第327話 迷宮火山エリア攻略 無敵



――コロセ



萩原渉の頭の中に、重く、そして低い声が頭の奥底に滲むように響く。



「う、ぐ……!」


「――っ、渉、どうした!」



先ほどまで生徒会長の天藤紅羽と、来道黒鵜の戦いを見入っていた鬼龍院蓮山は、相棒が突如頭を抱え始めたことに驚き声をかける。


しかし、当の渉は血走った目で、射殺さんばかりの鬼気迫る形相で、この学園最強の二人を翻弄する文字通り炎を纏う牛を睨んだ。



「すヴぁ、ろー……グ……!」



口から無意識のうちに、の名が零れる。



「スヴァローグ……?」



聞き覚えの無い単語に眉をひそめる蓮山。


そしてその単語を聞いて、ノルンである神吉千早妃は何かに気が付いた様に目を見開く。



「スラブ神話に登場する、太陽、もしくは火の神の名前ですね。


一説では聖人の化身とされ、豚、馬、隼の姿をしているとも言われており……黄金の角を持つ牛もその一つとされています」



その言葉に、誰もが今、天藤と来道の二人が戦っている相手の牛を見る。


その牛もまた、金色に輝く角を持っているのだ。



「……つまり、それがあの牛の名前か?


渉、なんでお前がそんな名前を知ってるんだ?」



「ち、がう……俺じゃな、い……」



渉は頭を抑えながら震える指先で、状況がわからないからかポカンとした間の抜けた顔をしている歌丸連理を指さした。


さされた本人は「え、僕? なんで?」と困惑していて、まったく身に覚えのない様子である。



「鬼形、が……あの牛を認識、して、暴れてる……!


自分の、役割、を、思い出し、て…………!」


「渉、意識を確り保て!」



とうとう鼻血まで流し出す渉の姿に全員が騒然とする。


今、魔剣・鬼形は歌丸連理の学生証のストレージの中で、ご丁寧にレージングの鎖で完全封印した状態にある。


にもかかわらず、すでに手元にも無い渉に影響を与えるほど、鬼形は強く、そして激しくスヴァローグというあの牛に対して強い敵意を持っているのだ。



「歌丸くんは平気なの?」


「いや、その、まったく何も感じないし聞こえない。


……あっれぇ……僕の魔剣のはずなのになんでぇ……?」



不安そうに歌丸の身を案じる榎並英里佳だが、当の歌丸は魔剣を譲り受けたはずなのに自分にはまったく影響を及ぼさない魔剣に、場違いと分かりながらも腑に落ちない思いを抱く。



「――仇、を……!!」



そんな中、渉が歌丸に向けて手を伸ばす。



「お、おい、落ち着け!」


「うむ」



明らかに正気ではなくなった渉を、同じチームの蓮山と、谷川大樹が抑えようとした。



「邪魔、するなぁ!!」


「「っ!?」」



しかし、普段の渉では出せないはずの力で、この場にいる誰よりも素の力が高い谷川の腕をあっさりと振りほどき、歌丸へと迫る。



「――俺、に――――、に――の、仇を――――べふっ!!!!」



「っ、え、あ、ちょ、英里佳、詩織さん、紗々芽さんまで!?」



飛び掛かってきた渉に驚いた直後、機械的に一切の躊躇もなく英里佳が機敏なステップで数発のリバーブローを叩き込み、体がくの字に曲がったところを三上詩織が容赦なくクリアブリザードの腹の部分で頭を叩き、最後に倒れた所を苅澤紗々芽とパートナーのドライアドのララが植物の、それもかなり堅い根っこで手足を拘束した。


流れるような一連の動作に誰もが唖然。



「ほれ、ちょい寝とけ」



さらにおまけで、若干意識の残っている渉に向けて日暮戒斗が非殺傷性に威力調整したスタン効果のある弾丸で渉の意識を完全に刈り取る。



「……え、なにこれ、怖っ」



自分の新たなチームメイトたちの淡々とした淀みない対応に戦々恐々とする稲生薺


しかし、ちゃっかり彼女もパートナーであるマーナガルムのユキムラをけしかけようとした直前の状態で固まっていた。



「お、お前ら、何やって」「落ち着いてくださいお兄様、あの状況では仕方ありません」



渉に対する行いに怒鳴りそうになった蓮山を、妹である鬼龍院麗奈が諫める。



「大樹くん、ひとまず渉さんを背負ってくれませんか」


「任せろ、俺は壁だ」





意識の無い萩原くんが、谷川くんにおんぶされたままぐったりしている。


いくらか手加減はされていても、普通の人間なら十分に死ねるくらいの衝撃だったと思うけど……



「……さて、ひとまず落ち着いたとして……状況は最悪なままね」



まるで何事も無かったかのようにそう場を仕切り直す詩織さん


その視線の先では先ほどの光景の焼きまわしのように、天藤会長の攻撃をまったく受け付けない牛――スヴァローグと、逆にスヴァローグの攻撃を来道先輩が防いだりして一進一退に見える。


