第15話 魔法天使VS魔法少女 ~後編~

 「きぃ~! もういったいなんなのっ! マジカルプリンって~なんなのよ~!」

 マリルは、暖炉の部屋を怒号で満たしていた。

 十数分前に行われたあらゆる意味で世界の理を無視しまくった戦いが、マジカルプリンの自主撤退という一方的な形でうやむやにされた後、約束通りおじさんの記憶操作を終えて邸に戻ってから荒れに荒れまくっているのだ。

 「リュウガ、おかわりっ!」

 「かしこまりました」

 マジカルプリンへの不満と恨みと怒りを吐き出しながら缶コーヒーを一気飲みして、リュウガからおかわりを受け取って飲み干しては、空き缶をテーブルに叩き付けるという悪酔いしたおっさんみたいなことをやっているのだった。

 その様を目の前で見せられている守は、他の従僕三人にやめさせろとアイコンタクトを送ったが、「それは自分達には絶対に無理」と頭を左右に振るばかりであった。

 「もうその辺でやめておけ。ムカつく気持ちも分かるけどテーブルを空き缶だらけにするつもりかよ」

 山のように積み上がっていく空き缶を見かねて、仕方なく自ら制止の言葉を掛けることにした。

 「だって、だって~! 私達終始押されっ放しだったのよ。その上で勝ち逃げみたいなことをされたっていうのに守はくやしくないの?! 最強無敵のグレートマジンダムがあんな魔法天使とかいう紛い物にコケにされたのよ~! 苛つくのも当然ってもんでしょ~!」

 言い終わるなり、守の言葉を無視して、缶コーヒーを一気飲みしてみせた。

 「普通の敵だったら悔しいって気持ちにもなるけど相手がフィギュアの魔法天使じゃそんな気分にもならないよ。見た目はコスプレした女の子なわけだし」

 「まったくこれだから男っていう生き物は~!」

 言いながら空き缶をテーブルの上におもいっきり叩き付けた。

 「とりあえずマジカルプリンがどんなキャラなのかきちんと知識を身に付けておこうぜ。何も知らないからいいようにやられちまったんだからどんな設定なのか分かれば対処のしようもあるだろ」

 「それもそうね。けど、マジカルプリンの知識なんてどこで得るのよ? 魔法使いのアニメなんて守の趣味じゃないでしょ」

 「ここは二次元愛好会の連中に頼むしかないだろ。あいつらならどうでもいいとこまで知っているだろうからな」

 守は、スマホを取り出して、二次元愛好会の筆頭である西園寺有朋に連絡を取ろうとした。

 「まもちゃん、その必要はなくってよ」

 フウガが、止めに入ってきた。

 「どういうことだ?」

 「あたくしがマジカルプリンについて教えて上げるから」

 「フウガ、お前マジカルプリンにくわしかったのか?」

 リュウガが、珍しく驚いた様子を見せる。

 「そういえば、マジンダムに乗る前に設定がどうとか言っていたわよね」

 マリルが、思い出したように言った。

 「そうですわよ。あたくしマジカルプリンの全シリーズを見ておりますから設定にも詳しいんですわよ」

 「なんで、美少女アニメなんか見ているんだ?」

 守が、見ている理由を尋ねる。

 「可愛いものが大好きだからに決まっているじゃな~い」

 返事をしながら、ミュージカルスターのように両手を大袈裟に広げてきた。

 「知識を持っているのなら話は早いわ。どんなアニメなのか教えて」

 「それには少々のお時間をいただきたいのですがよろしいでしょうか?」

 「別に構わないけど、早くしてね」

 「それじゃあ、まもちゃん、ちょっと手伝ってちょうだい」

 フウガに手招きされる。

 「俺かよ」

 「フウガ、守様に雑用をやらせるつもりか?」

 リュウガが、咎めるように口を挟んでくる。

 「ちょっとしたお手伝いよ。いいでしょ? マリル様」

 「私は構わないわ」

 マリルは、あっさり了承した。

 「まあ、強いて断る理由もないから手伝うよ」

 守は、椅子から立って、フウガと一緒に部屋を出た。

 

