第7話 ヘルプと魔法少女。

 「お急ぎください。守様」

 その割に言葉遣いが丁寧なので、いまいち危機感が伝わってこない。

 「ちょい待て。おじさんにバイトを休む電話入れるから」

 「それではわたくしは先に外へ出て待っております」

 リュウガが、玄関から出て行く中、部屋にあるスマホでおじさんに電話を掛けた。

 「守か、どうした?」

 「おじさん、急用できちゃってバイト休ませて欲しいんだけど」

 超が付くほど申し訳なさそうな声で、嘘の言い訳を伝える。

 「今から急用~? まあ、この間ヘルプしてもらったからな。今回だけだぞ」

 おじさんは、怒る様子もなく二つ返事で承諾してくれた。

 「ありがとう。おじさん」

 電話を切り、玄関に行って靴を履き、外に出て戸締まりした。

 「では、参りましょう」

 「車、無いじゃん」

 二階の通路から道路を見ると、この前乗った外車どころか乗り物さえ見当たらなかった。

 「はい、今夜は別の手段で移動しますので乗り物は必要ございません。失礼ですが、右肩をお仮りいたします」

 そう断りを入れられてから右肩に手を乗せられ、視界が暗転した次の瞬間には、草原に立っていた。

 「これって転送魔法か? リュウガって料理だけじゃなくて魔法も使えるのか?」

 「いえ、これはマリル様に緊急用にといただきましたアイテムによる効果でございます」

 右手に嵌めているブレスレットを見せながらの説明だった。

 「ここって、この間ゴーレムと戦った場所じゃないか」

 二人が立っているのは、マジンダムに乗って初陣を飾った草原だった。

 「今宵の戦場もここでございます」

 「それでピンチの林さんはどこに居るんだ?」

 「あそこでございます」

 リュウガの指差す先に視線を向けると、表皮は赤や緑や黄色といった様々な色をしていて、頭や肩や背中に大きな角を生やし、人型から四つ足といった幅広い形をしたこの世界には存在しない巨大生物の群れが見えた。

 「あれが魔女が作り出したっていう魔獣達か。ほんとにアニメとかゲームで見るような形をしているんだな。それで肝心のマジンダムはどこなんだ? 姿が見えないぞ」

 「恐らくは群の中心かと」

 魔獣達は、一ヵ所に円陣を組むように群がっているのだった。

 「あれってすっげえ~ヤバいじゃないか。どうやって行くつもりなんだ? まさか走って行けとか言わないよな~?」

 「これで向かいますので、ご安心を」

 リュウガが、右手で地面を軽く叩いた瞬間、暴走族が乗りそうなド派手なデザインのサイドカーが出現した。

 「今度はなんだ? いったいどんな力だよ」

 「それは秘密でございます」

 右人差し指を唇に当てるというお決まりの仕草を交えての返事だった。

 「けど、なんでバイクなんだ? 車じゃダメなのか?」

 「こちらの方が早いからでございます。さあ、お乗りください」

 説明しながら投げ寄越されたヘルメットを被って、サイドカーに乗った。

 「行きますよ」

 エンジンのかかったサイドカーは、数メートル進んだところで、宙に浮いて飛び始めた。

 「バイクが飛んだ~! って、飛べんのか、これ?」

 「もちろんでございます。飛ばしますよ!」

 スピードを増したサイドカーは、魔獣の群へ急行した。

 ヘルメットを被っている為に風圧はそれほど感じなかったものの、流れるように通り抜けていく周囲の風景を目にして、遊園地のアトラクションに乗っているような気分になった。

 「見えたぞ!」

 群の中心に近付いていくと、仰向けに倒れているマジンダムの姿が見え、さらに近付くとやられ放題というわけではなく、機体周辺に複数の防御魔法陣を展開することで、身を守っていることが分かった。

