第342話 スヴァローグ攻略 ⑦渉君、後で殴られる。
■
――頭が、痛い……
「ぁ、う……」
咄嗟に声を出そうとしたが、喉がつっかえてうまく声が出せない。
瞼をゆっくり開けると、木造住宅の梁がそのまま見える天井が目に入った。
「連理様、どうされました?」
横から声を掛けられてそちらに視線を向けると、そこには千早妃の姿を確認する。
うっすらとした月明かりのような光によって、障子を隔てて外に日下部姉妹がいるのが分かる。
「……僕、どれくらい、寝てた?」
「意識が戻ったのですか?」
「え……あ、うん……」
ひとまず起き上がろうとするが、上手く力が入らずに倒れそうになるところ、千早妃が補助してくれたおかげでどうにか上体を起こせた。
「ありがと……それで、僕どれくらい寝てたの?」
「覚えてはいないのですか?」
「何が?」
「ここ数日、何度か起きて……あの餓鬼畜生――もとい、鬼龍院から無理をさせられたりしていたのです」
え、なにそれ全然覚えがない。
鬼龍院がガキなのは事実として……ひとまず状況を整理しよう。
たしか、スヴァローグへ攻撃を仕掛けて、鬼の存在が奴の有効であることはわかった。
そのあたりから意識がないことから考えて倒れた原因は……
「僕、融合の影響で倒れたの?」
「はい、そうです」
おぉう……融合……というより、あの二匹と融合した状態でスキルを連発したのが駄目だったのか?
まぁ、もともとあれって僕と稲生が二人で分けて使うのが前提みたいにスキルが作られているのを、無理矢理一つにまとめて使ってるからなぁ……僕でもスヴァローグとやり合えるようになるくらいにぶっ壊れ性能のスキルに化けたけど……まさかこんなデメリットがあるとは……もっとちゃんと検証してから使うべきだったかもなぁ……
そんなことを考えていると、ぐぅと腹が鳴る。
「綾奈、文奈、水と食事を」
「「はい」」
千早妃の声に、障子の傍にいた二人が足音もなく移動するのを影で見た。
「ありがと……ああ、そういえばスヴァローグの攻略についてはどうなったの?」
「それについてもお話しますので」
「…………あれ?」
ふと、ゆっくり周囲を見回して気づいたのだが、この部屋……僕たちにあてがわれた平屋ではないようだ。
「ここは……」
「村の中でも、高台にある住居を借りています。
意識がないときに、こちらに運ばせていただきました」
「なんで移動……を……ん?」
そこで、僕はふと気づいた。
来ている服がいつもの制服ではなく、浴衣のようなものに変わっていることに。
そして、冷静になって千早妃の言葉を思い出す。
ここ数日……つまり、僕が覚えていないだけで、どう少なく見積もっても二三日は経過しているわけで……
――その時、あふれ出る、灰色の小・中学生時代を病院で過ごした忘れていた記憶
「…………千早妃」
「はい」
「僕が倒れてから、具体的にどれくらい時間が経ったの?」
「……今日までで数えて九日目、ですね」
「その時の食事は……?」
「意識がないときは、ゆっくり少しずつ粥を……意識がぼんやりある時も柔らかいものを少しずつ噛ませてました」
「……体拭いたりとかは……」
「私と稲生さん、それに紗々芽さんが」
あが、あががががががが……! もうこの時点で頭が……!
だって、今気づいたけど、僕が今履いてるのって、なんか明らかに最初に吐いてたパンツでもないし……
「……ト、トイレは……」
「それは」「ごめん、やっぱ言わないで……」
入院生活の時に慣れてたつもりだけど、あっちは看護師とかだったわけで……
「……その、誰がやったのかは知りたくないけど、ご迷惑をお掛けして申し訳なかったと伝えてもらっていい……?」
「はい、わかりました」
……まぁ、着替えとか体拭きしてくれたって時点でおおよそ察しがつくけどさ……確証ないけど、もうメンタルががががが……!
……というか、ほかのみんなどこ行ったんだ?
特にシャチホコがいないのは妙だな……聴覚共有は……なんだ、別の階層にいる時みたいにつながらない?
