第18話:お守りと虚弱美少女




 子供の頃の夢を見た。


 僕はまだとても幼く、キッチンの流しにすら背が届かない。

 イスの上に立って、クッキーの生地をこねている。

 チョコチップ入りの生地はしっとりとしていて触り心地が良い。

 僕の隣にはまだ目が二つ揃った父さんがいて、微笑みかけてくれている。

 甘い香りのする塊を一緒に成形し、オーブンへ入れる。ものの数秒で電子音が鳴り、クッキーが出来上がった。


 クッキー入りの箱を持った僕は、父さんに手を引かれ、近所の公園を訪れる。

 賑やかなそこで、親子水入らずの時間を過ごし……あぁ、これは夢だ。

 父さんと外出なんてしたことがない。許されるはずがない。

 いつも行動を共にしていたマー君もいない。

 認識した途端、世界は濃霧に覆われ、父さんは消えた。


「――ああ、悪夢だよ。くそ」


 目覚めると、いつも通りの天井があった。


「うぅ」


 身体を起こし、サイドデスクの携帯端末で時刻を確かめる。

 深夜二時のデジタル表示にうんざりさせられた。

 心臓も暴れず、汗もかかず、呼吸も乱れていない静かな覚醒。

 精神ばかりを蝕む悪夢に枕を殴る。

 ひどく身体が冷たい気がして、指先を握ってみた。微かに震える左手は温かい。

 錯覚だったようだ。


「はぁ……。意地汚い夢だよ、ほんと」


 左耳のカフスに触れて吐き捨てた。

 来年の夏まで幾度似たような夢にうなされるのだろうか。

 きっと二桁は軽い。いや、三桁かもしれない。


 父親に対する執着については、自分でも普通じゃないと認める。

 ただし、矯正は不可能である、という点も同時に認めざるを得ない。

 もう末期なのだ。


 あー、もうやめやめ。

 切り替えなきゃ。

 まだ二時だからもう少し眠ろう。

 大丈夫。次は幸せな夢を見られるさ。

 僕は自らに言い聞かせて、ベッドに身体を横たえた。


 目を瞑って朝食についてふんわり考えてみる。今日はあれにしよう。

 いや、やっぱりあっちのほうがお嬢様方に喜ばれるんじゃないかな。

 うーん、でも別のあれも捨てがたい……。



「ソ……くん!! お……て! ねぇ!!」


 静かな暗闇の中で唐突に、ガンガン硬いものを叩く音と、少女の声が響く。


「開けて!! ねぇ……ルくん!!」

「な、なに!?」


 ぎょっとして、僕は再び身体を起こした。

 尋常でない声色は、アンネリース? こんな真夜中に?