 「やられているわけじゃないが防戦一方じゃないか。なんで反撃しないんだよ?」

 「わたくしには分かりませんが、どうも不具合があったようでずっとあのような状態なのでございます。そこで守様のお力でどうにかならないかとお連れしたのでございます」

 ヘルプしてきた理由を説明する。

 「なるほど、話はようく分かった。ただ、あれだけ敵が群がっていたんじゃ、近寄ることなんてできないぞ」

 「敵を引き離せばいいわけですね」

 「そうだ。とにかくマジンダムから魔獣を引き離さないことにはどうすることもできないからな」

 敵が群がるの状況下で、マジンダムへの搭乗は、無謀過ぎる行為だった。

 二人が、状況の打開策を話し合っている中、魔獣達は打撃ではダメージを与えられないと判断したのか、十数匹がかりでマジンダムを持ち上げ始めた。

 「あいつらいったい何をするつもりだ?」

 嫌な予感を抱きつつ魔獣達の動向を見ていると、マジンダムをサイドカー目掛けて放り投げてきた。

 「避けろ~!」

 「承知しています」

 焦る守とは裏腹に、リュウガは冷静かつ華麗なハンドルさばきでサイドカーの方向を変えることで、マジンダムとの直撃を避けられはしたが、側を通過する間際に猛烈な風圧を受けて大きく煽られ、横転しながら落下していくことになった。

 その一方、落下して地面に叩き付けられたマジンダムは、凄まじい轟音と共に天まで届きそうなほどの土煙を上げていった。

 「落ちる~!」

 「お任せを」

 サイドカーは、墜落するギリギリの距離で向きを変えることで、地面との激突は避けられたものの、林の中におもいっきり突っ込み、何十本も木を折りながら、なんとか停止したのだった。

 「守様、ご無事ですか?」

 リュウガに、安否確認の言葉を掛けられる。

 「なんとかな、まったくえらい目に合わされたぜ~」

 脱いだヘルメットで、体中にくっ付いている細かな木の枝を払いながら返事をした。

 「わたくしも今のは肝を冷やしました。ところでマリル様はご無事でしょうか? 相当な音を耳にいたしましたが」

 主のこととあってか、少しばかり不安そうな表情を浮かべている。

 「そんな心配そうな顔をするな。マジンダムはアニメの基本仕様を顕現化しているからコックピットは衝撃の九割りを緩和できているから問題無い」

 アニメの設定を交えて、無事であることを教える。

 「それを聞いて安心いたしました」

 リュウガが、一安心して表情を緩めている一方、魔獣達はマジンダムへ向かって動き始めていた。

 「このままじゃ、また取り囲まれちまうぞ。どうにかして奴等の注意をマジンダムから逸らさないと」

 「その役目でしたらわたくしが引き受けますので、その間にご搭乗を」

 「何かいい考えがあるのか?」

 「お任せを」

 「それなら任せたぜ。リュウガ」

 互いに頷き合った後、再浮上したサイドカーは高速で魔獣達の頭上を通り越して、マジンダムの右手に接近していった。

 「ご武運を」

 右手に着いて、サイドカーから降りる中で、リュウガから健闘の言葉を掛けられた。

 「任せろ!」

 返事をしながらマジンダムの親指に向かった。

 その最中、周囲の木々から一斉に飛び出し野鳥が、群れの先頭を走る魔獣の顔を飛び回った。

 先頭の魔獣が、鳥を追い払おうと振り回した右手が隣の魔獣に当たると、すぐに殴り合いの喧嘩が始まり、その行為はあっという間に群れ全体に波及して、大乱闘状態になって進行を大きく乱していった。

 「その調子で頼むぞ」

 その隙に親指へ向かい、初めて乗った時と同じく赤いボタンを押して手を広げさせて、青いボタンを押して右腕にパイロットの運搬動作をさせ、本体を僅かながらに持ち上げさせた。

 今回はマジンダムが、うつ伏せに倒れているので、ボタンを押すまでの作業も楽だった。

 腕が上がったことでできた地面と本体の隙間に入り、胸の開閉スイッチを押し、悲鳴のような駆動音を鳴り響かせ、地面や木を削りながらゆっくり開いていく胸パーツをもどかしい思いで見ていた。

 「林さん、無事か~?!」

 ある程度開いたところで、開いているコックピットハッチに向かい、大声で呼び掛けた。

 返事の代わりに背後からの強烈なタックルによって、顔から俯せに倒されてしまった。

 「重い~って、林さん?」

 背中にぶつかってきたのは魔法使いの格好をしたマリルで、頭にはとんがり帽子ではなく電子頭脳であるヘッドギアを付けていた。

 「重くなんかないわよって、どうしてあなたがここに居るの?!」

 顔を合わせるなり、怒声を浴びせられた。

 「リュウガにヘルプを頼まれたんだ」

 マリルとは反対に冷静な口調で言い返す。

 「リュウガったら余計なことして~」

 さっきとは違い、声のトーンが低い分怒りも大きく感じられた。

 「そんな言い方するな。林さんを思ってやったことなんだから。それよりもなんで背後から襲って来たんだ?」

 「襲ったんじゃなくて、魔獣に投げられてシートから落ちて、床に叩き付けられたと思ったら急に扉が開いて、落っこちてハッチとかいうのしがみ付いて離したらあなたとぶつかったのよ」

 ぶつかるまでの経緯を捲し立てるように説明していく。

 「そういうことか」

 「それと叫んでも来ないんじゃなかったの?」

 「困っている女の子を見捨てられるわけないだろ」

 「バカ」

 マリルは、文句を言いながら、そっぽを向いてしまった。

 「それにしてもいったい全体この醜態はどうしたんだ?」

 仰向けのマジンダムをぐるっと見回しながら尋ねる。

 「これ被っても操縦方法が全然頭に入って来ないのよ。コントロールスティック動かしてもマジンダムはちっとも動かないし、魔法も防御魔法陣以外使えないし、いったいどうなっているの?」

 スティックとペダルを動かすゼスチャーを交えながらの説明だった。

 「なるほど、基本操作ができないからやられていたのか、俺が動かしてみるから運んでくれ」

 「分かったわ」

 渋々ヘッドギアを外したマリルの魔法で、コックピットまで運んでもらい、シートに座って、不安な気持ちを抱えながらスティックを握って動かすとマジンダムは問題なく動き、両手両肘を付いた姿勢を取らせることができた。

