第21話:迎撃と水弾

 俺は街の一角から宿のある方角へと視線を向けた


「まずはモキュとディビナ達のいる宿の様子を見に戻ろう」

「そうですね。急ぎましょう!」

 

 と走り出そうとするモニカの肩を掴んで静止させた。


「待て!」

「え……どうして?」


 振り向いたディビナが不思議そうに聞いてきた。。


「飛ぶ方が早い!」


 そう告げると同時に、モニカの小さい手を掴んで空へと浮かび上がった。

 最初バランスがとれずにモニカは小さな悲鳴を上げた。

 走るよりは早いが、安定させながら早く飛ぶのが意外と難しく、モニカは空中で大きく揺さぶられていた。


 ここではじめて複数人が安定して飛ぶのに、まん丸のモキュがいることが大事なことに改めて気づかされる。

 連れてくるべきだったか……。

 なるべく俺と一体になる感じが、この能力を使うのには必要だ。

 仕方なく、モニカを前で抱きかかえることにした。

 いわゆるお姫様抱っこだな。

 

「ひゃっ!」


 許しを請わずにいきなり抱っこされる形になったモニカは、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になっていた。


 これで気流を安定させることができた。

 と宿まであと少しのところだった。

 上を向かされているモニカが飛来物に気付いた。


「あれ見てください! 火球が!!」

 

 指の刺された方を見ると、西の上空から火弾が数えるのも面倒なほどの相当な数が飛んできていた。

 俺は近くの建物の屋根にモニカを着地させると、改めて火弾に振り向いた。

 

 だが、俺は迷ってすぐに迎撃行動を取ることができなかった。

 迎撃できる手段を探っていたのだ。


 ステータスを起動させて、迎撃できそうな能力を見ていた。


・【物理操作・強制】

 物質操作・強制 

 空間操作・強制 

 光・電磁気操作・強制 

 重力操作・強制 

 水流操作・強制 


・【物理召喚】

 物質召喚 

 物質転移 



 一人ならばそのまま攻撃を受けても傷一つつかないが、いまは後ろにかばう者(モニカ)がいる。

 大量の風の操作で火弾を散らすのもダメだ。すぐ向こうに宿屋がある。

 俺には風を操作した後の火の弧の着弾計算ができる頭脳もないから、その案は却下。

 コンピューターとかで計算できればいいが、そんなもの異世界にはないし俺の知識では能力を使っても作れないだろう。


 重力操作は、そもそも隕石じゃないから、使用しても意味がない。

 

 ためしにと発動させるが、やはり効果はなかった。

 魔力による地点攻撃だから当然か。


 じゃあ、転移は?

 

 火弾に手をかざしていくつか転移に成功するが、止まっているものではなくて移動している攻撃の位置を確定して転移させることが難しく、能力の不発がかなり続いた。


 目で見える範囲の火弾ですらこれだ。

 それにあの数の火弾を転移させるのは人間の手作業でできるものではない。


 やはり光系統の能力をきちんと攻撃への把握に使えるように調整しないとな。


 空間まるごと……いや、使えない。

 火弾はマップに移らないから距離が不明な上に、こんなところで大規模な空間移動を使ったらそれこそ街中が大惨事だ。

 宿も無事では済まない。


 後ろをふと振り返ると、モニカはこちらを見上げて不安な顔をあらわにしていた。

 なぜか俺が何もしない(ように見えている)からだろう。


 これほどまでに人間が相手か、魔法の攻撃が相手かで違いが出るものとは思わなかった。

 そのせいで、能力の使い道や応用方法を全然考えられていなかった。

 それがあだになった。


 人間一人を潰すのには、石ころ一つあればよかったのもある。

 これは俺にとっていい機会なのかもしれないが。

 それよりもまずは目の前の問題をなんとかしよう。


 残る選択肢は……


「じゃあ……」


 これしかないな。

 俺は手のひらを火弾へとかざした。

 物質召喚で大量の水の塊を出現させた。

 これを水弾として打ち出した。

 間髪いれずに、俺は目の前の空間に水弾を放ち続けた。


 魔法の攻撃は確かに魔力で成立しているみたいだが、属性の燃えるという性質自体は自然のものと変わりない。


 爆音と一緒に水蒸気が辺りへと撒き散らされて視界が一気に悪くなる。

 だが、構わず飛んでくる方角へと放ち続けた。

 そろそろかと思い、気流を操作して水蒸気を周囲に拡散させる。


 視界を確保すると火弾の放出はもう無くなっていた。


「終わったか……」


 俺は気を緩めると、ふと気付く。

 モニカがジャケットを後ろからちょこんと掴んでいた。

 それを気にせず俺は声をかけた。


「よし、行くぞ」

「はい……あんな技も使えたんですか?」

「あれは技っていうよりも物量で押し切っただけだな。俺に水球の魔法は使えないしな」

「えへへ、そうでしたね」


 モニカは苦笑いを浮かべていた。


 宿にたどり着くと、まだ何とか建物の原型を残していた。

 いや違うな。

 もともとボロボロだから、攻撃を受けたわけではないか。

 そこで、窓から外を見ていたディビナへと声をかける。


「ディビナ、宿は大丈夫だったか?」

「え? あ、上ですか。はい、大丈夫です」


 馬小屋の方から、俺の声が聞こえたことでモキュが出てきた。

 問題はなかったようだ。


 だが、早々に攻撃を行っている奴は排除することにした。

 これ以上、余計な攻撃をされては面倒だ。

 飛んできた方角はなんとなくわかっている。兵器を使っているらしいから誰が火弾を放った奴かすぐわかるだろう。


「俺はこの攻撃の主のところへ行ってくる。宿で少し待っててくれ」

「行かれるのですか?」

「ああ、元凶は断たないとな」

「わかりました、待っております。頑張ってください」


 そう言ったディビナはモニカの手をとって窓から部屋へと入るのを手伝った。


 モニカも別れ際にこういった。

 

「私も待ってます。コウセイさんに大事なお話がありますから、絶対に帰ってきてくださいね?」


「話? わかった。とっとと終わらせてくるから待っててくれ」


 そんなに時間もかからないはずだ。

 そのままモニカは部屋の中へ。

 モキュは馬小屋へと再び戻った。


 一人の方が守ることを考える必要もないしな。

 今の俺では、さっき以上のことが起きれば対処しきれないことが出てくるかもしれない。そのときに人をかばっている余裕などないだろう。


 俺は屋根を蹴って西の方角へと飛び立つ。


 また攻撃が始まる前に、可及的速やかに敵を排除するのだ。

 さて久しぶりの対人戦闘だな。人と戦う方が楽というのがなんか変だ。

 とりあえずどてっ腹に風穴をあけさえすればいいのだから。


 西の端にある噴水のある広場があった。

 そこには滑車のついた黒い大きな大砲が東の空へと向けて並べられていた。

 数十人の騎士の恰好をした兵士に技術者のような作業着の兵もちらほらいる。


 俺はそのド真ん中へと降り立った。


「やあ、火の玉のサプライズをありがとう。お礼に来てやったぞ?」

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