第4話 グレートマジンダムと魔法少女。

 そこは草原の上だった。

 左隣には、左腕をしっかり掴んでいるマリルが居て、足元には白くて二人が収まるくらいの魔法陣が浮かび上がっている。

 「ここはどこだ?」

 とりあえず、今居る場所に付いて尋ねる。

 「ラーメン屋から遠く離れた山あいの草原よ」

 説明を聞いて、辺りを見ると草と山しか見えず、アキハバラどころか日本ですらないような気がした。

 「どんな魔法を使ったんだ?」

 「転送魔法。自分が実際に行った場所をイメージすることで瞬間的に移動できるの。戦いの被害を避ける為に昨日のうちに下見しておいて正解だったわ」

 足元の魔法陣を消しながらの説明だった。

 「なるほどって、そうだ! 紫ババアにおじさんの店壊されたんだ! あの紫ババア絶対に許さねえぞ! 今度会ったらギタギタのボッコボコにしてやるからな~!」

 心の底から湧き上がってくる紫ローブへの怒りを大声で叫んだ。

 「気持ちは分かるけど、あなたじゃ"混沌の魔女"には絶対に叶わないわよ」

 「混沌の魔女? あの紫ババアのことか?」

 「そうよ。私の居る世界を含めて幾つもの世界をめちゃくちゃにしようとしたからそう呼ばれているの。私は彼女を止める為にこの世界に来たの」

 マリルが、自身の目的を明かした。

 「止めに来たってことは勝算あるんだよな」

 「正直に言わせてもらうと現状で勝てる見込みは無いわね」

 苦い表情を浮かべながら現状を打ち明けた。

 「そんな弱気なこと言うなよ。林さんじゃなきゃ対抗できないんだろ」

 「この世界に来る前に拠点である工房を破壊したからゴーレムを作れる材料はもう残っていないと思っていたけど、まだゴーレム生成用の魔法石を隠し持っていたのは予想外だったのよ」

 「あの魔女が作ったゴーレムって、そんなに強いのか?」

 「もちろんよ。攻撃力と防御力が高いのは当然として魔力供給による再生能力を兼ね備えた究極の魔動兵器の一種にして操者が混沌の魔女ともなれば非の打ち所がないわ」

 「助けは呼べないのか? 仲間が居るんだろ」

 「別のことを任せているからここへは来られないわ」

 「だったら林さんもゴーレム造ればいいじゃないか。同じ魔法使いなんだからできるだろ」

 対抗手段を提案してみた。

 「できなくもないけど、正直自信無いわね」

 「今の状況でそんなこと言っている場合じゃないだろ」

 「そうだけど、材料が足りないのよ。来たばかりで道具だって全然揃っていないし」

 悔しそうに言い返してくる。

 「その辺の土や石じゃダメなのか?」

 「わたしは核にできる魔法石を持っていないから、土や石よりも強靭な素材が必要なの。素材で劣っている時点で負けてしまうわ」

 「強靭な材料か・・・・そうだ。またデカくした超○金使おうぜ。どうせ、ここに来るんだろうし」

 「同じ手が通用するとは思えないし、あの超○金はほとんど動かないんだから動く相手に勝てるわけないでしょ」

 「分かった。それなら今日買った超○金を使おうぜ。あれは最新の技術が使われているから稼働範囲も申し分ないぞ」

 買ったばかりの超○金の良さを力説していく。

 「耐久性はどうするの? 初手で倒せなくて、直接戦うことになったら簡単にやられてしまうわ。だいたい玩具を対抗兵器に指名するのが間違っているのよ!」

 「他に思い付かないんだからしょうがないだろ。それとさっきからネガティブなことばっか言ってないで魔法でどうにかしろよ! 魔法で! 紫ババアが言うにはなんだか凄い魔法使いなんだろ?!」