 「なんだ、動くじゃん。ほら、乗って」

 拍子抜けした気持ちのまま、マジンダムの右手をマリルに向け、乗ったのを確認してコックピットまで運んで中に入れて、ハッチを閉めた。

 「なんで、私じゃダメなのにあたなら動くのよ~!」

 中に入ったマリルは、おもいっきり地団駄を踏んで悔しがった。

 「不具合は検地されていないから、たぶんパイロットが俺専用に設定されているんだろうな」

 目の前に表示されているコンディションデータを見ながら、操縦の不具合に関する考察を述べていく。

 「どういうこと?」

 「イメージを入れる際に俺をパイロットにするって考えていたんだよ」

 「つまり、あなたじゃないとマジンダムは動かないってこと?」

 「そういうこと」

 「まったく余計なことまでイメージしてんじゃないわよ!」

 マリルにおもいっきり襟を掴まれ、がくがくと激しく揺らされながら猛烈な非難を浴びせられる。

 「俺だって、ここまで忠実に再現されるとは思わなかったんだよ~」

 相手が女子なので、抵抗することもできず、揺さぶられるまま決まり悪そうに返事をする。

 「それなら魔法はどうなっているの? この間、ゴーレムを倒した時にはきちんと使えたのに」

 「多分、俺が一緒に技名を叫んだからだな」

 「どういうこと?」

 「この手のロボットは武器や必殺技を使う際に叫ぶ必要があるんだ。だからパイロットである俺が叫んだことで使えたんだよ」

 「ということは、あなたと一緒に魔法名を言わないと強力な魔法は使えないってこと~?!」

 「そういうことだ。言うなれば俺と林さんが息をピッタリ合わせることで、このグレートマジンダムは本当の力を発揮するってわけだな」

 うんうんと頷きながら結論伝えた。

 「まったくなんだってこんなことになるのよ~」

 マリルは、襟から手を離し、両手で頭を抱えた姿勢で現状を嘆きまくった。

 「ほら、とりあえず機体を起こすからしっかり掴まっていてくれ」

 正式なパイロットである守の操縦によって、マジンダムは大地に立ち、ゴーレムの時と同じく月光の元に魔獣達に鋼の巨体を顕にしたのだった。

 それに合わせて鳥達が離れ、煩わしさから解放された魔獣達は自分達の敵を目の当たりにして、本来の目的を思い出したように大きな呻り声を上げた後、一斉にマジンダムへ向かってきた。

