第10話 修理工場と魔法少女。

 ここはとある県に存在する超○金などを販売している玩具会社の修理工場。

 時刻は深夜、すでに稼働を止めているこの工場に一台の高級外車がやってきて、正門前で止まった。

 ここまでは時間帯を除けば普通の来客と変わりはない。

 だが、次の瞬間から普通という言葉は、通用しなくなる。

 今夜はもう終業したと伝えるべく、詰所から出てきた警備員を魔法を使って眠らせたからだ。

 「眠りました」

 リュウガが、車内に居るマリルに報告する。

 「ホオガ、ライガ」

 「承知」

 マリルの指示に合わせて、指名された二人が車から降りていく。

 ライガは、警備員の詰所に入ると全身から電気を発する竜に変化して、操作盤の中へ潜り込み、内部から器機を操作して正門を開け、車を工場の敷地内に入れるようにした。

 「ホオガは見張りを」

 「承知つかまつりました!」

 ホオガは、炎のライオンに変化して、正門の前に陣取った。

 外車が敷地内に入って正門が閉まるのに合わせて、施設内の電気が一斉に消えたことで、不法侵入を知らせる警報は一切鳴らなかった。

 ライガが、ケーブルを通して工場施設に侵入して、内部電源を一斉に落とした為である。

 突然の異変に夜勤などで残っている職員や施設担当の警備員達が、困惑した様子でぞろぞろと表に出てくる。

 「フウガ」

 「お任せあそばせ~」

 車内から軽い調子で出てきたフウガは、緑色の大鷲に変化して、上昇しながら翼を大きく振って工場全体に暖かな風を吹かせ、職員と警備員を眠りに落としていった。

 「マリル様~。み~んな、おねんねしましたわよ~」

 フウガが、楽し気に報告してくる。

 「それじゃあ、仕上げね」

 車内から出てきたマリルが、両手を上げ、工場全体を赤色の遮断結界で覆っていった。

 「もう出てきてもいいわよ」

 マリルの呼び掛けを聞いて、守とリュウガが車から出てくる。

 「今のところ順調だな。次は情報収集だ」

 「わたくしにお任せを」

 返事をしたリュウガは、ハエに分散して、寝ている職員達の耳の中へ入っていった。

 「どこで修理できるのか分かりました。こちらでございます」

 職員達の体から出てきて元に戻ったリュウガが、目的の施設がある建物を指さす。

 「よし、行くぞ」

 「私は、ここで結界を維持しているから行ってきて」

 マリルは、両腕を上げたまま言った。

 「分かった」

 返事をして、リュウガと一緒に施設に入っていった。

 守は、リュウガの案内に従って通路を進み、それに合わせて頭上に位置する照明だけが付いて、行き先を照らしていった。電竜と化しているライガが、二人の進行に合わせて照明を付けているのだ。

 順路を通って、修理施設の前に着くと、ライガによってロックが解除された扉が、左右に開いていった。

 「こんなもんでどないやろか?」

 機械の中から出てきて、人間態に戻ったライガが、自身の働きっぷりをアピールしてきた。

 「上出来だよ。それにしても修理工場の中って、こんな感じなんだな」

 ライガを誉めつつ、初めて目にする工場の光景に対して、状況を忘れて見入ってしまう。

 「守様、今はマジンダムの修理を急ぎませんと」

 リュウガが、軽く釘を刺すように本来の目的を口にする。

 「そうだったな。さて、ここまで来たのはいいが、後はどうやってマジンダムを修理するかだけどリュウガ分からないか?」

 「申し訳ございません。職員全員の頭を探りましたが、誰一人知識は持っておりませんでした」

 「くそっ。こんな時間じゃ作業員は全員帰宅しているからどうしようもないか」

 予想外の手詰まりに対して、思わず舌打ちしてしまう。

 「わいが、このからくりの中に入って手掛かりないか探るってみるからちょい待っててや」

 ライガは、雷竜に変化するなり、修理用の機械の中に潜り込んだ。

 「分かった。頼んだぞ」

 姿が見えないので、変だと思いつつ、機械に向かってエールを送る。

 「修理の仕方分かったで。今から言う場所に運んでや」

 数分後、機械から出てきたライガからの解析報告に従い、指定された場所に袋に入れているマジンダムの残骸を運んで行く最中、修理を待っている玩具の山が目に止まり、言い様の無い罪悪感が芽生えてしまった。

