第2話「訓練1(インターミッション1):U・W」

ERA.E.2099 先導者の第二十九星

交易都市ドント付近


玖はU・Wに師事することになってから、幾つか簡単な仕事を請け負いながら、操縦訓練を受けることになった。

主に荷物の搬送整理や、土木作業の手伝いであり、戦闘用だと思っていたステラバスターはその間、擬装を施されてまったくの作業用ロボットとして扱われた。

「か~っ面倒くせぇ!?なんだコレ!正真正銘の作業ゲーじゃねぇか!稼ぎも少ねぇし、リスペクトもされねぇ!砂を噛むような低賃金!ブラックだ、あんたこれブラックだよ!」

玖はベッドの中でくだをまくようなことを言っているが、実際、この手の作業時には戦闘以上にこまかい操作や出力調整が必要となっていて、ストレスも精神疲労も格段に増えているようだった。

「ボヤくなよ。お前さんがPMの出力調整だの機体操作だのを殆ど全部オートマチックで動かしてるっていうから、先ずはマニュアル操作に慣れてもらおうってんで始めたことじゃねぇか。小銭も稼げるし、PMを使った便利屋Δ893の宣伝にもなってお得ってもんだぜ」

「いらねぇよそんな宣伝。俺は傭兵だぞ?!なんで土方の真似事せにゃならんのだ!これでもな、大学教授なんだぞ!」

「仕事に貴賎なし、だよ。って、お前さん大学教授なのか?!何にも知らんのに?!」

「失礼だな、これでも博士号だって持ってるし、たまにテレビ出てるんだぞ」

「どうせカノッサの屈辱とかジョージ・ポッドマンの平成史とかだろ?」

「なんで知ってんだよ?!どうなってんだこのAI!お前ぇこら中の人とかいたらぶっ飛ばすからな!」


第二話「訓練1(インターミッション1):U・W」


受けた仕事の行き返りや資材収集、搬入もステラバスターを使うようになった。

オートマチックとマニュアルと、これは一番わかり易い。

クラッチペダルこそないものの、モーターの回転数と変則用ギアの管理は自動車の運転とほぼ似たような要領だった。

コンバットホィールを使った移動は重心が高くなっただけで、オートバランサーと背中のツィンドライブの作用で姿勢制御はほぼマシンまかせ。自動車よりも運転しやすいくらいだった。

問題は歩いたり走ったりだ。

心臓部であるプロミネンスエンジンから動力を受ける各関節や人工筋肉にも、今まで微塵も考えていなかったマニュアル制御が解放(アンロック)された。ニュートラル状態から、どのくらいパワーを余計に送るか、パワーの出るギアに切り替えるか、逆に、軽いギアを使って回転数=動きを鋭くするか、どのパワーとギアの組み合わせから、どこにピークパワーを持っていくのか。その辺になるとセッティングにまで気を遣わなきゃならない。俺は文系だ。

「のろくさ走ってるんじゃあないぞ!急げ急げ!」

スポコンロボットアニメってあったよなぁそういえば。

玖はそんなことを思い出しながら「日が暮れちまうぞ!」トロールカッツェで先行するU・Wをステラバスターに追っかけさせる。暮れなずむ夕日が銀色の機体を赤く照らし、どすんどすんと地面を揺らしながらステラバスターが走る姿は、さながら昭和の部活動である。

ステラバスターのパワーで最大出力、最重ギアを使えば、忽ちマシンは天高くジャンプしまう。では最初から、と思い、最軽ギアを使えばい合い抜きのような蹴りが出て地面が裂けた。結局、手探りで歩き、走るのに丁度よい、程よい出力とギアの選択をしなければならないのだ。それも、用途ごとに・・・。

「おいおいおいおい何だよコレ超絶面倒くせぇよ。そもそもこういうのが皆して嫌んなったからオートマ制御が考え出されたんと違いますの?」

「んなもん、トーシローのやることよ。後で教えてやるが、それじゃあ勝てないんだよ薄らパー」

「やーのやーの・・・っと、うわ、またカーブか・・・」

さっきはオーバースピードで曲がり切れず、重心を崩して派手にすっころんだ。背部ラッチにマウントしたコンテナからぶちまけた資材の回収もマニュアル制御。例によって出力とギアを調整しながら、精密動作用の別モードでステラバスターに拾わせるのに1時間ちょっとかかってしまった。悪夢は繰り返したくない。

