第1話 「目利(スカベンジャー):ベルケ」


HRA.E.2099.先導者の月.第八星.


「おーい!そっちは見つかったか?」

ビカーッと音がしそうな炎天下。

むさ苦しい男達の乱雑なコール・アンド・レスポンスがこだまする。

ラグランジュタワー周辺の森林地帯に、数機のTASが展開している。TASとはトルーパー・エージェント・シェルの略称であり、パンツァーメサイア(以下、PM)登場以前まで主力兵器だったマシンである。戦乱の歴史の中で発達してきた高度な人工知能トルーパーエージェント(TA)の外骨格(シェル)というのが名前の由来で、無人機が一般的だったが、最近はインターフェースの更なる発達によって操作系に人間の脳波リンクが可能になり、より柔軟かつ広汎な運用のために再びTASに操縦者としての人間が乗り込み、TAがサポートシステムとして同居する形に落ち着きつつある。ともあれ、これではTASとPMの差は殆どないことになってしまうことになるが、それはあくまで操縦系の話であり、実際は戦闘力に歴然たる差がある。


宇宙を自由に行き来し、惑星まるごと覆うような巨大なエネルギー障壁を展開するようになった高度な科学文明を持つこの世界、ヘキサレイアクト(以下、HRA)において、戦士の資質として最も重要視されるものの一つが、信仰であった。


第一話「目利(スカベンジャー):ベルケ」


「ダメだー!プロミネンスエンジンらしい反応もないし、TAの固有信号も拾えないよ!」


民間用に払い下げられたTASトロールカッツェは全高10メートル弱の四脚型である。コンバットローラーでの走行、ホバリング装置による機動性・走破性に加えて、蟹のような低重心の機体の各所にあるサブアームを用いて幅広い作業に対応できる器用さに定評のあるトロールカッツェのコクピットハッチから顔を出した女の子がゴーグルを額の位置まで上げて、拡声器でがなり立てるように応答した。無線の信号が探し物の反応検知を妨げるのを嫌うスカベンジャーたちは、しばしばこうして原始的なコミュニケーションをとる。これはまた、抜け駆けを許さないように相互に監視、牽制しあう目的も少なからず含まれている。


プロミネンスエンジンとは、TASとPMを区別する基準の一つとなっている超高出力原動機である。上空で撃墜されたPMの残骸を回収するスカベンジャー達にとっては、何より増して貴重なお宝である。


「おっかしぃなぁ、飛雲式はともかく、バイパー・タイプは爆発していなかった筈。森にも爆発した形跡は残ってないし・・・あの状態から持ち直して撤収したってこと?」

うーん、と、小首をかしげる少女は、考えても埒があかないと思ったのか「見つからないものは仕方が無いね。この辺でいいだろう!引き上げるよ!」仲間に撤収を呼び掛けた。


シャム星は幾つかの連合勢力から成り立っている。そのうち、6大国と呼ばれる勢力は、かつてHRAで活躍した六英雄と呼ばれる戦士たちの名を関している。ラグランジュタワーを管理している国もその一つで、「殲光(シャイニング)」の名を冠している。


ラグランジュタワーの根本から城下町のように広がっている交易都市ドントは、惑星ジャガダラの入り口であると同時に最大の都市の一つである。スカベンジャー達はドントに入ると、大きな砦のような建物の中に入っていった。シャイニングの出先機関であり、PMとその操縦者たちを管理する治安維持機構でもある統合騎士団(ユニオンナイツ)の砦である。

中にあるゲートの前で「スカベンジャー:グリーンガブ。代表のベルケ・ロリンザー。調査依頼の完了報告にきたよ」そう告げると、ゲートが解放され、その先にPMが左右に控えるように並べられた通路に通される。

ベルケ達のいるフロアからは見上げるように高い位置にある窓から光が漏れていて、その中に人影が見えた。

「「ご苦労だった。首尾は?」」

「飛雲7式の残骸が幾つか。白いカスタムバイパーの残骸と思しきものも拾ったけど、プロミネンスエンジンは破片もみつかりゃしなかったよ」

「「やはりか・・・バイパー・タイプが地上か地上付近で爆発した形跡は見つかったかね?」」

「ドローン飛ばして、ダインまで出して調べたけど、そっちも見つからなかったよ」

「「ふむ・・・了解した。依頼の完遂を確認した。報酬は所定のレートで振り込ませてもらう。ご苦労であった」」


「妙だな」

妙なのはお前だ。

人込みでごった返すドントの中心街を、固そうなパンをかじりながら歩く大男の言葉に、街のだれもが振り返る。

身長2m強。筋骨隆々とした巨躯に箒のように逆立てた七色の長髪。そして、キャンプでごはんを炊くのに使う飯盒(はんごう)のような厳つく無骨なゴーグルが印象的なこの男は、グリーンゴブの参謀役であり後見人でありご意見番であり、まだ幼さの残る首領ベルケの保護者である。名をU・W。本名は名乗らない。最近では彼の素性を知る者は殆どおらず、ただ、幼い頃に拾われたベルケだけが、彼をユーマと呼んでいる。

