第9話

 大きなアームチェアに腰掛けたアリスは、膝に乗せた黒い子猫を手のひらで優しくこすり上げる。

「いたずらっこさん、いつから遊びに行ってたの?」

 黒の子猫は喉をごろごろ鳴らして、我関せずと目を閉じる。

 敷物に膝立ちをして黒猫と顔の高さを合わせていたアリスが、上目遣いで椅子の上のアリスを見る。

「やっぱり、赤の王様じゃなかったわ。ちっとも見つからないわ」 

「赤の王様なんていないんじゃないかしら」

 敷物に寝転がっていたアリスが、眠たそうに目をこすった。

「赤の王様がいないなら、夢を見てるのはわたしたちってことかしら」

 眠気が伝染したのか、アリスは子猫を撫でる手を止めてあくびする。

「あっちとこっち、どっちが夢かを決めなくちゃいけないのかしら」

「どっちも夢じゃいけないのかしら」

 アリスが手を子猫の背中に戻して呟くと、子猫のほっぺたをくすぐっていたアリスは考え込む。

「どっちが夢だかわからなくなったら、誰も文句を言えないわ」

 寝そべったまま、アリスは良いことを思いついた合図に左手の人差し指を立てる。

「良いアイディア」

「そうなったらすごく素敵ね」

 人差し指が三本立って、アリスたちは目配せを交わす。

「夢見ることと生きることって、きっと同じことだもの」

 暖炉の火が赤々と照らす部屋に、アリスたちの楽しそうな笑い声が響いた。

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