第344話 地上へ
■
スヴァローグとの戦闘から約1時間後
「……ふぅ、問題なく地上と個々の往復ができるぞ」
地上へとつながる魔法陣
そこから一度地上へ向かい、ほんの数秒で戻って来た来道黒鵜
その様子を確認し、周囲で状況を見守っていた大人たちが沸き立つ。
「帰れる……」
「本当に……地上に……?」
「……父さんや、母さんに……また、会えるのか?」
興奮から目を輝かせ、その波は徐々に大きくなっていくがさすがは大人というところか、すぐに転移の魔法陣へと殺到するということはなかった。
「……な、なぁ……この魔法陣使った場合、俺みたいな奴は、どう……なる?」
恐る恐るという具合に周りにそう質問したのは、流暢な日本語を話しているが、中東系の日に焼けた肌の男性だった。
「どうといわれても……地上には、出られると思いますよ」
「いや、そうなんだろうが……その……仮に出たとして、それってやっぱり元居た国の学園、だよな?」
「……その可能性はかなり高いですね」
黒鵜は男性の言葉に頷くも、断言はしなかった。
もともと、スヴァローグは次元をいじっており、当初の歌丸が無事だった段階では、ドラゴン曰く、東部迷宮学園以外の者は地上へ帰れる状態になるというものだった。
だが、イレギュラーでスヴァローグがこちらに下りてくるということで、黒鵜の次元干渉等の必要が不要になり、そのあたりの検証もしなくなった……というより、する暇がなかったというのが正しい。
「世界情勢について、君たちと情報を共有した時……当時の状況からも推察していたが、俺のいた学園はすでになくなっている可能性が高い……その場合、俺はいきなり何もない荒野に放り出されるようになるのか……?」
「……確かに、アジア圏や中東にはすでに迷宮内部での紛争や人口減少で統廃合された学園がいくつかあるとは聞いていますね。
その場合の出口は……すいませんが、正直俺では把握はできません」
「そう、だよな…………それに、これは俺だけじゃなくてこの場の全員にも言えるが……俺たち……その、留年した連中は、一回地上に出たら、もう一度ここに戻ってこれると思うか?
それに、妻……家族や、ここで生まれ育った子供たちは、地上に出られるのか?」
そう言って、男性は不安そうに傍らにいた妻と思われる鬼の女性や、状況が分からずキョトンとしている小さな鬼の子供を抱き寄せた。
そう言われ、黒鵜は考える。
(正直言って、俺には対処できる領分を超えているな。
さっさと地上に戻って状況を報告して、ぶっ倒れた歌丸を雲母に……いや、東学区で精密検査受けさせたいんだが)
黒鵜はほんの一瞬に、この先のことを考える。
(――この里には、現時点で地上を超えている農業の技術がある……そして、シャムス……彼女は魔剣を作り直しており……そして地上に多く出回っている魔剣の類はこの里にいたテツさんが作った。
農業については、歌丸はスキルを持っているだけで専門外だし、稲生は畜産の方がメインだから調べるなら土門みたいな専門家が後から来てもらわないとわからないな。
そして魔剣だが……テツさんがすでに亡くなっているが……シャムスがいる限り魔剣の製造事態は可能。疑問点としては地上での再現性はあるのかだな。
過去に魔剣を地上の技術で再現しようとしたが結局うまくいかなかったという研究結果もある。
鬼の体質なのか……他だと、もしかしたら、この場所で作ることが魔剣の条件だった場合、やはりどう転んでもこの里での心象を悪くするのはデメリットしか発生しない)
「その件に関しては……申し訳ありませんが時間をください。
どうにか学園長と話をして、調整をしてみますので……それまでは、大変申し訳ありませんが皆さんはまだこの里に留まっていただけないでしょうか」