「まぁ、良かったんじゃない?バイパーの人が生還したってことでしょ?」

「どうかな。こいつはどうもくせぇ。飛び入りのバイパーは動きが普通じゃない。凡ミスで撃墜されるような奴の動きじゃないな、ありゃ」

「・・・ワイヤー、使ってたね。装甲板だけじゃなくてシャフトや武器までスパッといかれた切断面があったもん」

「ほぅ、よく見つけ出したじゃないか」

えっへん。ベルケが小さな胸を張る。

「あのバイパーは超硬ショットワイヤーを展開して落下しながら飛雲にトラップをしかけてやがった。通過した時点で軽量級の飛雲はズタズタだ」

「『師団』の十八番だったんだよね」

「ああそうだ・・・PM用のワイヤー(あれ)は簡単には扱える代物じゃない。まして、実戦で、それも、衛星軌道から地表へ落下しながらじゃ、至難の技どころか不可能に近い芸当だ。そんな真似を平然とこなす奴が、敵が偶然突き出したブレードにぶつかってあっさり撃墜ってのは不自然過ぎる・・・おまけにPMに搭載されているプロミネンスエンジンの爆発も残骸も確認できない上に、事前登録の形跡も無いときた。義勇兵にしても不自然過ぎる」

「これってもしかして・・・」

「飛雲以外の賊の戦力はバイパー・タイプばかりだったという話だ。一機くらい紛れ込んでいてもゲート付近の乱戦じゃ見落とされても無理はないだろう。あの白いバイパー自体が侵入者だった可能性が出きたってわけだ」

「卓越した操縦技術に手の込んだ真似、噂の代行業者、請負人かもね・・・」

「こいつは超過勤務だが、侵入者を放っておくとこっちの生活が脅かされかねない。面倒だが、もう少し調べてみるか」

「うん・・・Δ893、ステラバスターっていうのが迎撃任務に出ていたみたいだから、そこから当たって見よう」



西暦2016年12月22日

PM2:46

東京都F市内 喫茶店「七色ヶ丘」

東京は昼過ぎから雪が降っている。

日の光が挿さないことで、日中から堂々と出歩けるミルフィーユは買い物をした後に、いつもつかっている喫茶店「てんぺすとらうんじ」より遠くの「七色ヶ丘」に寄っていた。ここのマスターである松作J次郎はミルフィーユの居候先の家主、ひきこもりライターの宮元茜の上司でもある。原稿を届けるついでにこの店にやってきたのである。

「わらわ、すごいこと思いついたのじゃ」

カウンター席に腰掛けて足をぱたぱたさせている金髪少女に紅茶を出しながら「それはよかったわね」夫の不在中の店をきりもりしている松作麗は相槌を打った。桃色がかった亜麻色の長髪は腰あたりまであり、基本的に穏やかな表情を変えないため、夫と同じく眼が細く思われがちだが、こちらは元々大きくきれいな紅い瞳の持ち主である。紫外線の極端に弱いため、メガネをかけているが本来は目は悪くない。

「電子タバコのアトマイザーの中に、肉を煮た鍋から灰汁をとった煮汁を入れてだな、こうして電熱器で蒸発させながら吸うと・・・肉食ってるみたいなのじゃ!」

「喫茶店にあるまじき匂いがしてるんだけど」

「ふっふっふ、この、コイルとフィルターの汚れをつきづらくするためにあらかじめスープを濾しておくという、ミスター味っ子も真っ青の工夫がキモなのじゃ」

「ぶっとばすわよ?」

「庶民には解ってもらえぬかのぅ・・・まぁよい。これ、茜からの預かりものじゃ」

「封筒・・・あぁ、原稿ね。聖徒(サンタ)候補は見つかったかしら?」

「ぼちぼちじゃな。奥羽の不動、甲斐の三兄弟、伊賀の忍者あたりはなかなか見込みがありそうであったが、接触も取材も苦労させられたわ」

「去年の聖夜翁の聖闘衣(サンタクロス)争奪戦で随分数を減らしてしまったものね。今は『真速(ドゥンター)』の碇屋が闘奴会(トナカイ)会長として、直系直参を軸にして下部組織まで立て直しを急いでいるようだけど、肝心の聖徒(サンタ)の人材不足を解決しないことにはね」

