第14話 魔法天使VS魔法少女。~前編~
四方の魔女ことマリル・アウグステゥス・ファウストには、リュウガ、ホオガ、ライガ、フウガという四人の従僕が居る。
彼等の主な役目は、マリルの身の回りの世話と戦闘時のサポートである。
主であるマリルが居ない間は何をしているのかというと、邸の清掃を終えた後は、アキハバラに赴き、黒い魔導書の断片の探索を行っているのだった。
探索方法は四人ということで、東西南北に別れ、断片は発する微かな魔力を探っていくというもので、これまでに発動前の数十枚を発見して封印するという成果を上げていた。
今日の探索を終えた四人は、アキハバラ駅北口に集合していた。マリルの写真撮影会以降、集合場所として利用しているのである。
正装服姿の男が四人も集まっている光景を目にした通行人達から何かのコスプレイベントかと囁かれていたが、四人は全く気にしていなかった。
「私の方は何も発見できなかった」
「拙者も同様でござる」
「わいもなんにも見付けられんかったで」
「あたくしの方もさっぱりよ~」
リュウガを皮切りに探索結果を報告していく。
「今日も収穫無しだったか」
「ここ最近全く発見できんでござるな」
「ほんまや、ついこの間まではちらほらあったのになんでや?」
「あたくし達以外の誰かが全部集めちゃっているんじゃないかしら?」
「誰かとは?」
リュウガが、聞き返えしてきた。
「そりゃあ、悪い魔法使いに決まっているでしょ」
「何故、そう思うのでござる?」
「黒い魔導書は最重要封印案件よ。欲しがる悪い奴等は幾らでもはずよ」
「せやかて、次元飛翔魔法を使えるレベルの悪い魔法使いは全員投獄中なんやから無理やろ」
「向こうが把握していないだけかもしれないわ。連中だって全ての情報を開示しているわけじゃないね~」
フウガは、表情はそのままに、不振を示すような低い声で返事をした。
「とりあえず、怪しい気配を察知したら早急に対処するんだ。それとここからは自由行動とする。くれぐれもハメを外し過ぎないようにしろ。いいな」
リュウガが、三人に対して、頭の固い教師のような言い方で、自由行動への注意を促していく。
「分かっているでござるよ」
「心配せんでもええがな」
「そうよ。あたし達がそんなバカなことをするわけないでしょ~」
「では、解散」
四人は、その場で別れ、自由行動に入った。
邸の管理に断片の探索など、その日の日課を終えた後は、緊急の呼び出し以外の時間を自由に行動していいと、マリルが許可しているからだ。
四人の行動範囲は、アキハバラ内に限られていた。精霊という人ではない身で在りながら、すっかりアキハバラに魅了されていたからだ。外国人がアキハバラにハマるのと同じ心理作用が、彼等にも働いているのだろう。
それぞれが別行動に入る中、フウガはコパスに来ていた。
「これはなかなか良いわね~。マリル様の魔法使いの衣装も痛みが激しくなってきたからいっそのこと、ここにあるもので新調しちゃおうかしら~」
などと言いながら、マリルのイメージに合う生地を選んで買っていった。
「お買い物も終わったし、そろそろ戻らないと。あら、あれは何かしら?」
コパスを出たところで、入る前にはなかった大きな人だかりを目にした。
「なんだか面白そうね~」
どうして人が集まっているのかと興味を抱き、近くへ行ってみることにした。
人だかりの中心にあったのは、一体のフィギュアだった。
丸顔で目が大きい割りに唇は小さい顔立ち、金髪のロングパーマに白いフリフリのワンピースの衣装を身に着け、背中には翼が生え、右手に持ったステッキを天に掲げた決めポーズを取っていた。
フィギュアを乗せている台座には「魔法天使マジカルプリン コンプリートBD-BOX発売記念等身大フィギュア」と書かれたプレートが付けられていた。
このような仕様である為、集まっているのは当然のことながら大半が男性ヲタクであり、写真撮影&SNS投稿OK というパネルがフィギアの横に置かれているとあって、スマホなどで写真を撮りまくり、中には危うい角度で撮っている輩までいるほどだった。
「ふ~ん、実際のマジカルプリンってこんな大きさなのね。それにしても魔法天使だなんてこの世界の人間ってばほんとおもしろいネーミングを考えるわね。感心しちゃう。どれどれ衣装の出来はどうかしら~?」
フウガは、フィギュア本体よりも身に纏っている衣装に興味をそそられ、ヲタク達を軽やかにすり抜け、フィギュアの周りを一周しながらじっくりと観察していった。
「デザインは自体はかなりいいけど色合い的に白が多めかしら。マリル様の新しい衣装の参考にはちょっとならないわね~。あら、やだ。もうこんな時間だわ。早く集合場所に行かないとリュウちゃんが怒るわね」
その場を離れたフウガは、急ぎ足で集合場所に向かった。
北口にはすでに三人が来ていて、それを見たフウガはしまったと軽く舌打ちした。
「フウガ遅いぞ。待ち合わせ時間に遅れてはいないが、もう少し時間には気を配れ」
リュウガが、近付いてくるフウガに向かって、引率の教師のような小言を口にした。
「ごめんなさ~い。ちょっと珍しいものを見ちゃったものだから~」
遅れた理由を説明する。
「珍しいものとはなんでござるか?」
ホオガが、興味津々といった様子で聞いてくる。
「魔法天使マジカルプリンの等身大フィギュアよ」
「マジカルプリン? この世界の甘い食い物かいな?」
ライガが、首を傾げながら尋ねてくる。
「まもちゃんの好きな巨大ロボットアニメとは別ジャンルの美少女キャラクターよ。等身大フィギュアになるくらい人気のあるキャラなんだから」
フウガは、マジカルプリンに付いて簡単に説明した。
「魔導書の気配はあったのか?」
「全然だったわ。ただ男の子達の欲望をおもいっきり集めていたから警戒してもいいかもね」
「そうか。一応マリル様にも報告しておこう。よし、全員揃ったところで食材の買い出しに行くぞ」
リュウガを先頭に歩き出した四人は、近くの駐車場に止めている高級外車に乗って、最寄りのスーパーに向かった。
主であるマリルは、魔力補給の為に大量の食物を摂取する必要があるので、毎日の買い出しは必須なのだ。なお、食材を直に吟味できないとしてネットの宅配サービスは、一切利用していなかった。
「あれはなにかしら?」
数時間後、学校帰りにアキハバラに来ていたマリルは、マジカルプリンフィギュアの人だかりを目にしていた。
「何かの集まりみたいだけど、ちょっと行ってみましょうよ」
隣を歩いている桜が、興味津々といった様子で提案してきた。
「そうね。ちょっと見てみましょうか」
他二名のクラスメイトと一緒に人だかりの中心に行ってみると、フウガがじっくり観察していたマジカルプリンの等身大フィギュアとご対面することになった。
「ゔっ」
フィギュアを目にした途端、マリルは言いようのない気持ちにさせられた。
アニメキャラという架空の存在とはいえ、自分と同じく魔法を使う少女が、このような破廉恥な恰好をしていることに対して、今だに強い抵抗感を抱いているからだ。
「何かと思えばヲタク向けフィギュアじゃない」
「どうしてヲタクってこの手の女の子が好きなのかしら? 理解に苦しむわ」
「ここはヲタクの聖地アキハバラだからしかたないんじゃない」
桜を含むクラスの女子達が、フィギアに向って次々に否定的な言葉を掛けていく。この手のジャンルは、普通の女子には理解できないものなのだ。
「あれ~? そうえいば前にも似たようなことがあった気がしたんだけどなんだったかな~?」
桜が、記憶を掘り起こすように視線を上に向けながら言ってきた。
