第346話 対処療法も解決策も脳筋
■
「……ひとまずはこれで症状は抑えられる」
上半身裸になった僕の腹に手を当てていたララはそう言いながら手を離す。
「うん、ありがとう」
「でも……ゆっくりと根を張っていくから、その痛みはずっと続くよ?」
「まぁ、うん……スキルで何とか我慢できると思うし……死ぬよりはマシだよ……ははは」
ララの言葉に僕はそう言いつつもすでにじくじくとした痛みが腹部にある。
ドライアドのララと、僕が最初に出会った時のことを覚えているだろうか?
あの時ララは胞子を媒介にして素早い動きでとらえるのが困難なエンペラビットを植物化して養分をゆっくりと搾り取っていた。
その時のアイデアを踏襲した応急処置を、つまり、ララ特製の宿り木……いや、この場合は宿り肉……きもいな……冬虫夏草の方が合ってる?
……やっぱり宿り木でいいや。その種を体に寄生させて、その種から僕の身体にとって有害なレベルにまで上昇した魔力を吸収してもらうのだ。
実際の宿り木はその名の通りに樹木に寄生して生育する植物であり、僕の腹に入った種はそのまま魔力が溜まりやすくて一番負担がデカい内臓に根を張ることで魔力の負担を無くすという施術である。
ただいま実践してなんとか成功したのだ。
「……これから、ララの宿り木の種を植えた箇所は腫れていく……ある程度腫れがひどくなったら種を取り出して、新しい種を入れ直すからひとまず、今後はうつ伏せで寝ないようにしてね。
あと、この方法なら確かに内臓の機能不全は起こらないけど、負担がかかることには変わらないから、食物繊維の多すぎるものや、脂っこいものは食べないようにしてね」
そしてララのパートナーである苅澤紗々芽さんは、真剣な表情のまま、僕の腹部に植え付けられた宿り木の種の痕を見る。
「まぁ、しょうがないよね」
僕はひとまず笑顔を作りながら、シャツを着なおす。
「あと、宿り木は魔力と一緒に血液も吸収する……血液事態は
「それは……うつ伏せできないよりはちょっとしんどいかもね……」
これからのことを考えてちょっと陰鬱な気分になってしまうと、それを察したのか紗々芽さんが僕の頭を包むように抱きしめてくれた。
「……絶対に治す方法、見つけるからね」
「…………うん、ありがとう。それと、心配かけてごめん」
いかんいかん、少しメンタルが入院してた時期に戻りかけていた。
まずは現状を打開するためにどうすべきか、ちゃんとみんなで考えよう。
落ち込んだりするのは、万策尽きてからでも遅くはないはずだ。
■
「というわけで、なんとか寿命はもとの卒業まで回復しました!」
歌丸連理は元気よくそんなことを集まった北学区生徒会の面々(会長は除く)に言い放つ。
「……それで、迷宮での活動の影響は?」
氷川芽衣は冷静に制服姿の歌丸連理を観察しつつそう訊ねる。
「副会長、いきなりそれは……」
「湊さんはちょっと黙ってて。
歌丸連理の迷宮での活動は、この学園の迷宮攻略に直結してるの。
北学区の生徒会のメンバーとして、それを確認するのは当然の義務よ」
その場にいた英里佳を筆頭に数人が氷川芽衣に対して不快感を露にするが、反論するものは誰もいなかった。
この場にいる全員が、氷川の言い分が正しいと分かっているからだ。
「湊先輩、大丈夫ですよ。
どっちにしろ、これ治すのも迷宮攻略必須ですから」
歌丸はそう言って何でもないように自分の胸を軽く指でトントンと叩く。
「ぶっちゃけて言えば、僕の腹に埋め込まれた宿り木で、今までと変わらず動けます。迷宮の攻略ペースに影響はありません」
「その根拠は?