「聖徒最速を誇る碇屋殿となれば妥当な線じゃな。大協定(グレートアグリー)の時代から活躍した神格サンタクロースに認められ、一度は聖夜翁の聖闘衣をその身にまとったとはいえ、茜は人間じゃし、ブラン・ネージュ(あのレイプ牝馬)あたりにまかせたら聖夜が性夜になってしまうわ」

「ブラン・ネージュ(ユニコーンちゃん)が着てた『赤鼻(テスタロッツァ)』の聖闘衣は没収。本来は『赫奕』組の若頭を務めるキセツ・サザンクロスが継承するでしょうけど、まだ実力がね」

「マツリの姉ということで知り合ったのじゃが、あれもあれで雪女じゃ。マツリといい、雪女というのは、どれもああいう暑苦しい者ばかりなのじゃろうか。きっついわーなのじゃ。ところで、『ドゥンター』が聖夜翁の聖闘衣(サンタクロス)を受け継いだということは、『ドゥンター』の聖闘衣は宙に浮いておるのか?」

「直参『喝歩』組は次期『ドゥンター』として修業を受けていた聖徒が聖闘衣と一緒に継承したそうよ」

「そうか。後は、暗殺された組長たちと、『龍星(コメット)』加藤、そして奴の『煌流』組の処遇じゃな」

「加藤は事件の首謀者ってことになるからね・・・犠牲が大きすぎたわ。天使と内通していたのだから、復帰は難しいでしょうね。良くて破門、そうでなければ・・・」

「加藤の奴は茜に敗れた後で覚悟はしておるようであったがな・・・まぁよい。我らが魔王殿もにらみを利かせておるし、彼の国の混乱も直に混乱も収まろう」

「そうね。ところで、前に紹介したアプリ、遊んでみた?」

「おお、そうであった!ランページなんたらであるな!うむ。ロボットアニメばかり見ておる阿呆を何人か見繕って紹介しておいたぞ」

「おいたぞって、ミルフィーユちゃんも茜君も遊んでないの?」

「わらわ達はコミケの追い込みでそれどころではないのじゃ」

「うーん・・・ちょっと困っちゃうかも」



同時刻

F市内


30過ぎて原付もどうだろうか。

玖(ひさし)は思いつつ、咥えタバコでアクセルをふかした。

年の瀬押し迫って、学会も講義も忙しい。

最近の大学生はなんでかあまり休講を尊ばない。

大学側も出席の管理が厳しい上に補講も入れなけりゃならなくなった。

自分が現役の学生であったころはもっとルーズだったのに、呼び戻されて教員になった途端に給料は安く雑務は多く講義も休めなくなった。おまけに、余暇時間の少なくなった大学生なんてものは年を取った高校生と変わりがない。専門教育に耐えうる知識も教養も経験もないので、レポートも論文もつまらない。バイトも遊びも中途半端どころか極端に少なくなってしまったことで、人間としても大学生としても成長しないまま卒業して足軽になっていく。一部のそもそも家が金持っているような子たちは、幼いころから芸術にしてもスポーツにしても遊びにしても、色んな文化体験をしている分、既にその差は歴然としているし、教える側にしてもそういう学生でなければ研究者や作家としての道を繋げてやるのが大変になってきつつある。

なんだか世知辛い世の中になったものだ。

俺の若い頃はよぉ。

30半ばでそんな台詞が口を衝くようになった。

「・・・わびしい」

電子タバコを咥えたままつぶやくと、ミントとバニラにカフェインが入った水蒸気が外に漏れて流れていく。

何かあったかくて脂っこいものが食べたいが給料日前だし体重も80㎏手前。ファーストフードとコンビニの前を通過するたびに魂が半減していくような気もするが、そもそも電子タバコだって、口寂しくてつい何かを口に入れてしまうのをごまかすために買ったのだった。

自宅マンション「エフ・コスモス」の前まで辿り着くと、バイクの駐輪場に原付を停めて鞄を肩にかけてロビーに入っていく。時間を確認しようとすると、スマートウォッチにメッセージが出ていた。アプリからの通知だろうか。

