第44話 和解

 まず、王城の王の間のあるベランダに降り立つと、俺は全員をモキュからおろした。


 どうしてかは分からないが、ここに来る間に攻撃がいっさいこなかったのは良かった。


 中へ向かって俺は叫んだ。

 腕の中にはメアリスという女の子。

 首筋に妖刀を添えて、人質に見せているのだ。


「おい! 魔王はいるか!? 今すぐ魔王軍の奴らは出てこい!」


 そう怒鳴りつけると、スライドする大きな窓を開けてベランダへと数名の騎士たちが出てきた。


「お前が勇者たちから離脱したコウセイか?」


 一人の騎士が代表してそう言った。

 もし、他のクラスメートたちが魔王軍に加担しているのなら、そうなるかもな。

 俺のことを知っているのは当然か。俺を召喚したのはこの国なのだから。


「この子の命が惜しければ上と話をさせろ! 中にいるんだろ!?」

「……わかった」


 騎士たちの後について俺たち4人は王城の王の間へと入る。

 ここへ戻ってくるとは思っていなかった。

 ダンジョンを落としてやったはずなのだが、無傷だったのも少し驚いた点だ。


 そして、中にいたのは数名の顔なじみと、以前に俺を殺そうとした騎士の二人だった。

「また……会うことになるとはな」


 俺はため息をついた。

 とりあえず、この二人が生きている理由はわかった。魔王の支配下ならこの二人も不死か。

 さすがに切りかかってこないのは、やられて歯が立たなかったことを知っているからだろう。


「そうだな。久しぶりだ。前は悪かったな。それでその子を離してくれないか?」


 まったくふてぶてしいな。殺そうとしといて悪かったで済むはずがないんだが、一度死んでもらったことでそこまで執着するつもりもない。

 生きていたのが予想外ではあるが。


「そうだな。じゃあ、魔王を出せ? それともここにいる誰かか? どいつだ?」


 俺は周囲を見回した。


 そのセリフに騎士の二人は目を見開いた。


「何を言っている?」

「そうよ、あなたの傍にいるじゃない!」


「は?」


 こいつら何を言っているんだ?

 

 すると、モニカが騎士たちの視線から何かに気づいて、俺の手を握ってきた。


「あの……もしかして途中で拾ってきたその子……魔王だったんじゃないですか?」


 俺はそんな馬鹿なと思ってメアリスを見る。

 すると、申し訳なさそうに俺を見上げていた。

 そして、なぜ魔王の代弁者みたいに話していたのか、ようやくつながっていく。


 そうか……そういうことか。


「じゃあ、君……メアリスが魔王?」

「……はい」


 じゃあ、魔法障壁も魔物を動きを止めたのもこの子ができた理由をようやく理解した。

「ということは、世界を滅ぼすつもりは……」

「ないです。行っても信じてもらえそうになかったので、証人のいる彼らの所まで連れてきてもらいました。それに、彼らの話も聞いてほしかったので」

「そうか……」


 ちょっと驚いたが、想定の範囲内……とはいかなかったが納得だ。


「わかってもらえましたか? ここにいる騎士の方たちもマルファーリスの息のかかっていなかった騎士たちです」

「それじゃあ、なぜ帝国に戦争を仕掛けたんだ?」


 それに答えたのは、騎士の男だった。

 

「それはな、皇帝家をこのタイミングで滅ぼしておきたかったんだ」

「……皇帝家を?」

「ああ、これは本当の話なんだが……。皇帝の血を持つ一族たちは、強力な魔法を所持していた。そいつらは、どこか頭のおかしいやつらでな。とにかく、支配できる世界をどこまでも拡大しようとするだけの狂人だった」

「まあ、それは少しだが知っている」

「そうか……、マルファーリスはこの混乱の中で自分の脅威になりそうな奴らを殺した。しかし、皇帝家にはもう一人息女がいると言うことが後でわかったんだ」

「それで、そいつを始末するために? 暗殺ではなく戦争で?」


 俺は当然の疑問を呈した。


「暗殺はまず無理だ。俺たちはその息女の名前も顔も知らない。それに怖~い秘書が常に皇帝に張り付いているんだ」


 その最後にぽつりと付け足した。あれは別の意味での化け物だ、と。


「そういうことか。皇帝は戦争時には前線へ指揮を取りに来る……」

「そうだ。最後の一人さえ消すことができれば、もう王になれるのは皇帝家以外の者しかいない。人格者で実績のある者はいくらでもいる。本当なら、戦争に勝って支配する人間の数を増やせれば、それだけ人類を守れるんだがな……」

「人類を守るって……おいおい、お前何言ってるんだ?」

「まあ、召喚されたばかりの勇者にはちょっと耳に入らないことだろうな。この世界の人類を守っていたのは王国と帝国の王だった。だが……もういない」

「そう言うことじゃなくてだな……滅ぼさないってのは、メアリスを見ればなんとなくわかる。だが、魔王軍が敵のはずの人類を守ろうとしているのか?」

「そうだ」


 なぜ? わからん。


「人類を滅ぼそうとしているのは誰だ?」

「竜種の奴らだよ。この前、帝国で竜王の子どもが殺されただろ? いや、それ以前に竜を封印していたことがもう奴らの尾を踏んでいた。近いうちにこの人類のいる大陸の端っこを地図から消し去るつもりだろうな」


 そうだったのか……。あれが竜王の息子か。

 もしかして俺その化け物の竜王にこれから狙われるのか?

 いやそいつより強くなればいいだけの話だ。


「……だが、なぜそこまで人類に固執する? お前たち魔王軍は魔族だけ守るものじゃないのか?」

「簡単な話さ。魔王メアリスの願いは人間と仲良くすることにある。なぜなら彼女は……人間の転生者だからだ」


 転生者と聞いて、俺はメアリスに振り返った。


「本当なのか?」

「はい……、見た目は小っこいですが、死んだのはコウセイさんと同じくらいの年齢の時です」

 

 なるほど、これまでの魔王と180度違う考えになるのも当然だ。中身が人間となれば、そりゃ人類滅ぼすなんて言わないだろうな。

 種族の影響で見た目が幼いままなのは、魔族の年齢の単位が違うかららしい。


「そうか。じゃあ、俺が言うことはない」

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