第334話 渉をプロデュース ②



日本の山形県、そこにあるとある果樹園にて、場違いなきっちりと着飾った黒スーツに耳に無線機とつながったイヤホンをつけた筋骨隆々な男たちが敷地内を囲んでいる異様な光景があった。



「つまり、連理がまた学園長――ドラゴンの無茶ぶりを受けている、ということですか?」


「その通りです」



作業着としてつなぎを着て、首にかけたタオルで汗をぬぐいつつ、収穫したブドウを丁寧に並べたかごを下す。


そして一方で同じようにかごからプラスチックのコンテナにブドウを並べ、中が埋まったところで、敷かれたレールの上に備え付けられた台車にコンテナを乗せ、台車を果樹園の外の方向に押すアウターを脱いで腕をまくった白いワイシャツの男性


作業着の男の名は、歌丸誉うたまるほまれ


現在、世界で最も注目されている少年・歌丸連理の父である。


一方のスーツの男は峰岸零士みねぎしれいじ


次の選挙では総理大臣になることが内定しているとされる政治家にして、日暮戒斗の実父だ。



「はぁ……まったくあいつは……元気になったと思ったらまたすぐに騒ぎを起こす……」


「彼自身が何かをしたというわけではありません。


息子からの連絡を聞く限り、彼に落ち度はほとんどありません」


「いえ、あいつは昔から良くも悪くも周りをかき回すみたいなので、如何ともしがたい事態の根本的な原因は連理、という認識で問題はありませんよ。


今更ですが、入院前から元気に走り回ると何かと問題が起きてましたし……野良犬に追い掛け回されて泣いたり、蛇を踏んづけて威嚇して泣いたり、野良猫に引っかかれ、カラスにおやつ取られて…………うん、今にしてみれば可愛いもんですが、トラブルは絶えない、そういう星のもとに生まれたんでしょうね」



遠い目をしながら、歌丸連理の過去を思い出す誉


入院中だった、虚ろな目をした頃に比べれば断然良いのだが、命の危機に晒されすぎなのは親として心臓に悪いのである。



「息子さん……戒斗君の方こそ大丈夫ですか?」


「あれは多少頭の固いところはありますが、その分かなり強かです。


おそらくは上手いことやっていることでしょう」


「ならいいんですけど……彼にはぜひとも、椿咲と一緒にいてもらいたいですから」


「…………その、うちのバカ息子については、どうぞ、お好きなように」


「あー、いやいやいや……あっははははは、まぁ、やらかしたのは椿咲の方ですから……はははっ」



片や、手を出した娘


片や、手を出された息子


性別が逆だったら割とシャレにならない修羅場に発展していたが、お互いに事情が事情な上に結局当人同士が思いあっているので一応セーフ。


何なら今はお互いに妻の方がノリノリで卒業後の結婚プランについて椿咲当人も交えて話し合っているので、口出しすらできずにこうして男同士で農作業に従事している始末である。