「よっしゃいい感じのヘアピンだ!スピードは落とし過ぎず、姿勢は崩さずに曲がり切れよ!」

「無茶言うんじゃねぇよ飛んじまえばいいだろこんなもん!」

言いながら、なんだかんだでレースゲームのように思えてきた玖は、原則の為に各部に回す出力と脚部各関節のギアを調整していく。この作業を繰り返す間に、ベッドの中のコクピットに制御用のショートカット用コンソールと状況をより詳しくモニターするためのサブ画面を二つも増設する羽目になっていた。

パワーとギアを落とし、減速する。

ギアが落ちると下半身が空回りし始めたような感覚に陥り、慣性に機体のコントロールを奪われ始める。それでも小回りが利くようになるので、進行方向を細かく調整しながら、ヘアピンの頂点ちかくでスロットルを軽く絞り「脚部オールシフトアップ、サード」ギアを重く切り替えさせていく。音声コマンドも取り入れてみた。これは、あとで見直して反省するための確認処理でもある。

ギアが重くなったことで、慣性による暴れが抑えられ、やや立ち上がりに重ったるさを感じるものの走行が安定する。

「減速しすぎだ!シフトチェンジと出力制御が遅すぎるからもたつく!」

「こんなクソ出力の馬鹿ったれマシン誰が作ったんだ!ピーキー過ぎていちいち扱い辛ぇんだよ!」

「ウワッハハハハハ!違いねぇ!何せそいつは世界最強の男が乗った世界最高のパンツァーメサイアだからな!!」

「景気がいいことふかしてんじゃねぇよ。こいつ負けのほうが多いじゃねぇか!調べたぞ!」

「まぁな!それに乗ってた男はな、負けて敗けて、それでも生き抜いてどんどん強くなってったんだ。ステラバスター(そいつ)は言ってみりゃ敗北と成長の象徴さ!お前さんも精進するんだな!」

豪快な笑い声と裏腹に、先行するトロールカッツェの走行はまったく乱れが無く、出力でもスピードでもスペック上圧倒的なはずのステラバスターはまったく追い付けない。U・Wはトロールカッツェをマニュアルで動かしていて、その制御はステラバスターにも見えるようにモニターリング画面が出ている。

「・・・ったく、亀仙人かてめーは」


西暦2016年12月24日午前0:23分

東京都F市内マンション「エフ・コスモス」303号室


うわ!


玖は悲鳴と共に掛け布団をはねのけた。

ゲームの中で一か月が経とうとしたころ、不意に現実社会における時間経過が気になって跳ね起きたのだ。

ユーラインたちと寝食を共にし、仕事をこなし、PMの操縦の基礎訓練に明け暮れた一月は妙にリアルで、布団の中にいたにもかかわらず体中筋肉痛であちこち痛い。と、いうことは、ベッドの外では一体どれだけ時間が経っているのか。

時計を確認すると、24日の夜。

23日の夕方頃からゲームを始めたから、時間経過的には、仕事から帰ってきてそのまま寝てしまったようなものだった。

夢でも見ているようだ。

そんなことを思いつつ、テレビをつけると世はクリスマス・イヴ。

「死ね・死ね・死ね死ね死ね死ねぶっ殺せ~」

かーねで心を汚してしまえ♪

謡いながら「なーにがヒカキンじゃ、こちとらキンキンじゃケロンパー」冷蔵庫を開けて麦茶を取り出し、コップに注ぐ。液体がコップに満たされていく音に妙に癒される。向こうの世界は飯が乱雑でいけねぇや。

向こうの世界?

ゲームに何を言ってるんだ俺は。

麦茶を一口飲むと、電子タバコを取り出して口に咥えながら、カバンの中からパソコンとノート、筆記用具を取り出して試験問題の作成にかかった。テレビをつけっぱなしにしながら午前3時過ぎまで仕事をした玖は、生活のリズムを崩さないようにベッドに戻っていった。


HRA.E.2099 殲光の第九星

交易都市ドント市内 ユーラインの事務所


「・・・しまった、スマホをセットしたままだった」

ベッドに入ってうんざりした。

布団を被ったら、そこは朝チュン状態の事務所だったからだ。

「なんてこった・・・」

「あー、おはよー。U・Wが今日から戦闘訓練するってー」

ユーラインが寝ぐせだらけの髪をいじりながら洗面所へ向かっていった。

戦闘訓練。

いよいよかっていうか、いつ寝ればいいんだ・・・。


U・Wは練習用コロシアムを貸し切っていた。

円形闘技場はPMがプロレスをやっても十分に広さを感じることができる。観客はいないが、障害物や地面のコンディションなど、実施のコロシアムと同じ環境再現装置が備わっている。

