クラス丸ごと勇者召喚された俺は「物質支配」のチ-トで異世界を無双する!

せいんとれん

第一章:ダンジョン脱出編

第1話:異世界転移

扉が閉まる大きな音とともに、俺は部屋へと閉じ込められた。

 真っ暗……ではないが、ダンジョン独特の薄暗い明りが周囲を照らしている。

 正面には、ギラリと光る六つの鋭い赤眼が俺のことをじっと睨にらみつけている。


 三つの首からなる巨大な犬の化け物、ケルベロスだ。

 戦闘のために持たされた短剣を急いで構えるが、こんなちゃちなものでどうにかなるはずがない。


「どうしろってンだ!」


 俺は思わず短剣を投げ捨てそうになるが、なんとか思いとどまる。

 国王軍の二人の騎士の裏切りによって、すべてを奪われようとしている。

 こんな気持ち悪い魔物たちに、命も尊厳もすべてをくらい尽くされてしまうのだ。

 そんなの嫌だ!


 俺は手に石コロを生み出した。

 俺が使えるたった一つの能力。

 石コロを召喚する力だ。


 手に生み出した手頃なサイズの石を思いっきり投げつけた。


 ぎゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~。


 ケルベロスの首が激しく動いて、じゃらじゃらと首輪についた鎖の音を鳴らす。

 さっきのでどのくらいのダメージを与えたかは分からない。

 HPゲージとかないし。

 もとから石ころで何とかなる魔物ではなかったのだ。


 目を血走らせたケルベロスは大きな唸り声をあげて、俺に向かって駆けだす。


 ヤツを止める方法などない。このしょぼい能力しかないのだ。

 俺には他に何も残っていない。

 とにかく、あいつを足止めできるだけ石を召喚して、壁に……と手を構えるが、


 そんな作戦が間に合うはずもなく、目の前に凶悪な顔をしたケルベロスの顔が口をあけて迫った。

 俺の身体を食い千切るつもりだろう。


「ああ、終わったな……」


 俺は死を覚悟した。





 ----時はさかのぼり……------



 今日もいつも通り、何の変哲もない高校生の日常が待っていた。

 すまない、嘘だ。

 すべてが異常といえるほどの出来事が起きていた。

 まず、朝起きると、自分の父親が連続強姦魔として逮捕されていた。

 罪状は、強姦、殺人、窃盗、放火。


 まさに青天のへきれきだ。


 違うな。


 その程度の人間だということは、日々の言動、暴力や体罰からすでに知っていた。

 本物のカス野郎だった。

 早く死なないかこいつ、と日々思っていたほどだ。

 二人暮らしというのも辛かった。


 そして、朝そんなことがあったせいで、遅れて学校へ行くと……。

 もう噂が知れ渡っているのか、白い目を向けられた。

 噂ってやっぱ怖い。

 でも俺をいじめている竹岡って奴は俺の自宅の近くに住んでいるから、噂が出回るのは別におかしくないさ。




 昼休み、屋上で俺を囲っているのは、不良みたいなガラの悪い5人の男子生徒だった。

 とことん殴る蹴るで、体中に青あざをつくった。

 こうして、俺からすれば普段の日常が過ぎていく。


 父親が犯罪者として逮捕されて、ようやく解放されたと思っても俺の腐った日常は何も変わらなかった。


 俺をいじめている奴らはいつも同じ面子メンツだ。


「けっ、気持ちりぃ」

「なんでニヤついてんだ、よっ!」


 俺は横腹を蹴りあげられて、口から血を思わず吐いた。


「ドM確定~だな」

「さっさと死なねえかな?」

「死んだらまずいっしょ?」

「知らねえよ、こんなゴミ、社会に必要ねえよ」


 その後も、散々蹴られた揚句、髪の毛を引っこ抜かれて、しょんべんをかけられた。


「なんか俺……臭いな」


 異様なにおいから、家へと帰ることにした。

 やっぱり、何も変わらないと、その時まではそう思っていた。

 もしも俺に力があれば、捻り潰せるのに。

 名前書くだけで殺せるノートがあるなら、今すぐ書いて、奴らをあの世へと送ってやれるのに。

 なんでもいいから、こいつらを蹴散らせるだけの力がほしい……。



 荷物を取りに教室へと戻ると、一人の女生徒が話しかけてきた。

 結構、きれいな少女で、黒いロングヘアに白い肌。男子の間では学校一の美少女ともてはやされている端田令未果はなだれみかである。


「大丈夫? なんかつらそうだよ?」

「……なんでも、ない」


 そういって、俺は差し出された彼女の手を払いのける。


 今度はファンクラブの奴らから、手厚い洗礼を受けたくはない。

 横を通り過ぎるその一瞬、彼女は心配そうな、それでいて何かを迷っているような表情をしていた。


 他のクラスメートたちはというと、俺のことを邪魔な奴としか思っておらず、鼻をつまんで避けて通って行った。


「俺、帰るから……」


 誰に言うでもなく、一人ロッカーへと呟き、ベージュの皮鞄を背負う。

 話し相手は物くらいなものだ。

 そのまま扉から廊下へと出ようとした瞬間、辺りは眩い光に包まれた。


 クラスの連中も含めて、俺たちは全く知らない場所へと転移していたのだ。

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