第5話 超○金玩具と魔法少女。
「汝、仮初の姿に戻れ」
マリルの詠唱の後、グレートマジンダムは巨大化の時と同じく発光しながら縮み、元の超○金玩具サイズに戻っていった。
「元の大きさに戻せるんだな。ずっと巨大ロボットのままかと思ったよ」
「魔力で大きくしたんだから元に戻すことだってできるわよ」
マリルは、まだ戦闘中の行為に対して拗ねているらしく、素っ気ない感じで説明した。
「おかえり~。俺のグレートマジンダム~」
完全に玩具サイズに戻ったマジンダムに向かって、我が子を迎える親ように両手を伸ばしていく。
「ちょっと待って」
マリルが、いきなり杖を前に出してきて、行く手を阻んできた。
「いきなり何すんだよ?」
「このグレートマジンダムは私のものよ」
マリルは、突然マジンダムを自分の物だと言ってきた。
「どういうことだよ?」
「さっきの戦闘で分かったんだけど、杖の魔法石は無くなったんじゃなくて、マジンダムと一体化してしまったの。だから私がコントロールスティックに触れることで魔法が使えたのよ」
杖の宝石部分を指さしながら説明する。
「なんでそんなことになったんだよ。掛けたのは顕現魔法なんだろ」
「多分、ゴーレムに吹き飛ばされた時の衝撃で合わさって融合してしまったのね。細かいことはともかく魔法石と一体化していると分かったからにはマジンダムの所有権は私にあるわ」
マリルが、胸に手を当てながらマジンダムの所有権を主張してくる。
「何言ってんだよ。マジンダムは俺の金で買ったんだから俺の物に決まっているだろ」
右親指を自分の胸に当てて、所有権を主張する。
「私にゴーレムの材料として提供したでしょ」
「あれは危機を脱する為の材料として提供しただけであって、所有権まで渡した覚えはない」
「私の魔法の力で勝てたのよ」
「俺の操縦あってのものだぞ」
二人は、一歩も譲らないまま押し問答を続けた。
「ここで言い争っていても埒が明かないわ。とりあえず火事を消してラーメン屋に戻りましょ」
「そうだな。おじさんの店も心配だし、とりあえずマジンダムは俺が持つよ」
「どうして?」
敵意の籠った不満そうな顔で問い掛けてくる。
「見た目以上に重いからだよ。試しに持ってみろ」
「こんな玩具くらい片手で持てるわよ」
マリルは、マジンダムに両手を回して、持ち上げようとした。
「重い~って、なんでこんなに重いのよ~!」
マリルは、マジンダムを膝よりも高く持ち上げることができず、無念そうに地面に戻した。
「なんたって五十センチあって超○金比率九割だからな。たぶん七、六キロはあるぞ」
「確かに女の子の持つものじゃないわね」
「だから、俺が持つって言っただろ」
守は、マリルとは反対にマジンダムを軽々と胸まで持ち上げてみせた。
「それなら持ったまま上に掲げて。火事を消して山を再生させるから」
「分かった」
言われた通りに掲げ、マリルが呪文を唱えた直後、マジンダムは杖に付いていた魔法石と同じように全身から赤い輝きを放ち、その光によって山火事は消え、焼失した木々も元通りに再生していった。
全ての後始末が終えると、転送魔法で行々軒に戻った。
行々軒の周囲には警官とパトカーに加え、集まった野次馬達がスマホで写真や動画を撮ってりまくっていた。
「やっぱり物凄い騒ぎになっているな」
「守~!」
おじさんが、大声で名前を呼びながら駆け寄ってきた。
「店が化け物に潰されちまったって聞いたから飛んで来てみたらほんとに潰れていて、ひょっとしたらお前も一緒に潰れたんじゃないかって心配していたんだぞ~」
泣きじゃくりながら店の状況と自身の心境を話していった。
「どうにかできるよな」
「任せて」
マリルが、右手を前に出して、掌から放射した青い光をおじさんに浴びせると目を閉じて、力無く倒れかかってきたので、マジンダムを右手で持ち、左腕で体を支えた。
「何をしたんだ?」
「心配しないで軽く眠らせただけだから」
その後、色違いの光を放射し、それを浴びた野次馬や警官達は体の向きを変え、散々に現場から離れていった。
「学校で使ったのとは違う魔法だよな」
「人払いの魔法よ。あんなに人が居たんじゃお店に戻れないでしょ」