「私もそんな気がする」
「私も~」
「みんな、ここはもういいからお店に行きましょ」
マリルは、急かように三人を強引にフィギュアから引き離して、今日の目的地であるスィーツ店に行くよう促した。
何があったのかというと、アキハバラを破壊しようと目論んでいた混沌の魔女を誘き出すべく、駅北口にてコスプレ写真撮影会を行い、翌日に前日の公約として掲げた水着撮影会を行ったことがあるのである。
そして水着撮影会の終わりに参加者全員の記憶と画像を消去したことで、自身の存在と水着姿を世に出すのを水際でくい止めたのだった。
マリルにとってあの時の行為は、強烈なトラウマにして、なにがなんでも消したい過去なので、絶対に思い出させるわけにはいかないのである。
三人を押すように歩いている中、早くあのフィギュアが撤去されますようにと心から願うのであった。
その夜、予想通りの事件が起こった。
「魔法天使マジカルプリンが、みんなに愛と幸せをお届けしま~す♡」
等身大のマジカルプリンが、決め台詞を言いながら夜空を飛び回り、ステッキを振ることで放出される光の粒子をまき散らし、それを浴びたものは人、乗り物、建物を問わずに花が咲き、アキハバラ中を一夜にして花の都に変えてしまったのである。
当然その被害に合った一般人は仰天していたが、ファンでるヲタクは実物を見れたことに大喜びし、写真を撮った者達が、即座にSNSにアップした為に瞬く間にネット中で話題になり、各ニュース番組でも取り上げられるなど世間を大いに騒がせることになったのだった。
「守、ニュース見た?」
バイトが終わって家に帰ったところで、左手に施されている家紋を通して、マリルからの交信が入ってきた。
「なんのニュースだ?」
ワザと聞き返す。
「マジカルプリンに決まっているでしょ」
「やっぱそれか。店のテレビでちらっと見たよ。今回もまたえらいことになっているな。やっぱり魔導書の仕業か?」
「間違いないわ。あんなことできる技術がこの世界にあると思う?」
「無いよな。それにしてもあの魔法少女はいったいどこから沸いてきたんだ。どこかに材料があるはずだよな」
「多分、昼間見た等身大フィギュアね。材料になるものといえば、あれくらいしか思い当たらないし」
「それ、あたくしも見たわ。全体的な出来栄えからすれば材料としては申し分なかったわね」
フウガが、交信に割り込んでくる。
「なるほど、等身大フィギュアに欲望が集まって断片を引き寄せたってわけか。アキハバラらしいな」
「感心している場合じゃないでしょ」
マリルが、呆れたように言い返してくる。
「それでフィギュアの魔法天使はどこへ行ったんだ?」
「私達が現場に行った時には姿を消していたわ。多分まだ力が固定されていないから短時間しか活動できなかったんだと思う」
「なるほど、それで設置場所へは行ったのか?」
「行ったけど、戻ってなかったわ。アキハバラ中を探したけど、気配すら感じなかった。ほんとにどこへ消えたんだか」
「それなら明日、もう一度行ってみた方がいいんじゃないのか? もしかしたら戻ってきているかもしれないし」
「そうね。それと今回は守とマジンダムの出番はないと思うわ。巨大化する前に決着を付けるから」
「そうしてくれると助かるよ。元がフィギアとはいえ、女の子と戦うのは気が引けるからな」
言い終えた後、マリルとの交信を終了した。
翌日、従僕達は、フウガを先頭にアキハバラに来ていた。
フィギアが元の設置場所に戻っていた場合、金銭的手段でフィギアを買い取って、断片を回収することで、事件の再発を防ごうというマリルの策だったのだ。
フウガが、先頭なのは設置場所を知っているからである。
移動の最中、道路や建物の周辺では花の除去作業が行われていた。一見すると綺麗であるが、そこいら中に咲かれると通行の邪魔になるだけだからだ。
