第4話 せんにゅう

「おー似合う似合う」

「……私胸なくて良かったって思ったの生まれて初めてです」

 開店前の『ジェミニ』で茶髪ウィッグをつけ内勤の制服に着替えて、竹井さんにお店の中を案内してもらった。ピカピカのフロアの隅っこにバーカウンターがあって、バーカウンターの奥に小さなキッチン。何でも『カクテルと料理に力入れてます!』が最近のウリらしくそこで他のホストクラブとの差別化を図ることによって売り上げは上がっているらしい。確かに冷蔵庫の中は豊富な食材であふれていた。そしてバーカウンターの裏にプレイヤー用の更衣室と事務部屋がある。二人で話し合って、私の仕事はお酒作りとフード作りに集中することにした。やり慣れてないことをしたらすぐにボロが出る、と意見が合致。お酒作りとフード作りはUSAGIで鍛えられてますからね!どんとこいです!

「名前、どうしましょう」

「テキトーに俺が紹介するからそれに乗っかってくれたらいいよ」

 竹井さんに習いながら開店準備をしていると、パラパラとプレイヤーの方々が出勤してくる。がっしりした黒髪の男性がおはよーございまーすと横切った後、ぼそっと『あれがナンバーワンのアキラだよ』と教えてくれた。ほほう、あれがいじめっ子ですか。そして暗い顔で総一さんが出勤してきた。

「ソウ、紹介するよ。今日から内勤で入ってもらう西山ユタカくん。ソウの後輩になるから色々教えてあげてね」

「ユタカくん、よろしくね」

 ふんわりと微笑まれた。私が三日前に会った『女』だとは微塵も思っていないようだ。竹井さんは横目で『ね?』みたいな顔してる。十八歳の乙女心傷つくなー。あの時は総一さんお酒も入ってたから仕方がないのかもしれないけどね。そして本日もすこぶる美しい。何ていうのかな、元芸能人ってことを抜きにしても整った顔立ちしてる。竹井さんもボスも女の子が絶えないから世間的には『イケメン』の部類に入るのかもしれないがレベルが違う。尤も、恋愛経験ゼロの私に何がわかるかって話ですよ、ええ。そこは自分でもわかってるから大丈夫です。はい。自分内ボケツッコミを繰り返しつつ黙々と開店準備をしていると、更衣室の方からガシャン、ドンッという大きな音が聞こえた。

「総一さんですか?」

「多分ね。行ってやってくれる?」

 準備の手を止めて更衣室に駆け込んだ。お腹を抱えてうずくまった総一さんを無表情で大勢のプレイヤーが見下ろしているのはかなり怖い。人だかりの中心にはやはりナンバーワンのアキラがいた。人を縫い分けて総一さんを抱き起こす。

「ソウさん、大丈夫ですか?」

「……大丈夫」

 お腹殴られたんだろうな、痛そう。氷でも持ってくるかと動こうとしたらアキラがそれを遮った。ナンバーワン様はボスと同じくらいの身長ってところか。つまり私から見たらかなり大きい。威圧感半端ない。でも負けてられない。総一さんからそっと手を離しアキラを見上げる。

「誰だよお前。勝手に入って来るんじゃねーよ」

「失礼しました、アキラさん。本日から内勤で入ります西山ユタカと申します。よろしくお願いします」

「は?なんでお前俺の名前知ってんの?」

「皆さん全員のお名前と顔は存じております」

 竹井さんにリストもらって必死に覚えといてよかった。頭の先からつま先までじろじろ見ないでよ、気持ち悪いなぁ。なんて思ってたらいきなり腕を掴まれた。なんだこの野郎。人の体に勝手に触っちゃいけません!世間ではそれを痴漢というのですよ!私、今『ユタカくん』だから痴漢とか言えないけどね!

