第22話:尋問と帝国の王位継承者
広場に降り立った俺を周囲の兵士は驚きの表情で見ていた。
誰も声を発しようとしない中、一人の若い兵士が大声をあげた。
「な、何者だ!」
腰の長剣を抜いて、こちらへと構える。
それが硬直した空気を壊す契機となり、一斉に俺へと武器を構えた。
ほとんどの奴が剣で、数名は槍を構えていた。
作業兵はというと、ピストルのような形をした黒い何かをこちらへと向けている。一応武器なのだろう。
俺のすぐそばにいた兵士は後ずさりながら槍を俺の首元に構えた。
「何が目的だ。ここは立ち入り禁止区域になっているはずだ。どうやって入ってきた!?」
俺はあきれた声でセリフを返してやった。
「何をいまさら。お前たちの打ち上げた花火の被害者だよ。いや、ケガはしてないが。善良な旅人を襲っておいて、そんな馬鹿なことを聞けるお前の脳味噌には感心するよ」
俺のわざと馬鹿にしたような言葉に少し怒りをあらわにする。
「それに言ったはずだ。お礼に来たっていただろ」
その瞬間だった。
兵士は下からの構えで、構わず槍を俺ののど元へと突き刺した。
しかし、肌にふれた槍は皮膚の上でピタリと止まった。
兵士は驚嘆した。
「なんだこれは!?」
俺は冷めた目でその兵士を見下ろす。
「話は最後まで聞けよ」
俺は槍を手で掴むと、それに抵抗しようと兵士は槍を引っ張るが一ミリも動かないことに動揺し始める。
「おい、離せよ。何だこの馬鹿力は……」
力じゃないんだなこれが。槍の支配権を奪いとっただけだ。
俺がふれている限りその槍をお前に使うことはできない。
「気が早いやつだ。男は早いのが一番嫌われるらしいぞ? せっかくサプライズを用意してやったのに」
上空を見上げた俺はここに降り立つ前に、上空に置いてきたものを見上げた。
そこにあるのは、視認はできないが電柱の10倍くらいある太さの鉄柱だ。
火の玉のお礼……サプライズプレゼントだ。
俺の視線につられた目の前の兵士は空を見上げるが、何も見えないようで疑問の表情をした。
「なにを……」
「じゃあ、さっそく尋問だ。お前たちはここで何をしていた。なぜ街に火球なんて放つ?」
その質問を聞いて、周囲の兵士たちは俺から目をそらした。
「それは言えない……」
俺はすかさず、槍を奪い取って兵士の右肩へと突き刺した。
「ぐああああああああああああああああ!!!!!!」
「とっとと言え!」
「い……やだ! 誰がお前なんかに教えるか」
兵士は、すぐさま地面へと膝をつくが、口だけは割ろうとしなかった。
仕方ない。俺は小石を生み出してそいつの心臓へと叩きこんだ。
兵士は力尽きて、穴のあいた身体はそのまま地面にずしりと倒れた。
どろどろと血液が地面にあふれる。
それを見ていた周囲の兵士が、驚愕の表情でその死体を見ていた。
俺は別の兵士へと歩み寄り、槍を向けて脅した。
「おい、お前は言うんだよな?」
そう言った途端、俺の背後にいた作業兵が逃げ出そうとするのに気づいた。
恐れをなして逃げ出したようだ。
手に生みだしたいくつかの小石を操作して、頭部や背中に叩きこんでやった。
「逃げようとするな! サプライズを用意してやったんだ。大人しく待ってろ」
改めて槍を突き付けた兵士へと問う。
「どうするんだ? お前もいまここで死にたいのか?」
「わ、わかった。言う。言うから……。この作戦は、帝国へと反逆した抵抗勢力を殲滅する作戦なんだ」
「抵抗勢力……なんだそれは?」
「旅人なら知らないかもしれないが、皇帝が死んで、新たに女皇様が王位に就いた。それに反対の者たちのことをいま抵抗勢力と呼んでいる。そして、もとから帝国を良く思っていない国外の勢力、あと、奴隷や人権のない一部の帝国に飼われている民のことだ。その殲滅作戦だった……」
ふ~ん、作戦というからにはまだ始末すべき奴がいるな。
「上の奴が攻撃を命令しているのか? なぜこんなばかな攻撃をしている……帝国の兵は自国民に無差別攻撃するほど馬鹿なのか?」
「……これは女皇様(現皇帝)の直々のご命令なんだ」
「さっきからその女皇って誰なんだ。皇帝の娘かなんかか?」
「いや、それが違う……タリバという男が騎士にいたんだが、そいつは最高指揮官だった。しばらくの間姿を消していた。だが突然現れて、連れてきた女の子を女皇(現皇帝)にすると、前皇帝の第一・第二皇子の跡継ぎたちに言いだしたんだ」
「女の子をか?」
「ああ、そうだ。そこから内戦に発展した。だが、その女皇(現皇帝)派の勢力は跡継ぎたちを次々に殺した。一夜にして皇帝純潔派閥は解体したんだ」
「たった一夜でか、本当の話なのか?」
「あたりまえだ。それだけ女皇(現皇帝)派の実力はずば抜けている。もともと実力主義である帝国軍内部は、その女を皇帝の強さの象徴として女王に定めたんだ」
「いや、内政事情までは聞いてないんだが……まあいい。つまりその女皇様とやらが生きている限り帝国内に火を放ち続けるってことでいいか?」
「ああ……当然だ。皇帝となられたのはいまいる女皇様だ。それに反逆した奴らに生きる価値はないんだ……」
暴露した兵士は、ああ言っちまったとため息を吐いた。
俺が言うのもなんだが、こいつらは正気なのか?
皇帝のためならば、昨日まで同じ帝国民だった人間を平気で殺せる価値観を持っているようだ。
ここまで極端なものなのか? 異世界だから? 想像していたのとなんか違うな。
なにか特別な教育というなの洗脳を受けているのか、それとも親から慣習としてそうするのが当たり前になっているんだろうか。
「お前たちが狂っているのはわかった。それで皇帝陛下の名は何という? 今どこにいる?」
兵士の男は狂っていると聞いて、お前が言うなという目で見てきた。
その上で、仕方ないと口を開く。
「女皇様(現皇帝)の名前は……マルーー」
と言いかけた直後に、男の首が胴から離れて宙を舞った。
血を撒き散らしながら目の色を失った顔が地面へコトリと落ちる。
「それはこいつに言っちゃダメだろ?」
何者かの声が聞こえた。
赤い短髪に目つきのキツそうな男だった。
今までそこに人がいることに気づくことができなかった。
俺はすぐさまそいつを睨みつけた。
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