戒斗が椿咲に手を出したとあっては、流石に一言もないというわけにもいかないし、歌丸連理の身内を放っても置けないとこうして直々に会いに来た結果である。



「……峰岸さんは、これからどうなっていくと思いますか?」


「それは、何についてですか?」


「…………何、なんでしょうね、本当に。


僕も、何を聞きたいのか、それすらわかってないんですよ。


もういい年した大人なのに、情けない話です」


「それは、私にとっても耳の痛い話です。


結局何が正しいのかを分かった気になっているだけではないのか、と」



積み上げられたコンテナを見て、それをまた台車に乗せる。


「ですが」と台車を押しながら峰岸零士は口を開く。



「これまでと同じ、とはいかないのは確実です。


歌丸連理が在学中にも世界はめまぐるしく動く。


そして彼が卒業するその日に、確実に世界はそれらすべてを上回る激震を受ける」



収穫された瑞々しい果実をつけたブドウ


その一房を歌丸誉は手に取った。



「……連理が生きてここに帰ってこない覚悟は、とうに決めてしまったんですよね。


でも今は…………その可能性ができた。


…………その可能性すらかけて、連理はドラゴンに挑もうとすれば…………当然、無事では済まないのでしょうね」


「あのドラゴンと向き合ったものならば、誰もが勝てないと、戦うことすら馬鹿馬鹿しいと吐き捨てる。


実際に向き合う機会は私はありませんでしたが、奴の強大さはメディアで何度も語られてきたので知ってはいるつもりです」


「ええ、僕も在学中に奴を倒せればと何度考えたことか……でも、絶対に無理だとその度に諦めました。


けれど、あの子は証明して見せた。


人がドラゴンに立ち向かえる可能性を、全世界に……僕たちの目の前で、


その意味は、連理はきっと何もわかっていない。僕もわからない。


峰岸さん、政治家のあなたなら、僕にも連理にも見えない何かが、見えているんじゃないですか?」



空にコンテナが、台車によって自動で戻ってくるのを目の前で迎える峰岸零士


歌丸誉の問いに対して、彼はゆっくりと口を開く。



「ジャンヌ・ダルク、という人物を知っていますか」


「フランスで聖女と呼ばれて、国を救った聖人……でしたっけ?」


「ええ、彼女は戦場を掛ける英雄というよりは、神の啓示を受けたと公言し、そしてその啓示によって数々の勝利をフランスにもたらし、その言葉は多くの民衆に強い影響力を持った。


しかし彼女は捉えられ、イングランドでは異端……つまり魔女として処刑されました。


そこからさらに世界的に彼女は聖人であると名誉が回復した。


時や場所が、視点が変わればそれだけで人の評価は正反対に変わる。


歌丸連理君のこれまでの道程も、彼女に通じるものを感じませんか」


「……連理は英雄になる、と?」


「彼はそこまで単純ではないでしょう。


彼よりは……決して貶すわけでもありませんが、榎並英里佳の方がよっぽど英雄としての立場が確立しているでしょうね」


「……まぁ、それは、ですよね」



歌丸連理と榎並英里佳


実際にドラゴンの首を消し飛ばした英里佳


それに力を与えた連理


関係性を見れば、英雄と呼ぶにふさわしいのは英里佳で間違いない。



「彼はジャンヌ・ダルクと肩を並べる……いや、それ以上の影響力を持った存在になった。今この瞬間にも外部の人間が好き勝手議論している。


あなたの周りも騒がしくなったでしょう」


「……まぁ、知らない親戚が急に増えたりしましたね。


うちの作物の売れ行きはかなり良くなりましたけど」


「あなたたちを人質にして、彼を従わせようという連中もいましたよ。


……ああ、すでに処理したので安心してください」


「あー、まぁこちらでも何度か絡んできた人がいましたけど、適当にあしらったりしましたね」


「……学生証、もってないのでは?」


「それでも並みの警官よりは動ける自信がありますよ」



「農作業で体は訛りませんし」と朗らかに笑う歌丸誉


温厚に見えるだけで、実際はかなりの修羅場をくぐってきた人物であるということを峰岸零士は今更ながら思い出した。



「話を戻しますが……結局のところ連理君に関しては、英雄よりも厄介な気質であると私は考えています」


「厄介、ですか?」


「ええ、いつの歴史にも絶対に出てくる、時には名を残し、時には名もつけられず、一人であったり複数であったり……それこそ歴史的には一番有名なのがジャンヌ・ダルクなのでしょうね。