 「ありがとね。まもちゃん」

 「なんで俺だったんだ?」

 指名された時から感じていた疑問をぶつけてみた。

 「ジャンルは違うけど同じアニメ好き同士だから家電の扱いには慣れていると思ったからよ」

 「それならリュウガでも良かったじゃないか。あいつも巨大ロボットアニメが好きで設備も一式持っているって言っていたし」

 「リュウちゃんはそういう作業となると指示が細過ぎてちょっとウザいのよね~」

 「それは言えてるな」

 配線一本にも細かな指示を出すリュウガの姿を想像して、思わず苦笑してしまった。

 「そういえばまもちゃんがあたくしの部屋に来るの初めてじゃない?」

 「言われてみればそうだな」

 これまで何十回と邸に来ているが、話し合いをする暖炉の部屋と来客用の浴室に寝泊りする部屋以外は、見たことも行ったことも無かった。

 「だから、今夜はあたくしのお部屋を見せて上げるわ」

 「フウガの部屋ねえ、どんな感じなんだ?」

 「それは着いてからのお・楽・し・み♡」

 含み笑いを浮かべるフウガと一緒に二階の北側にある部屋に入った。

 「じゃじゃ~ん! ここがあたしのお・部・屋❤」

 「・・・・・」

 言葉が出なかった。

 部屋の中は、美少女アニメのキャラクターグッズてんこ盛りで、壁中にポスターが貼られているなど、完全なヲタク部屋だったからである。

 美少女アニメ関連なので、気持ちは全く振るわなかったが、これが巨大ロボットアニメであったなら心を鷲掴みにされていただろう。

 「これ、全部お前の物なのか?」

 「そうよ。この世界に来てからあたくしが買ったコレクション。グッズ以外にも衣装だってあるんだから~」

 言いながらクローゼットを開けると、中には美少女アニメのコスプレ衣装がぎっしり詰まっていた。

 「まさかとは思うがお前が着るのか?」

 答えは分かっていたものの、思わず質問してしまった。

 「そうに決まっているじゃな~い」

 右手を胸に当てながら、嬉しそうに答えてくる。

 「うわ~。想像を絶するな・・・・」

 お姉にしか見えないフウガが、アニメの美少女コスプレをしている姿を一瞬想像しただけで、脳の活動におもいっきり支障をきたしてしまった。

 「もう素っ気無いんだから~」

 「お前ってさ、いつも楽しそうだよな」

 二人になったところで、前々から思っていたことを聞いてみた。

 「そうよ。あたくし退屈が大嫌いなの。だから退屈しない為にマリル様の従僕やっているのよ」

 「マリルの従僕になることが、なんで退屈を紛らわすことになるんだよ?」

 意味が分からないので、確かな答えを聞くことにした。

 「あたくしは風の精霊の中でも一番の変わり者でね、どんなことにも興味が持てなかったの。もちろん魔法使いとの契約にもね。だからいつも暇を持て余していたのよ。ほんと生きているのさえ苦痛な日々だったわ。そんなところへ今よりも小さかったマリル様がやって来たのよ」

