第4話「護衛(セルフディフェンス):ヴーラー」
「プロミネンスエンジンにしたって反応が強すぎるぜ・・・」
薄暗いコクピットの中に、コンソールの光に照らし出されて浮かび上がった下卑たニヤけ面が目を細める。
男はヘッドギアから通信用マイクを引っ張り出すと口元にあてがい「出て来たぜ」得物を待ちかねた猟犬が唸る様につぶやいた。
トゲオを出発した輸送トラックとステラバスターは街道を通ってドントへ向かって移動している。
レッドスナッパーズがツーボウ商会に狙いを定めていることは既に知られており、護衛のPMはおろかTASすら一機もチャーターできなかった。
トラック一台にPMが一機。護衛にしてはやや大げさにも思えるが、相手が複数のPMを擁する盗賊団ともなれば自殺行為も同然の布陣であった。これを見た周囲の業者は、とばっちりだけでなく仕事の無謀さにも怯えていよいよ手を貸したがらない。大戦中に大規模輸送と滑走路の用途を兼ねて作られて大きく広い街道に行きかう車両も、ツーボウ商会のマークが入ったトラックを見るなり道を開け、距離を取っていく。
「まるで疫病神だな」
玖が言う。
「実際、そのようなものですから、今の商会は。本当のことを言うと、今朝も市民の連盟で立ち退きの要請状が届いていました。ツーボウ商会が街にいる限りレッドスナッパーズが暴れて自分たちに被害が及ぶと考えているのでしょう」
「武装した無法者と、屋台骨を失った商人と、どちらか片方を追い出せば平穏が戻って来るとなれば、弱い犬を溺れ死にさせて解決とするのが大衆ってもんだよな・・・それじゃ、始めようや」
玖の語気が急に変わった。
車両の流れが明らかに変わった。ある時点から急に数が減っていく。何かの脅威から逃れるように。
「警備隊から退避命令が出ました。来たようですね」
「レーダー要らずってか」
ステラバスターの武装は右手のアサルトライフルと左手の複合小手、左右の肩に追加弾倉とレーダーポッド、両腕には内蔵型ブレード、腰にハンドガンとサブマシンガンをマウントしていた。チェーンガンやミサイルを装備したいところだが、警備隊から重武装で街道を通行する許可が下りなかった。治安維持の観点からして当然すぎる判断だが、相手はそもそも盗賊団。律儀に法令を遵守する手合いを世間では無法者とは呼ばない。
「長距離砲に注意してください」
アレクサンドラの忠告は正鵠を射たものだった。
こちらに長距離砲が無い以上、相手は一方的に攻撃が可能なロングレンジでしかけてくる。そして、トレーラーという護衛対象がある以上、ステラバスターは長距離砲を回避することはできない。
「U・Wの読み通りか・・・!」
左手の複合装甲から特殊な力場が展開され、ステラバスターとトラックを丸ごと包み込んだ。
「バリアってやつか・・・っ!」
直後、バリアに何かが激突して小さな炎と共に消滅した。
「撃って来やがった」
「バリアラインにはジェネレーター出力に限界があります。連続して大ダメージを受けるとジェネレーターが焼き付いてしまいますのでご注意を」
「ご注意をって、こっちはトレーラーから離れられないんだぜ?ドントまでは一本道だし、逃げ場なんてないぞ」
「そのバリアの出力を貫通するにはブレードによる直接攻撃かレールカノンのような高火力兵器による連続射撃が必要です。大丈夫。落ち着いて対処すればこの程度の長距離砲火には耐えられます」
「要するに接近されるなってことかよ」
無理だろうな。
玖は口には出さなかった。自明のことだからだ。
一本道の街道をこのままバリアを展開して不毛な長距離砲火を防ぎ続けてドントへ入れば、あとは統合騎士団の勢力圏である。ここで手を出せば圧倒的な兵力を誇る騎士団を敵に回すことになるため、レッドスナッパーズは手を出せない。勝負は自治・警察権の緩衝地帯である街と街の間。つまり、この街道を移動する時間に限られる。とすれば、機動力に優れたPMを持つレッドスナッパーズは必ず接近戦をしかけてくるはずだった。
「ロングライフルもキャノンもダメ・・・初弾から防がれているところを見るにつけSHLCディフェンスではない。となると、市販品じゃどうにもならない程の高出力バリアを自力で展開し続けているのか。本体によっぽどの出力が無いとできない芸当だね」
部下たちの報告を受けていた男は「これでは埒があかないな。だったら散開して突っ込みなよ」突撃を指示した。
前を飛んでいた四機の飛雲が先行する。
いずれも飛行用ブースターユニットを増設し、機体前面に追加装甲を施した突撃仕様だった。
「飛雲新式の波状突撃を一機で防ぎきれるかどうか、この辺が見極めどころだよ、ステラバスター・・・!」
男は口の端を釣り上げた。