……なんか、嫌な予感がする。
「……千早妃、僕の学生証とシャチホコたちのアドバンスカードはどこ?」
「そちらにある制服と一緒にあります」
「そっか……よっと……」
枕元に置いてあるたたまれた制服の上にある二枚のカード
それらを指で挟むようにして手に取る。
…………やっぱり、今、英里佳とシャチホコが融合してるようで
しかも、これ、詩織さんの
なら、ほぼ確実に二人はスヴァローグと戦っているはず……!
「行かないと……!」
「駄目です」
すぐに制服に着替えようと手を伸ばすが、今度はそれを千早妃に阻まれる。
「何を」「もとより連理様は前に出て戦える能力はありませんし、今も万全とは程遠い状況です。どうか、ご自愛ください」
僕がしゃべるより先にそう断言する千早妃
僕の手を掴むその手に込められた力と僕を見つめるその目には、絶対に僕を向かわせないという意思がのぞける。
「でも僕が行けばそれだけで、少なくとも先輩たちもスヴァローグと戦え――」
その時、僕の手にある学生証に通信の反応があった。
通信は相手を指定したものではなく、無差別の無線状態
しかし、発信者が誰なのかは表示されており、僕はそれをすぐに起動した。
■
59層の火山エリア
そこに、歌丸連理の似姿をしたスヴァローグが階段から登ってきて、必死の形相で溶岩の方へと向かっていく。
精神汚染の影響で思考力が弱っていても、回復をするために熱をより多く吸収しようと本能的に理解しているのだ。
そしてその姿のまま、溶岩に頭から突っ込む。
これが歌丸本人だったなら頭は骨も残らず燃えているところだが、スヴァローグ自身は熱を力に変える体質故に、そのまま熱を吸収し、体が徐々に大きくなっていく。
そしてその姿が歌丸連理から、当初の燃え盛る体毛を持った巨牛へと姿を変えた。
『 ァ BO !』
姿が大きくなったが、スヴァローグはふらついた足取りでそのまま横たわった。
そして体が震わせて痙攣を起こし、その場から動かない。
鬼形・丑裂の影響が今も残っているのだ。
外傷は見当たらないが、すでにその体の内側から流し込まれた呪いは消えない。
『憎イ』『赦サナイ』『死ネ』『消エロ』『死ネ』『死『死ネ』』『死ネ』』『『『『『死ネ』』』』』
『 !?』
声にならない絶叫を上げてのたうち回るスヴァローグ
自分の内側で別の何かが暴れまわる痛みと不快感で、周りが完全に見えずただ暴れまわることで気を紛らわせることしかできなかった。
それ故に――
「疾風の型・颯!」
「テンペストラッシュ」
鬼化によって気配が消えた二人、その攻撃に気づけないスヴァローグはまともに呪いの刃と氷の刃をその身に受ける。
『BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!??』
内側の他、外側からの痛みに更なる絶叫を上げつつ、体を浮かせて無理やり起き上がる。
そして見回せば、その視界の先にいるのは二人の鬼
より正確に言えば、鬼化した萩原渉と、三上枝織だった。
「くそ、踏み込みが浅かった!」
背中に傷はつけたが、致命傷には至らない傷を見て顔をしかめる渉
鬼形・丑裂を使いこなすために、意識が朦朧としていた時の歌丸を無理矢理に起こしてスキルを譲渡させた、保険の一つ。
斬ろうとした相手を認識し、そして斬ろうという意思をもって剣を振ったとき、剣が当たるタイミングには相手を間合いに捉えるという、サムライの最上位スキルの一つであったが、スヴァローグの致命傷には到底届いていなかった。
「いえ、単純に耐久が高いのよ。
ルーンナイトに鬼形の強化で底上げしたこっちの攻撃も大して効いてないし」
一方の詩織は、左手に鬼形・
斬った直後は体毛が凍り付いたがすでに氷が解けているし、この瞬間にも再生が進んでいる。
一方で丑裂の方で傷つけた傷はくっきり残っていることを考慮すると、やはり丑裂はスヴァローグに対しての強い呪いにより、その再生能力を阻害する効果があるようだ。
『――BUO,GU GA g、gggガ !』
しかし、それは同時に汚染された思考の中にあってなお、明確に害のあるものがなんのかをスヴァローグに理解させるには十分であった。
渉の手にある魔剣 鬼形・丑裂
それさえ破壊できれば自分はこの苦痛から解放されるのだと。