野次馬が完全にはけたところで、大きく窪んだ敷地に散らばる原型を留めていない店の前に行った。
「この有様じゃあ、おじさんが動揺するわけだ」
「よっぽど大事なお店なのね」
「そりゃあそうさ。おじさんが二十五年かかってにようやく持った自分の店だからな」
「大丈夫、元通りに直してあげるから」
おじさんをその場に寝かせた後、山を再生させた時と同じようにマリルの詠唱に合わせて放射されたマジンダムの光によって、まるで時間を巻き戻すように再生を始め、数分後には敷地も含めて元通りになった。
その後、同様の方法で、隣近所や道路といった周辺の再生を行った。
「一応、中も確認してみて、欠陥があれば修復するから」
「分かった」
規制用のテープを外して、店に入るとテーブルや椅子にTVなど内装は破壊される前と変わらず、厨房で仕込んでいるスープや壁の細かな汚れさえもきちんと修復されていて、さらに奥の部屋も問題無しとゴーレムによる破壊行為など初めてから無かったような完璧な出来栄えだった。
「大丈夫だ。どこにも問題無い」
「それなら良かった」
「おじさん、店に戻さないと」
守は、マジンダムをテーブルに置いてからおじさんを店の中へ入れ、奥の部屋へ運んでいった。
「これで一安心だな」
「それじゃあ、話し合いの為に別の場所に・・・・」
「守か?」
マリルが、別場所へ行こうと提案しかけたところで、おじさんが目を覚ました。
「おかえり、おじさん」
何事も無かったように返事をした。
「俺、なんでここで寝ているんだ?」
辺りを見回しながら不思議そうに尋ねてくる。
「飲んで帰ってきて寝たんだよ」
「そうだったかな? 携帯見たら警察から留守番メッセージがやたらと入っていて、電話してみたら店が潰れたっていうんで泣き付くメロンちゃんを振り切って戻ってきたはずなんだけど」
「そんなわけないよ。だったらなんで店の中に居るの?」
何も無かったことをアピールするように両手を広げて、店の中に居ることを分からせた。
「言われてみればそうだよな。厨房はどうなんだ?」
部屋から出て行くと、当然ながら再生された厨房を目にしただけだった。
「ほんとに何も無かったみたいだな。客は来たのか?」
「三人来ただけで後はそれっきりだったよ。店閉めちゃった方が良かったんじゃない?」
マリルが飛び込んで来るまでの経緯を簡単に説明する。
「そっか、そっか。ん、なんでテーブルにでっかいおもちゃが乗っているんだ?」
テーブルに乗せられているマジンダムを不思議そうに指差してきた。
「これは友達に貸していてさっき返してもらったからここに置いたんだよ」
再生した後にテーブルの上に置いたことを適当な言葉で説明する。
「そういうことか」
「おじさんも帰ってきたことだし、帰ってもいいよね」
「そうだな。帰っていいぞ。今夜はもう店じまいするし。いきなりヘルプ頼んで悪かったな」
「別にいいよ」
着替えを済ませ、マジンダムを持って店を出た。
「林さん、そこに居たのか。いきなり見えなくなるから驚いたぜ」
入り口の脇に立っているマリルに声を掛けた。
「この格好見られるわけにはいかないでしょ」
「魔法で別の格好になればいいじゃないか」
「魔力切れよ。それだって一人じゃ持てなかったし」
守が、左手に抱えているマジンダムを指差す。
「それは言えているな」
「なら、行きましょうか」
「どこへ?」
「話し合える場所」
「お~い、守」
店から数歩離れたところで、おじさんに呼び止められた。
「なに、おじさん?」
「臨時のバイト代を渡すのすっかり忘れていた」
言いながらバイト代の入った茶封筒を差し出してくる。
「ありがとう。おじさん」
「その子、誰?」
おじさんは、隣に立っているマリルのことを聞いてきた。
「彼女は今日俺の学校に転校していた林マリルさんだ」
守は、誤魔化すことなく堂々とマリルのことを紹介した。
「ど、どうも、林マリルです」
マリルは、恥ずかしそうに挨拶をした。よりにもよって魔法使いの恰好を見られているからである。
「マリルちゃんか、随分派手な格好をしているね。その見た目だと魔法使いかな?」
