第11話 グレート合体と魔法少女。

 アキハバラ駅北口。

 他の出入り口と違い、ロータリーの幅が広いので、夕方近くになれば誰かしらが、自主イベント行うこの場所にマリルは土曜の真っ昼間から立っていた。

 「ご通行中のみなさ~ん、はじめまして~♡ 私、林マリルって言いま~す♡ イギリスのロンドンから来たアニメ大好き女子で~す♡ 今日は大好きな魔法少女アニメの恰好をしてきました~♡ 良かったら私の写真い~っぱい撮ってくださいね~♡」

 用意されたハート型の特設ステージの上に立つマリルは、ひらひらのフリルがふんだんに使用された衣装を身に纏い、右手にはアニメの魔法少女が持っていそうなステッキを持ち、左手に持つマイクでもって、アイドルさながらの口上を述べているのだった。

 これが極普通の一般人であったなら道行く通行人も「なんか知らない子が真っ昼間からコスプレイベントやっているな~」くらいにしか思わないところであるが、絶世の美少女であるマリルのアニメコスプレとあって、写真を撮ろうと大勢のヲタクが群がってきた。

 「ルールはきちんと守るでござるぞ」

 「ルールは守る為にあるもんやさかいな」

 「ルールを破る悪い子はおしおきしちゃうわよ~」

 ホオガ、ライガ、フウガの三人は、混乱が起きないよう人数整理に勤しんでいた。

 「それとお写真を撮られた方は、こちらの受付にてSNS登録をお願いいたします。そうしていただければとってもハッピーなお知らせをお届けいたしますよ」

 ステージ脇に設置されているテーブルでは、リュウガがSNSの登録受付を行っていた。

 本イベントの仕掛人である守は、ステージから少し離れた場所に立ち、イベントの盛況具合をアイドルのプロデューサーのように眺めているのだった。

 「鋼君、凄いよ! 最高だよ! あの方は至高の逸材だよ~!」

 すぐ近くに居る二次元愛好会筆頭の西園寺有朋が、歓喜の声を上げ、それに合わせて後ろの二人も満面の笑みを浮かべて頷いているのだった。

 「な~に、”おたくらの用意してれくた衣装とステージ”のお陰だよ」

 「はっはっはっは、我等二次元愛好会ならお安い御用だ。あの方のご衣装をご用意できるなんて、二次元を貫いてきて今日ほど良かったと思ったことはないよ」

 今回の作戦の一つである本イベントを盛り上げる為に二次元愛好会に声をかけ、アキハバラ受けする衣装を用意させたのだ。工場帰りの深夜だったこともあり、半分ダメ元で連絡したのだが、マリルの名前を出すなり全員大喜びで協力を引き受けたのである。

 「今まで、君のことをただのロボットヲタクだと誤解していたが、これからは同士と呼ばせてくれ」

 言いながら友好の証である握手を求めてきた。

 「いいぞ」

 心の中では”勘弁してくれ~”と思っていたが、ここで彼等の機嫌を損ねてはまずいと思い、快く握手に応じた。

 「話は聞かせてもらったわ。鋼君、これはいったいどういうこと?」

 四人に声を掛けてきたのは、クラス委員長である桜で、その後ろにはクラスメイトの女子二人が立っていた。

 「委員長じゃないか。なんでアキバに居るんだ?」

 「ちょっと買い物。それよりもあのイベントはなんなの?! マリルちゃんにあんな恥ずかしい恰好させて、いったい何が目的なの?!」

 まくし立てるように話す桜の顔には、憤怒の表情が浮かび、声には殺意が込められているなど、体全体で怒りを顕にしているのだった。

 「あれはだな、林さんから日本をより深く知る為に是非ともレイヤー体験をしてみたいっていう相談を受けだけど、生憎俺は専門外だから知識が豊富な彼等二次元愛好会の協力を得て行っているんだ。コ○ケはまだ先だからな」

