第55話 『神様からの置き土産』
食の最大を超え、日食が終わるまで、水素カートリッジを取り替えながら、光線銃のバッテリーが切れるまで、ひたすら撃ち続けた。
その情報はマスコミを通じて日本中に伝わり、光の量も次第に増えていった。日食の暗闇が、各地から、それぞれの手から発射された光によって、本当にまるで真昼のように照らされて。それが止んだ時。日食が終わって、太陽が再び姿を現した時。一琉は太陽から身を隠そうとして、妙な具合を感じた。なんだろう。体がムズムズとして、春の風を受けたような感じがした。体がぽかぽか温かいような気がした。
天から、まばゆい光が差し込む。まぶしい。染みついた条件反射で、身をすくめる。澄んだ青空。白い雲がもくもくと浮かんでいた。鳥が一斉に羽ばたいた。灼熱の太陽が、遠く輝いている。空想の世界を眺めているように、呆けた。
焼けるような暑さや痛み、体に悪いような感じ――それが、まったくない。
ない。
どういう、ことだ……?
夢の中を彷徨うように、働かない頭のまま、ふらふらと彷徨う。体は不安に縮こまるが、本能が大丈夫だと言っている。その場には、夜勤軍たちが一様に静まり返って、その変化に佇んでいた。夢遊病患者のように、ふらりふらりと。鮮やかな世界に身を揺蕩わせて、道端に咲くコスモスの花の色相を見ては、不思議そうに首を傾げた。陽の光の下の彼らは、戸惑っていて、中には怯えているものもいた。
「まさか……」
一琉の口から、ため息交じりに声が出た。身体から、何かが抜け落ちていく感覚。
不安定さに、足元がぐらつく。
太陽が、遠く輝いている。あっけらかんと、生まれ変わった一琉たちを照らしている。
しばらくの間、動くことができなかった。
あの文明人は、とんでもないお土産を置いていったものだ。
まだ、夢を見ているようで、感覚が追いつかない。
生まれながらにして、自分を押さえつけていたもの。
太陽が――俺たちを傷つけないなんて。
身体に不思議な温かいものが流れ込んできて、そして、――何かが消えていく。
「滝本くんー!」声が聞こえる。
「委員長……」
「ちるちるーっ! たいへんたいへーん!」
顔を上げれば、見慣れた一班のメンバーがぞろぞろと走ってくる。「有河……」
「おーい滝本ォ」
「天変地異が起きた」
「加賀谷に棟方……」
一琉に頷き返して、委員長が巫女服の長い袂をまくりながら頷いて言う。
「本当に……一体なにが起きたのかしら? これは歴史を変える瞬間よ」
「そうだな……」
一琉の手を、有河が両手でがしっと掴む。
「あーりぃなんか怖くなっちゃった! ! はあっ。とりあえず、みんな無事だねっ! ?」
「でも俺たち、どうなっちまうんだぁ?」
「まずは、情報を仕入れることが先決」ラジオを突き出される。
『「神の御子」の指示で、太陽光線銃の真の使い方が判明! ! 信じ難いことが起きています! ! 死獣が消え――そして、夜生まれが、日光の害を受けないように、変化しているとのことです! 継続時間など詳細は今だ不明! 繰り返します! 日食中、異常発生していた死獣は全て消失! そして、夜生まれに変化が――! !』
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