 とにもかくにも、動かなければ。

 急いでベッドから降り、玄関へ向かった。

 震えの残る手で、壊れそうなくらい叩かれているドアを開けると――


「ソール君どうしよう!! なっちゃんが変なの!!」


 深夜に相応しくない大声と、鬼気迫る形相のアンネリースが僕の服を掴む。


「へ、変って、どうしたの?」

「いいから来て!」


 腕を乱暴に掴まれ、隣の部屋へ連れていかれた。

 爪が皮膚に食い込んで痛い。青く澄んでいた瞳が動転して濁っている。

 切羽詰まる相当な何かが起きているのだろう。


「なっちゃん! ねぇってば!」


 部屋に入るなり、アンネリースは叫ぶ。

 二人の部屋は明かりがついていた。ベッド二つに二人用のテーブル。

 小型テレビに、ぬいぐるみ、制服のつられたポールハンガーが隅に置かれている。

 水色を主とした配色は少女らしくみずみずしい。

 なんだ。普通じゃないか。


 ベッドに横たわるアナスタシアが喘ぐように呼吸をしている点を除いては。


「はぇ!? なっちゃん!? さっきまで普通に……」


 そう。普通だったのだ。おやすみを交わしたその時まで。


「私もさっき起きたらこうなってて、声をかけても返事してくれなくて! 熱も四十度くらいあるみたいで!」

「四十度って、そんな」


 まるで隙間風のような呼吸に、心臓が暴れる。


「昔から時々原因不明の高熱が出ることはあったんだけどね。でも、ここまでのは……!」


 アンネリースの隣にしゃがんで、アナスタシアの様態を注察する。

 頬は紅潮し、口呼吸を繰り返す。

 目は閉じられ長い灰色がかった茶の髪が額に張り付いていた。


「なっちゃん! 聞こえる?」


 肩を軽く揺らして反応を待った。


「……う……うぅ」


 かけ布団は呼吸に合わせ、しっかり上下している。


「……く、る……し……」


 眉間にしわを寄せて発された言葉は、かろうじて聞き取れた。


「きゅ、救急車呼ぶ? 呼ばなきゃだよね? かかりつけの病院も閉まってって、薬ももうなくて……」


 僕はアナスタシアの心の扉を仰ぎ見る。

 ……まずいな。扉の内部が混濁してノイズばかり感知する。

 緊急事態だ。心が、意識が、淀み停滞してしまっている。

 普通の熱ならこうはならない。

 肉体の異常に関わる精神混濁は僕にも治せない。


 それに、機器のないここでは医療的な処置もままならない。

 けいれんや呼吸障害の悪化が起きてしまえば命が脅かされてしまう。


「近くで救急対応してくれる病院……」

「きゅ、救急車」


 考えろ、ソール。まさか忘れてはいまい。


「……救急車呼ぶより、走った方が早いな」

「走るって、どこ行くの?」

「マーケットの近くに病院があったと思う。あそこなら多分看てくれる」


 一分一秒を争う現状に、僕たちはほぼ着の身着のままマンションを飛び出した。



 *****



 いつも通っているマーケットから二度、右折した先。

 僕がアナスタシアを抱きかかえて駆け込んだのは、小規模の総合病院だった。


 受付にいた看護師さんは、アナスタシアの容態を見て、すぐさま処置室へ運んでくれた。

 グルナード事件の被害者であることから、血液検査も行われた。

 これの検査結果が出たのち、待合室から呼ばれた僕たちに告げられたのは。



「元々、アナスタシアさんは他者からの法力干渉に弱いようです。グラナタスの影響で、法力素を微弱に放出している方が多くなっているのはご存知ですか」

「はい」


 無言のアンネリースとともにうなずく。


「グラナタスで自身の法力バランスが崩れたところに、不特定多数の法力干渉を受けた。今回の発熱を引き起こしたのはこれが限界に達してしまったためでしょうね。血液検査の結果がでましたので、どうぞ」


