第2話:国王軍

 クラスメートを含めた俺たちは風景の変化に気づく。

 地面には、巨大な魔法陣と思われる光が滲にじんでいて、その上に全員が寝かされていたのだ。


 俺は起き上がると、周囲を見回して驚愕した。


「どこだ……ここ!?」


 白を基調とした豪奢な内装は、ファンタジー世界でいうところのお城の中みたいだ。

 視界をもう少し先に延ばすと、急な段差のある階段を昇った頂上には、玉座があった。

 そこには一人の女性?が座っていた。


「ようこそ、勇者様方。ワシはこの国王軍を指揮する国王――マルファーリス=アルカリスじゃ!」


 玉座から立ち上がり、手にした王笏おうしゃくを掲げる。

 立ち上がったのは、やっぱり……。

 赤い豪華なドレスを着ているものの、スレンダーな女性ではなく、小学生くらいの背丈しかない、ただのちびっ子だった。

 足元まである長い黒髪が床の上まであり、目つきは若干鋭そうだ。


 俺はもちろんのこと、クラスの連中の誰もが無言で彼女を見つめた。

 そのちびっ子が国王とか言っている非常識を前にどう反応していいかわからないのもあるが、いまいち現実に思考が追いついていないのだ。


「……そうじゃな。突然、言われても困るか。ではさっそく、現在の状況を詳しく聞かせてやろう。ワシはしゃべりつかれたから、その辺のヤツが説明してくれるはずじゃ。おい、入ってまいれ!」


 つまらなそうに玉座に座りなおすと、衛兵の一人を呼んだ。

 すると、衛兵によって開かれた横の扉から、続々と騎士風の格好をした男女たちが入ってきた。

 この国の騎士たちなのか、いかにも屈強そうだった。


 俺は魔法陣の描かれた床の上に立ちつくしたまま、銀色の甲冑を着た騎士たちのほうを向いた。

 クラスの連中も、その慌あわただしい状況の中で、物騒な人たちに対しては焦った様子でざわついていた。 


「では、わたくし、騎士団長ハンドレッドからご説明させていただきます。そして、改めまして、勇者様方。このたびは遠いところをわざわざ足を運んでいただきありがとうございます」


 騎士団長の男は中年で威厳みたいなものがあるようだ。とても言葉がハキハキしていた。

 といっても……。なんか俺たちが自分の足で来たみたいに言われてるけど、勝手に連れてこられたというのが正解ではないだろうか……。


「――ではまず、現状の説明から。現在、我がアルカリス国王軍と敵対しているのは、この世界を侵略し、滅ぼそうとしている魔王軍です。帝国軍や聖国など、抵抗できる勢力も世界中で激減し、世界の滅亡まで待ったなしなのです。そして、我らの力だけでは対抗できないことから、異世界の勇者様方に召喚に応じてていただき、ご協力願おうといった次第です」


「はぁ……」


 俺はその狂った世界に召喚された……と言うことでいいのか?

 腐った日常の世界に未練は無いが、滅びかけている世界に連れてこられたって、状況が悪化している気がする。


 クラス連中は、そういったファンタジーな話に疎いらしく、


『なにそれ、どういうこと?』

『ふざけんなよ、意味わかんねぇよ』

『私たちどうなるの?』


 などと、困惑の声が聞こえてくる。


「いまのところ、ダンジョンがすべて合わせて583出現しているのが確認されています。また、その一つには大型のダンジョンがあり、地下深くには魔王が潜伏しているという情報もあります。魔王はなかなか位場所がつかめなかったこともあって、話し合いの結果、叩くなら今のうちに勇者の力を借りて……となったわけです」


 ざわざわ。

 クラスの連中たちは、何の話をされているのか理解しきれないのか仲の良い者同士でひそひそと話す。

 今の事態への驚きを共有し、不安や緊張といったものを紛らわしているのだろう。

 俺からすれば、この程度の非日常はたいしたことが無い。


 朝、突然、刑事のおっさんが枕元に立っていても驚かなかったのだ。

 むしろ、余裕で挨拶かまして、事情説明をしてやった。


 だから、俺が最初に発言をすることにした。クラスの連中なんて、正直言ってどうなってもいいのだが、俺はなるべく早く事情を理解した上でこれからどうするかを考えておきたい。

 それに、お約束のあれがあるはずだ。

 もしかしたら、腐った日常を脱出できる最後のチャンスになるかもしれないのだ。

 そう……前いた世界では到底手に入らないような超常的な力である魔法が使えるかもしれない。

 力がもし手に入ったのならもう腐った日常に戻らなくても……いいはずだ。


 俺は挙手した。


「あのいいですか?」

「なんでしょうか?」


 騎士団長さんは、笑顔で問い返してきた。


「勇者って事は、すごい剣をもらえたりするんですか? それとも何か特別な力が俺たちにはあるのでしょうか? 例えば『魔法』とか……」

「うん、いい質問です。勇者様方は、異世界から勇者として召喚魔法で呼び出されました。そのため、その人が最も勇者として持つべきにふさわしい、特別な能力や武具が宿ると国王様がおっしゃられていました。魔法もその一つです」


 そして、騎士団長さんは国王を見ると、「そうじゃ」とちびっ子の国王はうなずいた。

「ではみなさん、ステータス起動と唱えてください。そうすれば、どのような能力がその身に宿ったのかがわかります。ただし、書かれている文字が読めない可能性があります。そのため、一人に付き、指導兵が勇者様方には付くことになります。これから戦闘を訓練したり、この城のことを説明など、もろもろの雑用をこなすものたちです」


 そういうと、二人ずつになった騎士たちが、一人一人のそばまで歩み寄った。

 俺にも男女二人の騎士が嫌がらずちゃんと挨拶をくれた。

 分断されたクラスメートたちは、不安を浮かべた表情で騎士たちを見た。

 普段から群れてないと何も出来ない女子もいるみたいだ。


 兵士は補足説明を始めた。


「あと言い忘れていたのですが、この世界の侵略は順繰りに行われます。いまわれら第48世界の侵略となっている以上、第49世界――つまり世界最後の現存世界(地球)も侵略が始まるということです」


 どうやら、滅亡の瀬戸際なのは、この世界だけではなかったらしい。


 それ以上にいまのは……話の持っていき方が上手い。

 これで本当は帰りたいと思っていた者たちや他人事だと思う者たちをを完全に勇者として役割を果たさせる方向にもっていった。


 次はステータスチェックか。

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