 「随分前からの知り合いなんだな」

 「十二、三歳だったかしら。それで何をしに来たのかお尋ねしてみたら従僕を捜しに来たけど、幼過ぎて同族全員に断られたからあたくしのところへ来たってお答えになったわ」

 「で、勝負でもしたのか?」

 「いいえ、ただ一言聞いただけ。あたくしを絶対に退屈させないかってね」

 「それだけ?」

 予想と違い過ぎる言葉に拍子抜けしてしまった。

 「あたくしが望んでいたのは退屈な日々から抜け出すことだったから試しに聞いて見たのよ。本来であれば契約者の実力を確かめる為に勝負したりするんだけど」

 「マリルはなんて答えたんだ?」

 「絶対に退屈させないって仰られたから従僕になってあげたのよ」

 「で、実際にはどうだったんだ?」

 「今のあたくしを見て分からない?」

 実にワザとらしく聞き返してくる。

 「物凄く楽しそうだ」

 「大正解。マリル様の従僕になってから退屈したことないから楽しくてしょうがないわ。現にこの世界に来られて、こうしてまもちゃんとも知り合えたしね」

 これまで以上に楽しそうな笑顔を見せてくる。

 「そうか。それにしてもよくこんな趣味をマリルが許しているな。一目見ただけで全部灰にしそうだけど」

 「あたくし達の趣味に関しては一切干渉なさらないわ。そういう器の広いところもお仕えしている理由の一つよ」

 「なるほど、それで肝心の手伝いだけど、俺は何をすればいいんだ?」

 「これとこれを持っていっちょうだい」

 それからフウガ一緒に、マジカルプリンのブルーレイソフトとプレイヤー一式を暖炉の部屋へ運んでいった。

 

 「これからマジカルプリンダイジェストブルーレイを見ていただいた後、作品の細かい解説をしたいと思うのですけど、よろしいでしょうか?」

 フウガは、プレイヤーと接続したTVの前に立って、マジカルプリンの解説の流れを説明した。

 「いいわ。始めてちょうだい」

 そしてダイジェストブルーレイを見た後、フウガによる詳細な作品解説が行われた。

 ストーリーは、大天使より遣わされた小動物から魔法の力を授かった主人公甘宮あまみやみるくが、マジカルプリンに変身して、地獄からやってくる怪物ワルモンと戦うという単純明快なストーリーと、萌え要素満載の変身シーンにド派手な戦闘シーンが好評を博し、TVシリーズが三期まで製作され、シリーズ終了後には劇場版も製作される大ヒットアニメということであった。

 なお、シーズン毎に戦闘シーンは派手さを増し、一堂を驚愕させたハイパーモードは第三期に盛り込まれた設定であったが、巨大化という魔法少女には似つかわしくないものであった為に不評を買い、劇場版では無かったことにされたとのことだった。

