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 その週の水曜日に雨が降ったので、木曜日はグラウンドがぐちゃぐちゃだった。それでサッカー部は休みになったらしい。昼休みにその連絡を聞いた天野は、放課後一緒に安西に会いに行かないかと言ってきた。

「そういえば、雨の日って安西どうしてんだ?」

「雨が降っても基本的に毎日公園には行ってるらしいよ。……家にいるのが、あんまり好きじゃないんじゃないかな」

 そして僕らはそろって公園に向かった。僕たちが一緒にやってきたのは初めてだったので、帆淡は少し驚いた様子だった。帆淡は砂場の縁に座って砂いじりをしていたので、僕たちも砂場に入った。

「砂遊びなんていつ以来だろうな」

 言いながら、天野はカッターシャツの袖を捲って砂山を作り始める。帆淡は右手で砂の上に文字やら絵やらを描いたりして、膝の上の左手には花を持っていた。濃い桃色の小さな花はに茎がなくて、手のひらに乗せて転がしているようだ。

「可愛い花だね」

「あっちの方に咲いてるの」

 帆淡は道路近くの植え込みを指した。

「そっか。車には気をつけてね」

 帆淡はこくりとうなずいた。僕は通学用のリュックを肩からおろして、天野に加勢する。

「あーあ。もうすぐまたテストだよなあ。期末テスト。部活が休みになんのはいいけどさあ。テスト期間は家に直帰しねーとばばあが怒るんだよなあ」

「寄り道してるの、黙ってるんだ」

「部活がある間は長引いたとか自主練してたとか言えんだけど。ばばあも帰って来るのは早くねえから多少はばれないんだ。でも部活が無いのにばばあより家に着くのが遅いと、うるせーのなんの。学校で勉強するっつっても、どうせ友達なんかと一緒だと集中できないでしょ、って」

 うちの母親もパートタイムで働いてはいるが、僕が五限や六限まである日だけだから、家に帰ると一人ということはあまりなかった。中間テスト前の部活が休みの期間、天野は毎日すぐ家に帰って、一人でお母さんに指示された大量の課題をやっていたらしい。

「晩飯後に、全部答え合わせ。寝るまで家庭教師がつきっきりだから、逃げ場ねえよ」

「お母さんは何の教科の先生なんだっけ」

「理科。だから数学もできるし、あと英語も得意。国語だけは指導力に自信無いからとか言って、大学生かなんかを雇うか考えてるらしい」

 天野は立ち上がって二三歩離れると、両手をくっつけて小指側を砂場に当て、ざざざっと大量に砂を寄せ集めてきた。僕らは闇雲に砂山を高くすることをやめ、丸く集めてケーキの土台みたいな形を作っていた。

「確かにそれだと、家で勉強するのが一番捗りそうだな」

「捗る……捗るか……まあいちいち先生つかまえて聞くより手っ取り早いけどな」

「塾に行ってるやつも結構いるのかなあ」

「小学生の時から通ってるやつは通ってるよな。駅前の方にいくつかある。真山……や、安西の家からだと、ちょっと遠いよな」

 天野が帆淡にも視線を送る。帆淡は僕たちの方を見ていたらしいけれど、天野には何の反応も示さず砂の塊に視線を落とした。

 駅は確かに、このあたりからだと学校より向こう側、天野の家がある方面にあった。天野の家は国道に面していて、そこを越えると土地の値段だとかが結構変わるそうだ。

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