 表面的なイベント概要を包み隠さず話した。この点に関しては口外しても守自身に取っては、全然問題無かったからだ。

 なお、二次元愛好会の三人は、怒れる桜に恐怖するあまり完全に萎縮し、守の背中に隠れてしまっていた。

 「その相談の結果があの有様ってわけ? マリルちゃんに変な日本文化を植え付けないで」

 「そんな風だからおたくらに相談しないで俺に相談してきたんだろ。今みたいに真っ向から否定されたんじゃ、レイヤー体験もなにもあったものじゃないからな」

 「確かにそうだけど、だからって、あんな恥ずかしい恰好じゃなくてもいいでしょ。もっとこう品のある可愛さというかなんというか・・・・」

 具体的例が思い付かないらしく、視線が定まらないまま言葉に詰まっている。

 「うだうだ言っていないで、林さんの格好をようく見てみろよ」

 その言葉に乗せられるように桜を含む女子達は、改めてコスプレ姿のマリルに目を向けた。

 「か、可愛い・・・・」

 三人揃って、頬を赤く染めて恍惚の表情を浮かべていった。

 「だろ~」

 うまく口車に乗せることができたわけだが、これも全てはマリルの美少女ならではの効果だった。

 「だけど、やっぱり女の子にあんな恰好はさせおけないわ。学校に知られたら大変じゃない」

 頬を赤く染めながらも抵抗の意思を示しす桜に対して、さすがは委員長を務めているだけのことはあるなと感心した。

 「なら、彼も呼ぼう。リュウガ、ちょっと来い」

 手招きして、リュウガを呼び寄せた。

 「守様、なんでございましょうか?」

 「この三人、主様のご学友なんだ」

 三人を簡単に紹介する。

 「マリル様のご学友でございますか、わたくし身の回りのお世話をしておりますリュウガと申します。これからよろしくお願いいたします」

 リュウガは、守との初対面と同じ要領で自己紹介をした。

 「・・・・・・・・」

 女子達は、マリルのコスプレ姿を見た時とは違い、両目がハートになるほどの恍惚の表情を浮かべたまま、言葉を失っていた。

 「どうだ。超カッコいいだろ? この件を認めてくれるのなら個別で写真を撮らせてやってもいいんだぜ~」

 守は、悪徳商法の犯人さながらの表情が浮かべながら、イベントを邪魔しない条件を提示した。

 「認めるからお願~い」

 三人揃って懇願してきた。完全にリュウガの虜になっていたのである。

 「その前に林さんの写真撮ってこいよ。ゲリライベントだからいつ終わるか分からないぞ」

 そうすることで三人を体よく厄介払いして、リュウガに戻るよう指示した後、二次元愛好会の三人とイベント見守る姿勢に戻った。

 イベントは時間を追うごとに盛況さを増し、一時は溢れんばかりの人だかりになったが、三人の奮闘によって大きな混乱も起きずに済んだ。

 「ざんね~ん、もうお別れのお時間で~す♡ でもでも大丈夫。マリルは今夜もう一度ここに戻ってきま~す♡ しかも今度は”水着撮影会”やっちゃいますよ~♡」

 その告知を耳にして歓喜に湧いたヲタクどもは、アキハバラを震撼させるほどの雄叫びを上げたのだった。

 イベント終了後、ステージから降りて、三人にガードされながら車に乗り込み、約束通りクラスメイト三人と写真を撮ったリュウガの運転で、大勢のヲタクと二次元愛好会に見送られながら一行は、屋敷へと帰還したのだった。


 ふりふり衣装から解放されたマリルは、紺という地味な色合いの室内着を身に纏い、暖炉の部屋にある長椅子に寝転んだまま、目は虚ろで口を半開きにした魂の抜け殻のような状態になっていた。

 「わたしは、いったいなに?」

 生気を全く感じさせない声による質問だった。

 「我らの主にございます」

 側に控えているリュウガが即答する。

 「主って、いったいなに?」

 「偉大な魔法使いでござる」

 ホオガが応える。

 「魔法使いって、いったいなに?」

 「万物を操る人でございますがな」

 ライガが応える。

 「その力を使える人って、いったいなに?」

 「マリル様のことでございますわよ」

 フウガが応える。

 「マリルって誰?」

 「いいかげん現実に目を向けろよ」

 守が、やれやれとため息を吐きながら応える。

 「こうなったのも誰のせいだと思っているのよ! なんであんな恥ずかしい恰好して恥ずかしい台詞を言わなきゃいけないの? 私が何をしたっていうわけ~?!」

 マリルは、スイッチを入れられた人形のように長椅子の上をゴロゴロしながら、イベントで溜まりに溜まった鬱憤を大声でぶちまけた。

 その仕草を見て守が呆れる一方で、四人の従僕達は主の”レアな姿”を見られた喜びに打ち震えていた。

 「これも混沌の魔女を引っ張り出す為の作戦だ。林さんも納得した上で実行したんだろうが」

 「それにしても嫌な予感通りの嫌な作戦だったわ」

 完全にふてくされているマリルは、本作戦を思い付いた時の守の顔が、どう見ても悪企みをする子供にしか見えず、物凄く嫌な予感を抱えながら内容を聞いてみれば、見事に的中していたわけである。

