第6話

 アームチェアの上で膝を抱えて、アリスは眉をひそめる。

「あんな顔をさせるつもりじゃなかったのに」

「驚かせ過ぎちゃったかしら」

 暖炉の前の敷物にぺたんと座っていたアリスも、腕組みして首を傾げる。

「案外、自分に自信がないものなのね」

 敷物に座ったアリスの髪に毛糸を編み込んでいたアリスが、物憂げなため息をついた。

 暖炉の上の鏡に映った部屋の中では、白と黒の正方形が並んだ敷物にトウィートルダムがぐったり横たわっている。時々、重たく大きなため息をつくほかは、まるで動こうとしない。

 男の手が、アームチェアの背を掴んで揺すった。

「このままじゃ、おかしくなってしまう」

 びっくりした顔で振り返るアリスを、鏡の中のトウィートルダムとそっくりな小男が不機嫌そうに睨む。顔の造作もお腹の丸みもまるっきり同じで、襟の刺繍が〈dee〉になっているのだけが違う。

「介入させろ」

 トウィートルディーは、アリスの座っている椅子を何度も揺さぶる。

「もうちょっと様子を見ないの?」

「早すぎやしない?」

 アリスが二人、不満そうに唇を尖らせる。

「ストレスが強すぎるかもしれない」

「わかったから、そんなに揺らさないでちょうだい」

 振り落とされないようにアームチェアにしがみついていたアリスは、悲鳴をあげた。

 ぱっと手を離すと、トウィートルディーは同情の色を浮かべた目を鏡の向こうへやる。トウィートルダムが、ひゅうひゅうと苦しそうに喉を鳴らして息をしている。

「遅すぎるよりはいいかしら」

「そうね。ちょっと可哀想よ」

 アリスたちは顔を見合わせて、揃えたように同じ仕草で頬に手を当てて頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る