地上に戻ったら事務処理の確認事項の多さをこの段階で認識し、顔には出さないながらもげんなりとした気分となる黒鵜。
「――いえいえ、それには及びませんよ」
そんな時、ふいに自分の背後から声が聞こえ、驚きとともに即座に距離を取って臨戦態勢を取る黒鵜
とはいえ、自分の背後を容易にとれる存在など、その時点ですでに検討がついていたので、咄嗟に動いた段階で黒鵜はそこに誰が――否、何がいるのかは検討がついていた。
「……直接来られるとは、ずいぶんと早く気が変わったようですね、学園長」
警戒は緩めつつ、臨戦態勢はそのままに黒鵜がそう問うと、その場に現れたピチピチのスーツを着たドラゴンがにやりと口元を歪めた。
「ええ、あの面倒な牛がいなくなったので、こうして堂々と来ちゃいましたのですよ」
突然のドラゴンの出現、その光景に里にいた者たちは驚愕に目を見開き、中には平伏すものまで現れた。
「ああ、どうか楽にしてください。
皆さん故郷に帰りたい、地上に出たい、けど今の家族と離れたくないとかいろいろあるでしょうけど……まぁ、とりあえず積もる話はあるでしょうけど、ひとまず準備ができ次第、全員で地上へ向かいましょう!」
大仰に手を広げ、そして里にいるすべての者たちに聞こえる声で、ドラゴンは宣言する。
「長き時をこの地下で過ごした人類の皆さん、地上の仲間たちがあなたたちの歓迎してくれるでしょう!」
■
スヴァローグ討伐から、一夜明け……
地上に出ると縁日やってた。
どうも、状況に困惑していて何もわからない歌丸連理です。
「わー!」「すげー!」
「うたまる、あれなになに!」
そして僕は現在、保育士みたいに腕白な60層で生まれ育った子供たちの引率(強制)をしています。
まぁ、とくに頼まれたわけでもなく、好奇心が旺盛ながらもどうすればいいのかわからない子供たちが僕に集まって来たんだが……
「えっと、あれはお店で、地上の食べ物を売ってるんだ。お金を払えば買えるんだ」
「おかねってなにー?」
「え……あ、そうか……里じゃ通貨はなくて基本物々交換だったか」
うーん……これは僕のお金で奢るしかないか。まぁ、僕って他のみんなより装備に掛けるお金少ないから平気だけどさ。
「――大丈夫よ、60層から来た人たちは今日だけは出店のものは全部タダよ」
そう悩んでいると、何やら若干の疲労と苛立ちが含まれた声が聞こえてきた。
「あ、氷川……先輩」
「今更あんたの敬語とかいいわよ、気持ち悪い」
氷川、この野郎――じゃなくて、女郎
我らが来た学区のもう一人の副会長である氷川芽衣
奴はその場でかがんで、僕の近くにいた子供たちと目線を合わせる。
「初めまして、私は氷川芽衣っていうの。
今日はあなたたちを歓迎するために、みんなを集めたの。だから、どうか好きなだけ楽しんでいって」
「……えっと、あれ、あの甘い匂いのふわふわ、食べていいの?」
「わたあめね、ええ、もちろん。あっちのお肉や、フライドポテト、かき氷、食べ物だけじゃなくて射的や輪投げやくじも、好きなだけ遊んできてもいいわよ」
氷川がにっこり笑ってそういうと、まるで蜘蛛の子を散らすように子供たちは先ほどから興味津々だった屋台へと駆け出していく。
「歌丸、範囲共有ってあの子たちにも有効?」
「うん、一応今も意識覚醒だけはつなげてるけど」
「ならそのままでお願い。私のスキルで迷子にならないように管理するから、あんたはあっちのテントで
そう言って氷川が指さした先には、白い幕で覆われたテントがあり、天幕のところには救護用と黒く書かれていた。
「別に僕、今回は怪我してないけど」
「……え、本当に?」
なんだろう、僕って迷宮で何かトラブルに巻き込まれると大怪我するっていうのはもう共通認識なのかな?
「……」
「……」
「………」
「………」
「………………」
「………………」
いや、何この時間?