ドライアドからの宿り木の寄生……数こそ少ないけど、迷宮が出現してから屈指の苦痛を伴う残酷な死因の一つに数えられているわよ。今は根が張ってないけど平気なだけで、明日から激痛で動けなくなったり、魔力じゃなくて根の影響で内臓が機能不全を起こさない保証は?」
「私がつきっきりで管理しますので、問題はありません」
氷川の問いに答えたのは、苅澤紗々芽だった。
「歌丸君に植え付けた宿り木の種……放っておけば確かに内臓にも影響を及ぼしますが、そうならないように私が今も逐一魔力操作で調整しています」
「……ちょっと見させてもらうわね」
氷川は眼鏡――色を薄めているサングラスを外してあたらめて歌丸とそれに寄り添う紗々芽を見た。
スナイパーとして極限まで視力を強化した氷川は通常の肉眼ではとらえられないものを捉えることができる。
その結果、紗々芽が今この瞬間にも歌丸の身体に寄生した趣旨を調整しているのを視認した。
「……なるほど……魔力操作の技術が向上しているのは知っていたけど、すでに学園のトップクラス……金剛瑠璃と同等の技術……いえ、持続的な操作という意味ではすでにあなたの方が上なのかしらね」
そこまで言ってサングラスをかけなおす氷川
「その魔力操作で、歌丸連理への身体の負担を抑えることで、これまでと変わらないペースで攻略ができる。そう言いたのね」
「はい、ただ、先ほども言った通り付きっ切りでの管理が必要になります。
私を歌丸君と同室で暮らせるように手配してください」
「「「は?」」」
「え……」
英里佳、詩織、千早紀の三人が「何それ聞いてない」と紗々芽を見て、ナズナは驚きのまま首をかしげるが、紗々芽は気にせず氷川を見る。
「人命にかかわる処置ですので、今日からでもお願いします」
「……流石に男子寮はまずいから、ひとまず北学区の合宿で使ったところを使いなさい」
「わかりました。
詩織ちゃん、英里佳も、悪いけど護衛も兼ねて一緒に来て」
「わかったわ」「うん」
「紗々芽様、私も」「英里佳と喧嘩しないようにって約束できる?」
「…………わかりました、連理様の前では決して争わないと約束します」
「なら、大丈夫……ナズナちゃんはどうする?」
「え……私も一緒にいいの?」
「むしろ人では幾らあっても足りないくらいだから」
「う、うん、なら任せて! 食事の用意とか私、頑張るわ!」
あれやあれやと話が進む中、当事者である歌丸はぽかんとした表情で……
「あの、僕の意見は」「歌丸くん」
にっこりと、やわらかな表情で、そして言い聞かせるような柔らかな声音で語り掛ける紗々芽
しかしなぜだか歌丸にはそれが、有無を言わせない支配者のような圧力を覚えるものだった。
「今の私は、実質、歌丸君専属の主治医、だよね」
「……そう、ですね」
あまりに特異すぎる歌丸の症状に、東学区の本職の医師もお手上げ状態
取れる手段など、体内に魔力を吸収しないようにした無菌室ならぬ無魔力室を用意し、そこで寝たきり生活というくらいだ。
そんな中で白羽の矢が立ったのが、苅澤紗々芽
歌丸のほぼ思い付きのアイデアを実行可能にした魔力操作により、魔力を過剰に吸収する体質でありながら、その魔力で内臓が駄目になるという残念生物からも同情される体質になった歌丸がこうして十全に動けるようにできるのも、紗々芽あってのことだ。
「これまでと変わらず、迷宮攻略したいなら、私の言う通りにしてね」
「……はい」
自分でも紗々芽に無茶をさせている自覚があるので、おとなしく頷く歌丸。
ある意味自業自得でもあるので、誰もフォローしない。
「……まぁ、良かったっスね、連理、公認ハーレムじゃないっスか、あははははは」
「は、はは……ははははは……そうだね」
場の空気を和らげようとあえてお茶らけたことをいう戒斗
顔を引きつらせながらも同意する連理は頷く。
ちなみに……
(こんな羨ましいと思えないハーレムもあるんスねぇ……)
(これ、実質僕の介護のための集まりじゃん……ハーレムとか言われても、申し訳ないって気持ちでいっぱいなんですけど……!)