「プロミネンスエンジンの反応急接近、数4!」
アレクサンドラが言い終える前に、玖はステラバスターのライフルとマシンガンにありったけの弾を吐き出させて飛雲一機を叩き落とした。ブースターユニットを打ち抜かれて地面に転がり落ちた飛雲を振り返ることも無く、残り三機はステラバスターの火線をかわし、挟み込むように散開して再侵入を図る。
「っしゃぁ、こいやぁっ!!」
ステラバスターは背部ラッチにライフルを収納し、右腕のブレードを展開してシールドを構えた。
レーダー上で飛雲の動きを見ていたアレクサンドラが「この配置、敵は縦列突撃を仕掛ける気です!」警告する。
飛雲が二機、縦列陣形で突進してくる。最初の突撃をかわし、或いは防御しても、次の一撃を防ぎきることが著しく難しくなる。更に、三機目の飛雲はステラバスターの側面をとるように回り込もうとしていた。
玖の視界で、飛雲がそれぞれ大型ブレードを展開して突っ込んでくるのが見えていた。
それから数秒もしないうちに、鋼鉄同士の衝突音と衝撃波が街道を震わせた。
「う、あ・・・ああ?!」
破壊された二機の飛雲七式が転がっているのを見て、残された飛雲のパイロットがうめき声を上げた。
操縦桿を握る腕の感覚が無い。ペダルを踏みしめるはずの足が動かない。
目の前の銀色のパンツァ―メサイアが何をしたのか、うまく説明できないし、理解もできていなかった。ただ、パイロットの脳みそには視覚(め)と聴覚(みみ)を通じてその光景が焼き付いている。
最初の一撃は、正面から飛び込んでいった飛雲の「コクピットをぶち抜いた」。続いて、回り込んで追撃をかけようと振り下ろされた二機目の飛雲の大型ブレードを貫いたままたての様に振りかざした飛雲で受け、味方機を斬り付けてしまったことにためらうように一瞬硬直した飛雲を左腕のブレードで袈裟斬りに斬り捨てた。
それは、殆ど一瞬の出来事だったが、銀色の悪鬼のごとく両腕のブレードを鈍く重くギラつかせながら迫って来るステラバスターを前にして直感した死が、このパイロットの体感時間をどうしようもなく引き伸ばしていた。
「な、ななななな何をやっているんだよぉっ!お、おま、お前!なにをやっているんだぁっ!?」
オープンスピーカーで情けない、悲鳴のような震えた叫び声をあげる飛雲のパイロット。
クスリでもやってんのか?しつこい演出だw
玖は若干ヘキヘキしつつ、間合いが十分に詰まったブレードを腰だめに、コクピットを貫くために軽く引かせた。
「コクピットが潰れてるじゃないかぁッ?!無線がつながらないじゃないかぁッ!」
うるせぇっての。
とどめを刺そうとした瞬間、今度はステラバスターが吹き飛ばされた。
転がされる寸前、アラートが聞こえたような気がした。
ベッドの中とはいえ、強かに揺さぶられると一瞬気が遠くなったように感じる。
「ってて・・・何か喰らったのか・・・?」
レーダーを見ると一機分、反応が増えていた。
「・・・新手か」
ステラバスターが立っていた位置に、体中のパーツがダウンフォームの三角錐でできているような機体が立っていた。
ホバリング機能なのか、いかにも高機動タイプらしい細身の機体は地面からわずかに浮いている。
「か、頭ぁ!」
地獄に仏でも見つけたような声が聞こえる。
三角野郎は発行信号で後退を命じたらしく、こちらに飛雲はこちらに向けて何か捨て台詞を吐きつけると飛び去っていった。
「さて・・・」
オープンスピーカー。
さっきまでの下卑た盗賊野郎らしさとは無縁の、品の良く、物腰の柔らかい、穏やかで涼し気な「最近噂のステラバスター・・・君がそうらしいね」慇懃無礼な、子どもの声。
「気を付けてください。ヴーラーが出てきました。あのマシン、ミリオンホーネットは父を殺して奪ったものに間違いありません」
「ガキの声じゃねぇか・・・強いのか?」
「ヴーラーは既に多くのPMを倒している実力者。ミリオンホーネットはHRA初の飛行タイプ可変パンツァ―メサイアです。航行形態に変形されれば、ステラバスターに現在搭載されているFCS(火器管制システム)ではロックオンすら不可能です」
「・・・バリアのことは知れてるだろうから、さっきみたいに突進喰らうってわけか。対策は?」
「ありません。本来は、高性能なTAと高火力兵器によって捕捉撃墜するのですが、今のステラバスターのTAではそれは不可能です」
「要するに、ドントにつくまでタフさで粘ってしのぎきれってことか」
「ごめんなさい。けれど、今はあなた以外に頼れる人がいないの」
心底申し訳なさそうなアレクサンドラの声と表情。
どんなそぶりを見せようが玖に思えることは一つだけで、それはつまり、
このフロム脳め!