 自分の意見を否定され続けたことに腹が立ってきたので、相手が女子であることも忘れて大声で言い返してしまった。

 「・・・・分かったわ。顕現魔法を試してみる」

 「顕現魔法?」

 「素材を使わずに知識だけで物を造り出す高レベル魔法」

 「雷とか炎を出すのとは違うのか?」

 「あれは近くの元素を構築しているだけ、顕現魔法は本当にゼロから物を造り出すことができるの」

 「なるほど、その魔法で巨大ロボットを顕現させるわけか。けど、林さん、巨大ロボット知識無いんじゃないの? 今日知ったばかりだし」

 「だから、あなたの知識を通して超○金に魔法を掛けるのよ」

 「俺の知識を使って顕現魔法を超○金に掛けるとどうなるんだ?」

 「あなたが話すアニメの設定通りの存在にできるかもしれない。どこまでできるかは実際に掛けてみないと分からないけど」

 「つまり俺の超○金が最強無敵のスーパーロボットになるというわけだな」

 「最強?」

 「一番強いってことだ」

 「無敵?」

 「敵が居ないくらい強いってことだ」

 「その二つが合わさっているということは物凄く強いってことでいいのかしら?」

 半信半疑な調子で問い掛けてくる。

 「その通りだ!」

 絶対の自信を持って答える。

 「じゃあ、ここに召喚するわよ」

 マリルが、杖を草原に向けると小さな魔法陣が浮かび上がり、その上にトマホークを両手に持った超○金が召喚された。

 「三機の飛行機が合体する超○金じゃないぞ。だいたいデザインが全然違うだろ」

 「そうなの? じゃあ、これかしら」

 次に召喚されたのは、剣と銃を持ち、両足が動物の超○金だった。

 「八割が一体のゾウロボットで構成されている奴でもない! 真面目にやれよ!」

 「巨大ロボットに関しては素人なんだから細かい違いなんて分からないわよ!」

 三度目の召喚で、ようなく今日買った超○金が現れた。

 「これだよ。これ。やっぱカッコいいな~。グレートマジンダムは~」

 草原に召喚された超○金を見て賛美の言葉を贈った。

 「グレートマジンダム?」

 「この超○金のロボットの名前だよ」 

 「そういえば名前だったような気がしたわ。それじゃあ、ちょっと頭貸して」

 「へ?」

 返事をする間も無く、マリルに頭を鷲掴みにされてしまう。

 「おいおい、いきなり何するんだよ?!」

 相手が女の子なので抵抗するわけにもいかず、頭を捕まれたまま行動の意図を尋ねた。

 「仕上げを完璧する為よ。あなたの知識を顕現魔法に織り込むのに脳から直接を引き出せるようにやっているの」

 「そういうことなら全然構わないぞ」

 「それじゃあ、始めるわよ。グレートマジンダムの知識を頭に思い浮かべて」

 その言葉を合図にして、グレートマジンダムの設定を余すことなく思い浮かべていく。

 「我が魔力よ、これになるものに力を与えよ」

 詠唱の後、マリルの右手が光ると、頭の中を吸い取られていくような感覚に見舞われた。

 右手の光が、マリルを通して杖に伝わっていくと宝石が赤く輝き、その光がグレートマジンダムに注がれていった。

 数秒後、グレートマジンダムが輝き始め、それに合わせて巨大化が始まった。

 「見~つけた~♥」

 二人の頭上に混沌の魔女とゴーレムが出現し、着地と同時に発生した凄まじい衝撃によって、二人と一体を吹っ飛ばしていった。

 「あいつ、俺達が居る場所をもう嗅ぎ付けやがったのか~!」

 「今度こそ終わりよ」

 魔女は、二人を踏み潰そうとゴーレムに右足を振り降ろさせ、地面に着くと雷のような轟音と同時発生した猛烈な風圧が、周辺の草を大きく揺らしていった。

 それから右足を上げると二人とマジンダムは無く、巨大な足跡が深く刻まれているだけだった。

 「また転送魔法で逃げたのね。どこへでも逃げればいいわ。すぐに見付けて殺して上げるから」

 魔女は、獲物を逃したこを悔しがるどころか、追い回せることに喜びを感じているのだった。


 「いてて、あのババア~ひでえことしやがって~。それにしてもこの硬いのはいったいなんだ? デカい岩か?」

 転送されて気付いた後、顔にペッタリくっついている硬い物の正体を確めるべく、右手を前に出した。

 「この感じ、もの凄くよく知っているぞ。今日も、いや、毎日触れていたような気がする・・・・」