玖は指示された通りにステラバスターを格闘戦仕様でコロシアムに上げると、対角線上のパドックからU・Wのパンツァーメサイアが姿を現した。

インファントリィ。

HRAで最初に軍用正式採用された量産型パンツァーメサイアだ。

アーキタイプの設計はツバレイが行い、その後もグラント、SSなど、様々な派生機、発展機を生み続けた。ツバレイ最後の弟子であるジオ・ロムドがフレームデザインを改変したシバレース・シリーズを発表するまで、4つの大戦を通して広く愛用されてきたマシンである。

インファントリィは第一世代PMに分類され、EDCアンプリファイアやクリムゾンネイル、SHLCシステム等、第三世代以降の標準装備となっているいくつかの重要なシステムが未実装であるが、ツバレイの基本設計がもつ異常なまでの拡張性により、エンジンの積み替え、オプション装備、操縦系の換装にいたるまで様々な改造が施されて現在でも動き続ける機体が少なくない名機である。

「よーし打って来い!」

インファントリィは両手をグーとパーにしてバンバンと打ち合わせると、右半身を引いて構えをとった。

マジの格闘戦かよ。

玖には格闘技の心得は無い。高校時代にやった柔剣道くらいだ。

柔道は絞め技が得意だったが、剣道は棒で他人様をぶん殴るという行為自体になじめず、結局は幾つかの単語を覚えただけで終わった。あと、体育教師がアキレスけんを切った。どうでもいい。

「オートマでもいいのか?」

「いいぜ」

それじゃ。

ペダルを踏み込む。

スムーズだがどこかイラつく動きでステラバスターは地面をけって、旋回しながらインファントリの側面を捕えるように円運動を始める。

フェイントだの間合いだの、そういう戦いの機微は玖にはまだ分からない。とりあえずはぶつかっていくのみ。

格闘モードに切り替わっている緑色のガンレティクルが赤く変わった。蹴りの間合いに入ったのだ。まだ距離がある。飛び蹴りや踏み込みを踏まえた大振りの打撃技の射程距離。ステラバスターの出力ならではの距離。旧式のインファントリではまだ攻撃が届かないだろう。つまりは、一方的な強襲が可能な間合い。

「なんでぇ、正面からこないのかい?」

「冗談じゃねぇよ、武器持ってたって旋回すらぁな」

足元で振動。地面を蹴ったステラバスターが大砲の弾ようにインファントリィめがけてすっ飛んでいく。

一瞬で間合いが詰り、インファントリィにステラバスターのタックルが突き刺さる、ように思えた。


ダンッダンッという、音と共に奇妙に軽い振動と衝撃。

次の瞬間にはステラバスターが隔壁に突っ込んでいた。

エアバックなのか?玖は掛け布団に顔をうずめ、バタンッと音がしそうなくらい強かに枕に後頭部を叩きつけた。

「な、なんだ?!何やられた?!」

レーダーを確認する。

インファントリに背後を取られている。両手で壁をおして機体をひっこぬくと、そのままスラスターを総動員して宙返りし「野郎・・・!」超低空タックルをしかけた。

衝撃を感じたのは機体の肩のあたり。理屈は分からんが、体当たりの進行方向を打撃でズラされたんだ。

「合気道か何かだろうがな!」

超低空で蛇行するように侵入したステラバスターは更に地面を蹴り、インファントリィの足元から天井へ向けてねじりあげるような蹴りを繰り出した。

「ほぅ・・・!」

今度は衝撃は無い。

単純にかわされた。

インファントリィの姿をカメラで確認する。スウェーバックだけでかわしたインファントリィは殆ど元の位置から動いていない。玖の計算ではバックへジャンプして蹴りをかわしたインファントリィを更に追い足で強襲するつもりであった。

