第6話:ダンジョン探索

 もしここから出れたら、俺は好き勝手に動くことにした。

 王国軍はどうするかって?

 あんな裏切り者やらいじめを容認するクラスメートやらがいる集団のことなど知らない。

 まあ、世界が滅ぼされるのは困るから、ついでに魔王だけは後で屠(ほふ)っておこう。

 このダンジョンにいるらしいし。

 いや、まだ早計か? 魔王がどのくらいの強さなのかわからないのだ。



 騎士たちに裏切られてダンジョンに一人放り込まれたが、物質支配のチートを駆使すればこの中を生きて脱出できるはずだ。

 

 このダンジョンは薄暗い上に進んでいるのか後退しているのかわからない。


「ちょっと試してみるか……」


 『ステータス起動』と俺はステータス画面を開き、そして命令した。


「――探索マップを」


 その一言で画面が一新され、このダンジョンの地図が表示された。

 白い三角形が一つと、その周囲に黒い点が複数。

 黒い点が魔物らしい。三角は俺自身の現在地ということのようだ。


 上にはF1と表示されている。

 いま俺がいたのは、地下一階の隅っこの部屋だったらしい。





 そこで、近くにいるらしい魔物のほうへと向かい、一度戦ってみることにした。

 あのケルベロスのように瞬殺できるのかどうか。

 ムカデのような魔物がいた。

 あのケルベロスほどではないが、俺の身長の3倍くらいはある巨大な爬虫類型魔物だ。

 なかなか気持ち悪いな。

 ゲームだとデフォルメきいてるけど現実じゃ足を見るだけで嫌悪感が湧き上がってくる。


 そう思った次の瞬間、魔物が口から紫の毒を吐いた。

 俺は避けようとするが、戦闘経験の少なさが仇になった。

 足がもつれていきなりの攻撃に対応できず、敵の吐いた毒がもろにかかったのだ。


「ぐぉーーーーーーあ?」


 特に溶けたりすることはなかった。


「そういえばステータスの無効があったな……外皮(肌)から進行する毒も無効化できるんだな」


 毒はどうやら無効化されたようだ。

 とりあえず、さっきためした石を召還した。

 それを物質操作を使い超音速で発射する。

 胴体に穴が開き、苦しそうにムカデの魔物はもがき始める。


 俺は手のひらに浮かせる形で再び複数の石を召還した。

 そこへいくつも石を放って、穴だらけにすると、ようやくムカデは動かなくなった。


 不意をつかれた形になった。

 ステータス見たときはその能力のすごさに圧倒されて余裕と思ったが、実践には慣れるのにはもう少しかかりそうだ。


 それに、


「う~ん、こういう節足動物は一撃じゃ沈まないのか」


 急所と呼べる場所がはっきりあるわけではないらしい。

 なんとか倒せたことに安心して、次に進むことにした。


 ちなみに体にまとわりついた気持ち悪い毒の液体は、水流操作で洗い流してきれいにした。




 しばらく歩くと二体のゴブリンがいた。木の棍棒を武器にしているやつもいた。


 試しに自動防御がどの程度安全なのか確認しておくことにした。

 木の棍棒で殴りかかってきたゴブリンに対して、俺はそのまま受けてみこるとにした。

 流体の鋼鉄を召還して、頭部と背中に防御のためのシールドを作り出す。


 分厚い鋼鉄の部分をたたいた形になるゴブリン。


 逆に木の棒がへし折れ、ゴブリンの手首が折れていた。

 安全を確認できたな。


 そこから流れるような動作で腰の短剣を抜いて切りつける。

 しかし、浅い切れ目しか入らない。

 痛がって数歩だけ下がるゴブリンに、今度は火炎放射をお見舞いした。


 電磁気操作で発火を起こして、全身を焼いていく。

 二つの黒い塊がもがきながらこちらへと近づいてくる。

 最弱のゴブリンですら意外と生命力が高いらしい。

 まだ生きていたようだから、石を高速で放ってゴブリンの顔を潰しておいた。

 すると動かなくなった。


 このダンジョンで遭遇した魔物は巨大でゴブリンの生命力すらこれほど強い。

 

「この世界は、想像していた以上にハードな仕様なのか? それともこのダンジョンだけ?」


 わからない事は置いておくことにして先に進む。



 俺はダンジョンの中をゆっくり進む。だが、


「この迷路……マップがあっても迷うな」


 あまりに複雑なので、壁をこじ開けられないか?と試してみた。


「あれ?」


 どうやらダンジョンは物理操作できないらしい。生きてるのか?