内心こんなことを思っているが、女子メンバー、というか紗々芽が怖いので絶対に言わない。
「……こほんっ……ま、まぁ……とにかく迷宮攻略はいままで通りです」
「ちなみに、レンりんのその病気はどうやってもやっぱり治せないの?」
金剛瑠璃が心配そうにそう質問すると、歌丸は首を横に振る。
「これは病気じゃなくて、体質に近いものらしいので。
現に、僕と同じ体質の英里佳や稲生は無事どころか、魔力量が増える結果になっています。
問題があるとしたら、それはやっぱり僕に、二人みたいに体質に適応した心臓がないこと、ですから」
「……それ、普通に言っていいのか?」
歌丸の発言に、会津清松がそう問う。
「仲間にはすでに話してます。それに、入院してた時の記録も隠してたわけじゃないですから……皆さんも知ってますよね?」
「……まぁな。というかお前の情報、わりと全世界に公開されてるから今更か」
「なら、話をまとめるとお前が助かるための方法は、当初と何も変わらない……そういう認識で、間違いないか?」
清松に続き、来道黒鵜の言葉に、歌丸は頷く。
「僕が迷宮にやってきた、当初の目的通り……エリクシルを手に入れます。
それで全部かいけ」「やっほぅーーーーーー!!!!」
ドガーンと、大きな音を立てて生徒会室の扉が蝶番からもげる形で開く。というか吹っ飛ぶ。
「……えぇ……」
割と決め顔で喋っていた歌丸は何とも言えない気持ちで振り返ると、そこにいたのはなぜか全身ボロボロ、何ならちょっと血がにじんでいるくらいの怪我をしているこの場に不在だった北学区の生徒会長・天藤紅羽がそこにいた。
「……お前、こんな時に今までどこにいた? というか、何があった?」
不謹慎な紅羽を責めつつも、軽傷とはいえあきらかに怪我をしている紅羽を心配する黒鵜
「え、なんかあったの? まぁ、そんなことより歌丸君、あなたに朗報よ」
「え、僕ですか?」
なんで急に、と話を振られて戸惑う歌丸だったが、続く言葉にその場にいた全員が絶句する。
「条件付きだけど、一対一で私を殺すことができたら、エリクシルが手に入るわよ!」
その瞬間、部屋の中の空気が変わった。
「――英里佳、止まって!」
「っ!?」
咄嗟に生身のまま天藤会長に攻撃しようとした英里佳
しかし、咄嗟に紗々芽さんが
「あら、止めちゃうの? 別によかったのに」
「紅羽……お前、分かってて言っただろ」
「もう、そんなに怒らないでよ。
ただもうちょっとだけ体を動かしたかっただけで、本気で戦うつもりはなかったのよ?」
「……本気でなくとも、あなたと榎並英里佳が暴れれば、部屋が無事じゃすみませんよ」
黒鵜と芽衣はそれぞれ怒りと警戒を露にしたまま紅羽を睨んだ。
「英里佳、落ち着いて。この人は今、条件付きと言った。
この場でこの人と戦っても、エリクシルは手に入らないの」
「……うん、ごめん」
そう謝罪しつつ、英里佳は怒りの矛を収める。そして当然ながらその謝罪相手は紅羽ではない。
「紅羽会長、それで何があったんです? 正直、今ってかなりふざけてる場合じゃないので、もったいぶらずに話してくれませんか」
「あら、瑠璃がそんなにピリピリしてるのは珍しいわね。
まぁ、いいわ。ついさっきまでなんだけど、私ちょっとドラゴン相手に殺し合いを挑んだのよ」
「「「は?」」」
「「「「「」」」」」
さらっととんでもない発言をする紅羽に、聞き間違いかと思ってしまう者、聞いてなお理解できず、思考が停止するもの
「それで、結果は?」
「もう、コテンパンのぐっちゃぐちゃね」
「こいつならやりかねないな」と思っている黒鵜のみが淡々と質問すると、紅羽は笑顔で敗北報告をする。
「もうほとんど治ってるけど、ソラとの融合も迂闊に解除できないくらいに負けたわ!