 「マリル様、お分かりいただけましたかしら?」

 「なるほど、天使の力なんて訳の分からない設定だからあんな適当な言葉で魔法が使えたのね」

 マリルは、フウガの解説を聞いて、マジカルプリンの戦い方に納得した。

 「それにしても今の魔法少女アニメは巨大ロボットアニメみたいに派手な戦闘シーンがあるんだな~」

 守が、マジカルプリンの戦闘シーンに付いての感想を言った。

 「昔は違っていたのでござるか?」

 「俺がガキの頃にやっていたのは戦闘シーンなんて無かったし、話にしてもご近所のトラブル解決程度だったよ」

 「なんや、まもやんけっこうくわしやないか。巨大ロボット一筋縄ちゃうんか?」

 「妹の付き合いで何回か見たことがあるだけだよ」

 「そんなことよりも今はマジカルプリンをどうするかでしょ」

 マリルが、少しキツい声で話題を本題に戻す。

 「昼間にフィギアを見つけて断片を回収できれば一番手っ取り早いんだけどな」

 「一応探索はしてみるけど、見つからなかった場合も想定しておかないと」

 「次に会った時には逃がさないようにしないといけませんですわ」

 「当然よ。今度会ったらぜ~ったいに動けないフィギュアに戻してやるんだから!」

 マリルの声には、決意以上に恐ろしいまでの執念が込められていた。

 「我々の姿を見ればすぐにハイパー化してしまうのではないでしょうか?」

 「その可能性は十分あるな。となると、マリル一人に戦ってもらう必要性があるわけだ」

 守が、マリルを見ながら作戦を提案した。

 「私一人? 魔法石無しの状態じゃあの滅茶苦茶な魔法に太刀打ちできないわ」

 「魔法石っていうか、マジンダムがあればいいわけだろ。それに付いてはフウガの服飾の腕次第だ」

 フウガをビシっと指さしながら言った。


 翌日の昼休み、守とマリルは、ある人物を資料室に呼び出していた。

 「待っていたぜ」

 「まさか君から呼び出しを受けるとは思わなかったよ」

 やって来たのは、二次元愛好会の筆頭西園寺有朋であった。

 「ロボットヲタクの君が僕になんの用だ? まさか美少女アニメファンに転向すると言わないよな」

 「それは天地がひっくり返っても有り得ない。呼んだのはおたくのマジカルプリンに関する知識とここに置いているフィギアを貸して欲しいんだよ」

 「僕に頼みごとというわけか。それならそれ相応の誠意を示して欲しいね」

 自分が優位な立場にあると分かったからか、上から目線の話し方になった。

 「なんだ、今日はえらく不機嫌だな」

 「君はニュースを見てないのか? 得体の知れないマジカルプリンが起こした事件のせいでBD-BOXの発売中止に加えて、イベントまで中止になったんだぞ。ずっと楽しみにしていたのに。これが不機嫌にならずにいられるか」

 有朋は、栓を抜かれたように不機嫌な理由を早口で吐き出してきた。

 「それじゃあ、機嫌が悪くなるのも無理ないよな。けど、等身大で動くマジカルプリンが見られて良かったじゃん」

 軽い調子で言った。

 「全然嬉しくない」

 「なんで?」

 守は、ちょっとだけ驚きながら聞き返した。

 「アキハバラの花咲き行為のせいでファンじゃない人からは迷惑な存在だと思われてしまったんだぞ。僕らの大好きなカルプリンをそんな風に思わせる事件なんて嬉しいわけがないだろ」

 マジカルプリンが咲かせた花の駆除は、役場の職員を総動員させても追い付かず、急遽ボランティアを募集するほどの事態になっていたのだ。

 「おたく、きちんとしたファンなんだな」

 「それは褒め言葉として受け取っていいのかな?」

 「もちろんだ」

 馬鹿にする素振りを一切見せず、ちゃんと誠意を込めて返事をした。

 「君が大真面目に巨大ロボットを好きなように僕も大真面目に美少女アニメが大好きなのさ。そろそろ本題に入ってくれよ。いつ先生の見回りが来るか分からないからな」

 「そうだったな。俺自身は何もしないが、その代わりに彼女が誠意を示してくれるぜ」

 守は、体の位置をズラすことで、背中に隠していたマリルを見せた。

 「はははは、林さん。いいえ、天使様ではありませんか~!」

 有朋は、声を振るわせ、後ずさりしながら膝ま付いた。三次元の女子に弱い上に本物の美少女であるマリルのことを、女神や天使として崇拝しているからだ。

 「西園寺君、私のお願い聞いてくれる?」

 マリルが、男を誘惑する気満々の猫撫で声で、有朋に話し掛けた。

 「はい、喜んでっ!」

 有朋は、飼い慣らされた犬のように従順な態度で返事をした。


 その夜、昨晩と同じようにアキハバラ上空に現れたマジカルプリンは、決め台詞を言いながらご迷惑な花咲き行為を行っていた。

 「マジカルプリン、そこまでよ!」

 昨夜と同じくビルの屋上に立っているマリルが、マジカルプリンに大声で呼び掛けた。

 「昨日の悪者さんね。今日こそ退治しちゃうんだから~!」

 マジカルプリンが、ステッキの先を向けながらの決めポーズを取ってみせた。

 「さあ、退治されるのはどっちかしらね」

 そう言いながら広げたマントの下から出てきたのは、上半身に来ているのはいつもの赤い服であったが、その下は黄色のスカートではなく同色の短パンで、腰にガンホルダーを巻き、靴もヒールではなくブーツになっているなど、ガンマンみたいな服装になっていた。