 仕方なく、目の前の壁を石で吹き飛ばし、通り道を作った。

 だいぶ歩き、この階にはもう魔物がいないことを確認する。

 俺は今度は地面に石を放って穴をあけ、下へと進んでいくことにした。


 下の階は、魔物が少し凶悪そうに見えることから、下の階を守るにつれて強くなるのだろうと思った。

 片手間で幼虫の虫型・イノシシや狼のような動物型・鷹や蝙蝠のような飛行型・スケルトンやオークといった人型など、様々な魔物を殲滅しつつ、どんどん下の階へと降りていく。


 魔物を倒して進むのは、限界までステータスを上げるため。

 直接、魔物と戦ってわかったのは、攻撃を受けても大してダメージがない分、相手を戦闘で倒すのに思った以上の時間がかかることだった。


 広い部屋なら巨大な石で一発だからそうでもないが、ダンジョン内は石ころ発射以外で倒すのは厳しいのだ。


 このまま外に出ても、ただ打たれ強いだけのガキ程度にしかならない。

 もっと冒険する人たちのようにかっこよく魔物を倒したい。

 そんな欲が出てきた。

 どのくらいかというと、剣でさっそうと倒せるくらいにはなりたい。


「それに、このままだと手加減とか一切できないからな」


 人と戦うときに、相手を穴だらけにする=殺人、だからな。

 俺は間違ってもあのカス親父のように犯罪者になりたいのではない。

 せめて自由に暮らしたいだけなのだ。


 15分ほど魔物に会わない場所で休憩を取り、再び探索を始めた。


 魔物相手に戦闘を何度も試していると、ステータスは順調に上昇し、勇者のレベルはLv.28になった。


 相変わらず、物質召喚はレベルが上がるのが早く、もうLv.5になっていた。他はまだLV.2なのに。

 違いが何かを確認してみると、質量や大きさが変化したのではなく、一度に小石を召喚できる数が変わった。

 いまは一回の召喚で最大300個ほど召喚できるみたいだ。

 大きな石だと十数個が限度だ。


 このダンジョンで戦っていると、戦闘訓練していたときよりもものすごく勇者のレベルが上がるのが早い。

 Lv.5にすら到達できない騎士が大半という中で、すでにLv.28だ。

 だがあまりすごいとは感じなかった。比べる相手がいないし、自分がまだまだ低いレベルだとしか思えないというのもある。


 だが、戦いを繰り返すことで、技の切れはもちろんのこと、体の動きも早くなり、近くも鋭敏になっていくのがわかる。

 いままで初心者丸出しだった短剣さばきも少しずつ玄人に近づいてきているのを感じる。さまになるというやつだ。


 とはいえ、専用のスキルを持たないせいで、成長が遅いのも事実だ。勇者のレベルと実戦経験頼りだしな。


 次に出会ったのはこうもりにそっくりな3体の魔物だった。


 この魔物が厄介なところは、洞窟の中を飛び回っているところだ。

 5メートルもある天井には剣は届かないし、石を飛ばしてもこうもりのようにじぐざぐに飛び回って狙いがうまく定まらないのだ。


 時折、口から何かを吐き出すようなしぐさをしているが、俺には何も感じない。

 おそらく攻撃を無効化しているせいだ。

 超音波の攻撃でも使っているんだろう。


 とりあえず今回は『操作』系を戦闘で試してみることにした。

 すでにLV.2だが、レベルが一つあがったことで、同時に別性質の現象を複雑に操作できるようになっていた。

 気体操作で複雑に気流を操るなど、応用性が高そうだったから使ってみる。


 俺は立ち位置を洞窟の中心へと変えた。

 ダンジョン内の空気を猛烈な勢いでかき回すのだ。

 の方が空気の流れを変えやすい。

 空気がかき乱されたことで、こうもりたちの動きがあおられるように動きを止めた。

 突然の突風に耐えられない様子だ。

 さらに水を召還して、それを氷へと変えた。


 そのまま物質操作で3体のこうもりを串刺しにすることに成功した。氷のとがった先は洞窟のよこに刺さったままだ。

 速さを封じれば、本体は雑魚らしい。


「こうもりは、でかくはなかったけど、すばやさに注意だな」


 このダンジョン内では珍しい小型の魔物だ。

 小さいのにはそれなりの理由があるというわけだ。でかいと動きが制限されるし、長所が生かせないから生物の進化の神秘というやつだな。


 勇者のレベルがLv.35へと到達した瞬間だった。




 意外な魔物を倒したところで、見つけた隠し階段を下りる。

 すると最下層に来たことを、地図(マップ)を見て知った。

 もう下がないらしい。

 そして、この階層の魔物はいなかった。

 あるのは目の前の大きな扉だけ。

 

「もしかして魔王がここに?」


 俺は手に石を召喚し、ゆっくりとその扉を開いた。

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