第3話

「ネットの中に意識が生まれたとしてさ、意識のある存在がいるって人間は気づけるのかな。あと、そいつらは自分らがいる世界の外側に人間がいるって気づくと思う?」

「シミュレーションとかじゃなくて、偶然だったら無理じゃないかな。メモリの使用状況や通信量で気づけるかもだけど、クラウド方式で存在されたら厳しいし。発生した意識側から接触してくれるの待ちなんじゃない?」

「でも、向こうも世界の外側は存在する、そこに世界を作った存在がいるって気づかなそうだよ。人間が作ったネットに発生するんだから人間に似た意識になるだろうから、哲学や思考実験として想定する形はあっても、現実だって認めるのって難しそう」

「今すでにネットの内側に意識は存在してて、お互いに気づかないままかもね」

 シャツの襟に〈dum〉と刺繍してある太った小男としかめっつらの女性が熱心に話し込んでいるのを、暖炉の上の鏡が映している。アームチェアに腰掛けて、少女はしげしげとその様子を眺めていた。

「ただの思いつきかしら」

「たんなる偶然じゃないかしら」

 白と黒の格子柄の敷物に寝そべった、同じ姿の少女が顔を上げる。

「でも、もしかしたらってことないかしら」

 暖炉の前にかがんで火かき棒の柄に毛糸を巻き付けようとしていた三人目の少女は、立ち上がるとマントルピースにつかまって背伸びする。そうして、顔をくっつけるように鏡を覗き込んだ。

 鏡の中の部屋は、アリスたちのいるこちらの部屋とまるっきり同じように見える。違うのは、誰が映っているかだけだ。トウィートルダムと赤の女王は、まだ話を続けている。

「知らんぷりしてるだけかもしれないわ」

「指でつまんでみたいわ。どんな顔をするかしら」

「どんな顔するかは、もうすぐわかるわ」

 いつのまにか、三人とも暖炉の前に集まっていて、並んで鏡の中を覗く。お揃いのスカートが赤々と燃える火の上をかすめるけれど、炎は裾を焦がしてしまうことはなかった。

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