「本当に怪我してないのね?」
「ええ、まぁ……今回のボスみたいな牛と戦う前に僕ダウンしたんで」
「ダウンって……いや、それ結局怪我みたいなものでしょ」
「いやでも、今回は本当に僕、一発も敵から攻撃受けてないんで。実質ノーダメージ!」
「ふぅん……で、具体的なダウンの原因は?」
「うちの子ウサギとの融合を限界一杯やったらちょっと血涙出て三日くらい寝込んでました」
「さっさと検査受けてこいアホンダラ」
「いったい!?」
文字通りに尻蹴っ飛ばされた。
「たくっ、次から次へと……!」
不機嫌そうに顔をしかめて、地上へやってきたことに戸惑っている大人たちの方へと向かう氷川
なんであんなに怒ってんだと思いつつ、僕はとりあえず救護テントへと向かう。
「あ、歌丸君……お尻、どうかしたの?」
「いや、なんでもない……というかみんなも検査受けてたの?」
僕よりほんの少し先に地上へと戻っていた英里佳はテントの中に備え付けられている椅子に座っていた。
「というより、スヴァローグと直接戦った人優先で見てもらえって言われたの。
さっき……でも、なんで急にこんなことになっているのか」
「だよね……地上に戻ったらいきなり縁日会場みたいになってるし……本当にこの学園この手のイベント好きだよねぇ……」
「それがそうでもないんだよね~……」
僕たちが会話していると、ふらりとテントに誰かが入ってくる。
「きゅるぅ!!」
「おっと、ワサビ、元気だったか!」
それに合わせて僕の方へと飛び込んできたウサギ――エルフラビットのワサビは僕に抱えられた状態で頭をこすりつけるようにして甘えてくる。
「瑠璃先輩、ワサビのことありがとうございました。」
「いいよいいよ~、ワサビちゃんはいい子だったし、そっちも大変だったみたいだし……」
「……あの、さっきのってどういう意味ですか?」
英里佳が先ほど瑠璃先輩に問う。
……なんかよく見ると瑠璃先輩も疲れてる? いつも飄々とした印象だったからちょっと意外だな……メイクでぱっと見は気づかないが、クマもできてるのか、これ?
「実は昨日……というか、あなたたちが地上に戻ってこれるってなったタイミングで、ドラゴンが学園中にいる生徒も大人も関係なく全員を大音量の咆哮で起こしたのよ。
私やメイメイはまだ緊急時に備えて待機してたからよかったんだけど……急に私たちに60層からくる客人を迎える準備をしろってなったの……
いきなり無理とはいったんだけど……やらなきゃ今から学園レイド開催するって脅しをかけてきたから……もう急いでこの縁日みたいな体制を整えたんだよね……もう、方々に連絡して頭下げて回って……本当に疲れた」
「「お、お疲れ様です……」」
「あはは、まぁ、そういうわけで私はちょっと仮眠であっちのベッド借りるから……おやすみ~」
どうやらこの縁日会場、文字通りの一夜漬けで完成させたらしい。
ドラゴンの奴、どうに浮足立っているような印象を受けるな……まぁ、まだ僕は昨日から会ってないけどね。会いたくもないし。
「おい、榎並、お前が次……って、歌丸連理、お前いたのか」
「あ、鬼龍院」
幕で仕切られた向こうから鬼龍院が顔を出した。
「どうだった?」
「異常なし、だ。
そもそも、今回の作戦で大怪我を負うようなものにはしてないし、俺がさせるか。
とはいえ、鬼形の呪いのこともあるから念のために受けたに過ぎない……それより、榎並」
「なに」
「今回の作戦はお前への負担が大きかった。
今回のことで異常があったり、何かあったときはこちらからもフォローするから、遠慮なく言ってくれ」
「わかった、一応覚えとく。
それじゃ、歌丸君、お先に」
「うん」
鬼龍院と入れ替わるように幕の向こうへと行く英里佳。
それを見送り、鬼龍院は救護テントから出ていこうとするが……
「鬼龍院」
「……なんだ?」
「呼び止めただけでなんでそんな嫌そうな顔するんだよ……」
「ほぅ、俺に笑顔を振りまいてほしいと? はっ、反吐が出る」
「それについては概ね同意する……いや、そうじゃない。