『昨日の依頼の件で来客あり。はやく戻って来い』

「なんだそりゃ。随分な通知だなぁ」

玖はエレベーターに乗ってスマートフォンを取り出すとアプリを起動してみた。

「遅い!」

「な、なんだよ、まだ帰宅中だっつの」

「何度も呼び出したのに何やってたのよ!!」

「何って講義してきたんだよ。どうなってんだこのアプリは」

言ってる間に途中の階でエレベーターが止まり、人が入ってきた。長身に長い黒髪の、一瞬女性かと思うような美形の男だったが、恐ろしく目つきが悪い。こんな奴が同じマンションに住んでたのかよ・・・と思いつつ「アプリって何よ?!だいた」慌ててアプリを黙らせる。

男は2階で、玖は3階で降りた。

そそくさと自室に戻り、再びアプリを立ち上げると、更に怒りのボルテージを上昇させたユーラインの声がした。

「わかったよ、シャワー浴びてからすぐそっち行くから」

「シャワー?!」

「ベッドに入る前はシャワー浴びる派なの」

「な、なななに考えてんのよ!人が見てるじゃない・・・」

「さっきから何言ってんだよお前は・・・とりあえず待っとけ!」

スマホをベッドに放り投げると、玖は着替えを出して風呂場に向かった。


元より長風呂は好かない。

浴槽にもつからないので、15分ほどで髪まで乾かして上がって来ると、充電コードを付けたスマホを枕の下に滑り込ませ、布団をかぶる。

掛け布団の裏側に広がったモニターに幾つかサブウィンドウが開き、ユーラインが事務所の応接室に二人組を通しているのが見える。

イカレた髪型の大男と女の子だ。格好からするとスカベンジャーのようだが。

「お待たせ」

「もう!遅い!」

「悪かったよ。で、どちらさま?」

「スカベンジャー:グリーンゴブのベルケとU・W。昨日のバイパー・タイプについて聞きたいことがあるんだって」

「へぇ」

大男、U・Wが事務所の窓からこちらを見上げる。

「驚いたな、こいつは本物のステラバスターか?」

「ええ。手に入れたのは偶然だけどな」

そんなに凄いマシンなのか、こいつは?玖は思いつつ、やりとりを見守ることにした。

「誰が乗っている?」

「Δ893。わけあってコードネームでそう呼んでいるわ」

「ステラバスターのこと、君たちは知っているのか?」

「第一期六英雄『殲光』の釈韻・クローバーの専用機だった・・・ってのはね。でも、そういう触れ込みの、『ゆかりの品』みたいなことを売り文句にしたパンツァーメサイアなんて五万とあるわ。このマシンもそうよ。きっと、どこかの物好きがでっちあげたレプリカか何かでしょ」

「・・・レプリカか。EDCシステムやクリムゾンネイルは動くのか?」

「両方とも、パイロットがダインでなくては動かせない代物よね。システム内にそれらしいものは確認できるけど、いかんせん搭乗者がへっぽこだから確認の仕様もないわ」

「だったらユーマに乗らせてみたら?ユーマはダインだよ」

「それには及ばない。あのマシンが本物ならば、そもそもダインでなけりゃ動かせないはずだ。Δ893は間違いなくダインだろう。でなけりゃEDCアンプリファイアシステムが動いた段階で衰弱死しているだろうからな」

げ、そんなヤバいマシンなのか、こいつ・・・って、ゲームに何をビビってるんだ俺は。

「・・・あんたら、何者かしら?」

ユーラインの表情が強張る。

っていうか、巨体に7色箒アタマの時点で疑えよ。

「・・・」

「・・・」

ユーラインとU・Wはしばらく視線をそらさず黙ったままだったが「昔、統合騎士団(UK)の技師をしていてね。ツバレイ技師長の周りで働いていた」U・Wが口を開いた。

「ツバレイ・スディルパ・アーデュアルジュ・・・!パンツァーメサイアのパイオニア、そしてZモデルの生みの親、言わずと知れた13英士(ミーマ・ジーニアロジ)の一人・・・なるほど、それなら納得がいくけれど・・・そんな人間がどうしてスカベンジャーなんかやってるのよ?」

「俺は機械が弄れればどこでもいい。六英雄たちが去り、中央もつまらなくなったのさ」

「ふぅん・・・ま、いいわ。で、昨日の白いバイパーについて聞きたいことがあったんでしょ?」

いいのかよ。何やら知らん単語が幾つも出てきちまったが。

「あの白いバイパー、撃墜された形跡も爆発した形跡も無いんだ。お前たちは奴を間近で見ているだろう?何か気づいたことはないか」

「だってさ」

ユーラインがこちらに話をふった。

「気になったって、確かに違和感は感じたよ。バイパーで新型を随分簡単に撃墜しているようだったし、ラッキーパンチもらって撃墜されたときも不自然だった。だけど、その後は、その他のことは分からない。こっちも戦闘中だったしな」

