第63話 瀕死のメイド

 帝国に戻ってから、モニカとディビナ、そしてフィーが宿に、馬小屋にはモキュ。

 リリスは俺と一緒に王城の門へと向かった。

 用件はとりあえずメイドに家の譲渡の話をすることだった。


 衛兵の詰め所に案内されると、少し場の雰囲気が張り詰めていた。


 ソファに横たえられている黒い塊が目に付いた。


 そのそばにいる秘書が俺に気づいて声をかけてきた。


「あ、来ましたか」


 抑揚のない、前話した時とは変わらない声音。

 しかし、表情は前と少し違った。

 冷徹な感じが消えて、代わりに優しさを含む無表情だった。

 無表情なのに優しさがあると言うのも変だが、口調や以前の表情と比べてということだったりする。


「……それで、メイドさんと話しに来たんだが、彼女はいまどこに?」


 それを聞いた周囲の衛兵は少しだけ俯いたが、秘書はこちらを見据えてはっきりと伝えた。


「これが……彼女です」


 そのソファに横になっている黒い人型の塊がそうなのだと言う。

 どう見ても黒い塗装でできた石像だった。


「なっ……」


 なにがどうしたら、人間が黒い石像になるのか?


「暗殺者の毒にやられてしまったのです。ただの毒ではなく、魔法による属性毒攻撃……みたいなものでしょうか。それで先ほど息を……」


 秘書はその元メイドの死体を撫でた。


 毒か……。

 その暗殺者は、相当に毒の扱いに慣れた奴だったらしい。

 人間が魔法で毒を使えると言うのも初めて知った。


 ともあれ、俺としてもこのメイドさんが死んでしまったのは非常に困る。

 家のこともあったからな。

 なんか色々と教えてくれたし、個人的には助けたやりたいところだが死者になってはどうにもならない。


 ふと以前助けた長老のことを思い出す。

 だが、彼は毒を受けても生きていたから助けられたのだ。


 

「駄目元でやってみますか……」


 俺は手のひらに意識を集中させる。

 以前と同じように、メイドの中にある毒を転移・操作して手のところへと集めた。


 すると、メイドの身体の色が肌色へと戻っていく。

 少し赤みがある部分もところどころあるのは、内出血だろう。

 体細胞が内側から毒によって侵された、生々しい光景だった。


「肌の色が……」


 秘書はメイドの肌の変化に驚いた。


「これで毒はもう体内にないはずだが……、俺に出来るのはここまでか」


 俺はため息を吐いて、手のひらに集まった毒を霧散させる。

 正確には自分の身体に触れさせて無効化していく。


 俺は生命体に対して能力を使えないからな。

 ん? 待てよ……。

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