彼女は聖人、英雄として有名でしたが、決してそこに至る過程に無視できない気質があった。


むしろ、その気質こそがジャンヌ・ダルクをはじめとして多くの英雄たちを悲劇的な末路に導いたといってもいい」


「……その気質が、連理にはあると?」


「むしろ、彼はその気質の方がもっとも強く出ているからこそ厄介なのですよ。


常に民衆を味方につけ、歴史を動かす力を生み出す存在でありながら、力の中心にならないこともある。


民の力で暴君を打ち倒す時もあれば、時に最も愚かな衆愚政治を生み出してきた名前のない誰か。


扇動者アジテーター


善意も悪意もなく、時には無意識で人々のフラストレーションのはけ口を作り出す。


私たち政治家にとって、最も味方にすると心強く、敵に回すと厄介な存在です」





「……こういうの、できてたんですね」


「ああ、なんでも先輩たちの世代が親になってから、自分たちのいた場所について子供たちにも知ってもらいたいって作り始めたって聞いた。


もっとも、完成したころにはその子供たちも遊ぶ年齢ではないそうだけど……新しく生まれた子供たちはよくここを使ってる聞いてる」



萩原渉がシャムスを連れてきた場所は、里の中の片隅にある広場


そこにある金属製の上にピンクや水色、黄色などビビッドカラーの塗料を塗られた鉄棒や滑り台などの遊具だった。



「……わ、渉さんも……こういうので、遊んでた、んですか?」


「まぁ、小さい頃はね。


といっても、もうほとんど覚えてないんだけどさ……ああ、でも、小学校の時鉄棒ではちょっと思い出はあるかな」



そう言って、渉は鉄棒の中で最も高い――といっても渉の胸より少ししたくらいのものであるが――ものを選び、それで逆上がりをして、足を掛け、鉄棒の上に乗った。



「わぁ……」



そんな渉を見て、小さく簡単をこぼすシャムス


逆に、そんなシャムスを見て苦笑する渉。



「小学校でさ、今やった逆上がりのテストやらされてな……それがうまくできなくて泣いて、親に背中支えられてようやくできて……柄にもなくはしゃいだりしたっけな」


「それは……すごく素敵な思い出、だと、思います」


「そうか? 俺としては、地味ーに苦いもんだけど」


「……私、は……親と一緒に何かしたって思い出……ほとんどありませんから」


「あ…………すまん、無神経だった」



シャムスの両親はすでに亡くなっていて、それは寄りにもよってスヴァローグによるものだと渉はシャムスの祖父であるテツの記憶から知っていたのだ。


そのために、彼女からそんな言葉を出させてしまったことを後悔し、鉄棒から降りて謝罪した。



「い、いえ、すいません、その、そういう意味じゃなくて……ただ、素敵だなって、思っただけで、あの…………変な空気にしてすいません」



一方でシャムスも、自分の言葉で渉が暗い顔をしているのを見て、どうにかしなければと考える。


その結果、とてもテンパる。



「わ、私もその、逆上がりやってみようかなぁ!


えっと、こ、こうするんですよね!」



渉の隣の、10cmほど低い鉄棒を選び、見様見真似で逆上がりに挑戦しようとするシャムス


その姿を見て、我に返った渉は慌てだした。



「――は、え、いや、ちょっと待っ」「え、えい!」



シャムスの現在の格好は、お世辞にも運動には適していない大正浪漫な着物に行燈袴にブーツ


着物でうっかり下着が見えた、というラッキースケベな展開こそ起こらないが、それはそれ。


運動に適してない服装で、普段から運動をしてないものが、初めての運動を見様見真似でするとどうなるか?



「え、あ――」



まず、失敗する。


うっかり手を離したことで、頭から地面に落ちそうになる。


しかし、そこはすかさず渉が動く。



「大丈夫か?」



頭を地面にぶつけることのないように体を支え、新品のおしゃれな服が汚れないようにと咄嗟の判断で抱き上げ顔と顔の距離がかなり近い。


いわゆるお姫様抱っこ状態である。



「あ、ぁ……は、はぃ……」



顔立ちが整った渉からのお姫様抱っこされ、顔を真っ赤にして蚊の鳴くような声で頷くシャムス


どっからどう見てもラブコメである。





「ふむ、順調ですね」



双眼鏡で密着している渉とシャムスの様子を見て満足げに頷く神吉千早妃



「外での接触が低い彼女に、あえて里の中で変化が起きた場所を見せる。


引きこもり故に里の中の変化に対して興味関心がなかったようですが非日常を感じる場所で、外の世界への興味関心を引きつつ異性との接触でより萩原渉を意識させる……ふむ、いい傾向ですね」