当然のことながらマリルの恰好に付いても聞いてきた。
「林さんは”レイヤー”なんだ」
冷静な一言で、全てを説明する。
「レイヤー? コスプレする人のことか。なんでここに居るんだ?」
「おじさん、ここは天下のアキハバラだよ。レイヤーイベントがあってもおかしくはないだろ。そのイベントで使うからって、この超○金玩具を貸して上げて、さっき返しに来てもらったんだ。それで夜道は危ないから今から送っていくところんだよ」
これまでと同じように嘘だらけの説明をしていく。
「そういうことか。マリルちゃん」
「はい」
おじさんの呼びかけに、マリルは不意を突かれたらしく、体を一瞬震わせた。
「その服、とっても似合っているね。まるで本職さんみたいだ」
「ど、どうも」
本当に本職なのだが、そうだと言えるはずもなかった。
「それと守と仲良くしてやってくれ」
少しだけ真面目な言い方になっていた。
「分かりました」
マリルは、真顔で返事をした。
「おじさん、変なこと言わないでくれよ。行こうぜ」
赤くなる顔を見られないようそっぽを向いて、マリルに先を促した。
「うん」
二人は、おじさんに見送られながら行々軒を後にした。
「レイヤーとかコスプレってなに?」
「林さんみたいな恰好を趣味でやっている連中のことだよ」
右人差し指で、マリルの全身に軽く輪っかを描きながら説明する。
「私のは趣味じゃないんだけど」
馬鹿にされたと思ったらしく、険しい表情で言い返されてしまった。
「そんなことは十分過ぎるほど分かっているよ。それでこれからどうすんだ?」
「ゆっくり話ができるように私の邸に行くわ」
「それってここから遠いのか? これでもけっこう疲れているんだけど」
「大丈夫。もうすぐ迎えが来るから」
言った傍から一台の高級外車が、二人の側に止まった。
「マリル様、お迎えに上がりました」
運転席から出てきたのは、黒い礼服を着た黒髪で端正な顔立ちの運転手で、一切無駄の無い軽やかな動きでもって、後部座席に回ってドアを開けてきた。
「ご苦労様、リュウガ」
マリルは、運転手の名前を呼びながら中に入った。
「あなた様もお乗りください」
リュウガは、ニコやかな微笑みを浮かべながら乗車を勧めてきた。
「分かりました」
初対面ながら警戒心を抱かせない穏和な雰囲気に乗せられるように中に入った。
車内は見た目よりもずっと広く、ちょっとした部屋のように感じられた。
真ん中に設置されているテーブルの空き場所にマジンダムを置いて、マリルと向かい合わせに座る。こういった高級外車に乗るのは初めてだったが、巨大ロボットを操縦した後だったので、驚きも緊張もしなかった。
マリルは、杖を右脇に立て掛け、取ったとんがり帽子とマントを左脇に置いた後、軽く息を吐いて、全身の力を抜くようにゆったりとした姿勢を取った。長く続いた緊張状態から解放されたからだろう。
「マリル様、車内にお食事と缶コーヒーをご用意しております」
マリルの挙動を見計らっていたかように、リュウガの声が車内に入ってくる。
車内に入った時から嫌でも目に付いていたが、テーブルの上には、ところ狭しと並べられた皿に盛られた肉中心の料理と十数本の缶コーヒーが置かれていたのだ。
「いただくわ」
返事をしたマリルは、猛烈な勢いで食べ始めた。
「ほんとによく食べるよな~」
女子に向かって、かなり失礼に当たる言葉を掛けたが、今といい、夕方のパンといい、その旺盛な食欲を見てくれば当然の反応といえるだろう。
「マジンダムなんて巨大なものに対応するくらいの魔力を使ったんだもの、お腹だって空くし、少しでも食べて魔力を回復さておかないと」
「回復アイテムとか無いのか?」
「あるけど、その手の物とは相性が悪くて逆に体調崩しちゃうの。だから一番効率のいい方法で回復させているのよ」
「なるほど、それが食事ってわけか」
食べることにこだわる理由を理解した。
マリルは、料理を平らげた後、缶コーヒーを飲み始めた。
「すっかり缶コーヒーにハマったみたいだな」
「あなたにもらって飲んでから気に入っているのだけど変かしら?」
「変じゃないけど」