両手は取れかけるし、足なんて膝から下が何回転したかわからないし、全身の骨という骨は折れるどころか砕けて、内臓も飛び出た! 私、自分の内臓なんて人生で初めて見たわ!!」
大興奮で、まるで初めての体験を親に一生懸命に語る子供のように告げる紅羽
もっとも報告内容が異次元過ぎて、流石に黒鵜も頭が理解することを拒みそうになって呆然とした表情になりかける。
「あのドラゴンが、そこまで反撃をしたんですか?」
一方で歌丸は紅羽のその発言に驚いた。
いつも飄々として、こちらの攻撃を一方的に受けるドラゴン
しかし、今までドラゴンから直接的な攻撃をしてきたことはほとんどなかったから、歌丸はちょっとそのイメージがわかずに驚いたのだ。
「ええ、最初はいつも通りだったけどね……なんかつまらないから、反撃しないなら歌丸君を殺すって言ったら「やれやれ」って言いながら攻撃してきたわよ!」
「――――――」
まさかの知らぬところで自分を人質に使われていたことを知って絶句。
そしてまさかの自分がドラゴンに救われていたと知って理解不能状態に陥る歌丸なのである。
「まぁ、ソラと融合した私相手なら普通の人間と違って並みの致命傷でも死なないってわかってたんでしょうね。
そうじゃなかったら、ドラゴンも私にあれだけの攻撃をしてこないわよ!」
なんの自慢にもならないことを誇らしげに語る紅羽
……いや、全世界の軍事兵器を圧倒したドラゴンの攻撃を受け、その上でこうして無事に生還しているという事実を考えれば十分に凄いことなのかもしれないのだが……なんせその過程が酷過ぎて誰もそこに目を向けようとも思わないのだ。
「で、私も流石に内臓こぼれたままじゃまずいかなって思いつつも次の攻撃を考えてたんだけど……ぶっ続けで5日間は戦ってたから流石にドラゴンもちょっと待ったって止めて来てね」
「おい……靴紐解けてる感覚で内臓が飛び出てるってのは……まぁ、この際は置いておくとして……5日間? ってなんだ、お前が姿見せなくなってまだ半日程度だろ。
そもそも、一体どこで戦ってたんだ?」
「そんなのドラゴンが私と戦う空間を学園から遮って、そこだけ時間の流れを遅くしたに決まってるじゃない。清松も馬鹿ねぇ」
「………………………」
「落ち着け、無言で武器を取り出そうとするな」
室内であることを考慮してるあたりは一応冷静さを保っているんだなぁと思いつつ清松を止める来道
そして、一応は知っていたがドラゴンが改めて空間と時間……時空を自由に操作できる存在であると再確認する。
そういえば、この生徒会長とドラゴンが戦っていて、自分たちが気づかないなんてこと考えれば、確かにそれくらいしないと不可能だなとその場にいた全員がひとまず納得することにした。
「今から9月いっぱい、毎日の放課後の6時以降、一人につき一回のみで私に挑む権利を北学区全員に分け与えるように提案されたのよ」
「……ドラゴンの提案を、受けたのか?」
「ええ、楽しそうでしょ! しかもね、その期間で私が一回も負けなかったら、制限時間の残り分をドラゴンが本体で全力で戦って」「待て待て待て待て、落ち着け、まずは順番を整理しろ」
自分の言いたいことだけをマシンガントークで話し出そうとするのを諫める黒鵜
一方で氷川と瑠璃はお互いに目配せをしてすでにPCを起動しての録音と、手帳でのメモを取る準備をしている。
「おっと、うっかりしてたわね。
えっと、じゃあドラゴンに提案された、この私、天藤紅羽VS北学区生徒のルールを簡単に説明するわね!」
そういって彼女が語りだした内容は、以下の通りだ。
1
天藤紅羽に一日に一回、9月中に一人につき一回、中央広場での制限時間付きの模擬戦に挑戦できる。
2
体育祭での死亡無効の結界が張られた状態で、天藤紅羽を倒すか、制限時間まで生き残ることができれば勝利。
3
勝利した場合に限り、十人ほどなら、100万の現金か、それ相応の価値の者、五人なら500万、一人なら無制限で、エリクシルでもドラゴンに要求できる。ただし時間制限での勝利の場合はワンランク賞品の価値が落ちる。
ちなみに人数がさらに多くなれば、1000万を人数割りで分配。
4
そして一方で天藤の方は挑戦者を早く倒せば、残った時間の合計を使って、最終日に天童紅羽はドラゴンの本体への挑戦権を獲得。
そしてその際、人数の制限はなく、同時にドラゴンは使用する能力を紅羽が任意で制限した状態にできる。
といった内容だった。
「つ、ま、り」
天藤紅羽はそこまで説明してから、さきほど真っ先に自分を攻撃してきた英里佳を見て、楽しそうに笑う。
「私を倒せばエリクシルが手に入って、私を倒さなかったら……」
「…………」
今も紅羽を睨む英里佳の前に指を突き出す。
先ほどまでドラゴンと戦っていた、血のにじんでいる指を。
「あなたは、卒業間近を待つことなく、時空を操作するなんてデタラメのないドラゴンを倒すチャンスを得られるの」
親の仇であるドラゴンを倒す。
「ねぇ、とっても魅力的でしょ?