 四十代半ばの医師は、僕たちに検査結果が表示されたタブレットを見せてくれた。


「あ……」


 桁がおかしい。

 タブレット画面には、まるであの疾患の急性期のような数値がずらりと並んでいた。


「自己防衛のために反射的に法力素の値が跳ね上がり、炎症反応も出ています。バングルの法力無力化放出と、プリエの投与で増悪は防いでいますが、大変危険な状態です。」

「そんな……」


 アンネリースが肩を震わせる。


「回復の見込みはあるんでしょうか」


 プリエの持続投与と徹底した全身管理があれば、恐らく。


「あります。多分にね。ですが、万が一急変した場合、当院の設備では対処しきれません」


 病棟もあり、中等症までの救急対応はしているが、ここは小さな民間病院だ。

 大学病院や法力素疾患専門病院と同等の治療を行うには無理がある。

 ここまで悪化していると判断できなかった僕が悪い。


「では、どこか受け入れ可能な病院の紹介はしていただけるのでしょうか」

「ええ、もちろん。しかしながら、グルナード事件の関係で満床の病院ばかりでしてね。しらみ潰しにあたってみますが遠方になるかもしれませんよ」

「今は彼女の命が第一です。よろしくお願いします」

「お、お願いしますっ!」

「わかりました。ではしばらくお待ちください」


 アンネリースと僕は待合に戻される。



 それから時計の針が一回り半したあと、アナスタシアの転院先が決まった。


 複合型療育研究施設グラズヘイムに。



 *****



 私がいると、なっちゃんが苦しいから。


 小さな手のひらを固く結んで、アンネリースはマンションに戻った。

 僕が、タクシーで送り届けた。


 マンションを出る直前、彼女は僕に“お守り”を託す。おずおずと罪人のように。

 自分と暮らしていたから、アナスタシアがこうなってしまった。

 自分が原因で親友が倒れてしまったに違いない。

 僕にお守りを託した表情は苦悩と懺悔にまみれていた。

 全然アンネリースのせいではないのに、確信してしまったのだろう。


 悪人はあの野郎だけなのに。やっぱり、小指くらいは切り落とすべきだった。

 十四歳の女の子に暗い顔をさせるやつなんか、消えてしまえばいい。

 酸素マスクをつけたアナスタシアを見つめながら、憤る。


 受け入れ先のグラズヘイムでは、空いていた個室があてがわれた。

 体重移動の度キイキイ軋むパイプ椅子に腰かけて、僕はアナスタシアの付添人をしている。心拍数は高いものの、酸素飽和度は安定し、けいれんなども起きていない。

 生体情報モニタでバイタルを逐一確かめながら、ただ夜明けを待ち望む。


 仮眠用にタオルケットももらったが、ついに睡魔は訪れなかった。

 今、何時くらいなのだろうか。

 窓の外は、濃紺から紫のグラデーションに変わりつつある。


「健やかに育つ、ってだけでハードル高いのは知ってたけどさぁ。いざこうなると焦るよねぇ……」


 肝が凍りついて砕けるくらい冷えた。本気で焦った。

 しかも、まさかアナスタシアがグラズヘイムのお世話になるなんて。

 姉さんの息がかかった病院に一人目の娘が入院、だなんてね。

 バレずに終われるだろうか。……いや、僕がここに患者側として近寄りたくなかった、ってのもあるんだけれど。


 みんながみんな、あれ? この人どこかで……、って目で見てくるし。


「なっちゃん、寝てると可愛いなぁ」


 二人のおもちゃになってから、病院とやけに縁がある。

 近寄りたくない場所に行かされている。なのに不思議とうんざりしなかった。

 半年前は過呼吸を起こしてぶっ倒れていたのにね。

 一応回復したのだと思っていたい。


 さて、そろそろ巡回看護師さんがいらっしゃる頃かな。

 僕は上半身を捻り、病室のドアを視た。

 扉はまだない。


「ん……ソー、ル……?」


 名前を呼ばれたのに驚き、姿勢を戻す。

 アナスタシアが、うっすらと目を開けていた。


「なっちゃん? 僕のこと、わかる?」

「……わた、しの……おもちゃ……」


 回答に思わず噴き出した。


「くっ、あっはは! これはすぐに治りそうだ」

「わ、わたし……死ぬ、の?」

「死なないよ。じきによくなる。死なせないよ」

「……お守り、を……持ってき、て」

「あるよ、ほら」


 アンネリースから渡されたお守りを枕元に置く。


 長方形の薄いポーチを、彼女たちはお守りと言う。中に入っているのは。

「乱暴に、扱って……ない?」

「まさか。なっちゃんの宝物に粗相はしないよ」


 酸素マスク越しに唇が弧を描く。

 アナスタシアはポーチに手を伸ばし、ゆっくり指先で撫でた。


「……おもちゃ」

「んー?」

「開けて」


 人差し指で、とんとん、とポーチをつつく。


「僕が開けても嫌じゃないのなら」

「とく、べつに許可して……あげ、る」

「あはは、ありがとう」


 この子は熱があってもぶれないなぁ。ご要望とあらば、致し方ない。

 僕は水色のポーチを手に取り、ボタン留めを外した。

 ポーチの厚さはほんの数センチ。

 入れられるのは薄い板のようなものくらいだろう。

 そして、中身は恐らく。


「……珍しいね。紙の手紙だなんて」


 やっぱりだ。

 入っていたのは青い鳥が飛ぶ、封筒だった。


「私のことね……ナーシャって、呼んでもいい、たった……一人の人か、ら、もらった、の」

「へぇ。きれいな字」


 封筒には流れるような美しい字で『ナーシャへ』と記されていた。

 十四年の歳月が経過した今、手紙には相応の歴史が刻まれている。

 四隅が擦れ、折り目も若干くたびれていた。


「捨てら、れた私に……名前をくれた、お母さ、んが、書いて……くれた、の」

「……へぇ」

「読んで」

「うん」


 傷めないように丁寧に封を開け、便箋を出す。

 便箋もまた、鳥の飛ぶ華やかな柄だった。


「――親愛なるナーシャへ」


 姉さんのイントネーションをまねて、僕は始めた。

 筆跡は変えてあるが、書いたのは明らかに彼女だ。


「はじめまして。私はナーシャのお父さんとお母さんの友達です。どうしても伝えたいことがあって、この手紙を書きました。きっとナーシャはびっくりしているでしょうね。ごめんなさい。でも、最後まで読んでくれると嬉しいな」