 「いっくわよ~! プリンプリンアラモード!」

 マジカルプリンは、ステッキを振って、起爆性の粒子を放出してきた。

 「フャイヤーボンバー!」

 マリルが、右手でガンホルダーから引き抜いたホワイトクイーンを前に翳して詠唱を唱えると、パーツから炎の弾が発射され、粒子とぶつかり合って大爆発を起こした。

 「あなた、変わった魔法を使うのね」

 「あなたに言われたくないわ。ストレートサンダー!」

 左手でグリーンエンペラーを引き抜き、詠唱を唱えながら突き出すと、先端から雷が放出された。

 「いったい何なの? その変な形のステッキは?」

 「これは魔法のステッキではなくて超○金よ」

 「ち・ょ・う・ご・う・き・ん?」

 これまでと同じ反応であった。

 「あなたには分からない言葉よね」

 マリルが、ガンホルダーに入れているのは、銃ではなく合体後に手足になるロボット達で、合体状態ではかさばるので、持ち易く用途によって使い分けができるようにと守が思い付いたアイディアであり、七キロという重さに関しては、魔法で軽減しているのだった。

 分解状態のマジンダムを入れているガンホルダーや短パンなどは、全てフウガのお手製であり、着心地や履き易さを考慮に入れて作れらているので、マリルは何の不自由も感じていなかった。