うかつな大技の空振りに対して、インファントリィがとった最小限の回避は硬直が少なく、ただちに反撃に出られる。背筋が寒くなったがもうすべてが遅かった。

「しまっ・・・!?」

正面から鋭く、強烈な衝撃が複数。

画面いっぱいに警告メッセージが出て、視界が90度後ろに倒されて天を仰いだ。

「ぐぉっ!?」

肺の中の空気が押し出されて口からうめき声とともに漏れ出た。

蹴り上げの空振りでできた隙を見事につかれた。

玖は何を何発貰ったのかすら把握できずにブッ倒されてしまった。

「しゃんとせんか。まだまだ続けられるだろう?」

ドシンッと地面を踏み鳴らし、U・Wのインファントリィが挑発するように手でこちらを煽る。

「クソ野郎が・・・!」

機体を立ち上がらせる。

被害状況を確認すると、殆どすべてのトラブルが復旧している。

「タフなマシンだぜ・・・だが、気に入った」

再び組討ち。

今度はもっと確実に、慎重に間合いを詰めて打撃戦をしかける。

「なるほど、不慣れな超スピード戦じゃあ『敵に何をされたか』も把握できねぇから、今度は速度を落としてみようって腹かい!」

こちらの打撃をかわし、さばくだけで反撃をしてこないU・Wはこちらの腹積もりを読み切ったように悠々と打撃を処理していく。

「どうでい、当たりゃしないだろ?」

「どういうことだ?今までこんなに空振りすることはよぉ、無かったんだぜ!」

ワン・ツーから、ストレート。割り込まれないようにできる限りコンパクトに打った左右ジャブをかわさせ、ブロックさせて稼いだ相手の硬直を狙って教科書通りの右ストレート。ありがちなコンビネーションはあっさりガードされて有効打にはならないが、本命はブロックぶちぬきの喧嘩キックだ。

「っしゃぁ行くぞぉッオラァッ!」

超クロスレンジ・超鋭角でほぼ真下から相手の顎を踵でかち上げるようにぶち抜く変則前蹴りはインファントリィの芯を捕えていた。下手にかわせばバランスを失い倒され、直撃は論外。ガードしてもマシンの中枢にダメージが響くように浸透する。

U・Wの選択はスウェーバッグ。ほぼ真上に伸びた蹴りだけにリーチが短い。しかし織り込み済みだ。そのまま踵落とし。脚を素早く引き戻したのと同時に地面を蹴り、中段飛び蹴りにつなげる。スウェーからの復帰とほぼ同時のぶち込みの飛び蹴りはかわせない。相手のフレームを軋ませたような手応えがあった。

「入った・・・!」

そのままツィンドライブをフルブーストさせてインファントリィを隔壁に叩きつける。もとより超出力のステラバスター。攻撃が当たれば見返りはデカい。


ステラバスターは巨大な鉄杭のようにインファントリィを隔壁に叩きつけたまま、宙返りの要領で間合いをとって着地した。

「どうよ・・・!」

ベッドの中で息をきらせる30代。

それなりに複雑な操作を際どいタイミングで立て続けに行った。

中高生時代ならいざ知らず、中年にはつらい操作である。

「利いちゃいねぇよ。残念だがな」

インファントリィが立ち上がる。

旧式もいいところ。ガンダムで言えばザクⅡにあたるポジションの機体がZZにフルボッコにされて、それでも平気で立ち上がったような、そんな絵姿だった。

「ククルス・ドアンかよ、手前ぇは」

「惜しいな。今のがマニュアル制御、ことにEDCシステムがフル稼働してなら、今頃インファントリィは粉々。俺はミンチになった肉体の再生に半月ほどかかっていたところだ」

その言葉が気づかいだと、いい加減いいお年にならせられた大人の俺さんには刺さるのね。

フラリと立ち上がって見せたインファントリィは外装に多少の損傷こそあれ、殆どというかまったく動作に支障がない。さっきからペガサス流星拳みたいな動きしてやがるからハッキリわかんだね。

「なめんなよこの野郎・・・!」

「がっかりだぜ、もっとコスモを燃やしてみせな、おかわりBOY・・・!」

「スターーーーーー斬ッ!!!!」

玖は唐突に叫んで、同時にステラバスターが腕を振り下ろした。

何度も叫び、ステラバスターは無茶苦茶に腕を振り回す。

それもほぼ絶叫。

本気出した中年の怒りのパゥワーを受けてみろ。

ステラバスターは思い切り手刀を繰り出した。

見えやしねぇぜ超音速。誤操作の蹴りが真空波(ソニックブーム)を起こして地面を切り裂くなら、手刀だって何かしら飛ぶだろ!