と、いうことであり、うんざりしつつも「さぁさ、どうしたもんだろうかな・・・」対策を考え始める玖自身もフロム脳なのである。
「疾(ちぃ)ッ!」
全力、ベストタイミングの踏み込みだった。
ステラバスターとミリオンホーネットの間合いは十メートルも離れていなかったが、それでも超音速の踏み込みは体感速度で限りなく一瞬の出来事であったろう。
それでも、ステラバスターのブレードはへし折られて宙を舞っていた。
「なかなか素早い。だが、直線的に過ぎる」
両腕の装甲でステラバスターの打ち込みをブロックしていたミリオンホーネットの蹴りをシールドで受け止めたステラバスターは、受け止めた脚を取ろうとしたが済んでのところで離脱されてしまった。
「なんだあいつ、あの手甲!」
「ミリオンホーネットの腕部装甲が換装されているようです、ブレードを弾き返すということは、重PM用の特殊装甲を転用しているのでしょう」
「そうかよ・・・おじさん、嬉しくなってきちゃったよ」
吐き捨てている間にミリオンホーネットが音もなく着地していた。
「っけ、クソ野郎が」
「おいおい、酷いじゃないか。うちのパイロットを二人も殺すなんて」
ミリオンホーネットは、ピーカブースタイルのようにブロックした両手を下ろして構えをとった。
「でも、もっと酷いのは君の腕の方だ。どうやら、流石にオートマチック制御は卒業、自分なりにコンバットモーションをプログラムしてパターンを構築しているようだけどね、そんなことは、当然以前、みんなやっているのさ・・・いや、そこらへんに転がってる量産機に乗っているならそれでもいいよ。雑魚ってそういうものだろう?けどね・・・」
「!!」
玖の頭が強烈な衝撃で後ろに弾かれ、衝撃を殺しきれずに枕ごと跳ねて掛け布団にヘッドバッドをかましてしまった。
殴り倒されたステラバスターを見下ろすようにしているミリオンホーネットを睨みつける。
「ほらね?遅い。遅いんだよなぁ。あんまりに」
撃ってきたまえよ。
ヴーラーの言葉を聞き終わる前に状態を起こしたステラバスターに容赦なくミリオンホーネットの前蹴りが突き刺さる。
再び盛大に突き倒されたところに「君、バカじゃないのか?」ミリオンホーネットが大型のカスタム手甲に内蔵された銃身を覗かせる。
「いけないッ!それはジェネレーター直結の高出力砲!ステラバスターのバリアラインでも至近距離では致命傷になります!逃げてください!!」
アレクサンドラの悲鳴を「一撃死ってことは無ぇだろうさ!!」玖は無視した一気に状態を起こした。そのまま一気に出力を上げて銃身をコクピットのある胸部に押し当て「せぇやッ!」半身に捻り入れて弾き飛ばした。
「胸部ブロックで銃身を弾いた?!こ、こいつ・・・死ぬのが怖くないのかッ!」
そのまま強引に相手を返したステラバスターは立て直しざまに反撃のローキックを入れ、軽く飛んでかわしたミリオンホーネットに踏み込んで追撃のぶちかましを衝き立てた。
「なんて強引な・・・ッ!」
「足が止まった・・・?チャンスですッ!」
機体そのものを質量弾にして打ち出す文字通りの体当たりを芯に喰らってグラついたミリオンホーネットに裏拳からショートアッパーでかち上げ、今度はホバーではなく衝撃で強引に引っこ抜かれるように持ち上がったところに「いくぞオラァッ!!」左ストレートを直撃させた。
言葉通り『ぶっとばされた』ミリオンホーネットが街道に叩きつけられ、「す、すごい・・・!」アレクサンドラの声が聞こえた。
やべぇ。
トレーラーは被害を避けるように退避していたが、一瞬、存在を忘れていた。
「っていうか、強ぇぞこいつ・・・」
PM同士の格闘戦はさんざん訓練してきた。
この程度でPMが破壊されないことは百も承知していた。
「まったく、化け物じみたパワーだなその機体は・・・こりゃあいよいよ、僕の物にしなくちゃあね」
ふわり、という擬音が見た者の脳裡をよこぎる。
航行形態で用いる大出力用のノズルから推力を噴き出しながら、倒れたまま状態からほとんどそのまま起き上がって見せたミリオンホーネットは「それじゃあ、こちらも本気でいかなきゃね」全身に内蔵されたビーム砲を出現させた。