 「てめえら~よくも俺のマジンダムに好き放題にやってくれたな~! 倍返しだ~!」

 これまでマジンダムにしてきたことへの怒りをスティックに込め、先頭を走ってくる魔獣の顔面目掛けて、右ストレートパンチを打たせた。

 守の怒りが込められた一撃を顔面を受けた魔獣は、顎が変な方向に歪み、折られた牙を撒き散らしながら仰向けに倒れて、手足を痙攣させた数秒後に動かなくなった。

 それを合図にマジンダムを魔獣の群になだれ込ませ、殴って蹴って放り投げるといった近接戦法を駆使した鬼神の如き戦いっぷりで、魔獣達を蹴散らしていった。

 「はい、ここに座って」

 戦局が一旦落ち着いたところで、自分の膝をぽんぽん叩きながらマリルに座るよう促す。

 「またそこに座るの~」

 指示を聞いたマリルが、一瞬にして涙目になる。

 「魔法を使う最適な姿勢なんだから仕方ないだろ」

 「けど、やっぱり恥ずかしい~」

 「それなら林さんが魔法か何かで逆様になって、スティック握るか?」

 「そんなバカな真似したくな~い!」

 自身が逆様状態でスティックを握るというバカバカしい姿を想像したのか、マリルの泣き声に拍車が掛かっていく。

 「早くどっちか選べ。恥ずかしい方か、バカな方か。敵は待っちゃくれないんだからな」

 その言葉を示すように、魔獣達は体勢を戻し始めていた。

 「うう~。は、恥ずかしい方・・・・」

 苦渋に満ちた決断をしたマリルが、羞恥心に押し潰されそうな顔をしながら膝の上に座った。

 前回ポイ捨てしたとんがり帽子は、コックピットの床に転がっていた。ヘッドギアを被る際に置きっぱなしにしたせいだろうと思った。

 「さあ、始めようぜ。俺達の第二ラウンドをさ」

 「俺達?」

 「そうだ。俺とおたくとグレートマジンダムのだよ」

 「そうね。私達が力を合わせないとマジンダムは本当の力を発揮できないものね」

 マリルは、戦う姿勢に納得したのか、しっかりとした返事をしてきた。

 「それよりも術式の方は大丈夫なんだろうな?」

 「当たり前よ。わたしを誰だと思っているの?」

 「食べるのが大好きな魔法少女」

 「ち・が・うっ! 四方の魔女! あなたこそ、ちゃんと私と呼吸合わせなさいよ」

 「分かっているって巨大ロボットで勝利を掴む為なら屁でもないさ」

 返事をしている間にスティックを通して、マリルが作り出した術式の知識が、頭に流れ込んでくる。

 「あ~きたきた。そんじゃ、やってやろうぜ。四方の魔女さんよ!」

 守の操縦に合わせ、マジンダムは両手を上げ、ボクサーのようなフャイティングポーズを取った。

 「まずは周りの敵を吹き飛ばすわよ」

 「了解!」

 「ジャイアントトルネード!」

 二人の詠唱に合わせて、マジンダムの両足が赤く光り、それに合わせて足元に展開した緑色の魔法陣から発生した猛烈な大竜巻が、周囲の魔獣達を上空へ巻き上げていく。

 「サンダーフィンガー!」

 その場で上げたマジンダムの両手が赤く光るのに合わせて、掌に展開した黄色の魔法陣から指の数だけ発射しされた稲妻が、上空へ飛ばした魔獣を一体残らず炭にしていった。

 「ほんとに魔法を使う部分だけが光るんだな」

 「当然でしょ。この間みたいに全身を光らせるなんて無駄なことしないわよ」

 話している隙を付くように背後から近付いてきた一体の巨大なスライムが、マジンダムを飲み込もうと縦長に膨張してきた。

 「エクスプロージョンパンチ!」

 右拳に展開した真紅の魔法陣を左足を軸に回転しながら、スライムの内部に叩き込むと、熱膨張して一瞬にして焼き尽くした。

 それから前方に姿勢を戻すと、残った魔獣達が押し寄せて来ていた。

 「ガイアクラッシュ!」

 マジンダムが右足を上げ、足裏に真っ黒な魔法陣を展開させた状態で、地面をおもいっきり踏み付けると、足元から発生した大波のような衝撃波に続いて、一直線状の地割れが起こり、魔獣達を地中へ落としていった。

 それから両手を合わせることで割れ目を閉じた。

 「終わって・・・いないな。上から何か来るぞ」

 魔獣が全滅したことをレーダーで確認している最中、上空から飛来する未確認物体を検地した直後、三つ首の黒いドラコンが姿を表した。

 「あれはブラックキングドラコン! 混沌の魔女はあんなものまで作っていたの!」

 「強いのか? まあ見た目凄いけど」

 驚くマリルとは対照的に、守は平然としていた。

 「私の世界で最強クラスのドラコンの一種よ」

 「最強ってだけか、無敵が付かないならマジンダムの敵じゃないな」

 「そういう問題~?」

 「そうだよ。それともこのグレートマジンダムがあいつに負けると思っているのか?」

 「そんなわけないでしょ!」

 マリルが、強気な声で言い返してくる。

 「いいぞ。その息だ」

 キングドラコンは、自信の存在を示すように大きな咆哮を上げ、それによって周囲の木々は折れそうなほどに揺れ、マジンダムのコックピットをも微かな振動を生じさせるのだった。

 「すげえ声だな。さすがは名前にキングって付くだけのことはあるぜ」

 守が感心する中、キングドラゴンは三つの口を大きく開け、真ん中からは炎、右からは雷、左からは氷を吐き出すといった三種同時による先制攻撃を行ってきた。

 マジンダムは、前面に防御魔法陣を展開して攻撃を防いだ。

 キングドラコンは、その場で停止して攻撃を続行した。

 「ストレートサンダー!」

 魔法陣を解いて、マジンダムをバックジャンプさせて攻撃を回避しつつ、突き出した右人差し指から稲妻を発射した。

 その攻撃に対して、キングドラコンは身を守るように翼で体を覆い、稲妻が表面に当たると水が弾けるように散らされてしまい、広げられた翼の中からは、当然のように無傷の姿を現したキングドラゴンが、攻撃を再開してくるのだった。