「お前ソウの保護者?こんなほっせー腕で何ができんだよチビ」

 鼻で笑ったアキラの腕を捻り返した。ボスに暇さえあれば喧嘩の仕方や護身術を仕込まれてますからね、強いんですよ。ただのチビじゃないってことはわかってもらえたかな?痛がったのでぱっと手を離したら凄い目で睨まれてしまった。私もお腹殴られたら嫌だなぁ。殴り返したらあの竹井さんとて初日でクビにされるだろうなぁ。うーん。

「……何もんだよお前」

「新人の内勤の西山ユタカです。そろそろ開店の時間ですよ、皆さん」

 私を何者かと胡乱な目でじろじろ見るプレイヤーの皆さんがフロアに行くのを見届ける。一番最後に出て行く総一さんがぼそっと『ありがとう』と言ってくれたことがちょっとだけ嬉しかった。とりあえず私はアキラに目をつけられたのは間違いない。どんな嫌がらせされるのか楽しみだなー。暴力系はナシの方向でお願いします、神様。

 開店してからしばらくは暇だった。竹井さん曰く『平日はいつもこんなもん』だそうで。バーカウンターでグラスを磨いているとアキラがこっちへやって来るのが見えた。お、早速なにか仕掛けてきますか?肩で風切るってこういう時に使うんだろうなぁ。威風堂々。

「お前フード任されてるんだって?」

「ええ、料理は得意な方なので」

「ふーん。俺腹減ってんだよね。何か作ってよ」

「竹井さんに材料使っていいか確認してからでもいいですか?」

 無言で頷いた。なんだかんだオーナーには頭が上がらないのかな。竹井さんにオッケーをもらったので、いつもUSAGIで作ってる料理を作ってみることにした。カルボナーラと、りんごとウィンナーのペッパーソテー。三口コンロで同時進行、どっちも作り慣れてるからぱぱっと出せた。待たせて嫌味を言われるのも癪だし。少しでも文句の付け所を残したら絶対に何か揚げ足取られるだろうからね。

「どうぞ、カルボナーラとりんごとウィンナーのペッパーソテーです」

「りんごとウィンナーって、お前ふざけてんの?」

「ふざけてないですよ、まぁ食べてみてください」

 恐る恐る一口。からの、『美味い』。そう意外なことに美味しいんだよね、これ。バターひとかけフライパンに落として、くし切りにしたりんごが透き通るまで炒めたらウィンナー入れて胡椒たっぷりひいて出来上がり。簡単で美味しいお酒のお供なんだって。ボス考案のUSAGI看板メニュー。私も最初は『美味しいの?』って思ったもんなぁ。ボスが作ってくれたのを食べてびっくりしたもの。

「おい、これちょっと食ってみろよマジ美味い。酒欲しくなる」

 わらわらと群がっているプレイヤーの中に当然総一さんはいなくて、私は楊枝に刺して隠し持ったりんごとウィンナーのペッパーソテーを手にフロアの隅で暗い顔をしている総一さんの元に駆け寄った。総一さんの前にしゃがんで、顔を覗き込む。なるべく笑顔で。笑顔で接したら笑顔が連鎖すると私は信じている。

「ソウさん、あーん」

「へ?」

「あーん、してください」

 素直にお口開けて偉い偉い。ぱくんと食べて一言『美味しい』、はい『美味しい』頂きました。笑ってはもらえなかったけどその一言だけでじゅーぶんですっ!さて、わざと大きめの声でーー

「ソウさんにも美味しいって言ってもらえて僕嬉しいです!」

「ユタカーそいつに関わっても損するだけだぞ」

 大きな声、追従するクスクス笑い。あー、確かにこれ毎日くらってたら嫌になるよなぁ……。アキラめ。いつの間にか呼び捨てだし。まぁこっちも心の中で呼び捨ててるからおあいこか。大体ただの内勤に損も得もあるの?って感じなんだけど。

「だって、竹井さんが僕のこと後輩だってソウさんに紹介してくれたんですよ?美味しいものは先輩に食べてもらいたいのが後輩心です!」

 元気いっぱいニッコリ笑顔で答えてみるとアキラのニヤニヤ笑いが真顔になった。うー、この人真顔になるとちょっと怖いかも。泥酔したボスと竹井さんの下らないことから始まる喧嘩くらいには。『日本のロックは生きてるか?死んだか?』なんてくっだらない議題で殴り合い寸前までいくなんて大人気ないにもほどがある。二人の場合はRCサクセションかけたら大人しくなるからまだマシかなぁ。この人は何したらおとなしくなるのかな?