缶コーヒーと魔法使いという組み合わせは、かなり変なのだが、敢えて突っ込まないでおくことにした。
車は、街道から別れた一本の舗装された山道に入り、道なりに登っていくと大きく開けた場所に出た。
そこには旅行ガイドブックに掲載されそうな豪華絢爛な外観をした洋館が建っていて、夜の山あいの風景と合わさり、ファンタジーの世界に入り込んだのかと錯覚しそうになった。
車は玄関前で止まり、迎えに来た時と同じく、運転席から出てきたリュウガがドアを開け、車内から二人が出てくると先回りして、大きめの扉を開けた。
「お帰りなさいませ。マリル様」
「ただいま。さあ、入って」
帰宅の挨拶をしたマリルに促されて中に入った。
邸内は、豪奢な装飾や高そうな絵画や壺といった調度品が無かったので、外観と異なり、荘厳で落ち着いた雰囲気に満ちていた。
扉を閉め、素早く先頭に立ったリュウガに付いて歩く中、自分よりも頭一つ背が高いことが分かった。
それから一階にある暖炉が設置された客室に案内された。
マリルは、沐浴と着替えをするとのことで、部屋の前で別れた。
「改めて自己紹介させていただきます。わたくし、マリル様の身の回りのお世話をしております。リュウガと申します」
勧められた長椅子に座った後、リュウガが礼儀正しい言葉遣いと仕草で自己紹介してきた。
「俺は」
「鋼守様でございますね。お名前はマリル様より伺っております」
言葉を遮るように言ってきた。
「そうですか、それでリュウガさん」
「リュウガで構いませんよ。それと丁寧な言葉遣いも不用でございます。この世界で言いますところのタメ口でよろしいですよ」
「なら、リュウガ。俺、これからどうなんの?」
「全てはマリル様がお決めなることでございますので、わたくしから申し上げることはございません」
「そうだろうな~」
長椅子にもたれながら言葉を返す。
「そう気落ちなさらなくても我が主はあなた様に危害を加えるようなことはいたしませんよ」
「それはなんとなく分かるけどね~」
「いかがでしょう? 守様も沐浴なされては」
思いがけない提案をしてきた。
「浴室はリュウガの主が使っているだろ」
「来客用の別室がございますので、ご安心ください。それと少々臭いますよ」
「激戦の後だもんな。それにしも良く分かったな」
「わたくし、こう見えて鼻が効きますので、それではご案内いたします」
リュウガは、扉に手を向けながら言った。
「時に守様」
「なに?」
「テーブルの上に置かれている物はなんでございましょうか? ゴーレムの材料のように見えますが」
「超○金玩具だ」
「あれが超○金・・・・」
リュウガの目の色が、少しばかり変わったような気がした。
「どうかしたのか?」
「いえ、なんでもございません。ご案内いたします」
部屋を出る際に振り返ると、リュウガがマジンダムに視線を向けているのを見たが、理由は聞かなかった。
案内された浴室は、大きさも設備も標準サイズであり、屋敷のイメージからライオンの口からお湯が出るような凄く豪華なものを想像していたので、ちょっと意外だった。
シャワーを浴びた後、お湯を張ったバスタブにゆっくりと浸かった。
一息吐くと、身も心も落ち着き、ゆったりした気持ちの中、これまでのことを走馬灯のように思い出していった。
バイト帰りに魔法使いであるマリルと会って、混沌の魔女をやり過ごした後、炒飯と缶コーヒー二本に弁当半分を振る舞い、翌日にはカップラーメンの食べ方をレクチャーし、放課後にはパンを買ってきたのだ。
「なんか、食い物関連ばっかだな」
そして、混沌の魔女に店を潰された後、顕現化したグレートマジンダムに乗って、魔女操るゴーレムを倒したのだった。
浴槽から出した両手にじっと視線を注ぐ。
数十分前まで、マジンダムのコントロールスティックを握っていた時の感覚はまだしっかりと残っていて、握っていた時の形にすることもできた。
「俺、本物の巨大ロボットに乗って戦ったんだよな・・・・・・」
言葉を切って、一端顔を下げた。
そうして、顔を上げるなり
「本物の巨大ロボットに乗れたんだ! もう一度乗れないかな~! うっひょ~! たまんね~!」と叫びながらばしゃばしゃと湯槽をかき乱した。