 「修復作業はわいがやるから、まもはん達は今から言う場所にあるスペアパーツを持ってきてや」

 「分かった」

 指示された場所は、各玩具のスペアパーツの入った倉庫で、その中からマジンダムのパーツを取っていった。

 「持ってきたぞ」

 「じゃあ、残骸を置いた場所に置いてや」

 マジンダムの残骸の隣にスペアパーツを置いていく。

 「後はわいがやるさかい。二人はそこで待っとってや」

 「頼むぜ。ライガ」

 「しっかりな。ライガ」

 二人が、機械の中に居るライガにエールを送っていく。

 こうして世界の命運を賭けた超○金玩具の修理作業が開始された。

 「こっちは修理作業に入ったからもう少しもたせてくれ」

 新しく書き込まれた契約の紋章を通して、マリルに修理が始められたことを伝える。

 「分かったわ。できるだけ急いで」

 「そうなることを祈っててくれ」

 「うまくいくでしょうか?」

 修理作業を見守っているリュウガが、いつになく不安そうに聞いてくる。

 「ここはライガに任せるしかないだろ。従僕仲間として信じてやれよ」

 守は、自身も抱えている不安を誤魔化すように強目の声で励ました。

 「そうでございますね」

 「これに俺達の未来がかかっているんだから絶対に成功してもらわないとな」

 「はい」

 その後、二人は黙って、修理作業を見守り続けた。


 「まだ終わらないのかしら。フウガ、そっちの様子は?」

 「今のところ問題無しですわよ~」

 「ホオガは?」

 「こっちは問題発生でござる。パトカーとやらが三台ほど向かって来ているでござりまする」

 「普段付いている工場の電気が急に消えれば近所の人間が通報くらいするわよね。いいわ。軽く脅かして追い返しなさい」

 「承知つかまつりました!」

 近付いてくるパトカーに向かって、ホオガは持ち前の咆哮を上げてみせ、その猛々しい姿を前に警官達は、一斉にパトカーを止めた。

 「なんだ、あれは?」

 「玩具会社の工場だから新しい玩具のCG演出じゃないのか?」

 「とにかく降りて確かめてみよう」

 「その前に本部に連絡しなくていいのかな?」

 「玩具工場にでっかいライオンが居ますなんて報告してみろ。頭がおかしいと思われるだけだ。行くぞ」

 パトカーから降りて、現状の対処に付いて相談した警官達は、自分達が見ているものの正体をより間近で確認しようと、銃に手を添えながらホオガに近付いていった。

 そんな警官達に対し、ホオガもまたゆっくりと近寄り、互いの距離が縮まったところで、顎が裂けそうになるほどに口を大きく開けて豪風レベルの彷徨を上げた。

 その凄まじい声を前に、警官全員は悲鳴を上げ、我先にパトカーに乗り込み、車体の向きを変えると猛スピードで走り去っていった。

 「まったく、やれやれでござる」

 ホオガは、見えなくなっていくパトカーを見ながら小さなため息を吐いた。

 それから十数分が経った頃に修理施設から守とリュウガとライガが出てきた。

 「任務完了。作戦終了だ。撤収! 撤収!」

 守が、号令を出すとマリルは両手を降ろし、結界を解いて車に向かい、リュウガが開けたドアから中に入り、守もその後に続いた。

 それから元の姿に戻った三人が車に集ったところで、マリルは転送を使って屋敷へ移動した。


 「で、どうだったの?」

 車内に居るマリルが、修理状況に付いて、せっつくように聞いてくる。

 「そう慌てるなって、今見せてやるから」

 マリルに急かされる中、袋から取り出して、車内のテーブルに置かれたマジンダムは、傷一つ無い新品同様の状態で、超○金部分には眩しいくらいの光沢が浮かんでいるのだった。