別に憎まれ口を叩きたいわけじゃない…………その……今回は迷惑かけた」
「は?」
何言ってんだお前、的な目で僕を見てくる鬼龍院
「今回は、結局僕は役に立たなかったし……なんか最後はお前が全部まとめてくれたって後から聞いた。
それに、そもそもスヴァローグが降りてきたのも僕が迂闊に攻めたのがきっかけみたいだし……尻拭いさせたみたいだなって思って――ったぁ!?」
なんか急に襟を掴まれたと思ったら、思いっきり頭突きをくらわされた。
「謝罪のつもりだったら今すぐ口を閉じろ。煽りにしか聞こえん」
「え、えぇ……なんだよ人が折角」「黙れ」
襟をつかむ手にさらに力が籠められ、鼻先がぶつかりそうなほどに顔が近づく。
そしてその状態で、鬼龍院は鬼気迫る眼光で僕を見る。
「あれはお前じゃなくて、あの場にいた全員の総意での決定だ。お前が一人でうだうだ責任背負った気になるな」
「いや、で」「でもも、かかしも、ねぇ」
有無も言わせぬ迫力に、僕は思わずそのまま口をつぐんだ。
「そもそも俺はテメェをまともな戦力としてカウントなんてしねぇ。できてせいぜい囮程度だ。
ドラゴンスケルトンの時も、体育祭の時も、お前を戦力としての期待なんざこれっぽっちもしてねぇ。
なのに、だ。遭難した時のあの天使モドキのイレギュラー、あれが俺にとってどれだけ屈辱だったか、お前は何にもわかってないだろ。
今回も、あの牛に最初はお前をぶつけることを想定しなきゃいけなかった俺が、どれだけ惨めだったか、気づきもしないんだな」
鬼龍院の怒気が強まるが、それはきっと僕じゃない。鬼龍院自身に向けられていた。
「いいか、今回のこの結果が、特別なことだなんて思うんじゃねぇぞッ」
掴んでいた手を放してそのまま突き放し、僕に向かって指をさして宣言する。
「榎並や三上、そしてあの場にいた連中を戦える状況に整えるのがお前の仕事だ!
そして俺はその駒を適切に動かして合理的に勝利した。普通のことだ。これが!
お前にとっての戦いの場は、俺たちの戦う前に、お前のできることをすべて費やすことだ! そっから先につまらない欲を出すからボロを出すって学べ!
だからこそ、今回お前がぶっ倒れたのは想定外ではあってもお前はお前にできるベストをすでにやりつくしていた! すでにお前はもう、ベストを尽くしていた!
つまり、お前の失態は自己管理の失敗であって、それ以外に問題はなかった! だから謝るな! その頭を、軽々しく下げるな! お前のベストの上で、成果を獲得した俺たちみんなの功績が軽くなるだろうが馬鹿が!!」
「…………」
「……っ……ふん」
僕がぽかんとしていると、鬼龍院は顔を背けて今度こそテントを出ていこうとする。
その背中に、僕は今度は何か言葉を掛けたいと思ったのだが……
「鬼龍院……その……あり、が…………――お疲れ!」
「うるせぇ」
なんか素直に礼を言いたくないという感情がストッパーになり、なんか場違いな言葉をかけてしまった。
思わず頭を抱えてその場でしゃがみ込む。
「……はぁ……何してんだ、僕は?」
「青春してるわね」
「……あれ、湊先輩、英里佳の診察は終わったんですか?」
「それなんだけど……ちょっと来て」
「はぁ……」
天幕から出てきた湊雲母先輩
北学区の救命課の生徒であり、生徒会の会計を務めている。
そんな先輩に呼ばれ、僕は英里佳がまだ出て来てないテントの奥の方へと入っていく。
その際、診察ということなのでワサビはいったんアドバンスカードの中に戻しておいた。
奥に入ると、そこにいた英里佳は先ほどと同じ状態で、問診ように設置されたパイプ椅子に座っていた。
「歌丸君、ちょっと榎並さんの目を見て、何か気づくことない?」
「目?」
どういうことかと思ったんだが……よーく英里佳の目を見てみる。
「……透き通る青い瞳の英里佳の目だが……今はなんか……少し色が……紫色になってる……?
あとなんか白目の部分が……青くなってるような気が……」
「……歌丸君も、なんか、そんな感じだよ?」
「え」
英里佳からそんな指摘を受け、思わず首をひねる。僕の目も?