大好きな巨大ロボットに乗れたことに興奮するあまり、年甲斐もなくはしゃいでしまったのだ。
風呂から上がって、どういうわけかしっかりと洗濯されている制服を着て、暖炉のある部屋に戻ってきた十分後にマリルが入ってきた。
着ている服は、魔法使いの衣装ではなく、ネグリジェに似たワンピースのゆったりとしたものであり、豊かなバストラインがくっきりと浮かび上がっていたので、視線をそちらに向けないように心掛けることにした。
「マリル様、何かお召し上がりになりますか?」
「そうね。簡単に食べられるものがいいわ」
「かしこまりました」
リュウガは、一礼して部屋から出て行った。
「まだ食べるのか? 車の中だけでもけっこうな量だったぞ」
「ゴーレムと戦った後に人の記憶操作に加えて損害物の再生までしたのよ。あれくらいじゃ全然足りないわ」
「それじゃあ、仕方ないな」
守が、納得するタイミングで戻ってきたリュウガが、お盆いっぱいのサンドイッチと缶コーヒーを運んできた。
「あなたも食べていいわよ。缶コーヒーも飲んでいいし」
食べながら飲食を勧めてくる。
「じゃ、遠慮なく」
言われるままサンドイッチを食べ、缶コーヒーを飲んだ。巨大ロボットの操縦をした後だからか、マリルほどではないにしても思っていた以上に食が進んだ。
「それで結論は出たのか?」
食べ終わるタイミングで、保留にしていた事案の答えを尋ねた。
「この超○金玩具ことグレートマジンダムの所有権は私のものとするわ」
マジンダムを指差しながら言った。
「やっぱりか、これは俺のものだって山でも言っただろ」
「私の杖の魔法石と融合しているのだから、私のものだとも言ったわよね」
「今日買ったばっかりなんだぞ。はい、そうですかってすんなり渡せるもんか」
「そういうことなら、リュウガ」
「守様、幾らお支払いすればよろしいでしょうか?」
リュウガが、懐に手を伸ばしながら金額を尋ねてきた。
「なんのつもりだ?」
「あなたの言う金額で、これを買い取ってあげる」
「ふざけるな。金の問題じゃない」
「お金で買ったんでしょ。朝は必死な思いで守っていたじゃない」
「種類の問題だ。これを買う為に色々なものを我慢して貯めてきた金で勝ったからこそ、このマジンダムは大事かつ愛しく思えるんだ。その大事なものを売るってことは俺のこれまでの努力を売るのと同じだ! そんなことできるわけないだろ!」
自身の信条を込めた熱弁を奮った。
「そういうことを言うのなら私だって譲れないわ。魔法使いにとって杖は存在の証なんだから」
「それこそ新しくてもっと高性能なものに変えればいいじゃないか。林さんの世界ならいくらでもあるだろ」
「そんなことできるわけないでしょ。魔法使いは一生に一度しか杖を持つことは許されないし、あの杖は先祖代々の家宝なんだから、それを簡単に手放せるわけないでしょ」
「林さんの言い分は理解したけど、この超○金サイズのマジンダムを杖に付けるつもりなのか?」
至極冷静な声で質問した。
「あ・・・・。いや~! なんて恥ずかしいことしているの私~! そんなことになったら外歩けな~い!」
マリルは、両手で頭を抱え、ソファーの上でゴロゴロした。マジンダムを杖に付けて魔法を使うという自身の想像に耐えられなかったのであろう。
なにやってんだかな~という気持ちで見ている中、リュウガの表情を伺うと、我が子を見守る親のような微笑みを浮かべているだけだった。
「魔法で分離とかできないのかよ? 魔法でくっ付いたんだから離すこともでるだろ」
「ここまで融合しているんだもの、わたしの力だけじゃ無理よ。向こうの世界の工房でならできるかもしれないけど」
「なら、そうすればいいじゃないか」
「あのね~。一、二時間で済むことじゃないのよ。日数を要している間に混沌の魔女に暴れられたらどうするつもり? これ抜きで対抗できないことはあなたが一番良く分かっているしょ」
マジンダムが無ければ、今頃どうなっていたのかと思うとマリルの言うことを無視するわけにはいかなかった。
「分かった。妥協案を出そう。魔女を倒すまでの間、所有権を半々にしようぜ」
「どういうこと?」