 「やったじゃない! 転送魔法で行けないから深夜にメーカーの修理工場に乗り込むって言い出した時には何バカなこと言ってんだろって思ったけど大成功だったわ~」

 さり気なく、それでいてかなり酷いことを言われたが、聞き流すことにした。

 「後は魔法石としての効力があることを確かめるだけね」

 「どうやって確かめるんだ?」

 「外に出て私の魔力には反応するか確認するわ」

 「ここじゃマズいのか?」

 「暴発しないとも限らないから」

 「ちゃんと修理は出来たのでございましょうな」

 「早く見せてちょうだいませ~」

 外に出た途端、修理過程を見ていないホオガ&フウガが、さっきのマリルと同じように喰い気味に現状を尋ねてきた。

 「ピッカピカの新品並みになったぜ」

 修理したばかりのマジンダムを二人に見せていく。

 「おお、これは見事な出来栄えでござるな~」

 「上出来よ~。ライちゃん」

 二人が、ライガに賛辞を送っていく。

 「どや、わいの腕前も大したもんやろ」

 ライガが、どんと胸を張って、自身の能力による成果を猛アピールしてみせた。

 「後は魔法石の効力が戻っていることを願うだけね」

 マリルが、確認作業を行うべくマジンダムに手を翳すと、その場に居る全員が息を呑んだ。

 それからマリルの詠唱が声になっていくに連れて、マジンダムは効力が戻ったことを示すように赤く輝き始めた。

 「はっきりとした力を感じる。大成功よ~!」

 顔を上げ、喜びの声を上げたマリルは、嬉しさのあまり、マジンダムを抱きかかえようと両手を伸ばした。


 ぐさ


 「いってえ~! 翼が、翼が手に刺さった~!」

 喜びのあまり距離感を見誤まってしまい、両手を超○金製の翼に刺さしまったのだ。

 一方、そんなことを知りもしない男共は、マジンダムの元に駆け寄り、歓声を上げてはぐし合い、互いに喜びをわかち合っていた。

 そのすぐ側で戦友であり、主であるマリルが痛みに苦しみながらのたうち回っていることも知らずに。

 「このバッカ共~! 少しは私の心配もしろや~! 全員、異世界にぶっ飛ばしてやんぞ~!」

 マリルの怒声が、辺り一面に轟いた。五人の動向を考えれば当然の反応といえるだろう。

 「悪かったよ。てっきり喜びに打ち震えているとばっかり思っていたんだ」

 「申し訳ございませんでした」

 「申し訳ございませぬ」

 「ほんま、許したってや」

 「ほんと、許してちょうだい」

 守を含む男全員が、土下座姿勢で謝罪の言葉を述べていく。

 「これっきりよ。よ~く覚えておきなさい」

 マリルは、両手を組んだ仁王立ち姿勢のまま、慈悲の言葉を口にした。

 「なににせよ、これで混沌の魔女に逆襲できるってわけだ。見てろよ~。巨大ロボットの強さと恐ろしさを骨の髄まで味合わせてやるぜ~」

 守は、正義側の主人公がする顔とは思えないほど、邪悪な微笑みを浮かべていた。

 「喜ぶのはまだ早いわ。力は戻っているけど完全じゃないから」

 「どういう意味だ?」

 「壊される前はマジンダム全体から力を感じられたけど、今は何ヵ所か感じない部分があるの。何か別の部品に置き換わっている所があるでしょ?」

 「間接は全部スペアパーツに交換しているからな。そうなると性能が百パーセント出せなくなるってことか?」

 「実際に巨大化させてみないと分からないけど前みたいにはいかないわね」

 「魔女と戦うまでにどのくらい力が落ちているのか把握しておかないといけないな」

 「その魔女は、今どうしているか分かる?」

 マリルが、リュウガに尋ねる。

 「アキハバラにて魔動砲まどうほうを発動させる為の魔生杭ませいこうを召還して設置を完了いたしました」

 飛んできた烏を自身に吸収したリュウガが、魔女の動向を報告した。

 「やられたわ。私達が居ないからもう邪魔者が居ないと思って、とんでもないものを召還してくれたわね~」

 マリルが、額に手を当てながら悔しがった。

 「その魔動砲って、そんなにヤバいものなのか?」

 「とんでもないくらいにヤバいわ。生成した強大な魔力を破壊エネルギーに変換して発射することのできる装置で、使い方次第では世界を丸ごと破壊することだってできる代物よ。今まで魔力を集めていたのは魔生杭に魔力を蓄積させて魔動砲を発動させる為だったのね」