「あの、カメラ映像とかもらえませんか?」

「ユーラインに交渉してくれ」

「私は構わないわ。けど、タダってわけにはね。タワーの管理局にも許可を取らなきゃいけないし、編集の手間もある。それに、有料にすることで簡単に拡散されにくくなるでしょ?タダじゃないっていうのはそういうことだもの」

「当然の帰結ね。条件は何?幾ら欲しい?」

「現金で30万Cr」

「高過ぎる。中古のTASが買えてしまうわ」

「じゃあ、私達とパートナーシップを結んで頂戴。そうすれば10万Crにまける」

「新興の、しかも、手持ちのPMも1機っきりの弱小チームとそんなものを結ぶメリットがあるかしら?こちらは構わないけど、貴方たちの側に20万Crも減額する利点はないと思う。そりゃ、パートナーシップ契約を結んだところの依頼は優先して受けるし、ギャラもまけておくわ。けれど、それで20万Cr分のもとがとれる依頼って、相当の物よ?そもそもそんなオファーをする経済力があなたたちにあるとは思えないの」

「生意気言ってくれるわね、グリーンゴブのベルケさん。でも、こっちは本気だし、曲げるつもりも無い。このマシン、意外に面倒くさいパーツ構成でね。とてもじゃないけど整備どころかレストアだって間に合わない。必要なパーツも情報も、もっともっと必要なのよ」

「後からナシって言っても聞かないからね。いいわ。契約書をおこしましょう」


二人が話を詰めている間、U・Wは格納庫に降りてきてステラバスターを見上げていた。

「なんだよ、レプリカが気になるのか?」

「ああ。まったく酷い有り様だと思ってな」

「こいつは撃墜されたときのまま掘り起こされたんだそうだ。こいつに乗ってたっていう六英雄は死んだのか」

「いいや。ステラバスターはヴァーチカルブリッドに撃墜され、その後、六英雄『殲光』、殲滅する閃光のシャイン・クローバーは別の専用機に乗り換えたんだよ。お前さん、そんな機体に乗っている割には何も知らんのだな。この国がその名に掲げている六英雄の物語じゃないか」

「興味ねーからな」

「あの男の乗機は数多いが、専用機はブルーガンヘッド、ステラバスター、ランページ134、そしてマーヴェラス・カン。敗北に敗北を重ね、やがて『究極(EX)』と呼ばれたころには、文字通り人間じゃなくなっていたがな」

「まるで昔馴染みみたいな口ぶりだな」

「・・・まぁな。だから解るんだが、お前さん、そいつは本物だよ。だから一つ、頼みがある」

つまるところ伝説の機体か。ゲームらしくなってきやがったな。

「あのバイパーな、タダモノじゃない。そいつを見つけ出し、撃破してくれないか?そのマシンのスペックをまともに引き出せば不可能じゃない筈だ」

「白いバイパーか・・・面白そうだが、多分、今の俺じゃ相手にならないと思うぜ」

「だろうな。今のお前さんじゃ一瞬でワイヤーの餌食にされる。伝説の機体も文字通りの形無しってわけだ」

「なんだよ、じゃあ何か、修行編に突入ってわけかよ。俺30代半ばだよ?失った青春を修行で取り戻してたら40代とかだよ?それよりは何かこう、元スーパーエースとか、実は甲子園で凄かったんですとか、そんな感じのちょい渋い系実はすごい人パターンのほうが尺の問題からいってもいいんじゃねぇの?」

「何言ってるかイマイチわからんが、修行ってのはまぁ、その通りだな。俺がお前さんに戦い方と、その機体の使い方を教えてやる。お前さんにしても、白いバイパーをやれば統合騎士団の覚えよろしく、フリーランスからかねて騎士への格上げってこともあるかもしれんぜ?」

「フリーランスから正社員か・・・しびれるぜ」

「じゃ、決まりだな。へぼパイロット。俺が本物の闘技を教えてやる」

・・・これはアレかな、必殺技コマンドとか超強力な兵器とか、何か新しい機能がアンロックされる流れなのかな??

おじさんね、嫌いじゃないわよこういうの。



西暦2016年12月22日

HRA.E.2099.先導者の第八星

の、出来事。

This is the NightMare’s Episode…


第一話「目利(スカベンジャー):ベルケ」おわり

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