 掠れた声が、僕の声に重なる。

 アナスタシアは一字一句違えずに内容を覚えていた。



 あなたのお父さんとお母さんは、とても悲しいことがあって、あなたを育てることができません。

 私があなたを引き取ろうとも思いましたが、ついに叶いませんでした。

 だけど、どうか気を落とさないで。


 あなたを誰よりも愛している人間がここにいます。

 あなたを慈しむ人間がここにいます。


 私の手紙を読んでいる頃、ナーシャは何歳になったのかな。

 まだとても幼くて可愛らしい女の子かな。

 それとも学校で一生懸命勉強している、格好良くてりりしい女の子かな。

 お父さんとお母さんに似て、アメシストの瞳をした可憐な女の子に成長しているんだろうね。

 あなたのきらきらと輝く紫色を間近で見られないのが残念でたまりません。


 冷えた冬に風邪をひいたりしていませんか。

 うっかり膝をすりむいて、泣いていませんか。

 本当は今すぐ抱きしめたいけれど、それはもう少し後になりそうだね。

 けれど、ナーシャなら大丈夫。

 痛みも辛さも、大きな困難も、絶対乗り越えていけるよ。

 だって私の自慢の娘だもの。

 絶対に大丈夫。私が保証するよ。


 ナーシャ。

 たくさんの人と手を取り合える女の子になってね。誰よりも芳しい花のように生きてね。

 お父さんのこともお母さんのことも、私のことも大嫌いで構わないから、大切な人を愛せる人になってね。

 いっぱい笑って、いっぱい泣ける女性になってね。


 遠く離れていても、私の心はすぐそばにあります。

 ……押しつけがましくてごめんね。

 もし赦されるのなら、健やかに成長して、大人になったナーシャとまた会いたいな。


 一緒にお茶をしながら話したいことがいっぱいあるの。

 これは手紙を書き終えた後にも、どんどん増えるんだろうな。

 ナーシャもその日が来たら、私に教えてね。

 どんな道を歩んできたのか。どんな人に出会ったのか。

 どれだけ泣いて、どれだけ笑って、どれだけ怒ったか。

 十年後、二十年後。……ううん、もっと先の未来になるかもしれないけど、楽しみに待っています。

 大好きなナーシャと二人でお話しする日を。


 愛しい愛しい、私のナーシャ。

 またいつか会おうね。

 輝かしい未来であなたを探しています。


 あなたを世界で一番愛する者より。




 ――姉さんはどんな気持ちでこの手紙をしたためたのだろう。


 彼女の記憶を視た僕ですらそれは想像にも及ばない。

 いくら記憶を視ても、想いは当人にしか感じられないものだ。

 僕の主観が入ってしまえば、本質とかけ離れる。


「……何万回、もね、読んだか、ら……忘れられなく、なったの」

「お守りだもんね。効果抜群だ」


 アナスタシアは淡く口元をほころばせる。


「自慢の……お母さん、よ。羨ましいで、しょう?」

「あはは。僕もこんな家族が欲しかったなぁ」

「あげない」

「えー」


 真実は告げられない。

 良心が痛むが、今ここで語るべきではない。信じてもらえるはずがない。

 再会の瞬間は、姉さんに任せる。僕は傍観者だ。

 知っているだけのよそ者だ。


「私の……父親と母親は、ね、私のこと……なんて、どうでもよか、ったの、よ。……ほら、望まない妊、娠……とか、予想外の、妊娠と、か言うじゃ、ない? もしかした、ら学生……だったかもしれ、ないし、ふしだらな女の、腹に……宿ってしまったの、かも、しれない」