「!!」
視界がバリアとビームの干渉するスパークで殆ど真っ白になった。
トレーラーをかばうために防御に徹した玖。
その隙にミリオンホーネットは姿を消していた。
「どこ行きやがった・・・!」
レーダー上でも反応が無い。
「この離脱速度・・・おそらく変形したはず、突撃が来ます!」
「結局引きはがされちまったか」
間合いを取らせず、喰らい付いて変形をさせない作戦だったが、あっさり逃げられた。
これが素人了見というものだろうか。
「ここはユーラインの作戦通りやった方がよさそうだ」
イベント戦みたいなもんだ。
玖が独り言を言いながら武装用のサブコントロールを展開して幾つかの操作をこなすと、ステラバスターの周囲に無数の小さな光が飛び出していった。
「今のは・・・?」
「秘密兵器」
言ってる間に画面が赤くなりアラートが出たと思ったらステラバスターがぶっ飛ばされて地面に倒された。
「・・・っ!簡単にぶっとばしやがって」
機体を立て直し、シールドを構え、バリアを展開してミリオンホーネットの突撃に備える。そして、ガードごと粉砕されるように、あるいは側面を、あるいは後ろから突き飛ばされてぶっ飛ぶ。
その繰り返し。
トレーラーを護ることだけで精一杯のまま、ステラバスターは攻撃を受け続けていた。
数十回、一方的な攻撃が続いた後、唐突にミリオンホーネットが人型に変形してステラバスターの前に舞い降りた。
スマートなボディが一部抉れるように破損している。
最後の突撃のとき、カウンターに繰り出した右ストレートがミリオンホーネットの左脚の装甲を潰していた。
まぐれ当たり、というわけではない。
機体から放出しておいたビーコンを基にしてミリオンホーネットの音と軌道とを観測し、粘って攻撃に耐え続けて、ヴーラーがしかける突撃のタイミングを身体で覚えて繰り出したカウンターだった。
それは一方的な突進攻撃に対して一縷の希望となる筈であったが、危機を察知したヴーラーはあっさり突撃をやめてしまったのである。
「勘のいい野郎だ・・・頭がキレるな」
玖が忌々し気につぶやくと、再びミリオンホーネットの外部スピーカーがオンになったらしく、ヴーラーの声が聞こえ始めた。
「驚異的なタフさ・・・流石は伝説の機体だ。だが中身が悪すぎる。乗り手も、TAも」
「なんだこいつ、乗り物酔いでもしてんのか?くっちゃべってんじゃねーよ」
「君、少しは口をきいてくれたっていいだろう?何か話してみてくれたまえ」
「・・・あぁ?」
「おや?喋れるんだ。それはよかった。君には聞きたいことがあったからねぇ、そのマシンをどこで手に入れたんだい?君程度がおいそれと手を出せる代物じゃあないだろう?」
「知らねぇよ。俺はただの雇われだ」
「そうか、そうだったんだ。へぇ。まぁ、そりゃあそうだよねぇ。SHLCもDRMSもEDCも使えないなんてどう考えても変だものね」
「ぬかしてんじゃねぇよ盗っ人野郎が」
「ぬすっと?そりゃあ心外だな。僕はね、こう見えても結構金持ちなんだよ?欲しいものはなんだって、昔っから与えられてきたんだよ。けどね、それじゃあ人間としてつまらない。ダメになってしまうだろう?だから、だからね、親の力も、お金の力も借りることなく、自分の力で欲しい物を手に入れたり善いことをしたりして、世の中の役に立とうとしているんだよ」
「それでアレクサンドラの親父さんを殺してマシン奪ってりゃ世話ないぜ。サイコ野郎」
「酷いなぁ。でもさぁ、ツーボウ商会だってそれなりに危ない橋もわたっているし汚れ仕事もして大きくなってきたんだよ?昔っからのお金持ちであるところの僕らのような貴族とは全然、全ッ然違う、悪い事一杯してる人達なわけ。お分かり?僕はさ、そういう世の中に耐えられないんだよ。でも、口で言ったって法令を作ったって、君たち庶民はたくましいから抜け道を作ってよろしく悪いことしちゃうだろ?だ・か・ら、さっ!そういう悪いことをする悪い力、つまりこういうマシンはね、僕みたいな生まれつき素敵で正しい無垢な少年が貰ってあげて、それで正しいことに使ってあげればさ!世界はきれいになるよね!!」