 「ああやって目立ちまくってまた来るって言えば、林さんを仕留めようと必ず姿を見せるはずだ。マジンダムの性能のお陰とはいえ二回も負けているんだからその分のカリを返そうするに決まってるさ」

 「本当にそんなにうまくいくかしら? だいたいあなた達が居ない時点で不信に思われるじゃない」

 「それは大丈夫だ。魔女だって俺達が最後の悪あがきをするくらい予想しているだろうけど、今の状況なら勝った気でいるだろうから俺達が居ないことくらい気にも止めないさ」

 守は、作戦の意図を再度マリルに言い聞かせた。

 「まあ、ここまでやった以上迷っても仕方ないわよね」

 マリルは、腹をくくように体を起こして姿勢を正した。

 「そういうこと。予定時間までまだあるから。それまでに魔力をたっぷり補給しておけ。途中で空腹になっても食べる暇はないからな」

 「そうさせてもらうわ。リュウガ、食事の用意をして」

 「かしこまりました。お前達も手伝ってくれ」

 リュウガが三人を連れて部屋から出て行き、その十数分後に用意された大量の食事を、マリルは片っ端から平らげていった。

 守は、その様子を見ながら作戦を絶対に成功させようと固くに誓うと共に、巨大ロボットならではのあることができるのが楽しみでわくわくしていた。


 夜のアキハバラ駅北口に混沌の魔女が現れた。

 北口には、イベントの主役であるマリルが立っている。

 着ている服は水着でも二次元愛好会が用意した衣装でもなく、魔法使いとしての正装であった。

 「ここで宴が催されると聞いたのだけれど、時間を間違えたのかしら?」

 ワザとらしいトボけた口調で問い掛けてくる。

 「お生憎様、SNSっていう手段で日程を今夜から明日に変更したことを伝えたの。だから誰も来ないわよ。登録していないあなた以外はね」

 魔女を指差しながら言い放つ。

 「なるほど、あたしをここへ誘き出す為の罠だったってわけね。初めから分かってはいたけど観客どころか、この区画に人間が一人も居ないのも作戦の内というわけ?」

 居ないのはヲタクだけではなく、アキハバラ全域に及んでいたのだ。

 「念の為に避難させたからに決まっているでしょ」

 「それはいいとしてあの坊やと使い魔達まで居ないのはどういうことかしら~?」

 額に右手を当てて、ワザとらしく探す動作をしてみせてきた。

 「あなたの計画の邪魔をしに行ったわ」

 「魔生杭には一本につき一体のゴーレムが護衛に付いているのよ。あのカラフルなゴーレムならともかく使い魔程度でどうにかできると思って~?」

 「彼等なら絶対にやってくれるわ」

 「これはこれは実に厚い信頼関係で結ばれていること、それであなたは何をするのかしら?」

 「決まっているでしょ。あなたを倒すわ」

 両手に魔法陣を展開させることで、自身の戦意を示す。

 「杖無しで、あたしにどこまで抗えるのか見せてもらおうかしら」

 魔女が、小ばかにした口調で挑発してくる。

 「ロデオノホ!」

 マリルは、両手から炎を出したが、魔女が前面に展開した防御魔法陣によって遮られてしまった。

 「ロチオマズナイ!」

 炎攻撃を止め、天上から稲妻を打ち落としたが、同じように防がれてしまった。

 「今度はこっちの番ね」

 空中に飛び上がった魔女は、全身から黒い稲妻を放出してきた。

 「ロダキツヨチツ!」

 地面を叩くことで出した土壁で、稲妻を防いでいく。

 稲妻攻撃を止めた魔女は、飛び上がってマリルの頭上を旋回しながら、先端が鋭く尖った雹を降らせてきた。

 マリルは、両手に展開した防御魔法陣で雹を防いだ。

 「この攻撃ではダメみたいね~」

 魔女が、着地すると地面から無数の岩腕が出現し、マリルも同様の魔法で対抗したことで、岩腕同士による激しいぶつかり合いが起こったが、マリルの方は数で劣っていたので、形勢は不利だった。

 「地上戦では不利だわ。一端移動しないとって動かない?」

 足元を見ると地面はいつの間にか凍り付き、両足を固められてしまっていたのだ。

 「お寒いのはお嫌い?」

 「全然好きじゃないわ」

 「じゃ、さよなら」

 握り拳を作った岩腕群が、一斉に攻撃を仕掛けてくる。

 マリルは、両手から炎を出して氷を溶かし、両足を自由にするタイミングで風を起こして、前方に飛ぶことでなんとか攻撃を回避し、その勢いに乗ったまま岩腕の隙間を掻い潜って、魔女に突っ込んでいった。