 手を通して硬くてひんやりとした、とても馴染み深い感触が伝わってくる。

 「・・・・・まさか」

 半信半疑ながら顔を上げ、視線の先に見えたのは、巨大な靴のようなもので、すぐ横には左右対称のものがあった。

 「この形、間違いなくグレートマジンダムの足裏だ。それにこの大きさは設定通りじゃないか。顕現大成功だ~!」

 危機的状況であることも忘れて、万歳三唱しながらグレートマジンダムが顕現できたことへの喜びを声に出した。

 「林さん、そこに居るのか? 喜べ! 顕現魔法は大成功だぞ~!」

 大声で呼び掛けても返事をしないマリルは、自身の魔法が成功したことなど気にも留めず、暗がりの中で周辺の草を搔き分けているのだった。

 「おい、どうしたんだ? 何か探しているのか?」

 「無いのよ! わたしの杖の魔法石が無いの~!」

 そう言って見せられた杖には、トレードマークともいえる赤い宝石が付いていなかった。

 「どこかで落としたのか?」

 「それが分からないから捜しているんじゃない! 普通なら落ちるはずなんてないのにっ!」

 マリルが、血眼になって探し回っている中、轟音と共に体を揺らすほどの震動が伝わってきた。

 「まずい。紫ババアが来たぞ。今はこれに乗ってあいつをやっつける方が先だ。来い!」

 嫌がるマリルの手を強引に引いて、グレートマジンダムの右手に向かって行った。

 「これからどうするの?」

 「まずはコックピットに行く。設定通りなら親指に昇降用のボタンがあるはずだけど・・・あった。けど、この高さじゃ届かないな。肩車するから上に見える赤いボタンを杖で押してくれ」

 真上に見える赤いボタンを指差しながら、これからの行動を指示した。

 「え? 肩車?」

 「ほら、やるぞ」

 マリルの承諾も取らずに両足を掴んで、強引に肩に乗せた。

 「ちょ、ちょっとなにするのよ~!」

 マリルが、駄々っ子のように両足を激しく動かして、抵抗してくる。

 「ジタバタしていないで早く赤いボタン押せ! このままじゃ乗れないんだから!」

 「わ、分かったわよ~」

 抵抗を止めたマリルが、言われるまま杖を伸ばして、赤いボタンを押すと右手が動き始め、指を開きながら拳を半回転させ、指先を伸ばした台座のような形を作って停止した。

 「ここに乗ってくれ」

 先に足を乗せ、マリルが乗ったのを確認した後、親指の青いボタンを押すと右腕全体が動いて、二人を胸まで運んでいった。

 「ねえ、こんなことしないでも魔法で移動すれば良かったんじゃない?」

 腕が停止したところで、もっともな意見を言われてしまった。

 「・・・さあ、コックピットへ行こう」

 聴こえない振りをしながら、回れ右して掌から降りていく。

 「やっぱり忘れていたのね~」

 「林さんだって忘れていたじゃないか」

 「・・・・・」

 マリルは、意表を突かれたように気まずい顔をしたまま言い返すことはなく、二人は無言のまま胸に向かった。

 それから側面に設置されているスイッチを押すと、胸部パーツが上向きに開いていった。

 「外見は完璧だけど、コックピットはちゃんと設定通りに顕現されているかな?」

 多少不安を抱えながら中を覗き込むと、内部の照明は付いていて、中心部に設置されている一脚のコックピットシートを見ることができた。

 「よし設定通りだ。ほら、入って入って」

 コックピットの内装がアニメの設定通りになっているのを見て、動かせると確信して搭乗しながら、マリルに入るように呼びかけた。

 「どうしてわざわざ中に入るの?」

 不思議そうに尋ねてくる。

 「中に入って乗らないと動かせないからだよ」

 「さっき右腕を動かせていたじゃない」

 「外部操作できるのは一部分だけであって本格的に動かすには中に入らないといけないんだよ」

 「ゴーレムみたいに外から操ればいいじゃない。巨大ロボットって意外と非効率なものなのね」

 外部操作できないことに対して、いちいち不満を漏らしてくる。別世界の住人からはすれば、巨大ロボットに乗り込むことは不思議な行為に当たるのだろう。

 「巨大ロボットは、林さんが言うところの魔動兵器じゃなくて、乗り物みたいなものだから内部に入って動かすしかないし、パイロットの安全の為でもあるんだよ。俺の知識を顕現魔法に使う際にそういった情報くらい入ってこなかったのか?」

