第45話
いまになって、メアリスという魔王は、拾い上げたときにあの場にいたことをこう説明していた。
『誰かを殺すのに、人任せにして責任を押しつけたくなかったんです。やるなら私の手で先頭に立ちました』
とのことらしい。
騎士二人が俺のような勇者を殺そうとしたことだ。どうも俺がきっかけだったという。
それを知ったメアリスが、自分の目的で仲間が誰かを殺すことに耐えられなかったのだという。
俺は後ろの3人を連れて王の間を出ていこうとして、もう一つ大事なことを思い出し立ち止まった。
「そういえば……」
俺は王の間を見回してこう言った。
「お前たち元クラスメートに言っておきたいことがあるんだが……」
王の間の中にいる十数名のクラスメートたち。名前も特に覚えていない。
騎士の隣にいる端田令未果(はなだれみか)と見覚えのある数名くらいか。
「俺の自由を脅かさなければ、俺は特に何もしない。だが、そうじゃなければ……わかるよな? それだけだ」
俺の実力がすでに伝わっていたのだろう。
クラスの連中は沈黙で答えを返した。
わざと見下す感じで言ってやった。いまでずっとこうされていたのだから当然の意趣返しだ。この屈辱を胸に抱いてせいぜい苦しみながら生き続けてくれ。
心に少し余裕ができたことで、哀れな奴らだ……くらいにしか今は思わなくなったのもある。(あの一人を除いては……)
すると俺はあることに気づく。
「そういえば、竹岡はどうした? あいつだけは手足をぶった切って氷漬けにしたいところなんだが……」
それに答えたのは端田(はなだ)だった。
「彼は……死んじゃったの」
どこかすまなさそうな声だった。
死なせてしまったことではなく、何かもっと別のことだろう。
「そうか」
それ以上興味はなかった。あの俺をいじめていたカス野郎が死んだのであればそれでいい。俺の手で裁けなかったのは悔しいが。
あの赤い髪の騎士同様に生かしておいてはならない奴だったからな。
「悪いな。俺が殺した」
そう名乗りを上げたのはあの男の騎士だった。そのまま話を続ける。
「あいつはどこか皇帝家の人間に似ていたからな。それに一人で勝手なことばかりしようとするのにいい加減耐えきれなくなってな」
奴はどこまでも馬鹿だったらしい。
「ふ~ん」
そこにフィーがまだ何か話したいことがあるのか、言葉を挟む。
「メアリスさんに言いたいことがあるっス」
「……なんでしょうか?」
ここで何の話だろうと疑問の顔をするメアリス。
「皇帝家の第一息女は危険な人物じゃないっスよ。私はよく知っているっス」
「信じてもいいのですか?」
「そうっス。もし違ったら私が殺すから大丈夫っスよ~。けどそうはならないとわかっているんで安心して欲しいっス」
なんとも物騒なことを簡単に言うフィーだった。
声には迷いがなかった。その新皇帝のことをよく知っているということなのだろう。
「そうですか。でしたら信じます」
唖然とした顔をする騎士たちは半信半疑だったが、メアリスが信じていることに異を唱えることはしないようだ。
メアリスは、戦列を後退させるように騎士たちに指示を出す。戦うことなく戦争が終結することになった。
フィーのおかげだな。俺は新皇帝のことは知らないからな。
俺は踵を返して、3人と一緒に帝国へと戻ることにした。
帝国側にこの結果を教えてやるのだ。
そして、もうそろそろ逃げ出した新皇帝を見つけている頃だろう。
この成果と一緒に話をしてモニカの家の土地を返してもらうのだ。
もと来た道を飛んで帰る。まさにとんぼ返りだな。
とか思っていた時だ。
ちょうど国の境界線まであと少しといった地点のちょうど真上に異変が起きた。
空が割れるようにして空間が歪んでいく。
真っすぐ莫大な閃光の塊が地面へと落ちた。
俺たちは台地に衝突した時の余波で爆風にあおられる。
「クソっ! なんだあれは!?」
悲鳴を上げる後ろの3人を振り向くことなく、手をかざすと、風を操作して爆風をそらす。
「な、何事なのでしょうか?」
ディビナはその光の方角へと目を凝らしていた。
モニカは怯え、なぜかフィーはハイテンションだった。
「今度はなんスか、あれ!」
光の中でたっているものをよく見て見ると、一人の巨大な男だった。
『ふう、うまくいったぜ……』
そこに立っているのは、黒い皮膚をした巨大な男だった。
男は俺たちの視線に気づき、赤い目をこちらに向けた。
そう、俺が魔王として想像したのはあんな感じの男だった。
「まずいな……あいつ、雰囲気がやばそうだ」
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