 魔女が腕を鳴らすと、地面から別の岩腕が出てきて、マリルを捕まえた。

 「魔法が使えない?」

 魔法を使って、腕を破壊しようとしたが、何も起きなかった。

 「その腕には魔力を封じる術式を施しているから魔法は使えないわよ。それにしても杖無しであたしとここまで戦えるなんて、さすがは四方の魔女、最年少で二つ名を手にしただけのことはあるわね。面汚しのご先祖様もさぞお鼻が高いでしょうよ」

 「それを言うな~!」

 これまでにないくらいの怒鳴り声だった。

 「あたしに怒鳴られてもね~。死ねば会えるかもしれないから愚痴はそこで言いなさい。と言いたいところだけど、あなた、あたしの同士にならない?」

 「は?」

 今の状況での有り得ない提案に対して、マリルはどう反応していいか分からなかった。

 「お互いはみ出し者同士仲良くしましょうよ。あたしとあなたの才能ならあたし達にこんな仕打ちをした最高議長でさえも倒せるかもよ」

 魔女は、マリルと額が付きそうなくらいに顔を寄せ、右手で頬を軽く撫でて、誘惑するような甘い声を出しながら口説き始めた。

 「私が、あなたの軍門に下ると本気で思っているの? 私ははみ出してなんかいない。どんなことがあっても誇り高き魔法使いよ! はみ出したのはあなた自身の責任でしょ!」

 「ふ、ふふふ。ちょっとでも気を許したあたしがバカだったわ。本音を言い合える相手が欲しいなんて、ほんと今更よね~」

 魔女は、自嘲的な笑い声を上げた。

 その様子を見たマリルは、目の前に居るのが破壊を目論む魔女ではなく、大きな孤独を抱えた一人の女性に思えてきた。

 「さあ、最高の魔法ショーが始まるわ。特等席で見せて上げる」

 魔女が、言い終えると視界が暗転して、自身を捕まえている岩腕ごとアキハバラ全体が見渡せる高さまで、転送魔法で移動していたのだった。

 それからすぐに五か所で天を貫くほどの巨大な光の柱が出現して、その現象に合わせてアキハバラ全体が白い輝きで包まれ、地面は大地震並みに揺れ始め、空は落雷を発する暗雲に覆われていった。

 「もうすぐよ。もうすぐこれまで溜めてきた莫大な魔力を発射させることができるわ」

 「ここまで膨大な魔力を発射してどうするつもり?」

 「魔法都市にぶつけるのよ。この日の為に魔力を集めてきたんだから」

 「魔法都市を破壊する為に今まで無関係な世界を破壊して、魔力を集めてきたというの?!」

 「そうよ。うふふ、破壊に成功したら魔法使いどもの命を原初の大邪神にでも捧げようかしら」

 「あなた、正気じゃない」

 「いいじゃない。あんな都市なんかどうなっても。あははは! わたしの大っ嫌いな魔法都市よ。壊れてしまえ~!」

 光の光量が増していく中、魔女自身も気分が高揚しているのか、これまでにないくらいに声高々に叫び始めた。

 しかし、魔女が言い終わるタイミングで、光の柱は五か所同時に破裂するように消滅し、それと共に地面の輝きは光量を失い、暗雲と共々完全に消え失せ、揺れの治まりに合わせ、アキハバラは無人であることを除けば、いつもの夜景を取り戻したのだった。