「歌丸君、ちょっと鏡で見て、自分の目」
「え、あ、はい」
鏡を出され、それを確認したところ……なんか僕の目も英里佳と似たような状態……いや、英里佳よりもはっきりと色濃く瞳に紫が出ており、白目部分は青みがかり、なんなら一部色濃い青い小さな斑点があった。
「二人とも、なんか視覚に異常はない? 体調の方は大丈夫?」
湊先輩のその言葉に、僕も英里佳も同時に首を振る。
特にそういった覚えはないのだ。
「自覚症状はなく、それで眼球の異常はあっても視覚に問題はない……」
「……え、なんがですか? 英里佳、知ってる?」
「う、ううん……私も何が何だか……」
深刻そうに口元に手を当てて思案する湊先輩
なんだか知らないが、そういう態度をされるとものすごく不安になってしまうのだが……
「二人とも……とりあえずそこのベッドで横になったまま、絶対に動き回らないで。
私はすぐに東学区に連絡入れるから、絶対に安静に、スキルとか……とにかく学生証の類とかは絶対にいじらないで。いい?」
「「は、はい」」
普段は見ない迫力ある湊先輩の言葉に、僕も英里佳も頷いた。
一体どうなるのだろうかと、僕も英里佳も漠然とした不安を抱くのであった。
■
「ここが……地上」
「ああ……当初の想定よりもだいぶ賑やかだけどな」
前線基地から地上へと出ると、そこに並ぶのは日本の縁日を思わせる光景
西や南学区の生徒たちが出している出店の食べ物や遊びに、60層の里で育った子供たちが興味津々で食いついているし、その親である者たちも、地上の風景や明るさに驚きつつも、感動しているようだった。
そしてシャムスもまた、初めての地上のただただ茫然と、空を見上げていた。
「あの、眩しいのが……太陽なんですね」
「ああ、君の名前の由来だ」
太陽を手をかざしながら目を細め、しかし嬉しそうに見るシャムス
そんな彼女の傍らに立つ萩原渉。
「渉さん」
「なんだい?」
「……約束、守ってくれてありがとうございます」
60層の、シャムスの両親の墓の前での約束を果たしたのだ。
――復讐を成し遂げ、地上へと連れていき太陽を見せる。
心のどこかで、無理だと思っていたそれは、今叶った。
「いや、まだまださ」
「え……」
「いったろ、日本にも、君のお母さんの故郷にも連れて行くって……まぁ、そっちは学園卒業してからになるけどね」
「……いいん、ですか……そんな先のこと……私なんかのために」
「なんかじゃないさ」
渉はその手を伸ばし、シャムスの頬に添える。
「きっかけはテツさんの思念だったってのもあるけどさ……今は、そういうの抜きにして、俺は君の傍にいたいって思ってる」
「……渉さん」
「だか「ぎゅう!」がばらっ!?」
唐突の下から突き上げるような衝撃
その場で膝をついて痛みに悶えていると、渉の目の前に剣吞な雰囲気のウサギ――ドワーフラビットのギンシャリがたたずんでいた。
「い、いきなり何を……!」
「ぎゅ、ぎゅぎゅう」
渉の睨みなど意に返したふうもなく、ギンシャリはその耳で何かを指し示す。
そこにあるのは、渉の腰にある刀
――鬼形・子跨咬がある。
もっとも、刀身が折れているので本来の性能も発揮はしないのだが……
「……え、あ、ああ……壊したことについて弁償しろ、と?」
「ぎゅう」
「いや、確かに予定外の結果で壊れたけど俺のせいじゃないし、言われなくても頼むつもりだったから別に今じゃなくて……」
「ぎゅぎゅぎゅぎゅう!!」
「いった、いったい! お、お前今回大して活躍しなかったからって俺に八つ当たりしてんだろ!!」
「ぎゅう」
「それがなにか」と言わんばかりにふてぶてしい態度を取るギンシャリ
「お前……俺にとって初めての告白を台無しに……!」
割と冗談抜きで殺意が沸く渉
この折れた鬼形で耳を切り落としてやろうかと考えたところである。
「ふっ、ふふふ……ウサギさん、そのくらいにしてください。
心配しなくても、あなたのご主人様の剣は、私がちゃんと打ちますから」
「ぎゅう」
シャムスの言葉を聞き、ギンシャリは満足したように頷いて去っていく。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……すまん」
何とも情けないなと思いつつ、シャムスの手を借りて立ち上がる渉。
そして――
「さっきの続き、また今度聞かせてください」
そっと耳元でささやかれたその声
先ほどまでクールに装っていた渉は、自分の耳が熱くなるのを実感した。
「……はぁ……そう、だな……うん、絶対に、な」
折角の覚悟を決めたのに台無しにされた渉。
気が重くなりつつも、シャムスの言葉にちゃんと頷くのであった。
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