最速屋《ケレリタス》グランプリ《GP》編

プロローグ 箱根の異変

「知らない最速屋ケレリタスで、溢れかえってるって?」

 コーヒーを口につけかけていた東山ひがしやま洋志ひろしは、眉をひそめた。

 十月の下旬。洋志が所属しているチーム、TRUTHトゥルースがいつもたまり場にしている箱根の小田原側入り口にある国道沿いのファミレスでのことだ。

国道こっちではあまり見かけないけど、乙女峠や永峰峠、箱根スカイウェイ、芦ノ湖スカイウェイでは多く見かけられてるらしい」

 ナポリタンを頬張りながら、チームメイトの桑島くわしまが語った。

「その話なら、俺も聞いたぜ」

 そう言ったのは、向かいの席に座った同じくチームメンバーの鮒子田ふしだだ。

「なんでも、東京からわざわざ遠征しに来てるらしい」

「それだけじゃない」

 ペーパータオルで口元を拭いてから、桑島は話を続けた。

箱根地元最速屋ケレリタス達も、同じコースを熱心に走り込んでるらしい」

「同じコース?」

「そう」

 首を傾げた洋志に鮒子田が頷いた。

「今言ってた、乙女峠から長峰峠、箱根スカイウェイに芦ノ湖スカイウェイ、そこから県道を通って、伊豆スカイウェイに抜ける順路ルートだ」

「ちょっとした距離だなぁ」

 洋志は腕を組んで考え込んだ。

「なにか大きなイベントでもやるのか……?」

 それから思いついた事を言ってみる。

「イベントって?」

「そりゃあ、車乗りのイベントって言ったら……」

 桑島の問いに途中まで答えかけて、洋志は改めて考え込んだ。

 思い当たるのは一つだけだ。

 だが……、

(そんな事が本当にのか?)

 だとすれば途轍もない。

 確かなのは、箱根を舞台になにかが始まろうとしているという事実だった。

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