予想通り、拳圧で巻き起こっていた土埃が唐突にズタズタに引き裂かれ、鋼鉄の悲鳴と共に隔壁に刀傷のような裂傷が無数に発生する。

「無茶苦茶やりやがる・・・!」

インファントリィがジャンプした。

初めてみせる大きなモーションだったが「施設壊したら弁償だ。予定より早いが、いいものを見せてやる」スラスターをふかして滞空したインファントリィがドラゴンボールのように両手を前に押し出して何かの構えをとった。

「・・・うそだろ・・・?」

「安心してよく見ときな、死にゃしねぇからよ!多分」

「はぁ?!」

インファントリィの両腕が一瞬光ったかと思うと、次の瞬間、ステラバスターは巨大な手で引っぱたかれたように地面にはいつくばっていた。

「なんだよ今のは・・・!」

見覚えのない壁が周囲に出現している。

壁は土色。どうやら、ギャグマンガの落下シーンよろしく地面にめり込まされたらしい。

機体に縦揺れ。

電磁ロック式のウィンチが取り付けられて、ステラバスターがインファントリィによって引き上げられる。

「どうでい、不思議だろう?」

「不思議で済むかよ、完全な飛び道具じゃねぇか」

「バーカ、あれが出来て当たり前の世界なんだよ、PM同士の戦闘ってのは。それ以前にんだな、あんな無茶苦茶な攻撃で施設を毀したら、弁償代はこっちもちなんだぞ?もう少し考えて動けや」

「わかったよ・・・っとに、どこまで面倒くさいんだ」

機体を立て直すと、玖は再びマシンのコンディションを確認する。

「あれだけやられて被害ナシ・・・だと・・・?」

「そいつはタフさが売りだからな」

「そういう問題なのか・・・?」

「いずれ教えてやるよ教授先生。さ、続きだ」

再び組み討ち。

玖は余計なことをするのをやめて、とりあえず打撃戦の感覚を掴みなおすことに専念した。やりとりの中でいくつか、効果的なコンビネーションがあらかじめマシンにセットされていることに気が付いて、攻防に織り込めるようになった。そして、そのモーションにいくつか別の攻撃動作を組み込むことで更にコンボがつながることを発見する。

「ほぅ、ちったぁ打撃がつながるようになってきたじゃないか」

「見慣れない格ゲーやるようなもんだからな!」

上下左右の打ち分け、ガードをこじ開けるような大振りを入れ、なんとか有効打をねじ込もうとするが、U・Wの防御は薄く見えて果てしなく厚く堅かった。ほとんど思いつく限りのコンビネーションを試してみたが結局は不発に終わった。そのうち、思いもよらぬところから限界がくる。マシンの構造上、無理なタイミングでの動作が続いたらしい。関節とモーターから煙を吹いてステラバスターは倒れ込んだ。結論から言えば「おいおい、そんな無茶なモーションは設定されてない限りオートマチックモードじゃ出せねぇよ」だそうだ。

股関節と膝関節のモーターを焼き付かせてしまった時点で訓練は強制終了。高額なパーツをダメにしたことでユーラインが烈火のごとく怒り狂ってその日はお開きとなった。


「大体、PMの格闘戦なんざそうダラダラ続けるもんじゃないのさ」

コーヒーらしきものを呑みながら、ソファーにこしかけたU・Wが続ける。

「インファントリィが打撃を殆ど使わなかったのは手加減してた事もあるが、それ以上にな、マニピュレーターがもたないんだよ。ステラバスターの堅い装甲をぶんなぐったら手が毀れちまうんだ。実際の戦闘じゃ、迂闊な攻撃で機体を破損させることは自殺行為だろ?打撃だって防御されればノックバックがあるし、関節に負荷がかかりモーターは焼けついて動かなくなる。もっとデリケートな操作が必要なんだよ。かけるべき場所とタイミングでパワーを集中し、不要な時は最低限のパワーに抑える。人間の身体だって無意識にそういう動かし方を脳が学んでいるから無事に日常生活が送れる。PMの操作も同じだ」

「なるほど・・・オートマチック制御じゃ、戦闘時の状況判断にはついていけないってことか」

「その通り。プロのレーサーがオートマチックのマシンに乗っているなんて聞いたことが無いだろ?」

はぁ・・・。

玖はため息をつきつつ、明日あたり、また筋肉痛になっているんだろうなぁなどと考えて天井を仰いだ。


翌日から、マニュアル操作での戦闘訓練が始まった。


西暦2016年12月24日

HRA.E.2099.殲光の第三十星.

の、出来事。

This is the NightMare’s Episode…


第2話「訓練1(インターミッション1):U・W」おわり

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