 「あんな訳の分からない知識なんて右から左に受け流したわよ」

 「そうかい、とりあえず早く入ってくれ。外に居られたんじゃハッチを閉じられないだろ」

 「分かったわ」

 マリルは、納得していない表情のまま、コックピットに入ってきた。

 「これが超○金玩具の中?」

 マリルは、初めて目にする曲面で構成されたコックピットを物珍しそうに眺め回していった。

 「今は巨大ロボットだ」

 返事をしながらシートに座り、ボタンを押してハッチを閉じた。

 完全に閉まって、密閉状態になったコックピットは、乗り物ならではの独特の匂いに包まれていった。

 「なんだか、新車みたいな匂いだな。それとパイロットシートの座り心地って予想以上に柔らかいんだな~」

 体を軽く前後に揺らしながら、初めて座った感想を口にする。

 「スティックとペダルの硬さも問題無しと」

 コントロールスティックとフットペダルを軽く動かして、硬さを確認していく。

 「ねえ、肝心なことを聞いてもいいかしら?」

 マリルが、改まった様子で尋ねてくる。

 「なんだ?」

 「なんで、あなたが乗ろうとしているの? 魔女と戦うのは私なんだから私が動かすべきなんじゃない?」

 「まだきちんと動くがどうか分からないんだから知識を持っている俺が動かした方がいいだろ。林さんに何かあったら大変だからな」

 「けど、あなただってこれに初めて乗るのよね? ほんとに動かせるの?」

 疑わしそうな視線を向けながら聞いてくる。

 「心配するな。今から操縦法を学習するから」

 「この非常時に一から学ぶっていうわけ? 絶対間に合うわけないじゃない! 私は対抗できる魔法が使えないし、ああ~どうすれば~どうすれば~」

 マリルは、頭を抱えて狼狽え始めた。

 「おたくが考えているようなまどっろしいことをやるわけじゃない。こいつを被ればいいんだよ」

 返事をしながらシートの後ろから取り出したのは、額に付けるタイプのベッドギアだった。

 「それは?」

 「電子頭脳だ。これを被れば脳に直接操縦方法が刻まれて、手間暇かけずに操縦をマスターできるんだよ」

 説明しながらヘッドギアを被った。

 「どう?」

 「学習完了!」

 ヘッドギアを取りながら返事をする。

 「はやっ! それでいいの?! 抜け落ちとかないわけ?!」

 あまりの速さにマリルは仰天していた。

 「ロボットアニメってのは微妙な所でご都合主義が働くんだよ」

 説明しながらメインシステムの立ち上げ作業を始め、動力炉を起動させ、機体全体を微かに揺らし、周囲の壁が外の風景を映し出した後、機体のコンディションデータを示すサブウィンドウが、守の周りに一斉に表示されていった。

 「これはいったい何? 何かの魔法技術?」

 起動したコックピットの情景を見ているマリルが、驚きの声を上げていく。

 「魔法じゃない。アニメの設定だから空想科学だ」

 自信を持って答える一方、起動シーケンスにいちいち驚くマリルを見て、自分が初めて魔法を見た時も同じような感じだったのかなと思っていた。

 「後はこいつを立たせるだけだ。コックピットの向きが変わるからしっかり捕まっていてくれよ」

 システムの立ち上げを終え、シートの左右に設置されているコントロールスティックを強く握り、二つのフットペダルにしっかり足を乗せ、マリルがシートに掴まっていることを確認した上で、本格的な操縦を開始した。

 この時、守は巨大ロボットに乗れる喜びから初陣への緊張も魔女に対する恐怖もすっかり消えていた。


 「この辺に気配を感じるのだけれど、あれは何かしら?」

 二人と一体の移動した場所が暗がりだったことで、魔女には巨大化したグレートマジンダムが見えなかったのだ。

 守の操縦に合わせて、グレートマジンダムは土木機械とは異なる駆動音を鳴らしながら頭部を起こし、地面に付いた両手が上半身を持ち上げ、両足は大地に力を込めて鋼の巨体を立せ、完全に直立姿勢を取ったところで、魂を宿したかのように両目を真紅に輝かせたのだった。

 こうして十数分前まで市販されていた超○金玩具だったグレートマジンダムは、ゴーレムとほぼ同じ大きさに顕現された本当の巨大ロボットとして、大地に立ったのである。 

 直立したことによって、マジンダムは月光の元にその身を晒すことになり、直線でまとめられたボディライン、ぶ厚い胸に太い腰と四肢、色は赤、青、黄、緑と白がバランス良く配色され、背中には大きな白い翼があって、顔は額に左右対象のブレードアンテナを付け、口元をマスクで覆っている姿を魔女に見せたのだった。

