銀の彗星《シルバー・ザ・コメット》編
プロローグ 都心環状線《C1》
光が急速に後方へと流れていく。
それは、道路を照らす街灯だったっり、ビルの窓明かりだったり、輝くネオンだったりした。
東京の夜は暗くない。
首都高速を飛ばしていると、まるで流星のように光が飛んでいく。普段は走っている箱根の
務めている小田原の工場の工程の一部が東京の会社に移管になり、洋志はお盆明けから教育係としてその会社の出向していた。
最初は乗り気では無かったが、いつもの交代勤務から日勤に変わった事で夜に時間ができて首都高を攻められると思いついた時には心が躍った。
特に今走っている
浜崎橋
荒れたアスファルト。凸凹の路面。道路のつなぎ目のせいで、一度滑り出すとどこへ飛んでいくかわからないのだ。
今日までいろいろな相手と
クランクコーナーをクリアし汐留
江戸橋
「……ん?」
洋志は後ろからパッシングを受けている事に気がついた。
ルームミラーで車種を確認する。
意図的に分断され、有機的なボディライン。フロントとリアフェンダーに大きく開いたエアインテーク。装着された多数のエアロパーツ。まるで
「マクラーレン・セナ……か?」
最近は
だが、それは紛れもなく英国のF1
色は銀。ナンバーは品川。
「マジかよ……」
それでも洋志は萎縮する事は無かった。直ぐにハザードを短く点灯させる。
それからアクセルとグィッと踏み込んだ。
日本橋上の高速コーナーに怖いの我慢しながら、突入する。この速度だと
それに対してセナは、
「速い!」
そのロードホールディング性に洋志は舌を巻いた。
直ぐに真後ろまでつかれる。
「くっ!」
たまに現れる一般車両をパスしながら、二台はテールトゥノーズで神田橋
その先には左の高速コーナーが待っている。
そこでセナが横に飛び出した。直ぐに横に並んでくる。
「ブレーキング競争かよ!?」
洋志はギリギリまでブレーキを我慢した。だが、セナが減速する気配は無い。
「くそったれ!」
もう限界だった。思いっきりブレーキペダルを叩き踏む。
セナがRX-7の前に出る。そこで始めてブレーキランプが灯った。
そのままセナは、まるで路面に吸い付いてるじゃんないかと思えるぐらい、いとも簡単に高速コーナーをクリアしていく。
それに洋志も続くが、路面が荒れていてこまめにステアリングを調整しながらコーナリングする。
RX-7は不安定な挙動でコーナーをクリアした。
そんな調子だから、立ち上がりではかなりの差をつけられていた。
「ちっ!」
それでも洋志は闘志を失わず、セナの追走に入った。
セナは、一般車両を機敏な動きでパスしていく。
逆にRX-7は、セナほど上手く一般車両を
「かなり慣れてるな……」
それを見た洋志は、セナのドライバーが首都高を熟知していると予想した。
セナとの差が徐々に開いていく。
本来、コーナーを得意とするRX-7だが、セナはその上を行っている。
結局、北の丸トンネルを抜けて、続く千代田トンネルをクリアする頃にはセナの姿は見えなくなっていた。
「ふーっ」
溜息と共に洋志はアクセルを緩めた。
「今日も負けちまったな」
首都高を走り始めたから一週間以上経つが、まだ
それは明らかに車の差から生まれるものだった。
「R35でも買うかな……」
趣味では無いが、もしここを
もっとも、自分の薄給ではとても手が出ないのだが。
そんな馬鹿な事を考えながら、洋志はもう一周、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます