第10話 『ただ、昼に生まれたというだけで……』
基地へ帰り、校舎へ。一糸乱れずの行進で、グラウンドに集合。
「左へならえ! 番号――」
一、二、三、四……と、手早く点呼を終える。「分かれ」の合図で解散。訓練兵でも、数か月もたてばシマリのある規律を体現できるようになる。慣れれば考えて動く必要もないので楽だ。そのあと一班は集まって教室に向かった。
一琉の横で有河は、ほうっと一つ息を吐くと、
「もうダメかと思った~。間一髪だったね」
「……だな」
「今日もひどい戦いだったけど、無事に帰れるなんて、もしかしてあーりぃ、超ラッキーガールなのかもっ?」
そう言って幸福そうに微笑んだ。それが一琉の癇に障った。
「喜ぶなよ。そんなこと」
「えっ。どして?」
「こんなことで喜ぶなんて、おまえはむなしくないのか」
「こんなこと……って! 班のみんな、家族みんなが無事に帰ってくること、すごい奇跡じゃん。ちるちるは嬉しくないの?」
「そういうことじゃない。こんな奇跡を、幸せと呼ぶこと自体不幸なんだよ! よく考えろよ。俺たち夜勤が死ぬ思いで守ったこの街で、昼生まれはのうのうと生活しているんだぞ」
ただ、昼に生まれたというだけで、だぞ。
「それは……」
不意打を食らったように言葉に窮した有河。
俺たちがそうやって喜んでいる間に、昼生まれはお気楽に寝ているんだ。
「まあ待てよ一琉」
代わって、加賀谷が入ってくる。「――ここは、夜だぜ」
へらへらっとしたいつもの調子の中に、どこか確固とした分別を感じる。線引きされた向こう側に行こうとする者を、諌めるような。
「俺はこんなことで喜んだりしない」
振り払うように一琉は追い越し、
「こんなことでごまかされない」
背を向けた。「――指令室に行ってくる」
「えっ、ちるちる?」
「もっと人員を増やすように言ってくる」
何か言いたげな二人の視線を背に感じながら、一琉はその場を後にした。
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