 「あれはゴーレム? 四方の魔女が召喚したのかしら? それにしては随分と変わった形をしているわね。昼間見た変なものとは似ても似つかないし」

 魔女は、マリルと同じように初めて目にする巨大ロボットに対して、困惑しているのだった。

 「魔力は全然感じないけど、いったいどんな力を持っているのか見せてもらおうかしら」

 魔法を操る者として、ちょっとした興味を抱き始めていた。

 「やい! 混沌の魔女!」

 マジンダムの外部スピーカーを通して、混沌の魔女に呼び掛ける。

 「その声はさっきの坊やじゃない。そのゴーレムの中に取り込まれているのかしら?」

 「中に乗っているんだよ。よくもおじさんの店を潰してくれたな。今からこのグレートマジンダムがお前に正義の鉄槌を下してやるぞ! 覚悟しろ!」

 言いながら右スティックを動かし、マジンダムの右人差し指を魔女に向けながら宣戦布告した。

 「それでとうやって攻撃するつもり?」

 マリルが、不安そうに尋ねてくる。

 「まずは正面から攻撃だ」

 「ゴーレム相手に正面から攻撃するなんて無謀だわ」

 「初戦の相手には正面攻撃ってのが、巨大ロボットアニメの鉄則なんだよ」

 フットペダルの踏み込みに合わせて、マジンダムは人間と同じように二足走行を行い、一歩を踏み絞める度に轟音を鳴らしながらゴーレムに向かっていった。 

 「正面から向かって来るなんて度胸のいいこと」

 魔女は、向かってくるマジンダムに対して、余裕を見せていた。

 「鋼の一撃を受けてみやがれ~!」

 ゴーレムとの距離が縮まったところで、マジンダムに右ストレートパンチを打たせた。

 「直接攻撃? あたしのゴーレムを徒手なんかで砕けると思っているのかしら? でも、そういうの嫌いじゃないから返礼してあ・げ・る」

 魔女は、面白そうにゴーレムに右パンチを打たせた。

 超○金と岩の拳がぶつかり、空間を一瞬歪ませるほどの強烈な衝撃と供にゴーレムの拳が砕けていく反面、マジンダムの拳には傷一つ付いていなかった。

 「あたしのゴーレムに打ち勝った? 嘘でしょ~?!」

 魔女が驚ている間に、マジンダムは左足を振り上げ、ゴーレムの左脇腹を大きく削り取っていった。

 「蹴りだけでこの威力? あのゴーレムは全身がオリハルコンとでもいうの?」

 「どうだ! 超○金の威力は~!」

 二人の間には、大きな認識のズレがあった。

 「ねえ」

 「なんだ?」

 「さっきから凄く間抜けな会話をしているように感じるのだけど」

 シートの右側に立っているマリルの言葉だった。

 「今は外部スピーカー使っていないんだから俺達の声が向こうに聞こえるわけないだろ」

 「それもそうね。杞憂だったわ」

 マリルは、やや腑に落ちないながらも納得することにした。

 「このまま一気に決めてやる!」

 さらにダメージを与えようと左パンチを打ったが、ゴーレムの前面に展開された魔法陣によって阻まれてしまった。

 「攻撃が防がれた?! 目の前のあれはなんだ?」

 「防御魔方陣、防御用の魔法よ」

 マリルが、手早く説明する。

 「ふふふ、例えオリハルコンといえどもわたしの防御魔法陣は破れなくてよ」

 魔女は、攻撃が止まっている間にゴーレムを再生させ、それに合わせて余裕を取り戻した。

 「鋼の拳に打ち砕けないものはない!」

 魔法陣に向かってパンチを連打させていく。

 「だから無駄なのよ。物分かりの悪い坊やね」

 余裕をかます魔女の思いを裏切り、十数発目のパンチが魔法陣を打ち砕き、その勢いままゴーレムの胸部に拳がヒットしたことで、後方にぶっ飛ばした。

 「どうだ。見たかっ!」

 ガッツポーズを取りながら叫んだ。

 「あたしの魔法陣を破るなんてどこまで規格外なゴーレムなの。けれど、これならどうかしら?」

 魔女は、ゴーレムを起こすと向かってくるマジンダムに対して、防御魔法陣を三重に展開した。

 「そんなもん、幾らでも破壊しやるぜ」

 さっきと同じくパンチを連打させることで、魔法陣を破壊していったが、一枚だけでも時間を要する上に破壊する度に新しい魔法陣が展開されるので、攻撃を当てることができなかった。

