エピローグ 彼女の思案

 いよいよ伊豆を離れる日が来た。

 美香子やお世話になった旅館の従業員に見送られ、エキシージと458は旅立った。

「眠そうだな」

 伊豆スカイウェイをスローペースで走るエキシージのドライバーズシートで天道は、サイドシートに座る澄生に言った。さっきから欠伸ばかりしているからだ。

「あぁ、夕べは一睡もしてないからな」

「徹夜したのか?」

 澄生の言葉に天道は驚いた。

「寝たら、いつ襲われるかわからないから、ズッと起きてた」

 澄生はサラッと言ったが、天道は哀れんだ顔をした。

「無茶しやがって」

 そして、夕べ思った事を口にする。

「そっちこそ、上手くいったのかよ?」

「……!」

 澄生の問いに天道は答えに詰まった。

「そうか、上手くいったか」

 その反応リアクションを見て、澄生はニンマリと笑みを浮かべた。

「俺はなにも言ってないぞ?」

「そうかそうか、それなら身を挺した甲斐はあったってことだな」

 天道は抗議したが、澄生は聞き入れなかった。

「それを聞いて安心した」

 澄生はにホッとしたような顔をした。

「じゃあ、俺は寝るから。着いたら起こしてくれ」

 そして、バケットシートに身を委ね、目を閉じた。


「でっ? 蓮實とは上手くいったの?」

 458のサイドシートで由布子は興味津々で聞いた。

「う……ん」

 それに対して霞は照れながら頷く。

「そっかぁ。そいつはめでたい」

 そう言う由布子はまるで自分の事のように喜んだ。

「ユッコちゃん……は?」

「こっちは駄目駄目」

 霞の問いに由布子は投げやり気味に答えた。

「銀矢の奴、寝ないんだもん」

 そして、肩をすくめる。

「寝たら、速攻で襲ってやろうと思ったのに」

「あははは……は」

 由布子の過激発言に霞は空笑いするしか無かった。

「まぁ、でも収穫はあったし、今回はこれでいいや」

 両手を挙げてグッと伸びをした由布子の表情は晴れ晴れしかった。


 同日の夜、司馬家の屋敷では、司馬しば麗華れいかが、ソファーに座ってタブレットi padに書かれた報告書に目を通していた。

「今回も道路の封鎖、ご苦労様」

 一通り読み終わってから、麗華は目の前に直立不動で立つ御盾みたてあきらに労いの言葉をかける。

「ありがとうございます」

 それに対して晶は、恭しく頭を下げた。

「でも、あの霞が彼氏のためにそこまでしたんだ」

 麗華は感心したように言った。内気で自己主張が苦手な霞の性格を知っている者としては、驚きに値する。

「霞が変わったのは、彼氏ができたから? それとも最速屋ケレリタスになったから?」

「その両方だと思います」

 ほとんど独り言に近かったその問いに、晶は律儀に返事をした。

「車を飛ばすのって、そんなに楽しいのかしら?」

 麗華は思案した。それから晶に向かって言った。

「私にも運転を教えてくれる?」

「はい。麗華お嬢様」

 主の依頼に、晶は謹んで頷いた。

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