自己紹介
「じゃあまず言い出した俺からだ。俺の名前はクメイ。弁護士をしている」
弁護士か。だから口が回るのか? それにしてもクメイは早くも自己紹介を終えたらしい。えらく簡単な自己紹介だった。
クメイは左に目を向けた。彼の隣に座っているのは服のサイズがあっていない身長の低い男だ。
「時計回りでいいだろう。次はあんただ」
時計周りか。僕は黒縁眼鏡の、いやクメイの右に座っているので最後ということになる。
「ぼ、僕の名前はシムです。せ、清掃員をしていました……」
低身長の男、シムというらしい。なんだか声がへなへなしていて頼りない感じだ。それにしても清掃員を"していた"ってことは過去形だし、コロニーがなくなって失職したということなのだろうか。
次はサムライ男だ。そういえばそれなりにさっきから一緒にいたわけだがまだ名前を聞いていなかった。
「拙者の名はサムラでござる。職業はサムライでござる」
「は……?」
彼の言葉に場の空気が少しの間固まった。
「おいお前、こんな状況であまりふざけるなよ。何がサムライだ。本当のことを言え」
クメイが刺すような視線をサムライ男に向ける。
「せ、拙者の本業は……プログラマーでござる……」
サムライは落胆するように答えた。
未来の世界ではサムライが復権したのかとも一瞬思ったが違うらしい。よかった、周りに反応を見るにこの時代の感性と僕の感性がズレているというわけでもなさそうだ。
っていうかあんな格好でプログラマーなのか。サムライではないにしてもそれはそれで突っ込みどころ満載だが。
「……サムラというのは本当なんだろうな?」
クメイは不機嫌そうにサムライを睨みつけている。
「そ、それは本当でござるよ!」
「……まぁ名前なんて何でもいい」
「えぇっと、サムラ君」
その時隣のマナがサムラに話しかけた。というか君づけなのか。
「なんでござろう?」
「その腰に下げてる刀って、もしかして本物なの?」
「え、あぁこれは……」
サムラは刀を引き抜こうとした。その瞬間、周囲に緊張が走る。しかし力を入れてもどうやら抜けないようだった。
「見ての通りただの飾りでござるよ……」
「そ、そっか」
なんだか質問によって色々とメッキが剥がれ落ちてかわいそうに思えてきた。でもまぁ、あれがもし本物だったら結構怖い。もしサムラがロウジンで凶器を持っていたら何をしでかすか分からないことだし。
「……じゃあ次のやつ頼む」
サムラの隣に目を向けるとピンク色のメイド服、モモが座っていた。
「モモです。……セイラさんの付き人を……していました」
先ほどまで泣いていたせいか、声が少し震えている。目も赤い。そして付き人をしていたというのが過去形なのが、何だかツラい。
次に順番が回ってきたのは先ほど食堂で言い争っていた二人だった。
「俺の名前はジンだ。みんなよろしくな!」
ツンツン頭の方はジンという名前らしかった。モモとは対照的ともいえるハキハキした声で短い自己紹介を行った。
「なんであんたはこんな時でもそんな元気なのよ……」
すかさず隣のポニーテール女が突っ込みをいれる。彼女は一度軽いため息をついたあと、
「私の名前はエイリよ。ジンと同じ、宇宙開発の会社勤めてるわ」
自身の胸に手を当て、もう片手の親指でジンを指しながら言った。
そしてその隣にいたシズカとヒース、夫婦二人の自己紹介が始まる。
「私の名前はシズカ。フーゴーで働いているわ」
フーゴー……? 会社の名前だろうか。それでみんなに通じるのだとしたらあのコロニーの中ではかなり有名な会社ということになる。
「僕はヒース。シズカの夫です。主夫をやってます。みんなよろしくね」
ヒースは軽い笑顔で人差し指と中指で敬礼のような動作をした。
ヒースは主夫だったのか。つまりそれってヒモのようなものか? まぁ、同じようにマナに養われている僕には何も言えたものではないかもしれないが……。
次はシュレイ博士の番だった。
「ワシの名前はシュレイじゃ。研究職をしておる」
腕を組んで自信満々そうな態度だった。研究って何を研究しているのだろう。
そろそろ自己紹介も終盤だ。僕の隣に座るマナの番がやってきた。
「私の名前はマナ。シズカとシュレイ博士と同じ、フーゴーで役員をやっています」
マナは自分で金持ちだと言っていたが、会社の役員だったとは。それに11人中3人も同じ会社のメンバーなのか。フーゴーとは一体何の会社なのだろう。あとでマナに聞いてみることにしよう。
そして最後に僕の番がやってきた。
「えっと……僕の名前はミツルです。200年間眠っていて今日目覚めました」
話すことと言えばそれくらいだろうか。みんな短かったしこれでいいだろう。それにしても色濃い人物がこの中には多い気がするが、この自己紹介だけを聞くと僕が一番ぶっ飛んでいるかもしれない。その自覚は全然ないが。
「おぉ、話には聞いてたが、あんたが例の奴だったのかぁ。すげーな、ちゃんと解凍できてやがる」
ジンが興味津々といった感じで声を掛けてきた。
「ちょっと、あんまりデリカシーのないこと言わないで。そんな言い方かわいそうでしょ」
「そうかぁ?」
「い、いえ、別に全然気にしてませんから」
「ほら、ミツルもそう言ってんだろ?」
ジンの言葉にエイリは少し口を尖らせている。
「ま、200年も眠ってりゃあ分かんねぇことだらけだろ。何でも遠慮なく聞いてくれよな」
「あ、ありがとうございます」
確かにジンは考えなしな部分はありそうにも見えたがいい奴そうではあった。
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