首を傾げながら尋ねてくる。
「一日置きに持つことにして、必要な時は魔法で持ち出せるようにすればいいじゃないか」
「引く気はないみたいだからその案で手を打ちましょう。それで今日はどっち?」
「林さんでいいぞ。魔法を使えるようにするにはマジンダムの構造を把握しておく必要があるんだろ」
「そうしてくれると助かるわ」
マリルは、ため息交じりに言った。
「で、俺自身はどうするんだ。今度こそ記憶消すのか?」
「魔女を倒すまでは保留にするわ。あなたは秘密を守ってくれそうだし」
「護衛の方はどうするんだ?」
「まだ魔女も居るから終わりってわけじゃないけど、今日みたいに一日中付きっきりってことはしなくてもいいと思う」
「分かった。それなら俺はもう帰るよ」
「さっき言ったことと矛盾するようだけど、念のために今日は泊まっていったら?」
「泊まってもいいのか?」
「部屋なら幾らでもあるし。ここは結界を張っているから魔女も迂闊には手は出せないわ」
「そういうことか。それはいいとして顔見知りとはいえ男が泊まるんだぞ。平気なのか?」
少し意地悪を装って聞いてみた。
「大丈夫、部屋のドアノブに防犯用の魔法を掛けておくから」
自身満々に答えるマリルに対して、考慮する点が間違っていると思ったが、受け流すことにした。
「じゃあ、お言葉に甘えて泊めさせてもらうよ。今日は疲れたし」
「リュウガ、部屋に案内してあげて」
「かしこまりました」
「明日、学校来るのか?」
「まだ分からないけど、なんで?」
「来るつもりなら大事なことを言っておく」
「なに?」
「明日は学食やっているからな」
重い口調で告げた。
「・・・・・うん、分かった」
マリルは、微妙な顔をしながら返事をした。
案内されたのは、暖炉の部屋以上に広い客間で、ベッドなどの設備が全て揃っていて、三ツ星ホテル並の様相だった。
「守様、マリル様と仲良くして上げてください」
ベッドに腰掛けるタイミングで、リュウガがこれまでと違い、少しだけ真面目な表情で言ってきた。
「俺じゃなくても学校の女子とは友達になれそうだったぞ」
「いえ、ご学友としてではなく魔法使いと知った上で仲良くしていただきたいのです」
「こういう場合は普通避けるように言うもんじゃないのか? 大事な秘密を知っている上に男なんだし」
「マリル様は、あちらの世界では高名な方ですが、その分幼少の頃から大変ご苦労されまして、同年代のご友人を作る機会を失い、本音を言い合える相手も限られているのでございます」
「全然そうは見えなかったけどな」
「あなたの前だからですよ。あのような振る舞いを見るのは久しぶりです。何か特別なことでもされたのですか?」
「いや、特には。とりあえずリュウガの言うことは分かったよ」
マジンダムの操縦の際に前抱っこしたことを思い出したが、さすがに言えなかった。
「ありがとうございます。時に守様、超○金玩具とはなんでございましょうか?」
リュウガは、新たな世界に足を踏み入れた。
「・・・・・・」
マリルは、自身の寝室に居た。
部屋の広さに対して、キングサイズのベッドと姿見鏡しか置かれていないので、とても殺風景な感じだった。
マリルは、ベッドに座って、あるものを凝視していた。
それは超○金サイズのマジンダムであった。
内部構造を知るべく、戻ってきたリュウガに運ばせていたのだ。山で持とうとした時に自身の腕力では、とても寝室まで運べないと悟ったからである。
運搬の最中、リュウガがやたら目を輝かせていたような気がしたが、何故だかは分からなかった。
ため息を洩らしながら、壁に立てかけてある宝石の無い杖に視線を移した。
これまで幾重もの戦いを共にしてきたリュウガや他の者とは違う意味で、いつも自分の側に居てくれる大事な存在だった。
ベッドから降りて杖に近付き、右手でそっと触れた。そうすることで様々な思い出が蘇ってきて、思わず微笑を漏らしてしまう。
それから宝石の欠けた部分を見た後、ベッドに視線を戻し、何事も無かったように立っている宝石と融合してしまった鋼の巨人を凝視した。