 「せっかくの攻撃も当たらなければ意味が無いわね。そろそろあたしも反撃させてもらおうかしら」

 魔女は、ゴーレムの両手に防御魔法陣を展開させた状態で突き出させた。

 守は、マジンダムに攻撃を中止させ、ゴーレムの両手を受け止めさせたことで、二体はパワーを押し合う体勢に入った。

 「パワーだって負けねえぞ!」

 その言葉通り、マジンダムはゴーレムを突き飛ばしてみせた。

 「あらあら、離れ離れになっちゃったわね。それならこういうのはどうかしら?」

 魔女が、余裕の言葉を口にした後、ゴーレムの腹部が上下に開いて、中から炎に包まれた大岩を発射してきた。

 守は、マジンダムを右横へジャンプさせることで攻撃を回避し、的を外した岩は背後の山に命中して、あっという間に山火事状態にしたのだった。

 「岩まで発射するのかよ。ほんとになんでも有りだな」

 「それよりも反撃しないの?」

 「もちろんこっちも飛び道具で反撃するさ。シナプスレーザー!」

 叫びながら右スティックの赤いボタンを押したが、マジンダムは何もしなかった。

 「なんにも起きないじゃない」

 「操作通りにしているのに反応しないだと? マッハパンチ! ストロングビーム! ジェノサイドミサイル!」

 違うボタンやトリガーを押していったが、マジンダムは無反応だった。

 「ダメだ。どの武器も使えない。起動した時には不具合は出ていなかったのに!」

 どこかに不具合があるのかと、コンディションデータを再表示させるも異常は検出されなかった。

 「本当に不具合が無いぞ。いったいどうなっているんだ?」

 突然の不具合に焦りが生じ始める。

 「このグレートマジンダムって最強無敵なんじゃないの?」

 「巨大ロボットっていうのは近接攻撃、遠距離武装、必殺技の三要素が合わさって最強無敵なんだ。どれ一つ欠けてもダメなんだよ。パンチやキックだけで勝てたら苦労はないぜ」

 その間にも飛んでくる岩は、ジャンプしながらどうにか回避できているので、マジンダム自身はダメージを負わなかったが火は燃え広がり、周辺は火の海と化していった。

 「このままじゃ、この辺り一帯が焼け野原になってしまうわ」

 「なあ、防御魔法とか出せないのか?」

 「この中に居たんじゃ無理よ。それに杖無しじゃ人間サイズの魔法陣しか出せないわ」

 「くそっ! それにしてもあっちはどうしてあれだけ岩を発射しているのに弾切れっていうか、岩切れにならないんだ?」

 「足元を見て。地面と繋がっているでしょ。ああやって地面から鉱物の成分を吸収して内部で岩を作って発射しているの」

 それを聞いて、ゴーレムの足元を拡大した映像を表示させると、言葉通り地面としっかり繋がっているのだった。

 「それならって飛行もダメか。だったら」

 マジンダムを走らせ、攻撃を回避しながらゴーレムの背後に回ったところで、地面を蹴ってジャンプして、背中に向けて右キックを突き出した。

 「どうだ! 真後ろからなら岩は発射できないだろ!」

 「ふっ」

 魔女が、不敵な笑みを浮かべるとゴーレムの背中がぱっくり開いて、腹と同じように岩を発射し、攻撃をまともに受けたマジンダムは後方に吹っ飛ばされ、背中から地面に叩き付けられてしまった。