「……――千早妃様」


「綾奈、どうしました?」



何やら神妙な顔でこちらにやってくる付き人の綾奈


先ほど、学生証に連絡が入ったので、尾行がばれないように一度離れたのだ。



「歌丸連理様に、ドラゴンが接触してきました」


「……やはり、ですか」


「予知していたのですか?」



まるで当然と言わんばかりの態度に、現在千早妃含めて隠密のスキルを使っている妹の文奈が問うと、千早妃は首を横に振った。



「いえ、予知はドラゴンに対してはあまり意味がありませんからしてません。


あちらは、予知したことを知っていて行動してきますからね」


「まぁ、それくらいはするでしょうね……ドラゴンですし」



ドラゴン=全能といっても過言ではないほどに、逆にドラゴンは何ができないのかを探すのが難しいという認識である。



「単純に、今回のクエストを依頼してきたドラゴンならば、実際に目的に階層に到着したら何かしらのアクションをしてくることは想定できたというだけです。


それで、連理様に対してなんと?」


「スヴァローグに対する情報と、それに対する対抗策、そして……別の学園から来た遭難者限定になりますが、すぐに外に出る方法を言うだけ言って消えました」



その言葉を聞いた時、千早妃はとてつもなく苦々しい顔を見せる。


そして同時に思った。



――東部学園のドラゴン、性格悪い。





「あ、ちなみに私の生徒がほかの学園の生徒の転移に相乗りして脱出、とかはステータスの力の干渉ではできません。


あと、この里にいる者たちもスヴァローグの干渉で相乗りはできません。


あくまでも、次元干渉と鬼形の両方でスヴァローグの力を弱めただけで、完全に消えたわけではありませんからね、里の人たちは倒してからでないと無理ですねぇ~」



とさらっと追加の爆弾を残してドラゴンは「それじゃあ地上で待ってますねぇ」と言い残して消えた。


現在、僕、歌丸連理は、三上枝織、稲生薺の三人にプラス子ウサギ二匹で顔を合わせながら先ほどの情報について整理していた。


といっても、スヴァローグが実は一匹しかいないと言われても僕たちの対応は変わらないので問題はない。


対抗策については、ほぼほぼこちらの想定通りの内容だったので、特に問題はない。


あとは……



「ほかの学園の人たちだけ、地上に転移ができるようになる……か」



この情報について、どう扱うかが問題である。


いや、ぶっちゃけ僕は普通に話して良くない? と思ったのだが、詩織さんはどうやら違うらしい。



「ねぇ、どうして話したらダメなの?


そりゃ、私たちや同じ学園から来た人には関係ないけど……地上に戻れるならいいことじゃないの」



ほぼほぼ僕と同意見の質問をする稲生


対する詩織さんは眉間にしわを寄せている。



「それはね、この情報によってこの里にいらない混乱が巻き起こるからよ」


「混乱?」



稲生が首をかしげる一方で、僕はふと詩織さんが何を言いたいのか少しだけわかった。


まぁ、僕もなんやかんやで酸いも甘いも嚙み分ける経験をしてきたのだから、自分の頭である程度の推測くらいはするようになったのだ。



「つまり、いきなり帰れると言われても里帰りの準備ができてないから慌てさせてしまうというわけだね」

「っ!」


「違う。そしてナズナもハッとしない。


……いや、厳密には違わない、のかしら……いやでも、やっぱ違うわ。


そういう急に予定が変わってお出かけ、みたいな問題じゃないのよ、これは」


「ふむ……おしい、ということかな?」


「とりあえず今説明するから、連理はちょっと口閉じてて」

「うすっ」



詩織さんは少しだけ眉間を指でもみながら思案して、周囲に人がいないことを確認してから口を開く。



「まずね、遭難したのがここ最近の人たちだった、とかなら今言った混乱も連理が言った程度で済んだの。


でも、実際のところ20年近くこの里に住んでる人たちは、もうほとんどがこの里で生活を根付かせていて、中には家庭を持っている人たちもいる。子供だっている家庭もあるわ。


