情熱の居場所

 かすかな衣擦れに続いて、線の美しい裸体が露わになった。

 僕は無心でコンテでクロッキー帳に描きながら、思考は金のなかった学生時代へと飛んでいた。


 彼女はプロのヌードモデルでなければ、体のラインはいたって平凡そのものだった。

 ただただ絵の上達だけを考え、時間があれば彼女を描き続けていた。


 卒業し、仕事にも恵まれた。だが、あの頃の情熱は時間とともに磨り減っていく。

 デッサンをすれば取り戻せるか。

 いいや、この彫刻のように美しい体ではだめだ。僕が求めていたものは――。


 彼女は今、何をしているだろうか。

 

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掌編小説帖 陽皐いちる @izumi36

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