第四章

第四章【1】 すぐに終わる用事

 それから数日が過ぎた。あの夜の襲撃以降、特に変わったことはない。

 昼間は人目の多い学校で襲撃してくる可能性は低いだろうという雅美の読み通り。そして夜のアーケード街では常に三人で行動し、最低でも一人は周囲を警戒することにして回収作業をしていることが功を奏しているのだろう。

 本校舎の正面、正門との間に広がる広場。広場は楕円形をしており、その中央には校章を立体的に表現したオブジェが西日を照り返しつつ鎮座している。昼間は多くの学生が行き来するこの場所も、この時間ともなるとすっかり人気もなく、静かなものだ。

 そのオブジェの傍らに真斗と怜奈の姿があった。真斗はオブジェに寄り掛かるように座り込んでおり、怜奈は腕を後ろに組んで朱に焼ける空を鼻歌交じりに眺めている。

「……早乙女先輩、遅いですね」

 真斗は腕時計を見ながら言う。時刻は十八時十七分。集合時間を十五分以上過ぎている。エーテルの回収に行く日は、ここで集合してから三人で目的地に向かうのがここ最近のルールになっていた。

 唐突に怜奈のポケットからメロディーが鳴る。

「あっ、マサミ先輩かしら?」

 怜奈はスマホを取り出し、画面をちょっと見てから耳にあてた。誰かからの着信のようだ。大して意味はないのだが、ついつい真斗は通話の邪魔にならないようにと極力物音をたてないように努めてしまう。

「もしもし……うん……そう、明日とかじゃ駄目かしら? このあとちょっと用事があって……」

 話しながら、怜奈は少し真斗から距離を取る。

 …………

「……わかったわ、じゃあちょっとだけ」

 電話を切り、怜奈が真斗の元へと戻ってくる。

「ごめんね、真斗くん。ちょっと響子ちゃんから呼ばれちゃって。すぐに終わる用事みたいで、今喫茶店前にいるっていうから、ちょっと行ってくるね」

「えっ、如月ですか。……わかりました。じゃあ、引き続きオレは一人、ここで早乙女先輩を待ってますね」

 てっきり雅美からの遅刻の連絡かと思い込んでいた真斗は拍子抜けしつつ、自分だけが待ちぼうけを食うことになった不満をやんわりと主張する。

「あはは、ごめんごめん。じゃあ真斗くん、お留守番よろしくね。すぐ戻るから」

 そう言い残すと、真斗の見送りを受けながら、怜奈は喫茶店ル・ジャルダンへと向かって歩きだした。

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