その場合、夫か妻、あるいは父と母、どちらかが急に地上に戻れるってなった場合は」「離婚ね!」


「ナズナ、最後まで聞いて」「はい」



そっか、僕の扱いって第三者から見るとこんな残念な感じなのか。気を付けよう。



「それも一つの選択肢だけど、それだけじゃすまないでしょうね。


円満な家庭なら、尚のこと厄介な問題に拗れるわ。


地上にいる家族に会いたい、という想いはあっても、二度と戻れないという事実が蓋をしていたからこの里で平穏に過ごすことを選んだ人たちよ。


いざ地上に戻れるとなったら……今の家族と地上の家族、どちらか選べって言われるのよ。


そんな選択、私たちから突き付けられる?」


「…………あー……なるほど、ちょっとわかってきた。


つまり、今のまま生活するのと、二度と会えない家族にもう一度会える代わりに今の家族を捨てるかの二者択一か……うん、すごい嫌な質問だね」


「そうなの……でも、かといって地上に戻れるって可能性を教えないっていうのも……あまり気持ちがいいものではないでしょうし」


「……僕たちが黙っていてもドラゴンが話したら、どうして黙っていたんだって僕たちに文句が飛んでくるよね……」


「…………あー、それは確かにいやね……あ、でも、解決策にはならないけど、これって別の学園の遭難者同士なら問題はないわよね?


その人たちにとっては純粋に嬉しいことなんじゃない?」


「それも場合によるわ」


「場合って?」


「この里にもそういった夫婦がいて、実際に純粋な人間の子供もいたけど……その子供って、学園の生徒ってカウントにされると思う?」



詩織さんのその質問に、僕も稲生も顔を見合わせた。


そして同時に、お互いにイヤーな表情をしていることから同じ答えに至ったのだと悟る。



「そう、つまりその場合はもしもその夫婦が地上に戻る場合、子供がいたらその子だけを残して里を去るってことになるのよ。


仮に夫婦じゃなくても、この里にとっては大事な隣人であり、仕事を担う人材よ。


急にいなくなっていい顔をする鬼たちはいないわよ。


まして残される側にしてみれば、大事な家族を奪っていく悪者に私たちは映るでしょうね」



つまり、話せば確実に恨まれ、話さなくても恨まれる可能性がある。


現状、生活圏をこの里によって保っている僕たちにとって住人たちから反感を買うことは好ましくないどころか致命的だ。


スヴァローグという、これまでにない強敵を相手に戦うのに、万全な体制を整えておきたいところだというのに……


そういう意味では、ドラゴンが余計な口出しをしない可能性に掛けて黙っているのが賢いように思えるのだが…………



「…………黙ったままにしてるのは、僕はちょっと違う気がする」


「私は……黙ったままの方がいいと思うわ」



僕がそういうと、稲生はどこか不安げな表情で離れた場所でかけっこして遊んでいる子供たちを見た。



「今日、一緒に遊んだ子供たちに、お父さんお母さんが、いなくなるかもしれないって…………私は言えない。言いたくない。


そんなの、悲しい思いさせるだけだもん」


「「…………」」


「……そ、それにほら、要するに、私たちが勝てばいいんでしょ?


結局そうすれば、この里にいる人たちも私たちもみんな全員、地上に戻れるんだし……ね? バレたらバレたで、その時謝ればいいじゃない」



稲生の言葉も、一理あると思う。


けれど、本当にそれだけでいいのかと、僕の中で何かが絡みつく。



――本当に、僕たちだけで、スヴァローグを倒せるのか?



次元干渉で、スヴァローグがほかの学園に現れなくなる。



――それって、逆手に取ることができれば、この里にいるほかの学園の人たちも、僕たちと同じ学園の迷宮に行けるようになるってことじゃないのか?



そんな冷徹な計算が、僕の頭の中で囁かれた。

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