 「これはいったいどういうこと? どうして何も起きないの?」

 魔女は、予想外の事態を前に混乱していた。

 「私の従僕達が、柱を全部壊すことに成功したのよ」

 魔女と反対に、マリルは余裕を取り戻し始めていた。

 「有り得ない。そんなことできるはずがない!」

 魔女は、顔をおもいっきり顔を歪めながら現状を否定しようとわめき散らした。

 「どう思おうと何も起きていないのがなによりの証拠よ」

 「こうなったら、お前だけでも始末してやる!」

 魔女は、右手を先の尖った氷に変え、マリルに突き出していった。

 そこへ耳鳴りがするほどの速度で、二人に何かが急接近してきてきた。

 「いったい、何?!」

 魔女の目の前に現れたのは、真っ赤な巨人で、光る両目を魔女に向け、右手に持っている物を勢いよく降り下ろしてきた。

 魔女は、驚きながら後退したが、それが巻き起こす猛烈な風圧によって、吹き飛ばされていった。

 術者が居なくなったところで、巨人は左手を使い、岩腕の指を慎重に壊して、解放されたマリルを掌で受け止めた。

 マリルを受け止めている手は、全体的に角ばった形をしたもので、先程振り下ろされたのは右手に持っている巨大な剣だったのだ。

 「このまま降りるぞ」

 巨人から発せられた守の声に合わせて、マリルを左手に持ったまま、ゆっくりと降下していった。

 「マジンダムとかいうゴーレム? それにしては大きさも形も全然違うわね」

 着地と同時に姿を見せた魔女は、怪訝な表情を浮かべ、自分を強襲してきた赤い巨人がグレートマジンダムとは形が異なるロボットであることへの違和感を言葉にした。

 「そうさ、これはグレートマジンダムに合体する前のロボットで名前はマジンダムだ!」

 守は、自身が搭乗しているグレートマジンダムよりも一回り小さく、赤がメインカラーのロボットの説明をした。

 「遅いわよ。もう少しでやられるところだったじゃない」

 マリルが、立ちながら文句を言ってくる。

 「間に合ったんだから文句言うなよ。この分なら全員成功だな」

 「全員ですって、まだ他にもロボットが居るというの?」

 「その通り!」

 守の返事の後、四機の巨大ロボットが、マジンダムの左右に降臨してきた。

 四機は、青、黄、緑、白と色分けされ、形が異なるだけでなく、右手に持っている武器も槍に斧にハンマーなど、武器まで違っているのだった。

 「青いのがブルーカイザー、黄色いのがイエローキング、緑のがグリーンエンペラー、白いのがホワイトクイーンだ」

 守は、四機を色ごとに紹介していった。

 「そのロボットは坊やが乗らないと動かないんじゃないの? それにあたしが完全に壊したはずよ」

 「確かに壊されたけど、修理して落ちた分のパワーをこいつらの力で補っているのさ」

 守の呼び掛けに合わせて、四機から四人の従僕が姿を現した。

 「巨大ロボットに憑依しろと命じられた時はどうなるかと思ったけど、やってみると案外楽しいもんやな」

 ライガの感想である。

 「ほんと~あたしくせになりそうだわ~」

 フウガの感想である。

 「巨大ロボットと一体化できるとはこの上ない喜びでございます」

 リュウガは、生きる喜びに打ち震えていた。

 「守殿、どうして拙者の担当は白なのでござるか? 色分けで選ぶのであれば拙者は赤でござろう~?!」

 ホオガは、自分のイメージカラーとは異なる機体に対する不満を訴えてきた。

 「今更言うな。マジンダムはコックピットが再現されているから俺しか操縦できないって初めに説明しただろ」

 守は、再現されているマジンダムの現状を踏まえて、ホオガに再説明した。

 「なるほど、精霊のパワーを宿して動かしているというわけね」

 「そういうこと」

 「さあ、どうする? 魔力生成が出来なくなった以上、あなたの負けよ。降参するなら命の補償はしてあげる」

 マリルは、立場が逆転したことを思い知らせるように両腕を胸の前で組んだ威圧的な姿勢で、魔女に対して降伏を呼び掛けた。

 「負け? 降伏~? 何を言っているのかしら? 確かに計画は台無しにされたけど、あたし自身はまだ負けていないわよ。これを見なさい」

 魔女は、体に埋め込んでいる魔法石を取り出し、自身の黒いオーラを注ぎながら地面に叩き付けた。

 そうするとまだ消えずに残っていた魔力が、石に吸収され、初めに現れたものより倍以上に大きく、下半身が地面と接続している漆黒のゴーレムになった。

 「さあ、このゴーレムに勝てるかしら?」

 ゴーレムの頭に乗ったことで、余裕を取り戻した魔女が、挑発的な言葉を掛けてくる。

 「ようし、やってやろうじゃないか。みんな合体するぞ。やり方は覚えているな」

 「承知!」

 守の声に合わせて、四人は返事をしながら、自身に割り当てられた機機体へ同化した。

 「林さんも乗ってくれ」

 守は、ハッチを開けながら外部スピーカーでマリルに呼び掛け、マジンダムの中に乗ったことを確認してハッチを閉じた。

 「・・・・やっぱりそこに座るのね」

 マリルは、守の膝を見ながら嫌そうな顔をした。

 「そうだ」

 「分かったわよ」

 これまでと違い、ゴネねることなく座ってきた。

