第337話 スヴァローグ攻略 ②これが本当の鬼ごっこ?
■
「準備はいいかしら?」
飛竜のソラと融合状態にある、天童紅羽会長
正真正銘の、人類最強と言っていい存在が今、僕の目の前にいた。
「今ならまだ素直に謝れば許してもらえるぞ」
そして同じく人類最強の一角となる、ある意味ではこの場で最も脅威的な来道黒鵜副会長が軽く体をほぐしながら、僕をたしなめてくる。
「そうね、うん、ほら、早く謝りなさい。私も一緒に謝ってあげるから」
「BOW」
マーナガルムのユキムラに強化を施しつつ、そんなことを言う稲生
「――そうだよ」
そして、今この場で最も威圧感を放っている存在
「いくら歌丸君でも、ね……――やっていいことと悪いことの区別は、つけてもらわないと駄目、だよ」
「きゅぷぷぷぷぷぷっ……」
「きょぽぽぽぽぽっ……」
そして、今回の作戦の要であるはずの子ウサギ二匹が、僕の足につかまって小刻みに震えている。
他の二人と一匹はともかく、英里佳から感じるプレッシャーが一番あかん。
二匹が抱き着いてなかったら僕の膝もダンシング状態になっていたことだろう。
さてさて、どうして僕が人類最強コンビ+人類の英知のマーナガルムと、ドラゴン絶対ぶっ殺す状態の英里佳の四組と向き合っているのか。
その理由はいたってシンプル。
■
「ヴァイスとシュヴァルツ、二体と同時融合した状態の僕なら、因果律とやらを捻じ曲げて絶対に奴の攻撃を避けられます!」
僕がそう自信満々に言い切ると……来道先輩は「はぁ」とため息を吐きながら額に手を当てる。
「よし、それじゃあ本当にできるか、ちょっと本気出して試してみるぞ。
全員表に出ろ」
■
ということになった。
いや、まぁ、とんとん拍子でこの状況である。
なんだろう、こう……なんか説得してもどうせ文句言うから、一回実力でわからせるかぁ、的な思惑を強く感じる。
「つか、稲生なんでそっち側? お前はむしろこいつらの力よく知ってるだろ!」
「歌丸はともかく、その子たちまで危ない目に合わせるとか、絶対ダメ! ダメったらダメ!!」
「過保護すぎる」
いや、まぁ確かにこの二匹、エンペラビットの中でもまだまだ幼いけれども!
「逆に、三上がこっち側じゃないのは少し意外だな」
そんな僕と稲生の会話を聞いていた来道先輩は、そんなことを言いながら僕の意見に賛成とはいかずとも、中立の立場にいる三上さんたちを見た。
「可能性として模索する分には、否定するほどではないと判断しただけです。
それに、今の状況だとルーンナイトになれないので、連理を試そうとしても効果は薄いかと。
今から三人とユキムラで、仮想スヴァローグとして歌丸を試すのなら、必要なのは高機動力……となれば、他のメンバーでは対応できないので見学してるだけです。
正直に言えば、心象としては連理の作戦には反対です」
「そうか……日暮、お前はどうする?」
「巻き込まれたくないんで勘弁っス」
ああ、戒斗も別に僕の味方ってわけじゃなくてシンプルに保身を選んだか。
いや、まぁ、現状で戒斗まで敵に回ったら流石に僕としてもかなり分が悪いと思う。
良くも悪くも、戒斗は僕のことをよく知ってるし……敵に回したときに何をやってくるのか読めないからなぁ……
……まぁ、すでに過剰戦力気味な気もするけど……
「……それで、試すって具体的にはどうするんですか?