 「なんで、そんな危険なもの作ってんだよ?」

 「私が作ったわけじゃないし、あなたの世界にだって危険な兵器はいくらでもあるでしょ。それと同じよ」

 そう言われると返す言葉が無かった。

 「兵器の在り方は問わないとして、なんだってわざわざアキハバラでやる必要があるんだ? 違う世界だっていいじゃないか」

 「この世界には私みたいな魔法使いとか強力な力を持つ者が居なくて邪魔される心配がないからよ。こうなる前に倒したかったのに」

 「今からマジンダムで魔生杭を破壊すればいいじゃないか」

 「それは無理よ。設置が終わっているのなら魔力の充填作業に入っているから下手に破壊しようとすれば他の柱と連動して大爆発を起こしてしまうわ」

 「それってどのくらいの威力なんだ?」

 「この世界なら核ミサイルに相当するわね」

 「もう止められないのか?」

 「一本でも破壊すれば魔動砲の発動自体は止められるけど、その場合はさっき言った通り蓄積された魔力が暴走した影響で柱が暴発してアキハバラを含むこの国そのものが滅びてしまうわ」

 「一本破壊して暴発するなら五本同時に破壊すればどうなるんだ?」

 「そうなれば蓄積された魔力が放出されるだけで済むわ」

 「放出されるだけならいいのか?」

 「後は自然消滅するだけだから。魔力は使い手が使用することで初めて効力を発揮するものだから手を加えない限り人体には無害よ。マジンダムの操縦の際に魔力が体を通ってもなんとも無いでしょ」

 「そういえばそうだな。けど、その魔力を混沌の魔女が吸収したりしないのか?」

 「膨大な魔力を自分に課せば、体が耐えられなくて死ぬ可能性があるから混沌の魔女でもそこまではしないだろうし、やれるのなら初めからやっているわよ」

 マリルは、やれやれと頭を振りながら答えた。

 「となると、万事休すでござるか?」

 「ほんまあかんわ」

 「これは困ったわね~」

 「何か策は無いものでございましょうか?」

 「発射前に魔女を倒すのが一番いいけれど、住処を探している間に発動させられたら終わりだし、簡単に見つかるとも思えないわ」

 マリルの言葉の後、五人は黙った。

 「林さんの世界から救援は呼べないのか? 林さんレベルの魔法使いが後四人来れば全ての柱を同時に破壊できるだろ」

 「それができればとっくにやっているし、初めから数人で来ているわよ。私レベルの魔法使いが異世界に行くには組織の許可が居るの。それもけっこう面倒な手続きが必要だからすぐには無理ね。この三人が来るのが遅れたのもそのせいよ」

 「おいおい、俺の世界が終るかもしれるかもしれないんんだぞ。事務手続きなんて気にしている場合かよ!」

 「うちの組織は変なところで頭が固いから」

 呆れたように言い捨てた。

 「まったく無責任な話だな」

 マリルが属しているという組織に対して、猛烈に腹が立ってしかたがなかった。

 「その点に付いては悪かったと思っているわ」

 「魔法陣が発動するまで、どのくらい時間がある?」

 「今夜設置が終わったから明日の夜ね。設置した後は、その世界の地脈に馴染ませないといけないから」

 「ということは、まだ時間はあるわけだ」

 守は、一人うんうんと頷いた。

 「何を考えているの? 善い案があるのなら言ってみて」

 「俺達がやることは魔生杭を破壊して魔女を倒す。これでいいんだよな」

 「そうだけど」

 「幾つか確認したいことがあるんだけど、柱を破壊するのにリュウガ達の力じゃダメなのか?」

 「できないこともないけど、力の差があるから同時には無理ね」

 「次にライガが工場でやったみたいに他の四人も機械に乗りうつったりすることはできるのか?」

 「できるわ。精霊は基本物に宿る能力を持っているものだから」

 「なら、いける」

 守は、確信したように不敵な笑みを浮かべた。

 「何か思い付いたみたいね」

 「ああ、ただし、この作戦には必要なものが二つある。一つは四人が巨大ロボットの知識を得ること、それともう一つは」

 言いながらマリルを指さし

 「林さんの可愛さを惜しみなく出すことだ」と言い切った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る