 「なんだよ。あの翼は?」

 「魔力を無効化できるみたいね。最強クラスのドラゴンなら備えていてもおかしくない性質だわ」

 「それだとあの翼をどうにかしないと攻撃を当てられないってわけか」

 「そういうこと」

 キングドラゴンは、遠距離攻撃を止めると翼で体を覆った状態で突撃してきて、右側にジャンプして回避すると、地面は巨大な爪で引っ掛かれたように深く抉られていった。

 それから上昇して顔を出したキングドラゴンは三種攻撃を仕掛け、その後は突撃と遠距離攻撃を交えた一撃離脱の戦法を繰り返していった。

 「こいつ、まだ飛べないのか?」

 攻撃を回避しながら尋ねる。

 「そこまでの術式は開発できていないわ。あなたに返さないといけなかったし」

 攻撃を防御しながらの返事だった。

 「開発してから返せば良かったじゃないか」

 「そうしたらまた約束を破ることになるでしょ。ただでさえ、一回破っているのに」

 「そんなこと気にするなよ。戦いを大きく左右する機能だぞ」

 「気にするわよ。だって、あなたとの約束だものっ!」

 振り返りながら大声で返事をしたマリルの顔は、怒っているように見えたが、泣きそうにも見えるのだった。

 「・・・・まあ、巨大ロボットがそう簡単には飛べるわけないか。アニメ本編でも序盤で飛べないことは多いからな。話は変わるけど防御魔法陣って前にしか出せないのか?」

 「私がイメージするところならどこにでも出せるけど」

 「だったら俺の指示する場所に出してくれ」

 「何をするつもりなの?」

 「俺にいい考えがある」

 「分かったわ」

 マリルは、不可解な顔をしながらも、とりあえず提案を飲むことにした。

 「行くぞ!」

 キングドラコンに向かって、マジンダムをジャンプさせたが、すぐに手の届かない高さまで上昇されてしまった。

 「今だ! 右足に魔法陣を出せ!」

 守の合図に合わせて、マリルが右足に防御魔法陣を出すと、マジンダムは魔法陣を踏み台にして跳躍した。

 「防御魔法陣を踏み台にした~?!」

 「魔法だって使いようさ。ほら、次!」

 魔法陣を踏み台にしながら、キングドラコンとの距離を詰めていく。

 近付いてくるマジンダムに向かって、キングドラコンが三種同時攻撃をするも、右肩に防御魔法陣を展開した状態で接近して、ショルダータックルをぶち当てて体勢を崩した。

 「サンダースラッシュ!」

 キングドラゴンが怯んでいる隙に、左右の手の甲に黄色の魔法陣を展開させ、雷のパワーを集中させた手刀で、両端の首を切断していく。

 それから中央の首を斬ろうとしたが、すぐに再生した両端の頭に両腕を噛まれて、動きを封じられてしまった。

 「おいおい、再生能力まであるのかよ」

 「これは予想外だったわ」

 二人が、予想外の事態に驚いている中、キングドラゴンは中央の首から火を吐こうとしてきた。

 「ブレストバースト!」

 マジンダムの胸に展開した真紅の魔法陣から猛烈な勢いで噴き出す炎を浴びせることで、キングドラゴンを押し出し、それによって左右の首が両腕から離れ、自由を取り戻した。

 その後は防御魔法陣を足場にして、四方八方から攻撃を当てていくことで、キングドラゴンを翻弄し、一瞬の隙を突いて背中に回り込み、翼を両手で掴んでおもいっきり引っ張り、根元から引き千切っていった上にすぐに再生できないように傷口を焼いていった。

 翼を失ったキングドラゴンが、悲痛な叫び声を上げながら落下していく中、マジンダムは地面にぶつかる前に離れて、足元に展開した緑の魔法陣から大風を出すことで、ゆっくりと着地することができた。

 「そろそろ決めようぜ」

 守は、地面に叩き付けられても起き上がり、戦意を失うことなく咆哮を上げながら向かって来るキングドラゴンを見ながら言った。

 「もちろんよ。荒々しき風よ、猛々しき雷よ。一つに合わさりて我に歯向かう敵を捕らえよ!」

 マリルが、詠唱を唱え始めるとマジンダムの右手に雷、左腕に竜巻が発生した。

 「ライトニングトルネード!」

 二人の合唱に合わせ、マジンダムが組み合わせた両手を前方に突き出すと、雷を伴った竜巻が放射され、翼を失っている為に回避できず、魔法をまともに浴びたキングドラゴンを空中に巻き上げ、手足を伸ばした状態のまま動けなくした。

 「これから上空に出す赤い輪の中に爪先からマジンダムを飛び込ませるのよ!」

 「この魔法ってなんか、サーカスのライオンみたいだよな」

 「いいから、言う通りにして」

 「分かったよ」

 指示通りに上空に展開した赤い魔法陣に向かわせる中で、マジンダムは全身が真紅に輝き、その場からジャンプして爪先から飛び込ませた。

 「フレイムアローキック!」

 魔法陣を通過したマジンダムは、焔の矢となってキングドラコンの腹を突き破り、着地と同時に完全焼失させたのだった。

 ブラックキングドラゴンを倒して、レーダーで敵が居ないことを確認した二人は機体から降り、マリルの詠唱と共にマジンダムを元の超○金玩具に戻した後、戦いで荒れた山を元通りにしていった。