 「ようし行くぞ。グレートフォーメーション!」

 守の叫びの後、四人が同じ台詞を合唱した。

 「ちょい待て。なんで、林さんだけ言わないんだ?」

 唯一声を出さなかったマリルに対して、苦言を呈す。

 「なんで、私まで? あなた達だけで十分でしょ」

 「こういう時は全員で言うもんなんだよ」

 「私はこんな馬鹿な台詞絶対に言わないわよ」

 「魔法使う時になんか言うだろ。あれと一緒だ」

 「あれは儀式に必要な詠唱よ。こんな表面的なことと一緒にしないで」

 「この台詞を言うことで全員の息を合わせるんだから儀式と同じだ。はい、もう一度」

 守は、精神論を用いて、合体時に発する台詞の必要性を説いた。

 「うう~分かったわよ。グレートフォーメーション!」

 恥ずかしがるマリルも加わった六人の合唱の後、五機は飛び上がって、マジンダムを囲むように変形を始め、キングイエローが両足、グリーンエンペラーが両腕、ブルーカイザーが胴体、ホワイトクイーンが背中へ合体して、最強無敵の巨大ロボットグレートマジンダムになって、ゴーレムの前に着地した。

 「へへ~いかにも最終決戦って感じだよな~」

 守は、恐怖や緊張を感じるどこか、強敵と対峙するという巨大ロボットならではのシチュエーションに身を置いていることへの喜びを声に出していった。

 「こんなこともこれで終わりよ」

 マリルは、反対にとても冷めた様子だった。

 「それもそうだな」

 ちょっと寂しそうに返事をした後、すぐに攻撃せず、ペダルを踏んでマジンダムを歩かせ、重く大きな足音をアキハバラ中に鳴り響かせながら、魔女とゴーレムに向かわせていった。

 「歩いて来るなんて随分と余裕があるのね。形が残らないくらいに焼やし尽くしてあげる」

 魔女は、ゴーレムに口から炎を吐かせた。

 「アースシールド!」

 守とマリルの合唱の後、左手に展開した黒い魔法陣から現れたのは、六角形で真ん中にMと刻まれた巨大な盾であり、内側の持ち手を左手で持って前面に突き出し、炎を一切寄せ付けず、完璧に防いだ。

 炎を吐くのを止めたゴーレムは、背中に生えている無数の棘から稲妻を放射してきた。

 「ライトニングスピアー!」

 盾と入れ換わりに、黄色の魔法陣から出した三又の鉾を両手で持ち、先端から放射する雷撃で、稲妻を水を弾くように打ち払っていった。

 ゴーレムは、体の表面から無数の岩腕を飛び出させてきた。

 「トマホークハリケーン!」

 緑の魔法陣から取り出した二本のトマホークを使い、目にも止まらない速さで全ての岩腕をコマ切れにして、飛び散る破片を道路にバラ撒いていった。

 ゴーレムの全攻撃は、マジンダムには全く通用せず、歩みを止めることはできなかった。

 なお、これまで使ってきた武器は、全て超○金グレートマジンダムのオプションパーツにマリルが魔法を施して、魔術武装に強化改造したものである。

 「なんで? どうして? どの攻撃も通じないの~?!」

 攻撃をことごとく退けながら迫って来るマジンダムに向かって、魔女は地団駄を踏みながらゴーレムに両拳を突き出させた。

 「何故かって、それはな、グレートマジンダムが最強無敵だからだ~! バーニングナックル!」

 両手に展開した赤い魔法陣に手を通すことで装着された真紅の籠手を、迫りくるゴーレムの両腕にぶつけさせた。

 籠手の直撃を受けたゴーレムの両腕は、爆発を起こし、肩まで連発して根本から爆砕したのだった。

 両腕を失ったゴーレムの目と鼻の先まで迫ったマジンダムは、両手を突き刺して踏ん張り始めた。

 「このゴーレムを地面から引き剥がすつもり? そんな小さな体でできるわけないでしょ~」

 魔女が、バカにしながら言った。

 「それはどうかな? グレートマジンダムの最強無敵のパワーを舐めるなよ~!」

 守の気合の籠った操作と四人の従僕が機体に注いだ力に応えるように、マジンダムは自身の何倍も身長差のあるゴーレムを地響きと共に地面から引き剥がして、頭上まで持ち上げ、前方へ放り投げて無人のビル群に叩き付けたのだった。

 「もう滅茶苦茶だわ。こうなったら最後の手段よ! この星と一緒に消えてしまえ~!」

 魔女は、ゴーレムの体勢を立て直しつつ再生させた両腕を頭上に掲げさせて、魔力を集中させることで巨大な魔法弾を作り出した。

 「なんだか、すげえもの出してきたぞ」

 「あんなものぶつけられたら、アキハバラどころか地球も消滅ね」

 「だったら、その前に消せばいい」

 「そうね」

 「ビッグバンキャノン!」

 二人の合唱の後、マジンダムの両肩と両腕に両足から分離したパーツが組み合わさり、巨大なキャノン砲を作り上げた。

 守は、マジンダムにビッグバンキャノンのグリップを右手に、フォアグリップを左手に握らせていった。

 「我に仕えし精霊達よ、我が敵を倒す糧となれ」

 マリルが、詠唱を唱え始めると、マジンダムの両手を通して、マリルと四人の従僕を含む強大な魔力がキャノンにチャージされ、銃口が光で溢れ始めた。

 その間に守は、キャノンのターゲットスコープをマジンダムの右目に当て、ゴーレムに照準を合わせて銃口を向けると、二体の間に赤、黄、緑、黒の順番で魔法陣が出現していった。

