番外:勇者パーティー一行の悲劇(クラスサイド)
・読まなくても続きに問題はありません。
ダンジョン攻略&魔王討伐の当日。
コウセイがダンジョンの隠しボスの部屋に騙されて放り込まれたその裏では……。
新たなダンジョン攻略の編成が組まれていた。
王の間に集められたコウセイを除くクラスメイトの勇者たちは、そのダンジョン攻略の編成に立ち会っていた。
これまでの一人に二人騎士がつくという形ではなく、勇者四人に騎士一人がつく形に変更になっていた。
マルファーリス国王が最後にこうねぎらいの言葉を告げた。
「ここにいるのは優秀な勇者ばかりじゃ。すでに騎士一人の戦力とは比べられないほど強くなっておる。そういうわけじゃから、がんばってくれ」
誰も気には留めなかった。
国王が心配そうな顔一つしないことに。
いつも気だるそうにしているのだから今日もそれだと思ったのだ。
全部で9組の27人が編成を完了したわけだ。
コウセイと一番最後に話会話を交わした端田令未果は、竹岡信吾と佐々木愛の3人で編成されることになった。
その歪な編成は、最後までコウセイの味方として立っていた端田令未果はなだ れみかとコウセイをいじめていた竹岡信吾、無口で影からこっそりみていた無口キャラ・佐々木愛という波乱万丈な組み合わせとなった。
「どうした?」
「え!?」
声をかけたのは佐々木という影の薄い女子だった。
「どうした?」
同じセリフを繰り返す佐々木に、端田は気になっていたことを口にした。
「ねえ、物部(もののべ)君って、ここにいないんじゃない?」
それを聞いて、うなずく佐々木。
しかし、隣でそれを聞いていた竹岡は、機嫌悪そうに吐き捨てた。
「あ? あんな雑魚いないほうがいいんだよ。胸糞悪いやつの話なんてするな」
竹岡は最近、クラス転移のせいでいじめる機会がなくなり、ストレスがたまっていた。
「竹岡君……」
悲しそうな顔をすると端田はなだは押し黙る。
端田はなだはもう一つ気になることがあった。
『どうして物部(もののべ)君がいないのに、クラス27人がすべて編成できたのかな? 実はあの日、転校生がいた……とか?』
コウセイを入れるとクラスの人数よりも一人多いのだ。
ダンジョンへの入り口は、わかっているだけで王城周辺の森の洞窟に散らばっていた。
5つの入り口のそれぞれ決まった場所からダンジョンを攻略していくことになっている。
茂みの中に隠されるようにある洞窟を見つけたときは、誰もダンジョンの入り口だとは思わなかったくらいに。
「なんか埃(ほこり)っぽいね……」
皆、その古めかしい雰囲気に当てられていた。
「人の出入りした形跡もねーな」
ツタが入り口を隠していたことから竹岡も一人ごちた。
うなずくだけの佐々木は相変わらず無口だった。
勇者三人とそれに追随する形で男騎士の計四人が薄暗いダンジョンの中を進んでいく。
「ねえ、お互いにどんなスキルが使えるのか確認しておかない?」
そう提案したのは
「あ? べつにしなくていい。たかが魔物、オレが全部倒してやるよ」
誰の目からも竹岡は勇者になって調子に乗っているのがわかった。
訓練のときも竹岡だけはまじめにやるのではなく、力を見せびらかすようにしていた。
「無理」
一言でばっさりときったのは佐々木だった。
「おい、テメー! ただの地味子がオレに口答えしてんじゃねえ!!」
襟をつかみあげたところを、
「もう、やめてよ! 私たちは一つのチームなんだよ?」
「うるせぇ!!」
あきれたように佐々木は首を横に振る。こいつは言ってもダメだというように。
竹岡を追いかける3人が追いついた際に見たのは、竹岡がゴブリンと戦っているところだった。
「このやろっ!」
剣できりつけている竹岡の後ろまで小走りに
「大丈夫? 思ったよりも大きいね、魔物って……私も」
そういって、
回復系の魔法を唯一使えるのが彼女だった。
想像したよりもサイズがでかかったのだ。剣撃はスキルがあっても力が足りないのか、ゴブリンの外皮に阻まれて切り捨てることができないらしい。