「うん」


 アナスタシアの両親はまだ子供だった。あまりにも幼い大人だった。


「鬱陶しくて……煩わしく、て、捨て、られたの。でもね……そんな、いらない子供、を、たったひと、り気にかけて、……紙の、手紙を持たせて、くれる人、がいるのよ。とっても……素敵でしょう?」

「なっちゃんは幸せ者だね」


 信仰の対象に救われて生きてこられた。


「ソールより百万倍はね」

「あはは、だろうねぇ」


 僕につられてアナスタシアも笑おうとした。

 しかし、唇を開いて出てきたのは乾いた咳だけ。


「苦しい?」

「へ、いき」


 激しく咳き込みながら、側臥位になり背を見せる。

 怒られるかな、と考えつつ僕は痩せた背を摩った。


「先生がね、半日もすれば熱は下がるでしょう、って言ってたよ。プリエの点滴が効きやすいタイプの発熱みたいだからって」


 長い咳のあと、アナスタシアは背中を向けたまま、話し始める。


「……リンラン、さま、がいなけ、れば、私、死んで、いたかもしれ……ない、わね」

「……そう、だね」


 心臓を握り潰されるような鈍痛に、ひっそり顔をこわばらせる。

 見られていなくて良かった。


「ねぇ、ソール」

「んー?」

「ソールに、も、わたしのお、母さん……みたいなひと、いる?」

「うーん、そうだなぁ」


 僕を生かしてくれたひと。

 僕を庇ってくれたひと。


「……いるよ」


 鈴蘭の名を冠した、瑠璃色の女神さまが。


「どんな、ひと?」

「優しくて、強くて、荒々しくて、涙もろくて。人の痛みに敏感で、まるで傷を自分が負ったかのように苦しむひと。格好良くて、ケンカも強くて、でもどこか抜けてて、よく笑うひと、かな」

「わたし、のお母さん、みたいね」

「えぇー、じゃあ僕となっちゃんが家族になっちゃうよ?」

「それ、は……イヤ」

「ひどいなぁー」


 嫌がられてしまった。悲しい。


「だけど、そう、ね。ソールのごは、んとお菓子が、食べられる特権、付き……なら、幼馴染、くらいに、はなって、あげ、る」

「退院したら食べたいものがあるとみましたよ、お嬢様?」

「あら……バレ、た?」


 甘言を吐くなんて裏があるに違いないのだ。


「ご希望をうかがいましょう」


 くるり、とアナスタシアは身体ごとこちらを向く。

 まだ苦しそうな表情ではあるが、生気は戻っていた。


「紅茶、のジャ、ム。……リンランさ、まがね、インタ、ビュー記事で、知人に絶品、のスコーンと、ジャムを……振舞ってもらった、っておっしゃって、たの。ソール……前に作って、いたで、しょう? だから」

「かしこまりました。スコーンはプレーンでよろしいでしょうか」

「よ、ろしい」


 アナスタシアは嫋やかに微笑んだ。



 よぉし、退院祝いはとびきりのティータイムだ。

 姉さんに作った通りのレシピでこしらえよう。

 もうちょっとだけスコーンがしっとり焼けたら嬉しいなぁ。昔みたいに。



 ふと窓に視線を移す。

 小さく咳をしたアナスタシアの背後には、紅茶色の朝焼けが広がっていた。


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