「来るわよ、ここで確実に行くのよ」
「ああ」
スヴァローグは詩織のことを無視し、渉に狙いを定めて熱線を放つ。
しかし、その熱線は当初の者と比べると発射するまでに明らかに溜めのモーションが出ている。
「颯」
それに対して、渉は正確にタイミングを見計らって牛裂を振るい、その動作に合わせてその体は瞬間移動染みた高速移動を行い、熱線を回避する。
「ほらどうした、俺はこっちだぞ!」
『 ■■■ ■OOOOOOO!!』
半狂乱の雄たけびはまともに認識もできない音とすら呼べない空気の振動となって周囲を震わせる。
人一人を消し炭にできる熱線は、最初にこの階層でスヴァローグと相まみえた時と比べれば明らかに火力、連射性もなく、追尾してくるようなこともない。
(あの化け物みたいな会長と副会長と戦った時と比べれば雲泥の差だな)
口は牛裂の影響で好戦的に吊り上がるのを自覚しつつも、頭の中では冷静な思考が保たれている。
スヴァローグ以外には大した効果を発しない呪い
それは逆にスヴァローグに対してのみは絶大な効果を発揮する。
たった一振りの刀
それが今、こうして自分の手にあるということに奇妙な感覚を覚える渉。
本来なら、自分以外の誰かがここに立っていたのではないだろうか、と今更ながら思う。
たまたま夏季休暇の
極論を言えば、あの時鬼形を使っていたのが歌丸でなかったのなら、自分以外の誰でもよかったのだろうと、今鬼形を手にしながら実感する。
それこそ、大規模戦闘でドラゴンの妙な制限さえなければ、この役割は今も渉と一緒に戦っている詩織か、鬼形のもとの持ち主である榎並伊都の娘である、榎並英里佳だったのかもしれない。
いやむしろ、そちらの方が正しかったのではないかとすら、渉には思えてしまった。
だって、鬼形の中の、特にスヴァローグへの憎悪を抽出した牛裂の意識は、ただひたすらに怨敵に向いている。
この魔剣は、自分のことなど見ていないのだなと実感させられる。
――自分は選ばれたんじゃない、ただそこにいたから利用されただけなのだと。
「はっ、どうでもいいか、そんなこと!!」
妙な感傷に浸っていた自分の内心を笑い飛ばす。
「――お前を倒して、俺は、あの子に空を、本物の、太陽を」
颯による高速移動によって攻撃を避け、
「見せるって決めてんだっ、よぉ!!」
そしてスヴァローグの顔面を通り抜けるようにして切り裂き、柔らかな頬の部分を引き裂いて見せた。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!』
「うるせぇよ、畜生が」
怒りに吠えるスヴァローグは、即座に反撃しようと首を渉が通り抜けた先にもっていこうとする。
しかし、その行動を読んでいた渉はすでに高速で回り込み、逆にスヴァローグの死角にいた。
「お前に怒る権利なんて
丑裂がスヴァローグの首に浅く突き刺さり、そこへ渉は渾身の力を込めて思いきり捩じる。
「パワーストライク」
そして、颯と一緒になんか勝手に渡されたスキル
意識がないから偶然だったのか、はたまた歌丸の気遣いだったのかわからないが、渉としては丁度よかった。
歌丸が有用性を体育祭の時に示したので、渉もすぐに足でも使えるように習熟したその蹴りをスヴァローグの身体に叩き込み、捩じった牛裂を無理矢理に引っ張って抜く。
まるで炎を血のように噴出させるスヴァローグ、大して素早く距離を取った渉
『 ニ G、あ SA ナI !!!!』
憎悪のこもった眼差しで渉を見たスヴァローグ
熱線を放つのを止め、体を浮き上がらせ多にもかかわらず地面をけったかと思えば、ホバークラフトのように滑らかな加速で距離を詰めてきたのだ。
「なんかキモい!!」
そんな感想を吐きつつ、渉は颯とパワーストライクを併用して高速移動で距離を取る。
しかし、先ほどと違って溜めのような動作もなく、瞬間移動ほどではないとしても車よりも速い巨体が迫ってくる。
なんとか反撃をするために隙はないかと思いつつ観察しようとするが
――ズキッ
「――
足に痛みを感じ、内心ですぐに原因を察した。
(歌丸と同じ、足の負担で骨折……いや、ヒビが入ったのか? あいつより耐久は高いはずだが……いや、その分力も強いから、相対的にあいつと大差ない状況なのか?)
そう思ったところで、すぐ目の前にスヴァローグの巨体が迫る。
「やべっ」
足が折れるかもと思いつつも、このままではひき殺されると思い颯を発動しようとしたところで、目の前に巨大な氷の塊が発生。
斜めに受け流すような形でぶつかったスヴァローグは進行方向がズレ、渉の横を通り過ぎていく。
「油断!」
「悪ぃ、助かった!」
そう言いながらすぐに立ち上がり、治癒の効果のある水薬を飲む。
脈動回復の効果はまだ続いているが、骨を治すならこちらの方が早いと判断したのだろう。
スヴァローグの意識は渉の方に向いており、詩織のことは眼中になかった。
それ故に、詩織もあえて無理に攻めるのではなく、サポートに徹する形で立ち回る。
今のスヴァローグにとって、脅威は丑裂ただ一つ
クリアブリザードは強力な武器だが、スヴァローグにとっては大した脅威ではないと判断した。
故に、完全に詩織という存在が眼中にないのだ。
「――まったく……わかってても気に入らない態度ね」
そう言いながら、左手に盾のレイドウェポンであるリペアシールドを持ち替えながらスヴァローグの動きを注意深く観察する。
スヴァローグのその認識を、最大のチャンスとさせるために。
「はぁ!!」
『■■■!!』
スヴァローグの攻撃も冷静に考えれば闘牛のようなものだと冷静に対処する渉
致命傷こそ与えられないが、その刃は確実にスヴァローグの身体を傷つけ続け、呪いの効果を増していく。
『■■■■■■■■■■■■OOOOOaaAAAAAA!!!!』
そしてその行為が、着実にスヴァローグの意識を渉へと収束させていく。
『下等、生物』
「は?」
『下等生物、風情GAAAAAAAAAああああアアア!!!!』
スヴァローグはその体をより強く燃やす。
もとより体毛が燃えた状態であるが、今はさらに強大な火力となり、元の牛の姿も確認できないほどの光を発している。
「人間様の言葉喋んじゃねぇよ、畜生風情が」
渉そう吐き捨てつつも、息を吸おうとするだけでのどの奥が焼けるくらい熱く、口の中の唾液が乾き、目もまともに開けられない。
「
このままでは焼け死ぬと判断した詩織が、持っていたクリアブリザードの冷気を強め、氷の塊を発生させてスヴァローグに放つ。
万全の状態のスヴァローグにならばこの程度は焼け石に水だが、今の弱っているスヴァローグならばその纏う炎を打ち消すには十分な冷気がぶつかる。
しかし、結果として爆発のような衝撃と水蒸気が発生し、その場にいる多くの者たちの視界を奪う。
『消Eロ!!!!!!』
そんなこと知らんと言わんばかりに、スヴァローグは渉めがけて突っ込む。
「――ぐぉ!?」
そして、渉はスヴァローグの突進を受け止めきれず、その体は吹き飛ばされて岸壁に打ち付けられた。
『■■■■■、■■フ、フふふ !』
そんな渉の様子を見て勝ち誇ったように笑う。
スヴァローグの足元には、まさに忌々しいと思っていた魔剣が落ちたのだ。
今の体当たりの衝撃に耐えられず、その手から零れ落ちてしまったのだ。
『やはり 愚か、下等生物』
勝ち誇ったように笑いながら、そして悠長に喋りながらスヴァローグは炎を発した前足を上げ、その燃え盛る蹄でそこにある魔剣・鬼形の刀身を踏み砕く。
その熱と衝撃に耐えきれず、パキンと小さな音とともにその刀身が砕ける。
「――やっぱり、殺すだけじゃ駄目」
そんな声が真上から聞こえた。
スヴァローグがそれを認識するより前に、紫色の光を刀身に纏った丑裂が、スヴァローグの胴体を貫通する。
『――は』
痛みに絶叫するよりも先に、ただただ理解できないという様子で唖然とした声を発したスヴァローグ