「……お前バカなの?それとも究極に空気読めない人?」

「両方ですかねぇ」

「決めた。お前今日一日俺のテーブルに専属でつけ。ねー竹井さんいいでしょー?」

 はい?ちょっとちょっと、それは断ってくれますよね竹井さん!フロアの隅で煙草を吸っていた竹井さんは何と大きく両手で丸を作ってーー

「いいよー。ユタカくん今日一日アキラのテーブル周り世話してやってー」

 ちょおおおおおおお!!!断ってよぉぉぉぉぉぉ!!私は竹井さんの元に駆け寄ると小声で抗議した。

「このお仕事初日ですし、絶対あの人無理難題ふっかけてきますよ。万が一何かやらかしたらお客様にご迷惑がかかります」

「ユタカくん、キミそんなに腑抜けた仕事今までしてきたの?アキラの無理難題くらい受け止めて食らいつくくらいじゃないとソウの『案内』なんかできないよ。それとも保護者のかたお呼びする?あいつが店に入った瞬間に『案内』は失敗することになるけど」

 耳元で囁かれてはっと胸を突かれたような気分になった。USAGIでボスに仕込まれてきた仕事は決してここでも見劣りしない、竹井さんはそう言ってくれてるんだ。信頼してくれてる。だとしたらこちらも腹を括ろう。竹井さんの本気には本気で返さねばならない。

「わかりました。『僕に』出来る限りのことはさせて頂きます」

「ヤバいと思ったらすぐに俺呼んでね」

「そこは甘いんですね」

「保護者のかたが怖いからね~それに、きっと一番の近道だよ。ナンバーワンがどんなやつか観察するのに」

 内緒話が終わってフロアを見ると、アキラのテーブルに一人の女性が座っていた。明るい茶髪で巻き髪のギャルっぽい、ボスが大好きなタイプの美人さんだ。先ほどのニヤニヤ顔とも怖い真顔とも全く違う、はじけるような笑顔っていうのかなこういうの。とにかくアキラが『お仕事モード』に入ったのは理解した。

「ユタカ、こちら俺の大切な人、雪菜さんっていうんだ。彼女のためにとびっきりの料理と、彼女をイメージしたカクテル作ってくれる?」

 お客様と一言も話していないのにイメージカクテル作れだぁああ?料理はともかく、イメージカクテルは外すと結構面倒なことになるんだよなぁ……。ここはボスに教わった『禁じ手』でいくか。アキラの方はあえて見ずに、雪菜さんの前に跪く。おお、ミニスカートに生脚ですか。おみ足もセクシーですね雪菜さん。大人っぽい靴だなぁ。私には絶対似合わないタイプのヒールの高い靴。目を見て、ゆっくりと話しかける。

「雪菜様、お嫌いなリキュールやアルコールの種類はございますか?」

「ないよー。何でも平気!」

「かしこまりました、少々お待ち下さい」

 バーカウンターに戻って頭をフル回転させる。よし。あれで行こう。シェイカーに氷とリキュールを数種類入れてシェイク、はい出来上がり。ほんの数分で出来るカクテルだけど持ってくのがちょっと怖いね……。アキラめっちゃこっち見てるしね……。

「お待たせしました、こちら『ニューヨーク』です」

「ピンクで可愛いー!あ、でも結構大人の味……」

「はい、こちらウィスキーベースにライムジュースとグレナデンシロップと砂糖をシェイクしてオレンジピールで香りをつけた『大人の』カクテルなんです。雪菜様の靴を見て僕は足元から『大人の女性』を感じたのでこんなカクテルにしてみました」

 平然と笑っているように見せかけて心臓ばっくばくしてるよー!因みにボスが教えてくれた『禁じ手』は『相手の見た目とほんの少しずれたカクテルを作る』こと。例えばチャラいギャル男くんに「実はあなた繊細なところがありますね」みたいなこと言ったりするような。詐欺とか占いの基礎なんだって。本当はお客様ときちんとお話をして本当にイメージ通りのカクテルを出すのが『プロ』。『禁じ手』だから本当は使っちゃいけないんだけど、今は緊急事態だから許して下さい!

