第11話
「そ、それで?」
懐を撫でる仕草とともに声を止めた篁に向かって大介は身体を乗り出した。こんなところで止められたんじゃ生殺しだといわんばかり。此処でまた、続けますか、などと尋ねられたら頷く以外にどうしよう。
大介は障子に手をかけて、板の間に顔を出した。
それを見返って、苦笑交じりに、まぁまぁ、お慌てにならないでくださしまし、と。
篁は大介を見返ってから、板の間に置いた風呂敷包みに目を遣った。
「それからしばらくというもの、藤乃さんは昔の出来事をお調べになったご様子でした。蔵のお部屋に住まわっていたのは確かに自身の母親でしたし、面を注文したのは間違いなく三橋の旦那さんだった。父親は――彼は覚えてはいらっしゃらなかったのですが――面を打ち終えるとしばらく後に自害なすっておられたとか。妻を寝取られ、弄られ、失意と憤怒と狂気の狭間で亡くなられとた話を耳にして、彼の思い立ったことは――お分かりになられましょうか?」
緩やかに動く黒髪、静かな声に大介は眉を寄せ、怖々と口を開いた。
「……復讐、ですか…?」
「あい」
篁は静かに頷いて、左様にございます、と続けた。
「一度ついた炭の火はなかなか消せるものじゃぁございません。熱を帯び、燻り続け、いつか炎を吹くのを待ちわびているものでございます」
足元で電気ストーブが炎の色を燈していた。
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