「・・・おじさんどこからつっこんでいいかわかんないからオナニーしてもいいかな?」
「何それ?下品だ。下品だよおじさん。そういうのいけないんだよって親とか先生に言われなかった?」
「知るかクソガキ。ろくすっぽ勉強もしてねぇような、いかにも世間知らずの馬鹿ガキ感びんびんに出しやがって。貴族様が庶民の生活圏内に土足で踏み入ってんじゃねぇよ。少なくともお前のルールも常識も、金輪際通用しねぇんだよこの世の中じゃ。貴族は貴族らしくすっこんでねぇとコミケの初日にエグいカップリングで(;゚∀゚)=3ハァハァ言ってる腐女子共に売っぱらっちまうぞ」
「意味わかんない。相手にわかるような言葉でちゃんと喋らなきゃダメじゃんおじさん。可哀想。本当に可哀想だねおじさん。僕はちゃんとした教育受けてるから、ふざけてるようでもちゃんとおじさんにも分かるように話しているし、おじさんの言ってることも結構理解してあげてるつもりだよ?でも、おじさんからはそういう知性も姿勢も全然感じないや。育ち悪いでしょ?」
「・・・そっちの気はねぇがケツ掘ってやりたくなってきたぜ。決めたぞ。咽び泣いて天井のシミを数えながら悦べクソガキ。人前でクチからクソ垂れないように、おじさんがみっちみちに教育してやるよ」
「あれ?もしかして本気で怒って善良ぶって見せてる?庶民のおじさん。っていうか、まったくさ、とぼけた人だよね?あなたも。それなのに、乗ってるマシンが強力ってだけで、こっちのビームも直接攻撃も弾き尽すんだから、まったく反則だよね、それ・・・まぁ、だからこそ」
ミリオンホーネットの手甲が展開し「欲しくなっちゃうんだけどねぇ!」今までと違う砲身がせり出す。
「なんだあれ、いかにもやべぇ雰囲気じゃねぇか」
「この音・・・スマッシャー!!」
「なんだそれ?」
「えぇ?!」
「いやだから知らんって」
「と、とにかく強力なビーム砲です!ガードを固めて、バリアの最大出力で防いでください!こんなエネルギー量、チャージ無しにいきなり撃てるはずが・・・!」
「あーっはっはっはーーーーー!バァァァァァァカがッ!チャージ?してましたけどぉ?くっちゃべってる間にさぁ!土台、貴族の!この!ボク様が!!手前ぇらゲロ臭ぇクソ下衆共と意味もなく口を利いてやるわけないだろぉッ!!なのにちょっとお話してやるふりしたら本気でお説教しようとしてやんのーーーー!!バカバカバカバカバカバカバカバッッッカッじゃないのぉッ!?」
ミリオンホーネットが手を前に突き出して発射体勢に入る。
「本ッ当にさぁッ!似合わないよね、こんなにも『殲光(シャイニング)』に憧れている僕がさぁッ!そのマシンにさぁッ!乗っているべ・き・な・の・に・サァッ!!」
玖は覚悟を決めた表情でステラバスターを踏み出させた。
それを見たヴーラーの顔がひときわ凶悪に歪む。
「あれ?まだ抵抗するつもり?イヤだなぁもう・・・ずっと前から探してたその機体にお前みたいなぶっちぎり雑魚が乗ってることだけでも許せないのに、こんなにしつこく食い下がられちゃってもうマジでムカつくよあんた」
ヴーラーは次第に早口に、そして声が低く小さくなっていく。
「僕あんまり汚い言葉とか使うの嫌いだし、これでも善良な市民だからルール違反とかしない方なんだけど・・・後ろにトレーラーがあるから、まさか避けるわけにはいかないでしょってことで、あんたもうホントウザいから」
「さっさと死んでくれる?」
引き金が弾かれ、玖の目の前が光でいっぱいになった。
「この至近距離、いくらステラバスターでも・・・!」
アレクサンドラが顔を覆った。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねーーーーーーーーーッ!!!」
笑いながら引き金を弾き続けるヴーラーが違和感に気づく。
目の前のビーム光が次第に歪み、何か影らしいものがちらつき始める。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねーーーーーーーー!!!」
出力は最大。
砲身が過熱してジェネレーターも限界が近く、警告が出ている。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇッ!!」
ビーム光の出力が次第に不安定になり「なんで?!なんで死んでくれないのー!?」光の向こうの影が次第に像を結び始める。
「死ね!死ね!死ね!うわぁっ!?」
限界を超えた左のスマッシャーが暴発して腕ごと吹き飛んだ。
ヴーラーは半減したビームの向こうに一層その気配が強くはっきりと感じられるようになったことに背筋が寒くなり、腹の底から何かが湧き上がりこみあげてくるのを感じ始めた。
「死ね!死ね!だってそうだろ!これは僕とツーボウ商会の喧嘩なのに!お前がいきなり出てきてぇ!ボクの手下を殺しちゃったんじゃないかぁ!悪いのはそっちだ!悪い奴が死ぬんだろ!そうだろ常識!!ルール守れよ!!!」
ドンッという揺れが正面から背面へ軽く突き抜け、右のスマッシャーの射出口が何か壁のようなものに塞がれ、爆発した。
「死・・・あぁぁぁぁッ!!!」
両腕を喪い、逃げようとしたミリオンホーネットの頭部をステラバスターの左腕が掴むと、前蹴りで股関節を叩き潰して動けなくしたまま「えぅぅっ?!」街道の隔壁に叩きつけた。ヴーラーは肺の中の空気を口から押し出され、激しい衝撃に刺激された横隔膜が恐怖とパニックで更に痙攣し、胃の中身をコクピットにまき散らした。
「おい聞こえてるかクソガキッ!!」
隔壁にめり込まされたミリオンホーネットをラッチから取り出したマシンガンであぶる様に掃射させながら玖は怒鳴った。
「変形して空飛んでヒット&アウェイ攻撃、至近距離から大砲ぶっ放して『悪いのはお前だ死ね』だぁ?」
ヴーラーは「やめろぉぉぉぉぉぉっっ!!!人殺しはいけないんだぞぉぉぉぉぉ!!!」ステラバスターの機体から両手で身をかばうようにコクピットシートで体を丸めながら叫び続けるが、「先生な、そういう、自分は安全で正義だから、一方的に誰かをやっつけていいっていう考え方は」やがて画面いっぱいにステラバスターの右こぶしが広がった。
世界が崩壊するような鋼鉄の破壊音とスパーク。
「やめでぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ステラバスターはミリオンホーネットのコクピットを数回殴打すると、
「・・・死ぬほど嫌いなんだよ、クソガキ」
最後に張り手のようにして突っ込んだ右手で、コクピットを握りつぶした。
「ヒサシさん!ご無事ですか!!」
妙な達成感に浸っていると、アレクサンドラの声がした。
「ああ、なんとか。トレーラーは動かせそうか?」
「すぐに迂回路への誘導が始まります。お手数ですが、このままもう少し、ドントまでお付き合いください」
「了解した・・・けど、やっぱりこんな場所で大立ち回りはするもんじゃないな。周りが変な目で見てるのがマシンの中からでもわかるよ」
「そ、それは・・・」
アレクサンドラはその場では言葉を濁して答えなかった。
ドントに到着して部品を納品し、ユーラインの事務所を訪ねて来たアレクサンドラはそこで初めて『事情』を告げた。
「うわ、殺しちゃったの?」
話を聞いていたユーラインが顔をしかめた。
「なんだよ、レッドスナッパーズのヘッドを潰したんだぜ?大金星だろうが」
玖が言い返すと「あきれた・・・知らないって怖いわ」ユーラインが目を覆った。
完全に説教モードに入ったユーラインの話を聞き流しながら、またぞろ面倒くさい方向に話が転がっていくのを感じながら舌打ちをして、玖はコーヒーを飲みほした。
HRA.E.2099 悉黒の第十一星
の、出来事。
第4話「護衛(セルフディフェンス):ヴーラー」おわり
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