、光り輝やく刃を真横にフルスイングすると、三日月型のエネルギー波が発射され、波動を斬るように押し退け、カボチャ頭を真っ二つにした。

 そうして、消滅していくカボチャ頭から出てきて、落下していくドロシーを空いている右手でキャッチして、ゆっくりと地面に降ろした。

 「まったく厄介なことになったもんだ」

 「まだ後始末が残っているわよ」

 マリルは、画面越しに気を失っている脱獄犯達を見ながら返事をした。

 

 「目が覚めた?」

 目を覚ましたドロシーに声を掛ける。

 「ここは?」

 「あなたが泊まっていた客室」

 「私、助かったんだ」

 「そうよ。安心して体には傷一つ無いから」

 「私、何かとんでもないことしなかった? 記憶は曖昧だけど物凄く魔力を使った気がするから」

 「そのお陰で物凄く大変だったんだから」

 ワザとらしく両手を広げて、味わった苦労をアピールしてみせる。

 「やっぱりね。ところで着替えさせたのは?」

 側に干してある自身の服を見ながら尋ねてくる。

 「安心して。洗濯も着替えも私がやったから」

 「どうしてそこまでしてくれたの?」

 「ここで女は私だけだし、同級生だから」

 「同級生なんて意識あったんだ」

 「学年が同じなんだから当然じゃない」

 「そう、それにしても情けないわ」

 天井に視線を向けながらの返事だった。

 「どうして?」

 「あなたの前でこんな醜態を晒しているからよ。私はあなたを同級生じゃなくてライバル視してたの知ってた?」

 「なんとなくそんな気はしてたけど」

 「その程度だったんだ。私ったら一人でライバルだなんて思ってて馬鹿みたい。けど、仕方ないわよね。私が血の滲むような努力をしてもあなたは遥か先を行っていたわけだし」

 「学生時代の私は前に進むことしか考えてなくて回りを見ている余裕がなかったから」

 「けど、その甲斐あって今の地位に付けたんでしょ。大したものだわ」

 「ドロシー、あなた友達は居るの?」

 「たくさん居るわよ。なんで?」

 「羨ましい」

 「え?」

 「私はアウグステゥス家を再興する事しか頭に無くて友達を作らないままここまで来たの。だから寂しいって思っていたわ。今作るにしても組織には同年代の子は一人も居ないし」

 「やっぱり家の再興が目的だったんだ」

 「私は最後の一人だから」

 「けど、その口振りだと今は平気みたいね。鋼守が居るから?」

 「な、ななななんで、そこで守の名前が出てくるの~?!」

 寂しいという話の直後に守の名前が出てきたので、思わずてんぱってしまう。

 「だって今のマリル、話の割りに全然寂しそうな感じがしないもの」

 「そ、そんなことないわよ。あいつはそんな特別な存在じゃないし」

 焦っているせいか、言動まで怪しくなってくる。

 「あなたがそこまで言うなら信じて上げる。彼にも悪いことをしたわ。体真っ二つにされてたでしょ」

 「気にしないで。守はああいう目に何度も合っているから」

 「そ、そうなんだ。今回は助けて本当にくれてありがとう」

 ドロシーが、素直に礼を言う。

 「私は自分の勤めを果たしただけ」

 「そう、それならいいわ」

 ドロシーは、まんざらでもなさそうに返事をした。

 

 「それじゃあ、帰るわね」

 体力を回復したドロシーは、捕まえて魔力封印用の手錠を嵌められた脱獄犯を連れて、自分の世界に帰ることになった。

 「本当に有りのままを報告するの? そうしたら降格は確定よ」

 「不正な真似までして地位を得ようとは思わないわ。それに必ず戻ってくる。私は努力家だから」

 マリルに向かって、軽くウィンクしてみた。

 「期待して待ってるわ」

 「今回は本当にありがとう。マリル、スカーレット家を代表して感謝するわ」

 それから二人は、自然な流れで握手をした。

 「あなたもありがとう。鋼守」

 「俺はただ敵をやっつけただけだよ」

 「それでも助かったわ」

 ドロシーが、近寄ってくるので握手をするのかと思い、右手を伸ばす。

 「あなたには私個人として心からの感謝を」

 そう言うなり、守の頬にキスをした。

 「・・・・」

 回りがどよめく中、あまりのことに棒立ちになってしまう。

 「じゃあね」

 ドロシーは、転送魔法で脱獄犯達と一緒に消えた。

 「いつまでボ~っとしてんのよ!」

 マリルに頭を強めに叩かれた。

 「いって~! 何すんだよ~?!」

 理不尽な仕打ちに怒りを顕にする。

 「そんなことより今からアキハバラに行くわよ」

 「なんで?」

 「今夜はハロウィンなんだから付き合いなさい」

 「本物が行ってどうするんだよ?」

 「だから、本物として格の違いってのを思い知らせてやるのよ。今日はバイト休みなんだからいいでしょ。勉強だったら私がどうにかして上げるから心配しないで」

 「はいはい」

 マリルに言われるままアキハバラに転送された。

 

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