第一章【2】 四年前
学食の出入り口の自動ドアをくぐり、正面の通りに出る。
キャンパスを東西に走る通りを東に向かって、真斗と響子は並んで歩く。日差しは柔らかく、頬をなでる風は優しく心地よい。
通りの右手には七階建ての本校舎がそびえ立ち、三〇メートルほど先、通りの突き当りの向こうには研究棟が立ち並ぶ。規則正しく並んだ二階建ての研究棟はコンクリート打ちっぱなしの無機質な外観で、いかにも研究所といった雰囲気を醸し出している。
その灰色の群れの中に佇む、橙と黒の縞模様の立て看板に囲まれた一つの研究棟。窓の周りは黒く煤こけており、扉には幾重にも鎖が巻かれ南京錠で固く閉ざされている。
四年前に発生した、原因不明の火災事故の現場――
出火原因や現場の状況などに不自然な点が多く、当時のマスコミでは大きく報じられた。そして最大の謎は、事故の日を境に研究所の主、
火災に巻き込まれての死亡説、放火をして逃亡した犯人説、はたまた何者かによる拉致事件であるなどと様々な憶測が飛んだが、どれも決定的な証拠はなく、未だ真相は闇に包まれたままだ。
…………
研究棟エリアの正面、丁字路に差し掛かったところで響子が振り返る。
「じゃ、あたしはここで」
「ああ。買い物、楽しんで来いよ」
「うん」
そう言ったところで響子は何かを思い出し――
「あ、そうだ。神崎先輩も夕方から合流するって言ってたから、さっき入手した夜霧の最新情報、先輩にも
悪戯っぽい笑みを浮かべながら提案する。
最新情報――よもや悪戯アプリによる騒動のことではあるまい。先ほど学食で烈が口を滑らせたことで明るみとなった、真斗が抱く淡い想いのことを指しているのは明白だ。
「や、やめろって! 絶対! 絶対言うなよ!」
顔を真っ赤にした真斗が慌てて止める。
「えー? どうしよっかなー。そもそもそれが人にモノを頼む態度?」
「今度昼飯おごるから! 頼む! やめて! お願いします!」
弱みを握られた真斗は完全に野党だ。必死の懇願で説得を試みる。
「あはは、冗談、冗談」
ひらひらと手のひらを振りながら響子が笑う。
真斗はほっ、と胸を撫で下ろした。
「さてと、そろそろ行かなきゃ。じゃーね。夜霧」
「おう、今日はサンキューな」
軽い挨拶をかわし、丁字路を響子は正門へと続く南へ、真斗は反対に北へと向かう。
歩みを進めると、ほどなくして赤レンガ風の外観の建物が視界に現れる。その中へと真斗は入っていった。
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