 その後もマリルとマジカルプリンの魔法合戦は続いたが、滅茶苦茶な魔法の前にマリルは次第に押され、ビルの谷間に追い込まれてしまった。

 「さあ、悪者さんもこれで終わりよ!」

 マジカルプリンが、マリルにステッキの先を向けて勝ちを宣言してきた。

 「それはどうかしら? 我に遣えし者よ。我魔力にて真の姿を示せ。汝、マジカルプリン!」

 マリルが、転送魔法で目の前に召喚したマジカルプリンのフィギュアに魔法を掛けると、等身大のマジカルプリンになった。

 昼間、資料室で有朋が所持しているフィギアに彼の知識を通して、顕現魔法を掛けておいたのだ。

 「助けて! マジカルプリン! あなたの偽者が私をいじめるの~!」

 物凄く芝居がかった言い方で、自身が顕現させたマジカルプリンに助けを求めた。

 「あなた、プリンの偽者ね」

 「いいえ、プリンはプリン、あなたこそ偽者でしょ」

 「失礼ね。プリンこそ本物よ」

 「プリンよ」

 「この偽者!」

 「偽者~!」

 言い争っている内に二人は、ステッキを持ったまま互いの頬を引っ張り合った後、取っ組みあって殴り合うという魔法天使にあるまじき大喧嘩を始めた。

 マリルは、その様を見て、魔法天使も一皮剥けば、恐ろしい女の本性が隠れていることを思い知らされたのだった。

 「マリル様、今の内にトドメを!」

 巨大ロボット形態時と同じく、マジンダムに憑依しているリュウガからの言葉だった。

 「そうね。エクスプロージョンパンチ!」

 一番確実な魔法で仕留めにいった。

 「プリンプリンアラモード!」

 マリルの攻撃は、バリアによって防がれてしまった。

 「ちょっと、あなたいったい何をするの?」

 マリルは、当然の疑問を口にした。何故なら攻撃を邪魔したのが、マリルが顕現させたマジカルプリンだったからである。

 どこで見分けるかというと、コスチュームが第二シーズンのブルーコスチュームという分かりやすい違いがあったからだ。

 「どうしてプリンを助けたの?」

 断片によって顕現化したマジカルプリンが、当然の疑問を口にする。

 「同じ姿をしたあなたが消えるのを見ていられなくて」

 「ねえ、わたし達どっちが偽者かなんてどうでもよくない?」

 話が変な方向に向かい始める。

 「いやいや、それはダメでしょ」

 マリルは、話題の軌道修正を試みた。

 「いいえ、プリン達はどちらもマジカルプリン。これからは二人で一緒に戦いましょう!」

 「そうね。それがいいわ!」

 「魔法天使マジカルプリンプリン爆誕!」

 二人のマジカルプリンは互いに手を取り、新しい決めポーズを取った上で、コンビ結成を宣言してきた。

 「主に逆らうなんて、なんてことなのっ! 汝、仮初めの姿に戻れ!」

 マリルは、片方をフィギュアに戻すべく、左手から解除魔法を放射した。

 「プリンプリンアラモード!」

 今度は断片を宿したマジカルプリンが邪魔をしてきた。

 「さあ、二人で悪者さんを倒すわよ」

 「オッケー!」

 二人のマジカルプリンが、マリルに同時攻撃を仕掛けてきた。

 「なんでこうなるの?!」

 一人でさえ厄介なのに二人になった魔法天使の猛攻の前に、マリルは反撃すらできず、逃げることしかできなかった。

 「やもえません。ここはハイパー化させてマジンダムで対抗いたすしかありませんぞ!」

 ホオガからの助言だった。

 「そうなると、あれを使うしかないようね」

 マリルは、ビルの屋上に着地すると二人に背を向けた。

 「悪者さん、いいかげんに観念しなさい!」

 「私がそう簡単に諦めるわけないでしょ! ビックバンキャノン!」

 接近してくる二人に対して、振り向きながらマントの下から出したビックバンキャノンの銃口を向けた。マジンダムが玩具サイズなだけに、マリルには小人サイズだったので、手に持つにはいささか小さかった。