「うるさい! どけっ!」
しかし、そういって竹岡は彼女を突き飛ばすと、ゴブリンの頭を思いっきり剣で殴った。切れないなら殴ることにした。
あくまでも竹岡は独占欲とプライドを全開にして、自分ひとりで倒すというスタンスを崩さなかった。
しばらくの戦闘のあと、ようやくゴブリンは動かなくなった。
その間、じっとその姿を他の三人は見ていた。
そして、女子二人は改めて思い知らされた。
魔物は強く、勇者だからと気を抜いたら死んでしまうかもしれないということを。
竹岡の戦闘時間は20分を超えていた。勇者だからこそ長時間戦えるだけで、ただの人間には不可能な動きで戦い続けていた。
とはいえ、勇者といっても限度があり、竹岡の息は切れ切れだった。
一体倒すのにそれだけ時間かかることを散らばったクラスの皆はこのダンジョンではじめて知ることになる。
何も言わなくても竹岡は敵に突っ込んでいってしまうのだから必然的にそうなる。
聖槍を大きく頭の上で回転させ、ブタに似た魔物に
「ぐぶっ!!」
そこへ佐々木のが先の曲がった短剣で顔を切りつけた。
さらに一突きし止めを刺す。
「はじめて魔物を倒したね……」
安堵の声を口にする端田はなだ。
すると竹岡も魔物を倒したらしい。
しかし、顔色も悪く疲弊していた。
「回復しようか?」
「黙れ!」
それを突っぱねる竹岡だが、さすがに体がまずいと感じたのか端田はなだへと近づいてこういった。
「早くしろ……」
手のひらから淡い光がともったと思うと、しばらくして消えた。
「終わったよ?」
それを聞くと竹岡はとっとと先へ行ってしまう。
それを追いかける形でまた魔物を倒すのを繰り返した。
だが、何時間たったのかわからない、外が今昼なのか夜なのかもわからない。
そんな時間の錯覚と疲労感から前に進む速度が遅くなっていることに気づく。
「そろそろ睡眠を取れる場所を探したほうがいいんじゃない?」
しかし、それを無視して竹岡は進んでしまう。
男の騎士は、相変わらず勇者任せで口出しすらしない。すべての成り行きを勇者に任せている。
仕方なく前進を始めると、前のほうから魔物の足音が近づいてきた。
臨戦態勢をとって武器を構えるが、今までとは少し違った。
目の前に姿をあらわしたのは人……角をはやした少女だった。
「なに、あれ……」
「まじかよ……」
人型がいるとは思わなかった。
あれがうわさの魔族というやつらしかった。
魔王の配下であり、勇者が倒すべき敵と教えられた。
「なるほど。騒がしいと思ってきてみれば……そういうことでしたか」
その魔族の少女は勇者を目の当たりにしても慌てることはなく、勇者パーティー一行を見て何かに納得している。
そして、その鋭いまなざしで勇者たちを見た。
『こいつはやばい!』と。
今すぐ逃げろと体が叫んでいるのだ。
でも、と考え直す。あれを倒せないようでは魔王を倒すなんて夢のまた夢だ。
だがもう手遅れだったことに誰も気づいていなかった。
睨まれた瞬間から、誰も体を動かすことができなくなっていた。
「クソ! 動かない……」
最初に気づいたのは竹岡だった。
その声で全員が気づくことになった。
魔族の少女は笑みを浮かべて礼儀正しい姿勢を崩さずに告げた。
「あ、気づきましたか? 外のことを知りたいのでちょっと来てもらいますよ」
やばい! と全員が直感した。
敵陣に生きて捕らえられたらどうなるのか。
しかも人の心を持たない悪魔に生きたまま連行されれば、拷問が待っている。
こいつは情報をほしがっていることからも明らかだった。
「い……いや……」
それを想像して、
佐々木も顔を青くして苦しそうな表情をしていた。
必死に体を動かそうともがくが、ぴくりともしない。
そうこうしているうちに、魔族の少女が腕をかざして黒い光の魔方陣が地面を覆った。
すると眠るように静かに勇者たちの意識は途切れた。
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