 「ちっきしょ~。あんなの反則たぞ~」

 「この巨大ロボット大丈夫なの?」

 「大丈夫だ。ダメージは無い。さすがは超○金だぜって、重いぞ!」

 自分の上に乗っているマリルに苦言を呈す。

 「失礼ね。服のせいよ!」

 二人が、言い合いをしている間にゴーレムが迫ってきた。

 「これで終わりにしてあげるわ」

 ゴーレムが、数倍に膨れ上がらせた右手を降り下ろしてくる。

 「うわ~!」 

 「きゃあ~!」

 守とマリルは、お互いに目を瞑ったが、何も起きず、目を開けみるとマジンダムの正面に展開されているデカい防御魔法陣が、ゴーレムの攻撃を止めているのが見えた。

 「いったいどうなってんだっいうか。というか、魔法使えるじゃないか。初めからやってくれよ」

 「確かに念じはしたけど、あんな大きなものを出した覚えはないわ」

 「そうか、分かったぞ。コントロールスティックを触っているからだ」

 その言葉通りマリルの左手は、スティックの先端に触れていたのだ。

 「どういうこと?」

 「巨大ロボットはコントロールスティックを使って操縦するんだ。だから林さんがスティックに触れることで魔法が使えたわけだ」

 「原理は?」

 「それは後で考えるとして、今は使えるだけで良しとしよう。とにかくそのまま触れていてくれ」

 「触るのなら両手の方が効率いいんだけど、この状態だと無理よね」

 「だったら、こうすりゃいい」

 マリルの腰を掴んで、自分の上に座らせた。

 「なななな、なによ、これ~?」

 「前抱っこだ」

 前抱っこ。それはお父さんお母さんが電車やバスなどの乗り物において、お子さんを膝の上に乗せる行為のことである。

 リア充カップルは部屋の中で頻繁に行うが、そちらは想像しないように。

 「やだやだ! こんな格好絶対にやだ~!」

 マリルが、駄々っ子のように泣き喚めいて抵抗したことで、防御魔法陣は消えてしまった。

 「何がそんなに嫌だ?!」

 問い掛けながらマジンダムを側転させることで、どうにかゴーレムの攻撃を回避していく。

 「恥ずかしい~!」

 男の子の上に座らされていることに加え、マントや服を通して伝わってくる守の温もりが、マリルの羞恥心を大いに刺激しているのだ。

 「女の子みたいなこと言うな!」

 「女の子だもん!」

 「シートに座った以上、林さんは巨大ロボットに乗って闘う戦士だ!」

 「わたし魔法使い!」

 「だったら魔法戦士ということにしよう!」

 「馬鹿みたいなこと言わないで!」

 そんなをやりとりをしている間に、マジンダムはゴーレムに脇腹をおもいっきり蹴られ、後方の山に叩き付けられてしまった。

 「ええい、目の前をようく見ろ!」

 マジンダムの上半身だけを起こして、モニターの正面に映るゴーレムを指さす。

 「敵が見えるか? 林さんがこんな恥ずかしいめに合うのもおじさんの店が壊されたのもみんなあいつのせいなんだぞ」

 「わたしの敵・・・・・」

 「そうだ。その恥ずかしさを怒りに変えろ。その怒りをパワーに変えろ。そうすればあいつに勝てる!」

 「ほんとに勝てる?」

 涙ぐみながら念を押すように聞いてくる。

 「勝てる。俺を信じろ! 何よりグレートマジンダムの力を信じろ! 今こそ巨大ロボットにおける最強無敵の本当の意味を教えてやる!」

 「本当の意味?」

 「それはな、どんな相手にも絶対に負けないってことだ!」

 「そうね。そう言われると勝てる気がしてきたわ」

 マリルは、俄然やる気になった。守の巨大ロボットに対する熱弁が、羞恥心によって消えかけていたマリルの闘志に火を付けたのである。

 「それと、これは邪魔」

 マリルのとんがり帽子を掴むなりポイ捨てした。

 「ああ~わたしの帽子!」

 「あんなもの所詮飾りだろ。俺にはなんの為に被るのかさっぱり分からん。それにあれがあると視界の邪魔になるんだよ」

 「うう~それと”反応”しないでよ」

 物凄く恥ずかしそうに訴えてきた。

 「安心しろ。巨大ロボットに乗っている興奮の方が勝っている分、そっちの興奮は゛微妙゛だから」

 「それはそれでなんだか負けた気がする~」

 マリルは、とても悲しそうに悔しがった。

 「ともかく今は戦いに集中しろ。俺が下を握るから林さんは上を握ってくれ。俺にはトリガーとボタンは無意味だからな」

 二人は、スティックの割り当てられた部分を握り絞めていった。

 「いいかげんにやられてしまいなさい」

 魔女は、ゴーレムに岩を発射させたが、マジンダムには当たらなかった。

 マジンダムの左手に展開された防御魔法陣によって、遮られたからである。

 それから左腕を降ろすと立ち上がって、再度ゴーレムと対峙した。

 「さっき違って魔力が感じられるわ。いったい何があったのかしら?」

 魔女は、マジンダムから発せられる魔力の存在をしっかりと感じ取っていた。

 「魔法の力を得たグレートマジンダムの力、見せてやるぜ!」

 マジンダムを直進させて、ゴーレムに右パンチを打った。

 「また同じ手を。ほんと懲りないわね」

 魔女は、前面に防御魔法陣を展開した。

 「また同じ手かよ。懲りないね~」

 防御魔法陣に触れる直前で、マジンダムの右拳に防御魔法陣を展開させ、互いにぶつけ合わせることで対消滅させた。

 「あたしのゴーレムと同じことができるっていうの?」

 「これが魔法の威力だ」

 「わたしの力でしょ」

 マリルが、やや拗ねたように口を出してくる。

 「分かっているって」

 返事の後、魔法陣パンチを連打して、ゴーレムの防御魔法陣を打ち砕きながら距離を詰めていく。

 ゴーレムも同じように魔法陣を展開したパンチで反撃して来て、二つの拳がぶつかって魔法陣が対消滅した後、強度で勝るマジンダムの拳が、ゴーレムの拳をあっさり打ち砕いていった。