 「グレートスピリッツシュート!」

 指がトリガーに入らないので、魔法で引いて波動を発射した。

 不意を突いた形だったので、狙い通りにバリアを張る隙を与えず直撃させることができた。

 「ひっど~いっ!」

 二人は、昨夜の雷が直撃した時と同じく、衣装の所々が剥がれ、肌が顕になるというあられもない姿になった。

 「もう本気で怒ったんだから~! ダブルハイパーエンジェルモード!」

 二人は、同時に巨大化した。

 「こっちもマジンダムを巨大化させるわよ」

 マリルは、衣装から全ロボットを取り出して、組み立てようとしたが、一つとしてまともに変形させることができなかった。

 「だぁ~! 説明書読んだのに全然うまくいかないじゃな~い!」

 合体機構の複雑さを前に大声を上げてしまった。超○金の合体は見た目以上に複雑なのだ。

 「ここは私が」

 ブルーカイザーから出てきたリュウガが、手早く五体を組み上げている間に、マリルは守を召還した。

 「結局、プランAもBもダメだったか」

 契約魔法によって召喚された守が、やれやれといった感じで返事をした。

 「まったく敵が増えただけだったわ」

 「仕方ないプランCでいくか」

 「あんまり賛成できないけど、それでいくしかないわよね」

 二人は、マジンダムへの搭乗を終えると、二体の魔法天使と正面から向かい合った。

 「さてと、手早くマジカルハンマーを出させるか」

 「ほんとにそのやり方しかないの?」

 マリルが、不満そうに問いかけてくる。

 「一番手っ取り早い方法はこれしかないんだからやるしかないだろ」

 「分かったわ。タイタンハリケーン!」

 マジンダムの足元に緑の魔法陣が大風を起こし、近付いて来るマジカルプリンの”スカートをめくれ上がらせた”。

 「きゃ~!」

 マジカルプリンは、スカートを押さえるのに必死で、攻撃することができなくなった。

 「このくらいでいいだろ」

 守の指示で、マリルはタイタンハリケーンを止めたが、自分がスカートめくりをしたことに対して、なんとも言えない気持ちになった。

 「もう絶対に許さないんだから~! マジカルダブルハンマー!」

 マジカルプリンが、ステッキを最強の必殺武器であるマジカルハンマーに変化させた。

 「悪いロボットさん、これで終わりよ!」

 二つのマジカルハンマーを前にして、マジンダムに両手を突き出させて、真剣白刃取りのように柄の部分を掴み、そのまま離さなかった。

 「ここまでは計算通りだ。マリル、後は頼んだぞ」

 「任せて!」

 マリルは、転送魔法でマジンダムのコックピットから離れ、一番近くのビルの上へ移動して、両手を振ってある集団を召還した。

 それは有朋を筆頭にした二次元愛好会の全メンバーだった。

 「さあ、みんなわたしの言う通りの台詞を言って」

 「はい、マリル様!」

 全員がマリルに様を付けて返事をした。魔法で意識をコントロールすることで、簡易的な従僕になっているのだ。

 「マジカルプリン、もうこんなことはやめてくれ!」

 その言葉にマジカルプリン達は、二次元愛好家が居る方に顔を向けた。

 「僕達の愛するダブルプリンは、こんな破壊行為は行わないよ! お願いだからもう止めてくれ~!」

 切実な言い方による哀願であった。

 「プリン達は、悪いロボットさんをやっつけるんだから邪魔しないで!」

 「そうよ! これは正義の鉄槌なのよ!」

 ダブルプリンは、二次元愛好会の声に耳を貸さず、戦いを続行しようとした。

 「プランCもダメだったか。こうなったらやるしかないか」

 守は、心を鬼にして、ダブルプリンをやっつけようとスティックに力を込めた。

 「プリン! プリン! プリン!」

 有朋達は、突然プリンの名前を連呼し始めた。

 「マリル、何やってんだ? こんな台詞考えた覚えないぞ」

 「私じゃない。彼等が勝手に声を出しているのよ」

 「たぶん、二次元を愛する気持ちが、マリルの魔法を上回ったんだな」

 守は、自分なりの見解を口にした。

 「私の魔法は二次元愛に負けたっていうの~? 信じられないわ・・・・」

 マリルは、驚きと嘆きの言葉を口にした。

 「そうね。プリン達は愛と夢と希望を届ける魔法天使だものね。みんなの声を無視してはいけないわ」

 有朋達の願いが通じたのか、二人はハンマーを収めるとハイパーモードを解いて、元のサイズに戻った。

 「どうにかなったな」

 守は、コントロールスティックから両手を離しながら安堵のため息を付いた。


 「まずはあなたからね」

 「ちょっとの間でも一緒に戦えて楽しかったわ」

 「プリンも」

 二人のマジカルプリンは、共に戦えた喜びを分かち合った。

 その後、有朋のフィギュアから顕現されたマジカルプリンは、マリルの解除魔法によって元のフィギュアに戻った。

 「それで魔導書の断片はどこかしら?」

 「プリンの・・・・・」

 急に顔を真っ赤にしながら恥ずかしがり始めた。

 「どうしたの? はっきり言ってくれないと封印できないんだけど」

 「こ、ここなんですけど」

 もじもじしながらスカートの中を指さす。