 「鋼と魔法と精霊の力の元に敵を撃ち滅ぼせ! グレートスピリッツシュート!」

 マリルとの合唱に合わせるタイミングで、守がマジンダムにトリガーを引かせると、銃口の倍以上の太さで魔力が変換された波動が発射され、魔法陣を通過するごとに色を帯びていき、四つ全てを通過した時には、四色が混ぜ合わさったものになっていた。

 そしてゴーレムが放った魔法弾とぶつかり合うと、拮抗することなく魔法弾を押し始めた。

 「どうして? なんで倒せないの~?!」

 魔女は、マジンダムの超絶な力を前に気が狂ったように喚き始めた。 

 「おたくに最強無敵の意味を教えてやる」

 「それはなに?」

 二人は、ここに来て初めて、戦闘中での会話が成立したのだった。

 「どんな相手にも絶対に負けないってことだ~!」

 守の気合いを体現するように波動は、太さを増して魔法弾を押し返し、ゴーレムを飲み込んで完全消滅させた。


 「ううぅぅ・・・・」

 戦いが終わり、静けさを取り戻したアキハバラに、腹這い状態で呻き声を上げる者が居た。

 悪運が強いというべきか、あの攻撃からかろうじて生き延びた混沌の魔女であったが、服は完全に消滅していたので全裸であった。

 そこへ黒いマントが放り投げられ、魔女が右手で掴んで裸体を隠すタイミングで、マリル達がやってきた。

 「何故、わたしは負けたの?」

 魔女が、静かな声で尋ねてくる。

 「分からない?」

 「分からないわ」

 「それはね」

 「あんたの敗因はたった一つだ」

 マリルの前に、玩具サイズのマジンダムを抱えた守が割り込んできた。

 「それはなに?」

 魔女が、ツッコムことなく聞き返してくる。

 「この世界で巨大ロボットを敵に回したことだよ」

 マジンダムを指差しながら堂々と恥ずかしげもなく言い切った。

 「それ、絶対に違うと思う」

 マリルが、的確なツッコミを入れる。

 「そうだったの。わたしとしたことが迂闊だったわ」

 「え? 信じるのっ?! ・・・・まあ、いいわ。さあ、返してもらうわよ。黒の魔導書を」

 「これでしょ」

 魔女は、体の中から取り出した一冊の真っ黒な本を差し出し、マリルが受け取ろうとしたところで放り上げた。

 「させるか」

 守が、右手で魔導書を叩いて地面に叩き付けると、ページの半分が飛んでいった。

 「半分しか飛ばせなかったけど、これでこの場所は真の混沌に包まれるわ。せいぜい足掻くことね」

 魔女は、半分とはいえ、最後の悪あがきが成功した喜びからせせら笑った。

 「いくらでもかかってくるがいいぜ。グレートマジンダムは最強無敵だ!」

 守は、臆することなく、自信満々に言い返した。

 「リュウガ、ホオガ、ライガ、フウガ。飛んでいったページを回収してきて」

 「承知!」

 四人は、返事と共にその場から飛んでいった。

 「さあ、魔法連邦に来てもらうわよ」

 「なあ、このおばさん、もう一日くらいこの世界に居させられないかな?」

 「どうするつもり?」

 「なあに、ちょっとした償いをしてもらうのさ」

 守は、魔女に向かって、含み笑いを向けながら言った。

 「まあ、いいけど」

 守の頼みとあってか、マリルは腑に落ちない顔をしながら承諾した。

 「それとおたくもやることがあるだろ」

 「まさか・・・・・」

 今日この場で大勢と交わした約束を思い出したのか、みるみる顔が青ざめていく。

 「そのまさかだよ」

 守は、にんまりとした表情を浮かべた。


 翌日、マリルは公約通り水着撮影会を行った。

 さすがに外でやるわけにはいかず、特製テント内での開催だった。

 着ている水着のデザインは、厭らしさの欠片も無い可愛いらしさを全面に押し出したものであった。

 撮影会開催に際して、桜を筆頭にクラスの女子全員が厭らしいもの禁止というどこぞの教育委員会のようなことを言い出した結果、二次元愛好会が用意したものは全て却下され、女子から見て安心といえるセレクトの水着を着ることになったのだある。