 「お二人共、ご無事でなによりでございます」

 タイミングを見計らったように、リュウガが二人の前に現れた。

 「リュウガ、これはいったいどういうこと? どうして彼を連れてきたの? 私はそんな命令出していない」

 いつになくキツい言い方で、リュウガに行動の真意を問いた出し始めた。

 「マリル様の危機を見過ごすことができず、勝手な行動に出ましたことをお許し下さい」

 リュウガは、片肘を付いて頭を下げた。

 「おいおい、そんな言い方するなよ。林さんの為を思っての行動だぞ」

 「守様、お心遣いありがとうございます。ですが、よいのです。主の命を無視するなど、従僕としては最低の行為にございますから」

 「私が怒っているのは、命令無視ではなくて、あなたを危険な目に合わせたことよ」

 マリルに指差される。

 「俺?」

 言いながら自分自身を指さす。

 「そうよ。あなた、どうやってマジンダムに乗ったの? あれだけの魔獣が素直に通してくれたとは思えないわ」

 「あの時は必死だったから、あんまり覚えていないな~」

 実際には、物凄く死にそうな目に合っていたのだ。

 「今は生きているからいいけど、もし死んでしまっていたらどうするつもり? おじさんだって悲しむわよ。私はそのことを考えずに連れてきたことを咎めているの」

 「そういうことか。けどな、行くって決めたのは俺なんだし、俺が来たお陰で勝てたことに変わりないんだから、これ以上リュウガを責めるなよ」

 守は、あくまで自分の意思で行動し、それによって勝てたことを説明することで、リュウガを赦すよう説得した。

 「・・・・・分かったわ。あなたに免じて今回のことは不問とするわ」

 マリルは、軽くため息を吐きながら赦しの言葉を口にした。

 「ありがとうございます」

 リュウガは、一礼して立った後、守と目を合わせ、二人ならではのアイコンタクトをした。

 「そういえば、混沌の魔女はどこに居るんだ? 全然姿が見えないぞ」

 そう言いながら周囲を見回している中、林から黒い矢が飛んできたが、条件反射的に近くにあったマジンダムを両手で抱え、前面に出して盾代わりにした。

 黒い矢はマジンダムに当たると、一瞬にして消滅した。

 「なんだ、今のは?!」

 「そこ! ロデオノホ!」

 マリルの呪文に合わせて、マジンダムから発射された炎は、黒い矢が飛んできた方に飛んでいって、大きな火柱を上げた。

 「なるほど、そういうことだったのね」

 燃え盛る林から出てきたのは混沌の魔女で、紫のローブが焼け落ちるのも構わず平然歩いていて、全てが焼け落ちると一糸纏わぬ金髪美女が姿を現わした。

 「きゃ~!」

 真っ先に叫んだのは守だった。なんの心構えもなく、金髪美女の全裸を目の当たりにすれば無理もない。

 「なんだ。あの女、裸族だぞ! 裸族!」

 両手で顔を覆いながらも、本能的に指と指の隙間から魔女の裸体を見ようとしてしまう。

 「バカ、違うわよ! どこまで見たのか知らないけれど、体に魔法石を埋め込むことで杖無しでも強力な魔法を使えるようにしているの」

 大慌てのマリルに両手で顔を覆われながら説明された。

 「なるほど、そのゴーレムの材料と坊やが一緒になることで力を発揮するわけね。次こそ絶対に勝つわ」

 魔女は、全裸であることを気にもせず、余裕を見せながら転送魔法で消え失せた。

 「まったくなんて恐ろしくてとんでもない女なんだ」

 守の脳内では、全裸の金髪美女が焼き付いて離れず、悪い意味で混沌の魔女の恐ろしさを実感させられたのだった。

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