あなたも私と一緒にドラゴンを――」
そのために学園にやってきた英里佳にとって、その提案は……
「――うるさい、黙れ」
――ゴミにも等しいものだった。
「へぇ、断るのはわかってたけど、迷わないんだ。そこは意外」
多少の驚きはあれど、相変わらず楽しそうに笑う紅羽
「おい、天藤、楽しそうなところ悪いが、今の歌丸の症状は結構深刻なんだ。
ドラゴンと戦いたいっていうお前の考えも、一応は理があるのは認める。
しかし」「いやよ」「……まだ詳しく話してないだろ」
清松が諫めようとしたところ、即座に切り捨てる紅羽。
その際の彼女の表情は、冷たいものであった。
「そもそもこんな都合よくドラゴンがエリクシルを用意するなんて言い出すのは、なんでだと思う?
私もすでに、歌丸君の症状についてはさっきドラゴンに聞いたわよ」
そんな紅羽の言葉に、誰もが驚きを見せつつ……
「なんで
「まぁ、ドラゴンっスからね……」
人外の情報収集能力に一部戦々恐々としていた。
「お前」「会長、念のため、改めて提案はさせていただきます。
歌丸の治療のため、エリクシルを手に入れたい。そのために、私たちの誰かと戦って負けてください」
「ふふ、いーやっ」
激昂しそうになる清松を抑え、氷川が改めて提案しても、紅羽は楽し気な表情のまま断る。
それにこの場にいる者たちが怒りをいだくが、その中でも特に英里佳が紅羽に対して強い敵意を抱く。
「そこまで知っていて、あんたは私情を優先して歌丸君を見捨てるつもり!」
「別に今すぐ死ぬわけじゃないんでしょ? さっきの話も一応こっちに来る途中でちょっと聞こえてたのよ。
迷宮攻略のペースは変わらないんでしょ? なら別に放っておいていいじゃない」
「……今のあなた、ドラゴンよりもずっと質が悪い」
「あら、心外。でも、むしろこの状況を分かっていてエリクシルを賞品に出すって提案したあっちも大概でしょ」
「……紅羽、冗談抜きでお前、考え方がドラゴンと似て来てるぞ」
このままでは英里佳が紅羽に対して再び襲い掛かると思ってか、黒鵜が紅羽の前に立つ。
「ふぅん、どんなところが? 別に今までと何か変わった覚えもないのだけど」
「そうだな、お前の行動の一貫性は変わってないかもしれない。
ここでどんな会話をしたとしても、結果は変わらないんだろうなって、俺もそう思うよ。
だが……お前、今の歌丸の姿を見て、何も感じないのか?」
「?」
黒鵜の言葉の意味が分からず、紅羽は一度歌丸を一瞥する。
しかし、それだけだ。
「まぁ、大変そうなんじゃないかしら」
「……それだけか」
「ええ、それ以外に何かあるのかしら?」
「……俺の知っている天藤紅羽は、確かに他人への興味関心は薄い奴だった。
でもな……他人が頑張っているのも、必死に苦痛に耐えている姿を見て、それをそんな、価値を無いように断ずる奴じゃなかった。
お前は今、何を見てるんだ?」
「うーん……ちょっと何言ってるのかよくわからないけど……
……ああ、でも確かに、弱かったころの黒鵜もすっごい頑張って今みたいに戦えるようになったのよね。結果を出しているところは、私本当に凄いなって思ってるわよ。
もしかして、今の歌丸くんと当時の自分を重ねてるの? そんなことして、いったいどうしたいの?」
「――……そうか。お前、本当に変わったんだな」
黒鵜はそこまで言って、一度目を閉じてから再び紅羽を見据える。
「その模擬戦の開始は、いつからだ?」
「望むなら今日……今から開始でもいいわよ」
9月9日 1戦目
北学区生徒会長 天藤紅羽
VS
北学区生徒会副会長 来道黒鵜
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