「……お口に合いませんでしたか?」

「ううん、私のこと『大人』って感じてくれたんだ。私こんな見た目だし喋り方もこんなだからあんまり大人扱いされなくて。『大人』かぁ……なんか嬉しいな」

 嬉しそうにカクテルグラスを眺めている雪菜さんに微笑みかける。もらった。この勝負もらった!少年漫画の戦闘シーンのように高らかに笑いそうになるところをぐっと我慢、アキラの方を見るとすんごい顔してるよ、それ雪菜さんの前でしちゃダメなやつでしょ……。次は料理ね、わかってますよ。口パクで『ころべ』ってあんた小学生じゃないんだから。イジメなんてみっともないことしてる時点で小学生以下か。カルボナーラとりんごとウィンナーのペッパーソテーは芸がないよなぁ。かといってフレンチは時間がない。イタリアン盛り合わせでいきますか。白の大皿にちょこっとずつ盛ってテーブルに持っていく。

「お待たせしました、こちら手前からカプレーゼ、スモークサーモンのクロスティーニ、フリッタータでございます。食事はお済みのようなので全て軽めにしておきました」

「えー!ご飯食べてきたってなんでわかるのー?」

 にっこり笑うと某高級焼肉店のガムの包み紙が入った灰皿を下げる。完勝……!ドヤ顔でアキラの方を見てやると何やらぼけっとした顔をしている。なになにー私の仕事ぶりに恐れ入ったかー?肘で肩辺りをうりうり突いてやりたい衝動をぐっと堪える。すると意外な方向に話が飛んで行った。

「なぁ。ユタカ、プレイヤーやってみない?今日一日は俺専属の内勤だよね?」

 無理難題を吹っ掛けるを飛び越えて『いいこと思いついた!』の顔だな、これ。悪意がなさそうなのが厄介だなぁ。ま、乗り掛かった船だ、泥舟だろうがなんだろうが乗ってやりますか。ただし、沈まぬための保険はかけさせてただきますよ。

「未経験の僕一人では雪菜様に不快な思いをさせてしまうかもしれないので、ソウさんと一緒でもいいですか?」

「いいよ」

 拍子抜けするくらいあっさりナンバーワン様のご許可が出たので、『僕なんかで大丈夫なのかな』なんてくよくよしたこと言ってる総一さんの背中を押す勢いでアキラのテーブルに戻る。総一さんを見た瞬間雪菜さんがぽーっとなったのが私にもハッキリわかった。アキラも身長あるしガタイもいいしそれなりに整った顔してるんだけど、総一さんと並べちゃうとちょっと可哀想だなぁ。アキラ・総一さんの横に並ぶ私もとてもとても可哀想だなぁ……。

「はじめまして、ソウと申します」

「僕の先輩です!お酒作りますね~」

 雪菜さんにはもうカクテルを出していたので、アキラに何が飲みたいか聞いてみる。『俺とソウのイメージで』って懲りない人だねぇ……。アキラには水でも出してやろうかと思ったが大人気ないことはしないことにして、日本酒ベースの『サムライ』をアキラに、シャンパンベースの『ミモザ』を総一さんに。自分用にはオレンジジュースにグレナデンシロップ混ぜてお酒っぽくしてテーブルに運ぶ。

「お待たせしました。アキラさんは『サムライ』、日本酒とライムのカクテルです。ソウさんは『ミモザ』シャンパンとオレンジジュースのカクテルです」

「ユタカのはそれなんてカクテル?」

「僕のはテキーラサンライズです」

 テキーラ入ってないことは黙っておく。飲まれなきゃバレないバレない。全員分の飲み物が揃ったところでアキラが音頭をとって乾杯となった。

「ねー雪菜さんって料理とかする?」

「私?結構するよー。こう見えてって自分で言うのも恥ずかしいけどぉ」

 アキラと雪菜さんは私がまかない(と言っていいのだろうか、あれは)で作ったりんごとウィンナーのペッパーソテーの話で大盛り上がりしている。総一さんは会話に入れないようで困ったようにニコニコしているだけ。これは、よくないよねぇ……。無理やり会話に加わるのも失礼だし、ここはアキラをつつくか。お客様を楽しませるためなら何でもありでしょ?ノってこいアキラ!