「ああ~もう~! なんで私の魔法石がこんなもんと同化しちゃうのよ! 今日は学食も休みだし、変なフィギュアにポスターも見せられるしでなんて日なの~! この世界は私に恨みでもあるわけ~?!」
美少女とは思えないほど、表情をおもいっきり歪ませて、ベッドをばんばん叩きながら自分の身に起きた数々の不運に対する恨みを吐き出していった。
言いたいことを言えてややすっきりしたので、心持ちを新たにマジンダムに目を向ける。
やはり分からなかった。何がどういいのか、何故そこまで守を夢中にさせるのか、理解できなかった。
自分の住む世界にも男子向け玩具はあるが、こういった仕様の物は無かったからである。
次に両手で触れてみた。硬くてひんやりという超○金ならではの感触が伝わってくる。
手の平全体で感じられるということは、九割が超○金という守の言葉は本当なのだろう。
それから関節を動かしていく。
肩や肘膝だけでなく指や爪先まで動くことには正直感心した。
この世界で、ここまでの金属加工技術があるとは思ってもみなかったからだ。
「やっぱり分からないわ」
魅力に付いてはさっぱりだったが、構造に付いてはだいたい理解できたので良しとした。
結局のところマリルの脳は、超○金の魅力に理解を示さない世の奥様方と同じ構造だったわけだ。
必要な作業は終えたので、今夜は寝ようとマジンダムをベッドの棚に運ぼうとしたが、重くて無理だったので、仕方なく枕の横に置いて寝ることにした。
疲れていることもあってか、すぐに寝ることができた。
その頃、守はスマホに保存してある画像を使って、自身のブログにマジンダムの玩具レビューを書き込んでいた。
「ぎやあああ~!」
突然、襲って来た痛みにマリルは、大声を上げた。
「マリル様、如何なさいました?」
数回のノックの後、リュウガが部屋に入ってきた。
「敵襲よ! 敵襲! 何かに右頬を刺されたわ。きっと混沌の魔女が寝込みを襲いに来たのよ! そうに決まっているわ!」
「いえ、魔力の気配は一切感じませんが」
リュウガが、部屋の電気を付けるも侵入者はどこにも居なかった。
「じゃあ、いったいなんなの? 顔の右側が痛いのだから夢オチじゃないはずよ」
「確かに少しばかり血の匂いがいたしますね。ちょっと頬を見せていただけますでしょうか」
言われた通りに痛い場所を見せる。
「仰る通り微かにですが、右頬から血が出ております」
「血? 出血~?! 敵も居ないのに出血とかどういうこと~?!」
「おそらくは、そちらの超○金玩具が原因かと」
リュウガが、物凄く気まずそうに枕元のマジンダムを指さしながら言った。
「これが原因なの? だって、これ玩具なのよ。玩具。それとも凶器なわけ~?」
「ここに血が少々付いております。凶器というわけではございませんが、尖っている場所ゆえの惨事かと」
リュウガが、指差す先に視線を向けると血が付いているのは、胸パーツの先端だった。
「ほんとだ。なんで、こんな玩具ごときに私が傷付けられなくちゃいけないの?」
「守様のお話ですと、超○金玩具には硬く尖った部分もあるので気を付けて扱うようにとのことでございます」
「私を傷付けた部分がそうだと言うの?」
「はい、胸の部分はグレートブーメランという武器になるとのお話でございます」
「なによ、それ。やっぱりこれは凶器なんだわ。こんな危ないものを販売するなんて、この世界の住人はなんて恐ろしい種族なの? 私が知っているどの種族よりも危険だわ」
マリルは、枕元に置いてあるマジンダムを恐ろしいものとして認識した。
「とりあえず、この超○金玩具はこちらに移しておきますので、今日のところは傷の手当てをしてお休みください」
「分かったわ」
リュウガが、マジンダムをベッドの棚に乗せる傍ら、自身に治癒魔法をかけて傷を直した。
「・・・・・」
数分後、目を覚ましたマリルは、ふと棚を見た。そこには自分を見詰める超○金の巨人が立っていた。
「落ち着かね~」
体を起こしたマリルは、マジンダムを両手で掴んで、重量に悪戦苦闘しながら自分に背を向けさせた後、再び眠りに付いたのだった。
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