そんな一瞬にも満たない隙に、スヴァローグの上にいた英里佳は、その手にある丑裂によってスヴァローグの肉体を解体する。
「鬼龍院の言った通り、『殺してください』って言うまで、生かしておかないと」
歌丸のための鬼形である子跨咬が破壊されたのを見て、強い怒りを抱く英里佳
丑裂によって四肢を切断され、角を斬られ、下顎を削ぎ落される。
それでも怒りが収まらない英里佳によって、さらに体を端の方から切り落とされていく。
『』
完全に声を発することもできなくなり、何もできなくなったスヴァローグの身体に再び丑裂を突き刺し、絶対に抜けないようにレージングでガッチガチに固定した。
浮遊することすらできず、地面に横たわるスヴァローグ
丑裂の呪詛が今も体の中に直接刀身から注ぎ込まれ、更に強まった苦痛に満足にのたうち回ることもできずにその場で痙攣する。
突き刺さった鬼形を溶かそうとするが、それによってより強い苦痛が体の内側に広がり、全身の内側から常に刃物で切り刻まれるような痛みにスヴァローグは襲われた。
溶けた丑裂が文字通り全身に回ったのだ。
呪詛の効果がさらに増しただけ。
もはやスヴァローグは英里佳によって切り落とされ、損傷した部位が回復することは二度となくなった。
(――人間、風情、があああああああああああああああ!!!!)
だが、それでも強い怒りが消えない。それどころかより強まる。
最初に見た二振りの鬼形
その片方の子跨咬は、詩織への意識をスヴァローグが完全に向けなくなったタイミングで、隠れ潜んでいた英里佳に渡して、隠れ潜ませていたのだ。
そして、先ほどの水蒸気でスヴァローグの視界が消えたタイミングで、英里佳と渉は持っていた鬼形を交換
そして子跨咬を破壊して慢心したスヴァローグに、本物の丑裂に物理無効の効果を纏わせた絶対切断の刃へと昇華させた英里佳の攻撃
これにより、スヴァローグを戦闘不能に追いやった。
だが、そうなったとしてもスヴァローグにとっては目の前に人間たちは絶対に許せない存在となる。
もうまともに炎を発せられなくても、せめて今自分の間近にいる英里佳だけでも道連れにしてやると炎を滾らせた、その時だ。
「――GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」
火山エリア全体が震え上がるほどの咆哮
万全な状態ならば一顧だにしない、その咆哮で、スヴァローグは完全にその身がすくみ上がった。
そして同時に、その身が何かおぞましい呪縛にかかったことをスヴァローグは魂で理解した。
「――え、嘘……本当にテイムできた……」
間の抜けた、そんな声がした方向を目だけ動かして見るスヴァローグ
そこにいたのは、巨大な狼――マーナガルムのユキムラがおり、そしてその背にはこの場に似つかわしくない目をぱちくりと丸くした、稲生
「上出来だ、そのまま奴の行動を封じてくれ」
「う、うん……えっと……とりあえず暴れるの、禁止!」
『!?』
ナズナのその言葉に、スヴァローグは先ほどまで実行しようとして行動が全くできなくなる。
「よぉ、どうだ……下等生物様に服従した気分は?」
そしてそのナズナの背後から、先ほど会談で見かけた矮小な人間という認識しなかった存在
――鬼龍院蓮山が、邪悪な笑みを浮かべながらゆっくりと歩み寄ってくる。
蓮山は炎も発さなくなったスヴァローグの頭を踏みつけ、狂気の宿った眼差しで見下した。
「さぁ、スヴァローグ……ここからが本番だぜぇ」
この日、この時、スヴァローグは生まれて初めての感情を抱く。
そしてそれが【恐怖】と呼ばれるものであることを、理解することはなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます