第6話 残り蚊
温い季節の生き残りの蚊が、一匹飛んでいる。
コロッケの衣を食べる犬の目の前でパチンとやれば、びっくりして犬が顔を上げた。
お手とおかわりをさせて良しと指示を出す。
弟は一人グセがすっかり付いて、オセロに誘っても付いてこない。すぐに上へ上がってしまう。
あらら、逃げられた、と見ながら雅やかなる空気に満たされたこの家の雰囲気を味わう。雪の降る中、ストーブと喜びの歓喜で沸騰した頭は、もくもくと煙を上げている。
全くもって昭和な気配だが、とてつもなく満たされている。人は人と相対して初めて喜びを味わう。
こんな遊びを、案外皆知っていたり、知らなかったり。
ストーブの熱のせいだけでは無い。病でプンプンと鳴る頭を振りながら、こんな幸せすら取り上げてしまおうとする人はどんだけ悲しい奴なんだ、と少しく同情した。
悲しい人が世の中に溢れている。隣にも、ほら弟が。
この身に血しぶきの流れる内は、今しばらく先延ばしにしたい。何をかはご想像にお任せする。
たくさんの人が過ぎ去って行った祖母の家、今も人の気配は潤沢にありて。
では。
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