ぶっちゃけ、会長たちに勝てとか言われても不可能ですよ」
「それはわかってる。
だから、これからやるの鬼ごっこの変則版だ」
「……鬼形だけに、ですか?」
「まず、さっきも言ったがお前にとって俺たちは仮想スヴァローグとなる」
普通にスルーされた。ちょっと悲しい。
「お前がその二体と同時に融合した時のことはすでに聞いている。
白い子ウサギのヴァイスは、対となる黒い子ウサギのシュヴァルツを無条件で観測ができる。
そして黒い子ウサギは数秒先の未来を観測できる。
単体で使えばほぼ意味はないが……同時に融合することで、シュヴァルツのスキルで、自分の行動した時の未来を観測……さらにその観測結果をヴァイスのスキルで、より高次へと引き上げ、局所的にノルン以上の未来予知……いや、お前の言うところの因果律を捻じ曲げる……ってことでいいんだよな?」
「…………………………――そんな感じです!」
正直よくわかんないけど、たぶんそれであってるはずだ。
なんか周りから「こいつ理解してないな」的な目を向けられている気がするが、きっと気のせいだろう。
「あと、すっごい気合を込めれば物理無効スキルが使えます、ほんの一瞬だけですけど。
二体同時融合なら、数秒くらいですかね」
「それも聞いている。確かにそれなら歌丸でもスヴァローグに有効打を打てるな
とはいえ、今から試すのは、お前の生存能力だ」
「生存能力……ですか」
「ああ、正直に答えろよ。お前、素の状態だったらスヴァローグを前にしてどれくらい生き延びられる自信がある?」
「ビーム食らったら一発で蒸発しますから、秒もかからないかと」
「……聞いた俺が言うのもなんだが、言ってて悲しくならないか?」
「でも事実ですよね」「まぁな」
うん、知ってた。
僕も入学初期と比べればかなり強くなったけどさ、その速度をはるかに圧倒するレベルで迷宮の地下にガンガン潜ってるから、周囲の強さとの差が縮まらない、それどころかさらに差が広がっている気がする。
「だが、その二体と融合した状態なら生き延びれるんだろ。
それが事実なのか、確かめるための変則鬼ごっこだ。
ルールはシンプル。
三分以内に歌丸が俺たちの内の誰かに攻撃を当てるか、逃げ切るかしたら勝ち。
逆に、俺たちのうちの誰かに三分以内にタッチされたら負けだ」
「お互いの手が触れ合ったらどうする感じですか?」
「原則としてはお前の負けだ。
お前はスヴァローグに不意打ちを掛けることが目的である以上、真正面から攻撃し合うような状態は絶対に避けるべきだ。
だからもしお前が俺たちに攻撃するなら、基本的には背後か、もしくは意表を突く形にしろ」
「なるほど……あと、なんか素で攻撃しろって言ってますけど、危なくないですか?」
「お前の攻撃なら物理無効スキルを使わない限りは致命傷にはならないだろ。
だが、危険なことをやるなら、それだけ本気で臨むべきだ。代わりに俺たちも持てるスキルをすべて使う。
攻撃とかは基本しないし、したとしても寸止めになるようにするが……」
「……わかりました。
じゃあ、今は鬼形がないので代わりにこれを使います」
僕はストレージの中から、素振りとかで使う木刀を出した。
「木刀でいいのか?
三上からクリアブリザード借りても構わないぞ」
「別に侮っているとかではなく、颯とかサムライのスキル使うなら刀に近い形状の方がやりやすいってだけなので……まぁ、一応剣でもできるみたいですけど、気分の問題です」
「そうか……まぁ、準備ができたら融合しろ。
それを合図に、俺たち全員、一斉にお前に仕掛けるぞ」
「……は、はい」
先輩の言葉に、ユキムラはともかく、英里佳と会長からの圧力が増した。
英里佳からは絶対に僕にスヴァローグと戦わせないという強い意志を感じる一方で……なんというか会長は…………動物の珍行動を見たい的な面白さを求めているような……本物のドラゴンと似たような雰囲気を感じる。
ドラゴンメイデンっていうのが今の状態らしいけど、心身ともに人類の中で最もドラゴンに近づいているのって、会長だと思う。
「ヴァイス」
「きゅぷ」
「シュヴァルツ」
「きゅぽぉ……」
二羽の名を呼ぶと、不安げに僕のことを見上げてくる。
うん、まぁ、怖いのはわかる。
けれど……
「見せてやろう、僕たちだってやればできるってところ」
弱くても……いや、弱いから、力を合わせれば凄いんだって、身をもって実感してるんだ。
こいつらとなら、絶対にできる。
そんな僕の想いが通じたのか、二羽ともに小刻みに震えたままながらも、小さく、だが確かに頷いた。
「行くぞ!」「「きゅ」」
二体同時の融合
視界が何重にもブレていくのを実感しつつも、そのすべてをつぶさに把握できる。
体感時間がゆっくりに見えて、それでいて意識が遠のくような、ゆっくりと潰されていくような痛みに変わる直前の感覚にさいなまれ始め――
――眼前に迫る会長の存在を観測し、早急に意識が覚醒する。
ほぼ咄嗟に、脳天から激突覚悟で後ろに大きく倒れると、その直後に肌が空気の流れを感じる。
(【「え、マジで避けた!?』!)?」
サラウンドで聞こえる驚いた会長の声が数パターン
まるでそれらは、耳元で大音量のスピーカーから聞こえてきたみたいに錯覚して頭痛がしたが、このままでは更なる追撃が来る。
しかも――こっちも数パターンあるぞこれ!?