 そうして目と鼻先まで接近すると、ゴーレムは腹部を開けて岩を撃とうとしてきたが、それよりも早く両足を掴んで地面から引き剥がした後、ジャイアントスイングの要領でふり回して放り投げた。

 「今の内にトドメだ。なんか凄い魔法出せよ」

 「そんな強力な魔法、今すぐなんて無理よ」

 「なんでだよ。魔法陣出したみたいにやればいいだろ」

 「強力な魔法を打つには、構造物の概要を理解しないとダメなの。乗ったばかりなんだから全然分からないわ」

 「おい、ぐずぐずしていると敵が体勢を立て直しちまうぞ」

 ゴーレムは、今にも立ち上がりそうだった。

 「だったら防御魔法に使う魔力を右手に集中させられないか」

 「それならどうにかやれるけど、そんなことしてどうするの?」

 「魔力を集中させることで防御魔法陣を張った時以上に強化した右手をあいつにぶつけてやるんだ!」

 「分かったわ」

 マリルは、返事をした後に目を瞑った。新たな術式を生み出す作業に集中する為である。

 視界を遮断して外界との繋がりを断つことで、術式に必要な文字を頭に思い浮かべ、無数の文字の中から必要なものを瞬時に選び出して、一気に紡いでいく。

 「できたわ!」

 目を開けた時には、頭の中にできたばかりの詠唱が、しっかり刻まれていた。

 「それじゃあ頼むぜ!」

 「私が詠唱を唱える間に攻撃体勢を整えて」

 「分かった」

 「我身に宿りし魔力よ、我操りし鋼の巨人の右拳に集え!」

 マリルが、詠唱を口にすると同時にマジンダム全体が、杖に付いていた宝石のように赤く輝き始めた。

 守は、その間にマジンダムの右腕を引いて、いつでも拳を打ち出せる体勢を取らせた。

 そうして機体の光が右手に集中することで、右手全体が眩しいくらいの輝きを放ち始めた。

 「我が敵を粉砕せよ!」

 マリルの詠唱に合わせて、マジンダムをゴーレムに向かって直進させていく。

 ゴーレムは、向かってくるマジンダムに対して、岩攻撃を行ってきた。

 「俺にも何か叫ばせてくれよ」

 「なんで?」

 「さっきから変な言葉が頭に入ってきてモヤモヤするんだ」

 スティックを通してマリルの魔力の影響を受けたことで、詠唱の言葉が頭に入ってきていたのだ。

 「いいわ。魔法名だけこの世界の言葉に合わせて上げる。その代わり、私と叫ぶタイミングをしっかり合わせて。そうしないと威力を発揮しないから」

 「分かった」

 返事の後、頭の中にこれまでとは違い、理解可能な言葉が入ってきた。

 「今よ!」

 「クリムゾンブレイカァァァァアアアア~!」

 マリルと一緒に叫びながら真紅に輝く右手を広げながら突き出すと、掌には防御魔法陣が浮かび上がっていた。右手自体が強化された防御魔法と化していた為である。

 強力な魔力を宿した鋼鉄の右手は、飛んでくる岩を残らず粉砕し、幾重にも貼られた防御魔法陣を全て打ち壊しながらゴーレムの胸部を突き刺し、内部にある魔法石を打ち砕いた。

 核を失ったゴーレムは、動きを停止するとあっという間に崩壊して、アスファルトの残骸と化したのだった。

 「やったぜ! そうだ。魔女はどこだ?」

 魔女を捜してみると、ゴーレムの残骸近くに立っていた。

 「まったくあたしのゴーレムが負けるなんて思わなかったわ。次を楽しみにしておきなさい」

 魔女は、捨て台詞を残して消えた。マリルと同じ転送魔法を使ったのだろう。

 「逃げられたか。おい、いつまでそうしているつもりだ?」

 シートから離れ、帽子を被ったまま、体育座り状態でいじけているマリルに声を掛ける。

 「私、穢れてしまったわ・・・・・」

 マリルは、悲痛な言葉を口にした。

 「誤解を招くようなこと言うな。勝ったんだから今は勝利の喜びを分かち合おうぜ」

 マリルとは、反対に軽い調子で言った。

 「あんな勝ち方、全然嬉しくな~い!」

 頭をぶんぶん振って、勝利の言葉を否定する。

 「あんなって言い方するな。前抱っこしただけだろ」

 「そこが大問題なんでしょ。私もうお嫁にいけない・・・・」

 涙ながらの訴えだった。

 「・・・・・・魔法使いでもお嫁さん願望あるんだな」

 「おバカ~!」

 マリルの怒号が、マジンダムのコックピット内に響き渡った。

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