設置してあった場所に着いたものの、やはりフィギアは無く、代わりに「昨夜の事件は当社とは一切無関係であり、フィギアの行方も分からず、情報提供求む」という看板が置かれ、少数ながらもその看板を写真に撮っているヲタクも居た。
また、それとは別に「事件解決までBDーBOX発売は未定とさせていただきます」という告知看板も置かれていた。
「やっぱり無いわね」
「マリル様にご報告して対策を練らないとな」
「ここに何かあったのですか?」
右手に杖を持ち、黒いシルクハットを被った紳士が、四人に話かけてきた。
「ここに置かれていたマジカルプリンとかいうアニメキャラの等身大フィギアが無くなったのでござるよ」
ホオガが、くわしく丁寧に説明した。
「それは大変ですな。盗まれたのですかな?」
「そうやないけど、どこに行ったか検討も着かんし、ほんまに難儀なわ」
「探し物はひょっこり現れるかもしれませんし、あまり気を張り過ぎないことですな。さあ、行きましょう」
紳士は、少し離れた場所で待っている十才くらいの女の子と手を繋ぐと、その場から去っていった。
「あの後ろ姿・・・・・まさかっ」
フウガは、紳士と女の子に向かって、一瞬不信そうな目を向けた後、跳び跳ねるようなスピードで追いかけたが、どこにも見当たらなかった。
「どうしたんだ。フウガ? 突然駆け出したりして」
追いかけてきたリュウガが、行動理由を尋ねてくる。
「ちょっと気になることがあったんだけど、まあいいわ」
フウガは、曖昧な返事で誤魔化した。
「それよりも今はマリル様にご報告だ」
四人は、誰も見ていないことを確認した上で、ブレスレットの転送魔法機能を使って、その場から移動した。
その夜、マリル達はアキハバラの各所に散って待機していた。マジカルプリンを発見次第集合して倒そうという作戦なのだ。
なお、守は昨夜のマリルの言葉通り、今回の作戦には不参加であった。
「マリル様、現れましたわよ」
夜の七時を過ぎたところで、フウガが昨夜と同じく空飛び、決め台詞を言いながら光の粒子を振り撒いて、花を咲かせているマジカルプリンを発見した。
「すぐそっちへ行くわ!」
知らせを聞いたマリルを含む四人は転送魔法を使い、マジカルプリンの真っ正面に当たるビルの屋上に集結した。
「そこまでよ!」
マリルは、マジカルプリンに大声で呼び掛けた。
「あなた達いったい誰?」
呼び掛けに応じて停止したマジカルプリンが、当然の疑問を口にする。
「これ以上混乱を招かない為にもあなたをこの世界から消させてもらうわ」
言葉の内容としては決して間違ってはいないのだが、聞き方によっては悪役の台詞みたいになっていた。
「プリンの邪魔をするってことはあなた達は悪い人ね~。だから変な格好をしているのね~」
マジカルプリンは、ステッキの先で、五人を指しながら言った。
「へ、変な格好ですって~?! あなたに言われたかないわよ! 真っ白なフリフリな服なんか着ちゃってさ~!」
服装を揶揄されたことで、頭に血が上ったマリルが大声で怒鳴り返した。
「プリンのコスチュームは大天使様から授かった聖なるものだも~ん」
左手を胸に当てながら、コスチュームの良さをアピールしてきた。
「私の衣装だって最高級品の生地で出来ているんだから~!」
マントの裾を持ちながら質の良さをアピールした。
「マリル様、どうか冷静に」
リュウガが、落ち着かせようと言葉を掛ける。
「そ、そうね。ともかくこれ以上好きにはさせないわ!」
「人の幸せを邪魔する人はこの魔法天使マジカルプリンが天罰下しちゃうぞ!」
五人に向かって、決めポーズを取りながら決め台詞を言い放ってきた。
「やれるものならやってみなさい。たかがフィギュア如きに負けはしないわよ!」
「プリンプリンアラモード!」
呪文とも取れる言葉を口ずさみながらステッキを振って、光の粒子を飛ばしてきた。
「私達を花だからけにでもするつもり? 随分と甘くみられたものね」
マリルが、余裕を見せているところで、粒子は火器レベルの大爆発を起こした。
「今のはなに? いったい何が起こったの~?!」
四人が盾になったことで、無傷で済んだマリルは、事態を把握することができず、ただただ驚愕するばかりだった。
「もしかすると魔法ではないでしょうか?」
リュウガが、自身無さげに返事をする。
「あんなふざけた魔法なんてあるわけないでしょ!」
「どう? 悪ものさん達反省した?」
マジカルプリンが、両手を腰に当て、余裕の表情を浮かべながら反省を促してくる。
「こんなことで本物の魔法使いであるこの私が負けるわけないでしょ。ロデオノホ!」
マリルは、両手から炎を出した。
「プリンプリンアラモード!」
ステッキを振ると、今度はピンク色のバリアが出現して、炎を防いだ。
「なんで、あんな滅茶苦茶な言葉で魔法が発生するの?」
「おそらくアニメのキャラだからその設定が反映されているのですわ」
フウガが、自身の考察を口にする。
「アニメの魔法少女はあんな変な言葉で魔法を自在に操るっていうの? まったく冗談じゃないわ!」
「ともかくあの
「せやせや。厄介な相手な分、こちとらほんまもんちゅうことを見せなあきはへんで」
「そうね。全員で一斉攻撃して!」
マリルの合図で、従僕達がそれぞれの特性による一斉攻撃を行った。
「プリンプリンアラモード!」
さっきと同じようにバリアを張って、四人の攻撃を防いだ。
「そこ! ロチオマズナイ!」
マリルは、バリアが張られていない真上から雷を落として、マジカルプリンに攻撃を命中させた。
「やったかしら?」
雷の直撃を受けたマジカルプリンは、両膝を付いた状態で座り込んでいて、全身からは煙を上げ、衣装の所々が焼け落ちたことで白い艶やかな肌が顕になり、両手で胸を覆うというあられもない姿になっていた。
「あなた達は見るんじゃない!」
マリルは、従僕達にマジカルプリンを見ないよう指示した。
「ひっど~い! 大天使様からお借りしたコスチュームがボロボロになっちゃった~。プリンにこんなことしていいと思っているの~?!」
涙目を向けながら、怒りをぶつけてきた。
「気の毒だけど封印させてもらうわよ」
マリルは、次の攻撃でトドメを刺そうと右手を翳した。
「もう本気で怒ったんだから~! マジカルプリンハイパーエンジェルモード!」
左手で左右の胸を隠しながら、右手に持ったステッキを頭上に掲げると、先端から強烈な光が放射され、その光を浴びたことでマジカルプリンは巨大化し、それに合わせて衣装の胸や肩やブーツに鎧のような装飾が追加されていった。
「魔法少女が巨大ロボット並みに大きくなった~?! マジカルプリンってどんな設定なのよ~?!」
巨大化した魔法少女を前に、マリルは目を剥くほどに大仰天した。
「どう、悪ものさん。降参するなら今の内よ」
マジカルプリンが、ドデカい頭を五人にぐ~っと近付けながら降伏を促してきた。
マリルは、ただでさえ大きいのに巨大化したことでさらに大きさを増した二次元の特有の瞳に睨まれたまま返事をせず、転送魔法を使って、マジカルプリンの真後ろに位置するビルに移動した。
「これまで戦ってきたどんな相手よりも滅茶苦茶だわ~」
マリルは、巨大化したマジカルプリンに対して、悪態を付いた。
「あの巨大化はアニメにあるもの設定ですわ。まさかあの設定まで再現されるとは思いませんでしたけど」
「随分くわしいわね」
マリルが、フウガに対して、猜疑心のたっぷり籠った視線を向ける。
「お話は後で、こちらもまもちゃんとマジンダムを呼んで対抗しましょう」
フウガが、話題を逸らすように対抗策を提案してくる。
「そうね。前言撤回になっちゃうけど、こうなったらマジンダムで戦うしかないものね」
マリルは不本意ながらも、アキハバラに居る人間全てを避難させ、守を召還した後に続いて、マジンダムを召還して巨大化させた。
「なんだよ。こうなる前に決着付けるんじゃなかったのか?」
召喚された守が、当然の不満を口にする。
「できなかったから呼んだんでしょ。あれを見て」
悔しそうに巨大化したマジカルプリンを指差す。
「あれじゃあ、呼ばれてもしかたないか。そうそう戦いが終わったらすぐに店に来ておじさんの記憶消してくれよ。バイトの最中に召喚されたんだから」
召喚された事情を理解しつつ、戦闘後の執り成しを要求した。
「分かっているわよ」
マリルは、やや不満そうに記憶消去を了承した。
二人の搭乗と従僕の融合が済み、マジンダムは戦闘体勢に入った。
「まさか魔法少女と戦う羽目になるとは思わなかったな~」
守は、初めてマジンダムに乗った時のトキメキはどこへやら、失望とも絶望ともつかない複雑な気持ちに苛まれていた。
元がフィギアとはいえ、戦う相手が女の子だからだ。
「守、正面を見なさい。あれは魔法少女なんかじゃないわ。私達が倒すべき敵なのよ。覚悟を決めなさい!」
マリルが、前抱っこ姿勢を強いられ、戦意を失い欠けた時に守に聞かされた言葉を用いて、戦う意義を説いた。
「分かっているよ」
守は、心を鬼にして戦う決意を固めたものの、殴る蹴るといった近接戦闘はできるだけ避けようと思いながら、機体をマジカルプリンの正面に向けた。
「マジカルプリン、こっちを向きなさい」
外部スピーカーで呼び掛けた。
その声に反応したマジカルプリンが振り返ったことで、マジンダムと正面から対峙することになり、摩天楼を舞台に巨大ロボットと魔法少女が向かい合うというどんなアニメにもないシチュエーションが出来上がったのだった。
「その声はさっきの悪ものさん達ね。そんなでっかい巨大ロボットさんを呼ぶなんて相当悪い人達なのね」
マジカルプリンが、ステッキの先をマジンダムに向けながら、正義の味方らしい台詞を言い放ってきた。
「悪事を働いているのはあなたの方でしょう。なんで私達をいちいち悪者扱いするのよ!」
「あの手のキャラは自分に向かって来るものはどんなものでも悪者になるんだよ」
「もうっ! さっさと片付けるわよ!」
物凄い苛立ちを感じさせる声だった。
「プリンプリンアラモード!」
お馴染みの台詞を言いながらステッキを振って、光の粒子を放出してきた。
「気を付けて、あれは爆発するのよ」
「ほんとか?」
マジンダムをバックジャンプさせた瞬間、光の粒子は一斉に大爆発を起こして、凄まじい勢いで前方を爆炎で覆っていった。
「ほんとに爆発したぞ!」
「言った通りだったでしょ」
その後もマジカルプリンは、爆発魔法を連発した。
「このままじゃ埒が明かないな。アースシールドで防御しなかわら突撃しよう」
「そうね」
召喚したアースシールドを前面に出しながら、マジカルプリンに向かって行った。
「プリンプリンアラモード!」
台詞は同じであったが、光の粒子は出ず、その代わりに空からマジンダムよりも大きな超特大サイズの分銅が、勢いよく落下してきた。
「あっぶね~! 今時の魔法少女はあんな危ないものまで呼ぶのかよ?!」
ギリギリの距離で回避し、道路に半分以上めり込んでいる特大分銅を見て、マジカルプリンの力に驚愕した。
「ほんと、アニメの設定がここまで凄いとは思わなかったわ~」
マリルもまた驚愕していた。
マジカルプリンは、その後も容赦なく攻撃を繰り返し、雨霰のように降ってくる分銅を回避するので精一杯になった結果、アキハバラ中が分銅だらけになっていった。
「このままじゃ手も足も出ないわ。なにかいい案は無いの?」
マリルが、打開策を尋ねてくる。
「そうだ。この前のゾウさんみたいに防御魔法陣で封じ込めよう」
「そっか、その手があったわね」
マリルは、六方から防御魔法陣を展開して、マジカルプリンを囲っていった。
「どういうこと~? 出られな~い!」
マジカルプリンは、ステッキで防御魔法陣を突くなどして、脱出しようともがいた。
「今の内にトドメよ」
「プリンプリ~ンマジカルハンマー!」
これまでの呪文の後にハンマーという別ワードが追加されると、ステッキはピコピコハンマーに変わり、防御魔法陣を叩くと割れ物のように粉々に粉砕していった。
「おいおい、あのピコピコハンマー魔法陣を破壊したぞ。いったいどうなっているんだ?」
「もう訳が分からないわ~!」
二人が驚く中、急接近して来たマジカルプリンがハンマーを振り降ろし、マジンダムが回避すると周辺のビルに当たって粉々に破壊されていったが、その際の破壊音がピコピコハンマー特有のものだったので、悲壮感の欠片もなかった。
「ダブルストレートサンダー!」
両手から稲妻を出したが、マジカルハンマーに打たれると黄色の塵にされてしまうのだった。
「ライトニングスピア!」
黄色の魔法陣から召喚した矛で対抗したものの、マジカルハンマーの一撃であっさり折られてしまった。
「スピアが折られた~? 信じらんね~?!」
「守、驚いていないで操縦に集中して!」
その一瞬の油断によって、胸部にハンマーの直撃を喰らって吹っ飛ばされ、建物を破壊しながら地面に激突させられた。
「機体のダメージは無しか。さすがは超○金だ」
コンディションデータを見ながらマジンダムの耐久性に感謝していた。
「感心している場合じゃないでしょ。こうなったらビックバンキャノン使うわよ」
マジンダムの体勢を整える中で、マリルが提案してきた。
「あれは最大技の一つだぞ」
「いいからっ! 迷っている場合じゃないでしょ」
「分かった。ビックバンキャノン!」
二人の合唱に合わせて、マジンダムから分離した四パーツが組み合わさることで形成されたキャノン砲を両手で持って、マジカルプリンに銃口を向け、狙いを定めた。
「これで終わりよ! グレートスピリッツシュート!」
キャノン砲から発射された極太の波動を前に、マジカルプリンは避けようともしなかった。
「プリンプリンアラモード! マジカルサイクロ~ン!」
その台詞の後、マジカルハンマーを高速回転させることで、波動を粒状レベルで分解してみせたのだった。
「グレートスピリッツシュートまで無効化できるなんて信じられない!」
「そうだ。あのハンマーを奪えばいいんじゃないのか? そうすれば無防備になるだろ」
「そうね。その手でいきましょ。ガイアハンマー!」
左右に展開した黒い魔法陣から召喚した鎖付きハンマーを両手で持ち、回転させながら勢いを付けて、マジカルハンマー目掛けて振った。
狙い通りにハンマーに鎖を絡ませることに成功して、おもいっきり引っ張ると拍子抜けするほど、あっさり奪うことができた。
「今までの恨みたっぷり晴らして上げる」
マリルは、無防備なマジカルプリンに対して、怨念のたっぷり籠った言葉を掛けた。
「いや~! 怖~い! プリン、今日はもう帰る~!」
そう言うと夜空の彼方に消えていった。
「なんだったの。あれは?」
あっという間の出来事にマリルは、後を追うことさえ忘れてしまった。
「まあ、魔法少女だろうな」
「私、魔法少女アニメがもっと嫌いになりそう」
表情は見えなかったが、声を聴いただけで、マリルの中でアニメの魔法少女嫌いが加速していくが分かった。
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