「「「「颯」」」」
自分の声すらサラウンドに聞こえてうっとうしいが、未熟な僕だと技名も言わないとうまく発動しない。
倒れそうになるタイミングでも、木刀を振ってどうにかその場から高速移動すると、先ほどまで僕が立っていた位置には来道先輩がいた。
「まさか『っ、「ここまで≪早い≫と」、が≫」っ!」
――ぐぅううう!! うるさイタやかましい!!
聴覚、視覚のブレは変わらないが、なんか楽になった。多分、一部の触覚とか現状不要な感覚がシャットアウトされたのだろう。
あと、なんか色覚もぼんやりになっている。
――うん、前回は必死だったから気づかなかったけど、これもう二度と稲生には使わせないようにしよう! 冗談抜きでキツイ! 入院生活の圧迫感ある動けない状態でラプトルに嚙みつかれている的な痛みがこれからやってくる恐怖というか――あ、やばい、痛みが来た。
「「「「「が、ぁ、ぎ――けふっ!」」」」」」
鼻の奥がツンとして、くしゃみをしたつもりが咳になり、口の中に血の味がした。
しかし、それもすぐに消えた。
◆
――油断した、というつもりはなかった。
だが、想定が甘かったと断言せざるを得ない。
人間の耳が白と黒が入り混じった毛色のウサ耳に変わった歌丸。
髪の毛の方はその中間の灰色になっているのだが、そこに今、赤色が追加された。
「――まて、止ま――!!」
異常事態
咄嗟にそう判断した来道黒鵜がそう声を上げた時には、歌丸連理は血涙・鼻血・吐血の顔面流血三点セットの状態で木刀を振るい、その姿を消す。
「BOW!」
そしてそれにいち早く反応したのは、マーナガルムのユキムラ
最初に動き、硬直した天童紅羽、歌丸の流血に動揺して足の止まった英里佳より、ユキムラは即座に動き、ウサギを狩るオオカミの如く、歌丸を止めようと駆け出す。
歌丸が颯を発動した先にとびかかり、その前足で押さえつけようとする。
「空蝉」
サムライのスキルの中での唯一の防御スキルである空蝉
それにより、普段の歌丸連理では考えられないほどの動きでユキムラのとびかかりを回避
あまつさえ、その木刀を振りかぶってユキムラを攻撃しようとする。
「GUO――」「ユキムラ、ま」「OOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」
咄嗟に防御しようと弱めのハウルシェイカーを発動させる――否、発動させてしまったユキムラの耳に主人であるナズナの声が届かない。
そして、厄介なことに今の歌丸は超越した聴力を持つ故に、それはかなり現状の悪化を招く。
「――ぁぎっ」
目、鼻、口、そこに耳からの出血も加わる大出血四点セットに至る歌丸
ユキムラから発せられる衝撃で吹っ飛ばされ、攻撃は決まらず、しかしまだ動きを止めない。
「待て、中止だ! 歌丸、止まれ!!」
来道が叫ぶが、もう遅い。
耳が潰され、声が届いていないのだ。
エンペラビットとの融合の利点の一つが、現状、歌丸の暴走を止めるブレーキを壊してしまった。
「――ちっ」
体に負担がかかるとわかっていたが、まさかここまで顕著に出てくるのかと内心焦る黒鵜
いくら出血はスキルでどうにかなるとはいえ、まだほとんど何もしてないのに、いや、十秒もかかってない状態での顔面流血
どう考えても、肉体への負担はこれまで見てきたどれよりも大きい。
命を代償にしていると言われても納得できるほどに、今の歌丸の状態は酷い。
「――苅澤、歌丸に回復掛け続けろ!」
「は、はい!!」
「紅羽、遊び抜きで全力で捕まえろ、そして攻撃してきたら黙って受けろ!」
「え、それつまらな――わかったわよ」
「榎並、お前も捕まえるときは全力で、かつ大きめに隙を作って攻撃を誘って受けろ!
稲生、ユキムラを下がらせろ!」
制限時間を余裕をもって三分と定めた先ほどの自分を殴りたくなる来道はひとまず現状を終了させることを優先する。
文句を言いそうな紅羽をにらみで黙らせ、歌丸に攻撃をさせてさっさと終了しようと考えた――が、ほぼ咄嗟に、彼はその場でしゃがみ込んで、自分の頭上を木刀が通過するのを視覚以外のすべての五感で感じた。
(しまっ――つい癖で……!?)
反射で動いてしまう自分の回避行動を止められず、ならばと急いで歌丸を捕まえようと背後に手を伸ばすが、その際に血涙を噴出させながら、歌丸が自分の手をかいくぐった。
「何してんの――よぉえ!?」
自分で言ったくせに普通に歌丸の攻撃を回避している苦労を見て呆れた紅羽だったが、直後に自分に向かって突進して僕とを振るう歌丸に驚きの声をあげながら、彼女もまた攻撃を反射的に回避してしまう。
受けたところで大したことはない。
頭でははっきりとそう理解しているのに、本能的に避けてしまう自分の肉体に、紅羽自身も驚いたのだ。
「――歌丸くん!」
そして今度は英里佳が動く。
狂狼変化を使用した、北学区の三年生の平均を上回るスペックで、歌丸を捕まえようと手を伸ばす。
だが、そのどれもがこちらの動きを事前に知っていたかのように――いや、実際にこちらの動きを知ったうえで動いて完全に避けてしまう。
動き事態は英里佳に遠く及ばないほど緩慢なはずなのに、自分の手がかすりもしない現状に英里佳は焦りが募る。
そして一方で、触れてもいないはずの歌丸は英里佳の攻撃を避けるたびにドクドクと流れる血の勢いが増す。
今この瞬間にも紗々芽から回復魔法を受けているのだろうが、それが追い付かないほどに体への負担が大きいということだ。
そしてまた、英里佳も同様に時折くる歌丸の木刀による反撃を、本能的に回避してしまう。
「な、なんで――」
英里佳自身も、自分の理性を大きく上回る本能で動く肉体に戸惑う。
今の歌丸連理は、先に行ったように物理無効スキルを使っているわけではない。
武器だって、刃物ではなく木刀
当たったところで、英里佳ですら痛みだって覚えないはずだ。
なのに――
「――はぁあ”ああ”あ”!!!!」
文字通り血を吐きながら木刀を振るう歌丸の姿
その鬼気迫る姿に、英里佳は気圧される。
これが単純に決死の覚悟で挑んでくる敵であるなら、自分も相手を威圧し返すことだったろう。
だが、相手はあくまでも歌丸連理
倒すべき敵ではない。むしろ、守る対象であり、この鬼ごっこもどきだって、元は彼を諫めるためのもののはずだった。
そしてそんな動揺は、当の本人たちだけでなくそれを見ている者たちも感じていた。
「な、なんで三人とも連理くんの攻撃を避けてるの……?
一発受ければ、それだけで歌丸君止まるはずなのに?」
歌丸の動きを必死に目で追いながら、生存強想Lv3
現状の不可解さに、疑問を抱かずにはいられなかった。
「強者故の勘の良さ、だろうな」
一方で、かつてあの姿の歌丸が戦う姿を見ていた鬼龍院蓮山は、おおよその理由を察していた。
「どういうことっスか?」
「前にあいつがあの姿で戦った時、俺の全力の攻撃を受けても傷一つつかなかった“ディー”の天使人形に、あいつは確かなダメージを与えていた。
物理無効のスキルも併用してはいたが……あいつの力量では大きすぎるダメージを与えていたように見えた。
さっきあいつの言っていた因果律を捻じ曲げるってのは、おそらく今ああして攻撃を避けるだけじゃなく、あいつ自身の攻撃にも影響を与えているんだろう」
「ややこしい言い回しは抜きにして、つまりどういうことっスか?」
「すべての攻撃がゲームでいうところ、クリティカルヒット扱いになるってことだ。
因果律なんてよくわからない効果を付与された攻撃を前に、あの三人の理性より本能が危険と判断して、咄嗟に攻撃を避けちまう。それが今の現状だ」
「……そんな危ないものだったんスか?」
「ほとんど推測の域をでない話だが、それくらいじゃないと説明がつかないし…………そしておそらく歌丸本人にその自覚はない」
「――でしたら、やはり早々に中止にすべきでしょうね」
淡々とした声でそう告げたのは、今の歌丸と同じ……いや、生来から使えることを考慮すれば歌丸以上に未来を知る能力を持つ千早妃であった。
「どうやってだ?
今のあいつを止めるのは、あの人外のスピードを持つ三人でもできないし、下手なことをすればあいつの因果律操作とやらでいらん負荷をかけるぞ」
鬼龍院蓮山の言う通り、子ウサギの二羽同時の融合に、どう見ても尋常ではない肉体的な負荷が発生している。
そのくせ、今も英里佳や来道、紅羽の三人が彼を捕まえようと立ち回るが、未来予知の力と、英里佳の母である榎並伊都から引き継いだサムライのスキルで交わされる。
まるで宙を舞う火の粉を掴むように、捉えることができない。
「はぎ、ぐぅぁあああ”あ”あ”あ”!!!!」
今も雄たけびを上げる歌丸は、目の前に三人に果敢に挑む。
「はぁ……榎並英里佳や会長はともかく……副会長も意外と抜けているのですね……
連理様の未来視の欠点、すぐにわかるものを……」
◆
頭が割れるように痛い気がするが、思ったほどじゃない……ような気がする。
痛みを痛みと感じているのだが、あくまでもそう感じてるだけで動くのに支障がないという、なんだか妙な感覚。
体も全体的に変だ。耳は……たぶんユキムラのハウルシェイカーの影響を受けたのが原因で聞こえなくなったけど、視覚が全体的にセピアと灰の中間っぽい感じで色がなくなった。
匂いもしないし、自分が立っているのかも自信がない。
でも、まだ僕は捕まってない。そしてまだ三人の誰にも攻撃を当てられてない。
途中からなぜかユキムラが参加しなくなったが、今は考える余裕がない。
必死に三人から延ばされる手を避ける。
「『』「「「≪≫」」」」」「「「」】」」
目の前の景色がブレて、その中で僕が捕まる未来がいくつも見えて、その中から必死に僕が捕まらない未来を選び、ない場合はさらに景色を細かく細分化、細分化、細分化細分化細分化――秒じゃ足りない、もっと細かく、刹那よりさらに細かく、時間を刻み、そこから避けられる可能性を探して――ここ!
「「「 !」」」
三人が目を見開いた姿を見て、現実の視界がそれに収束し、その時には僕が木刀で、この中でもっとも攻撃しても心が痛まない会長に向かって攻撃を繰り出す。
当然のことながら、その時見えた可能性の中には一つとして僕の攻撃が当たるものがない。
ならば――それらの情報を、一度過去に送ることで、やり直す。
常に未来を見ている僕自身を観測している僕が、その未来の情報を受け取る。
これにより、未来で確定した情報を踏まえたうえでさらにもう一度行動をやり直して選択肢の幅を広げる。
――天使モドキと戦った時は気づかなかったが、この力、使えば使うほどに理解が深まるぞ。
そして、ターゲットを再度選びなおし、今度は――――そう思った途端、急に可能性がすべて見えなくなった。
何が起きたのかと困惑するが、すべてに共通するのは急に視界が揺れたということ。
どういうことかと判断して状況を確認しようとするが、現状からすでに、三人の追撃が迫っていてそれどころでは――
そう考えている間に、僕は今まで観測していた可能性と同様に、視界が揺れ、何もわからなくなった。
◆
「――未来視っていうくらいっスから、まぁ確かに見えなきゃ話にならないっスよね」
そう言ったのは、歌丸連理の真後ろから突如現れ、彼の目をふさいだ状態で拘束する、日暮戒斗だった。
「はぁ、はぁ、はぁ……ひ、日暮…………ああ、そうか……こいつの未来視、自分の目で直接みるタイプ……神吉と違って、自分の見れる位置の未来しか見えなかったのか…………隠密スキル使えば真正面からでも一発じゃねぇか……」
今まで何をしても捕まえられなかった歌丸が、戒斗によってあっさり捕まえられた様子を見て、自分が想像以上に混乱していたのだとようやく自覚する来道
情けなさのあまり、自分で自分の顔を覆う。
「敵に回すと面倒なのは、体育祭の時に知っていたつもりだったけど……厄介の方向性がすごく進化してるわね、この子……」
ドラゴンメイデンとなって進化したはずの自分でも捉えられない融合状態の歌丸
強いという感覚は一切なく、意味不明、というプレッシャーに、若干の冷や汗を流していた。
「歌丸くん、すぐに回復を――紗々芽ちゃん、早く!!」
「今やってるから、落ち着いて」
狂狼変化を解いてすぐに歌丸のそばに駆け寄りつつ、回復薬の紗々芽を慌てて呼ぶ英里佳
そして、当の歌丸は…………
「……あ、あれ……もしかして三分、たった?」
戒斗に目をふさがれたままで状況が分からないのか、恐る恐るそう訊ねるのであるが……
「……早よ融合解けっス」
耳の出血から考えて、おそらく鼓膜が破れているからそちらを再生させないと状況を正しく認識できないだろうなと思いつつそうぼやく戒斗。
暴走しないように、鼓膜が再生するまではこのまま抑えとかないとなぁ、とぼんやり考えるのであった。
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