 とはいえ、マリルの水着姿には誰が見ても納得の可愛さと美しさがあったので、撮影会は大盛況だった。

 その一方

 「へい、らっしゃい!」

 「おお、いい声だね~」

 「そ、そうですか?」

 「確か、”紺野さん”だっけ? マリルちゃんの知り合いで日本の職業体験にうちの店で一日バイトをしたいなんて実にいい心がけだね~」

 混沌の魔女は、店を壊して人質にした償いとして、守の代わりに丸一日ボランティアとして行々軒で働くことになったのだ。当然、マリルによって魔法が使えないように術式を施された上でのご奉仕である。

 「おたくも綺麗だけど、やっぱメロンちゃんには叶わないな~」

 「メロンちゃん?」

 魔女は、おじさんの事情を何も聞かされていないのだ。


 翌日、マリル達は混沌の魔女、ページの足りない黒の魔導書にマジンダムを持って、向こうの世界に帰ることになった。

 「二、三日で結果は出ると思うから、それまで待っていて」

 「楽しかったですよ。守様」

 「また、いつか拳を交えましょうぞ。守殿」

 「元気でな。まもやん」

 「今度の会う時は一緒に遊びましょうね。まもちゃん」

 五人が、別れの言葉を言った後、魔法陣と共にこの世界から移動し、それに合わせて邸も消え、敷地は元の原っぱに戻った。

 守は、小さく微笑んだ後、原っぱを後にした。


 それから三日後の夜、守は一人で店番をしていた。

 おじさんが、またもメロンちゃんに緊急呼び出しをかけられて、うきうき気分で出掛けてしまったからだ。

 「へい、らっしゃい。おっ」

 入ってきたのはマリルだった。着ているのは魔女の正装ではなく、年相応の服だった。

 そうして前の時とは違い、カウンターを壊すことなく一番奥の席に座った。

 「結果は?」

 普通の客に接するように水を出しながら結果を尋ねた。

 「分離不可能って言われた。ここまで完全に融合しているのは初めてだって技術者も頭を抱えていたわ」

 「それでどうするんだ?」

 「もう少しこのままでもいいかなって思っている。しばらくこの世界に居ることになったから」

 「なんで?」

 「新しい任務を受けたのよ。内容は飛んでいった魔導書のページの回収」

 「大変そうだな」

 「人ごとみたいな言い方ね」

 「混沌の魔女は倒したんだから俺はもう用済みだろ」

 「場合によってはマジンダムを使用する場合もあるからぺージの回収が終わるまでまた協力して欲しいの」

 「そういうことなら構わないぞ」

 二つ返事で承諾する。

 「渋ったり嫌がったりしないのね。命の危険だってあるかもしれないのに」

 マリルは、やや拍子抜けしたような顔をしていた。

 「そりゃあ、大好きな巨大ロボットにまた乗れるようになるんだから巨大ロボット好きにとってはこれ以上に嬉しいことはないぜ」

 満面の笑みを浮かべて、承諾した理由を説明する。

 「そっか、そうよね。不安に思っていたのがバカみたい」

 マリルが、ため息交じりに言った。

 「なんか、変か?」

 「ぜんぜん、いかにもあなたらしい答えだなって思っただけ」

 「そっか。それよりもせっかく来たんだから何か食べていけよ。味は保証するぞ」

 「メニューはよく分からないからあなたに任せるわ」

 「任せろ」

 守は、にんまりとした微笑みを浮かべながら返事をした。

 「へい、おまち」

 数分後、マリルの前にデカいどんぶりに具がたっぷり乗ったラーメンを出した。

 「これは何?」

 マリルは、特盛りのラーメンを前に目を丸くしながら品名を尋ねた。

 「うちで一番ボリュームのあるどんと来いラーメンだ」

 「凄くおいしそう。そうそう、これからあなたのこと守って呼んでもいい?」

 「別に構わないぞ」

 「それなら、私のことはマリルって呼びなさい」

 「なんで?」

 「いいから。呼んでみて」

 楽しそうにリクエストしてくる。

 「分かったよ。マリル」

 ちょっと照れながらリクエストに応えた。

 「よろしい」

 マリルは、満面の微笑みを浮かべながら、どんと来いラーメンを食べ始めた。

 「なあ、これからもマジンダムに乗るってことは”あの乗り方する”ことになるけどいいのか?」

 守の言葉の後、マリルはラーメンを盛大に吹き出したのだった。

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