 「まあ、背中に無い時点で、そこしかないよな~」

 守は、他人ごとのように納得していた。

 「よりにもよってなんて所に貼り付いているのよ」

 「これはマリルがやるべきだな」

 守が、先手を打つように言った。

 「な、なんで、私~?!」

 「俺か他の誰かにフィギュアとはいえ女子のスカートの中に手を突っ込ませる気かよ?」

 「そ、そんなことさせられるわけないでしょ。もう分かったわよ。私がやるわよ! やりゃ~いいんでしょ!」

 マリルは、両目に涙を浮かべ、半分ヤケになりながら自分の手で断片を取る決断を下した。

 「じ、じゃあ、取り出すわよ」

 マリルは、これから行動する旨をマジカルプリンに伝えた。

 「その~優しくしてくださいね」 

 何故か色っぽい声によるお願いだった。

 「変な言い方しなで!」

 マリルは、両手を震わせながらマジカルプリンのスカートに手を入れた。

 「なんか、生温かいんだけど」

 「ちゃんと体温もあるんだな」

 守が感心する中、お尻を撫でるようにして断片の有りかを探っていく。

 「も、もう少し優しく触ってください」

 マジカルプリンが、恥じらいながら言う。

 「だから、そういう声を出すんじゃないって言っているでしょ!」

 マリル自身も恥ずかしさに、顔を真っ赤にしながら言い返した。

 「マリル様、しっかり!」

 「マリル様、踏ん張り時でござるぞ!」

 「マリル様、きばりや~」

 三人が、揃ってエールを送る。

 「だ~! 集中できないから静かにして! あったわ!」

 手触りで見つけた断片をゆっくり剥がして取り出した後、召喚した白い本に封印したのだった。

 「それでは皆さん、ごきげんよう」

 断片が無くなったことで、魔力の切れたマジカルプリンは、お別れの言葉を言いながら元の等身大フィギュアに戻った。

 「よくやったな。マリル」

 「褒められても全然嬉しくないわ。また一つ穢れた気がする」

 「正義の為の尊い犠牲だ」

 守は、一人で納得しながら言った。

 「おバカ~!」

 「あれ、フウガはどこへ行ったんや?」

 「そういえばおらんでござるな」

 その場に居る全員が、フウガが居ないことに今更のように気付いた。


 「見つけたわよ」

 五人が居る所から離れた場所に立っているフウガは、ある人物に声をかけていた。

 「おやおや、見つかってしまいましたか。このまま眺めているつもりだったのですが、退散の時期を誤りましたかな」

 ビルの上に立っていた紳士は、驚く様子もなく言い返してきた。

 「いったい、何が目的なの?」

 普段のフウガからは考えられないくらいに鋭いトーンでの質問だった。

 「あなたと同じですよ。退屈なのが嫌いなだけです」

 「確かに退屈は嫌だけど、こうやって他人に迷惑をかけるのは大嫌いよ!」

 フウガは、大鷲に変化して飛び掛かかり、右足で紳士を鷲掴みにした。

 「このままマリル様の所へ行って、洗いざらい白状してもらうわよ」

 「残念ながらそうはいきません」

 紳士は、右足から消えるなり、背後に姿を見せ、ステッキの一振でフウガを吹っ飛ばして、ビルの壁に叩き付けた。

 「私は手荒なことは嫌いなので、今日はこれで失礼します」

 「名前くらい名乗りなさいよ」

 人間態に戻ったフウガが、悔しそうに唇を噛み締めながら名前を聞いた。

 「あなたに名乗る名前はありません」

 紳士は、返事をすると転送魔法のように、どこかへ消えてしまった。

 その間、マリルは二次元愛好会全員の記憶を消した上で家に帰し、最後の仕上げとして等身大フィギュアを元の場所に戻したのだった。

 こうして一部を除いて、魔法天使事件は無事解決し、フィギュアが戻ったことで、製作会社&メーカー側は今回の事件に無関係であることが証明され、BD-BOXも無事に発売されて、イベントの開催も確約され、二次元愛好会を含む多くのファンを安心させることになった。

 なお、フィギュアを見つけた人達にお礼をしたいとTVを通じて製作会社が声明を発表したが、六人とも名乗ることはなかった。


 「しばらく魔法天使なんて見たくもないわ」

 事件解決のニュースを邸のTVで見ているマリルが、ため息混じりに言った。

 「ねえねえマリル様、新しい衣装仮縫いができたのですけど見てくださる?」

 意気揚々と部屋に入ってきたフウガの言葉だった。

 紳士に負わされた傷は浅く、すぐに回復したのだ。

 「いいけど」

 「じゃじゃ~ん、魔法天使マジカルプリンよりも可愛い衣装ですわよ~」

 自慢気に新しい衣装を掲げて見せた。

 「ロデオノホ」

 マリルは、衣装を一瞬にして灰にした。

 「きゃ~! あたしの傑作が~! マリル様、あんまりですわ~!」

 フウガは、灰と化した衣装を前に大泣きした。

 「いい? 今後マジカルプリンの話題を私の前でしたら絶対に許さないわよ」

 「は、はい。分かりましたわ」

 憤怒の表情を浮かべるマリルを前に、フウガは従う他なかった。

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