第3話:ステータス起動
それぞれのステータスチェックが始まると、女子は微妙な顔をしていたが、男子はうれしそうに声を上げていた。
確かに、女子がチート能力を得ても、それ何なの?とかなるのは仕方ないだろう。
『火魔法Lv.10』とか言われて、すぐ使い方がわかるのはオタク女子くらいのものだ。
だが、騎士たちが丁寧に教えることで問題は無いみたいだ。
それと、ステータス起動をした男子生徒たちにも魔法やら武具(剣)が使えることがわかったらしい。画面は読めないが、声で聞こえてきたからそうらしい。
ステータス(勇者)として、個人のレベルはみんな同じ『Lv.1』で、魔法のレベルは最高1→10まであり、ほとんどの者が『Lv.10』だったらしい。
そのほか、すばやさ/筋力/体力/耐性~/剣術スキル・投擲スキル・~/など名前が出てくるだけでもたくさんの基本ステータスが存在するようだ。
そして、クラスの連中は複数の魔法や武具を持っているのだという。
聖剣をアイテムボックスから呼び出せる(召喚されたときに入ったらしい)者もいるようで、そいつには剣術スキルがちゃんとあるという具合だ。聖槍とか伝説の弓とかも似たようなものだった。
縦横ともに肩幅程度の大きさの透明な画面に、ステータスの個人情報が書いてあるらしい。
適性のあった魔法やスキルはステータス欄に表示される。
適性の無いものは表示すらされない。
『※※※:※※』
文字が読めないため、騎士たちが変わりに読んで、その適正をクラス連中に伝えていた。
俺も「ステータス起動」ととなえて、表示を見た。
やっぱり読めない文字なので、騎士の二人に聞いてみた。
「あの、俺のはどうでしたか?」
その声に、表示を驚愕した表情でガン見し、二人は焦ったように返答してきた。
「え? ああ、そうね。見てわかると思うけど、能力は一つね」
よかった。全く無かったらどうしようかと思ったから。
「それで、何の能力なんですか?」
「そ、それは……」
そういって女性騎士は男性騎士の肩を叩いた。
「ああ、これは『小石召喚』って書いてあるな。レベルは……まだ1(『Lv.1』)だ」
「なっ!?」
俺は読めもしないステータスの表示をなんとか確認しようと目を凝らす。
だが、読めるはずも無い。
「ざ、残念だったわね……。じゃあ、画面をスライドしてみて」
女性騎士の営業スマイルに促されて、俺は画面をスマホみたいに操作する。
「ここには能力の解説があるの。どうやら、『イメージした小石を形状問わず呼び出せる』そうよ」
それを聞いて、うなずいてはみるものの、がっかり感は否めない。
もう少し、『※※※※※』がいくつも並んでいるようには見えるから文字数が合わないと思うのだが、俺にはこの世界の文字が見えないし、二人が嘘をつく理由も無いはずだ。
石を召喚して何が出来るのか?と聞かれれば、日本なら水きりするのに石を拾わなくていいとか、その程度だ。
ましてや魔王だとか魔物なんて相手に出来ない。それどころか……、
あちらこちらから、クスクスという笑い声が聞こえてくるのだ。
明らかに自分より下のやつがいたことで、安堵して俺を見下し始めているようだ。
これじゃあ、腐った日常を変えられないじゃないか……。
そうこうしているうちに訓練へとはいっていく流れになった。
その日から、能力や武器を使った訓練が始まった。
俺はまず普通の小石を召喚してみた。
「あたっ!」
どうやらまだ出現場所をコントロールできなかったために、頭上に召喚してしまったらしい。
いや、小石だったからか、痛くはなかったが。
もう一度集中してやると、手のひらに収まる小石が現れた。
これで、投げて攻撃しろってことかな……。
まだ、魔物とは戦っていないが、不安が募っていった。
クラスメートたちがバンバン魔法を使う中で、俺は不安だけが募っていた。
いま騎士に連れて行かれている場所は、城の中にある部屋だった。