「アキラさんは料理されるんですか?」

「へ?!俺?たまーにだけど、する、かな」

「すごいなぁ、ソウさん今度一緒にアキラさんのご飯食べに行っちゃいましょうよ!」

「手作りの料理なんてもう何年も食べてないから、アキラさんが作ってくれると嬉しいです」

「……今度作ったら食わせてやるよ、お前にもユタカにも」

 ……さっき腹殴られた人にする笑顔かね、それ。初対面の時感じ悪いとか思ってごめんなさい!寂しげに笑った総一さんにさすがに毒気を抜かれたのか、そこからは四人でラストまでえらく盛り上がってしまった。他のプレイヤーの皆さんが再度怪訝な顔で見てるのがひしひしと伝わってきたけれども、雪菜さんも総一さんもアキラも楽しそうにしていたので結果オーライ、かな?閉店後掃除をしていると着替えたアキラがまた横から邪魔に入った。と、思いきや頭を下げてーー

「今日、ありがとう。最初に無理言ってごめん。すげー楽しかった。ユタカ、プレイヤーの経験あるの?」

 おいおいおいおいえっらい素直だな、え、もしかしてこの人それほど悪い人じゃないんじゃなかろうか……。

「いえ、未経験です。アキラさんとソウさんが一緒だったから、安心して喋ることができたんですよ」

「あれで未経験って嘘だろー?お前なーんか怪しいんだよなぁ」

 前言撤回、良い人悪い人とか以前にこの人『バカ正直な人』だ!思ったこと全部言っちゃうタイプの人だ!本当はどこの誰だか教えろとしつこいので掃除をしながらはいはいと受け流していると、竹井さんがやってきた。

「おつかれー。今日盛り上がってたねー」

「竹井さん、どこの店のプレイヤー引き抜いて内勤にしたんですか?」

「ん?ユタカくんのこと?ユタカくん芸人さん志望なの。お金貯めて養成所?ってとこに行きたいんだよね?お喋り上手くて当然でしょ」

 ああ、竹井様!もう様つけちゃいます!その設定いただきます、全力で乗っからせていただきます!ネタやれって言われたら漫才でもなんでもしましょうね、竹井様!下ネタ漫才でもなんでも!さて。ここはちょっと伏目がちに小さな声で……

「黙ってようと思ってたんです。皆さんカッコいいから芸人とかバカにされちゃうかなーって……」

「そうなんだ!夢なんだろ?バカにしたりしねーよ、俺のツレにも芸人やってるヤツいるし。今度紹介してやるよ」

「ありがとうございます!」

 『イジメっ子』ってフィルターを外すと色々見えてくるものがある。どうもこの人は自分からイジメをするような人ではなさそうだ。そうすると、黒幕がいることになる。そこを潰さないと『案内』は完遂しないだろう。

「今日はソウともうまくいってたように見えたよー?」

「それはユタカがいたから……」

「じゃあ、明日はユタカくん抜きでソウと一緒にやってみたらいい。結構息合ってるように見えたよー?お前とソウ」

「……やめてくださいよ。帰ります」

 ちょっと嫌な顔をしてナンバーワン様は帰って行った。苦笑いの竹井さんがグラス洗いを手伝ってくれる。竹井さん洗う人、私拭く人。流れ作業でポツポツ話をしているとやはりアキラの話に行き着いた。

「タバコちゃんあいつのことどう思った?」

「『バカ正直な人』ですね。何でイジメなんてしてるのかわからないです」

「そこなんだよねー。今日さりげなーくプレイヤー同士の話聞いてたらさ、どうもアキラにあることないこと吹き込んでるヤツがいるらしーんだわ」

「やっぱり。誰ですか?」

「ナンバースリーのショウってヤツ。アキラに媚びてくっついてるっていうのかな、舎弟みたいなことしてるヤツがいるんだよ。タバコちゃんの言う通りアキラ『バカ正直な人』だから、ショウの話鵜呑みにしてイジメてるーみたいな」

 頭の中のリストを検索して『ショウ』を思い出してみる。ああ、確かに『イケメン憎い!』のは本当はこの人なのかもしれない。髪型とスーツで容姿を誤魔化してる感じ、すっごいする。さてどうしたものか。明日はショウをマークしてみるか。

「明日、ショウの周り探ってもいいですか?」

「勿論。何か解決の糸口が見つかるといいねぇ」

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