俺たちが寝泊りと訓練をした城は、アルカリス王家から代存在する古い建物だ。
ところどころ年代を感じさせる古びた壁やの修復跡が見てとれる。
しばらく歩くと部屋の扉がずらっと並んだ廊下だった。
どうやら地下施設らしい。
「ここが?」
女の騎士が頷いてそれに答える。
「そうよ、あなたたちはここで暮らしてもらうことになるわ」
男の騎士がそれに説明を加える。
「この階は自由に移動してもいいが、それ以外の場所は絶対に歩き回らないようにしてくれ。もしなにか城の中のものがなくなってもこっちは責任を取れねえからな」
「はい……。あの、外には出ても?」
「そ、それはダメよ」
「ああ、魔王軍側にお前たちの情報を知られたくないからな。わかってくれ」
「はあ……」
納得できる話ではあるが、この騎士たちの言い方がどこか引っかかった。
「それじゃあね」
「じゃあ、何かあれば言ってくれ」
こうして、波乱の一日目が始まった。
食事は、専用の衛兵騎士たちが部屋に運んでくる。
なんか、牢に捕まった犯罪者の気分になった。
部屋の中は窓もなく、天井に排気口があるだけで外への接続はない。
机もないし、あるのはベッドと木の箱だけだった。
「まさかな……」
探してみるが、アレがない。
部屋はワンルームだし、他に部屋らしい部屋もない。
「そういうことなのか?」
この木の箱、おそらくは簡易トイレということなのだろう。
風呂場もトイレもない。
俺は思わずため息が出た。
あの元いた世界の家も居心地が悪かったが、ここでは江戸時代以下の文明レベルの設備しかないらしい。
魔法使えるのに、こう言うところは発達していないようだ。
翌日、目が覚めたのは早朝だった。
あまりの出来事の連続に、まだ興奮が収まっていないのだろう。
昨日の夜もなかなか寝付けなかった。
小石を作り出せる能力など役には立たない。それなのに、魔王軍と戦わなければならない。
おそらくこれは拒否できないことなのだろう。この世界では、それだけが俺たちが生きていられる唯一の価値なのだ。
この能力では、下手に一人で出て行ってもどうにもならない。異世界に一人で生きたことなどないのだ。この流れに今は乗るしかない。
「せめて、バリエーションくらいはなんとか……」
さまざまな形の小石を作れるようにはしておいた。
しばらくして気づいたのが、小石は最初から形の異なるものが召喚できる。
能力を使っていると、召喚後に石の形状を変えることが出来ることにも気づいた。
「なるほど、召喚後に介入できるのか……ん?」
俺はこの能力に違和感があった。
本当にあの騎士たちが言ったような召喚だけの能力なのだろうか?
形をかえるの雨竜億は召喚と別ではないのか?
そんなことを思いつつ、かといって、ほかの理由も思いつかないため、形を変えること繰り返していった。
だが、それだけだった。
訓練ではなぜか騎士の二人はあからさまに俺の訓練には真面目に取り合わなかった。
挙げ句、「魔物なんて小石で大丈夫」とか楽観的なことを言っていたが、そうとは思えなかった。
だから、武器の形をしたいろんな形状の小石を召喚できるようにだけはしておいた。
他の生徒を見ていると、魔法をかなり使って訓練していた。
スキルとかで剣や槍の武器を使えばいいのに、魔法が中心になっている。
そして数日が経ったある日、いよいよ全軍による魔王のいるダンジョンへの総攻撃が始まった。
ダンジョンがあるのは森の中で、王城から少し離れた森の奥にある洞窟。そこにダンジョンへの入り口がある。
俺は騎士の二人についていき、ダンジョンの中を歩いていったところ、脱出不能の小部屋へと放り込まれた。
戻ろうと、扉を叩いてもびくともしなかった。
まるで何かに操作されているみたいに、ダンジョンが中のものを閉じ込めたのだ。
――そこで冒頭に戻ると言うわけだ。
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