だが実際のところは十分なパフォーマンスを発揮できないこちら側の方が相手より不利な上に、そもそもスヴァローグが本気を出しているとも思えない。


長期戦になれば、環境的にも自動でエネルギー補給ができるあっちが絶対的に有利なわけだけ……



「――あの、スヴァローグって牛、さっきから攻撃してないよね?」



そんな時、状況を俯瞰してみていた紗々芽さんがふとそんなことを呟く。



「え、メッチャレーザービーム的な物撃ちまくってない、あの牛?」


「でもそれって反撃としてで、私の目で追い切れる分だけになるけど、先輩たちが攻撃した回数と同じ数の反撃しかしてないように見えるの」


「え…………………言われてみれば」



じっと僕も先輩たちとスヴァローグの攻防を見る。


速過ぎて一部目で追いきれないところもあるけれど、少なくともスヴァローグから二人に対して先に攻撃は仕掛けていないのは明白だった。



「――せんぱーーーーーい! 一回攻撃、やめてくださーーーーーーーーーい!!!!」



ひとまず叫んでみたが、駄目っぽい。


全然攻撃止めない。



「こんな溶岩ゴポゴポ流れてる場所で叫んだ程度で聞こえるわけないでしょ……」

「BOW」



アホな子を見るような目で僕を見てくる稲生と、なんとも言えない表情をするユキムラ。


僕は気まずくなって顔を背ける。



「…………ぼ、僕は聞こえるしっ」


「あんたじゃなくて、聴覚共有してるシャチホコが、でしょうが」



詩織さんはツッコミを入れつつも冷静に状況を見続けている。



「学生証で呼びかけてるけど、そっちも通じない?」


「うん。私たち同士は普通に繋がるけど、あの牛の近くは通じない……とかかな?」


「ディーという組織が、対ドラゴンのための力を持っているなら、広義的にはこの学生証の力もドラゴンから与えられた力にカウントされていて、制限されるのかもしれませんね」



詩織さん、紗々芽さん、千早妃はなんとも冷静である。頼もしい。



「現状、このままだとこちらが不利なのは明白。


まだまだ体力が残っているうちに、一度体勢を立て直したいところですが、今の体調不良のあのお二人はその辺りの冷静な判断もできないほどに酷い頭痛に苛まれているのかもしれませんね。


下手にスタミナが高いせいで戦闘を継続し続けられる弊害と言えます」


「千早妃様、我々が隠密スキルで近づいて言伝を伝えるのはいかがですか?」

「っ」



日下部姉妹の姉の方の……ええっと、確か綾奈さん、だったか? そちらの提案に妹の文奈さんが「え、マジで?」的な目を見開いた。


言葉にはしてないけど、すごく気持ちがわかる。


なんなら僕もその立場なら絶対に「え、マジで?」って言っちゃう。



「貴方たちじゃ巻き込まれて無駄死になるからやめなさい」



ですよね。うん、そうだね。


だけどもうちょっと言葉にオブラートかぶせてあげて欲しい。


綾奈さんの方が叱られたワンコみたいに、無い筈の尻尾が垂れたイメージが幻視できる位落ち込んでいる。



「……仕方ありませんね。


稲生さん、詩織さん、あと榎並英里佳」


「あ?」



千早妃にもののついで感覚で名を呼ばれ、ガラの悪い態度を見せるが、もはや見慣れてきたからか誰もがスルーする。



「協力して、私の指示に従ってください」


「ちっ」「英里佳」「……わかった」



詩織さんにたしめられつつも、すぐに頷く英里佳、うん、偉いと思う。



「えっと、それで私たちは何をしたらいいの?」


「そう難しくありません。合図したら、会長のパートナーであるソラに、テイマーのスキルで意識をこちらに向けてもらえれば大丈夫です。


詩織さんは、一回で良いのでスヴァローグの熱線を防げる壁を作り、その隙に榎並英里佳が二人の首根っこを掴んで橋を渡ってこちらまで引っ張るのです」


「言うのは簡単だけど……そのためにも最低でも先輩たちの足を止めないと駄目よ。


この状況だと連絡も取れないし……」


「それなら問題ありません。


連理様、貴方にしかできない役割を、今すぐ実行してくれませんか?」


「え、う、うん、任せて、何するの?」



突然話を振られて驚いたが、僕にしかできないとなればやるしかないな、うん!



「ひとまずあっちの方向に10秒ほどダッシュしてから、ダッシュで戻ってきてください」


「え?」


「はい、ダッシュ」


「え、あ、う、うぉおおおおおおお!!!!!!」



パンと手を叩かれ、よくわからないまま僕はダッシュで走り出す。



「きゅきゅう!」



そして無意味について来るシャチホコ!



「いや、勝手に動くなッス……」



そして僕と違って明らかに手を抜いてるのに平然と並走する戒斗



「ぬぉおおおおおおおおおおお!!!!」



なんか悔しいのでさらに全力を出すが、全然引き離せねぇ!!



「おい、十秒経ったッスよ」


「ぬぅおおおおおおおおおおおお!!!!」



言われるがまま、切り返して再び元いた場所まで全力で戻る。



――結局振り切れませんでした。



そして、その場に戻ったらあら不思議。



「く、ぅ……はぁ、はぁ……!」

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……!」

「GRRRR……」



先ほどまでスヴァローグと戦闘していたはずの先輩たちとソラがその場にいた。


え、マジック?



「連理様が走って移動したことで、二人とも範囲共有ワンフォーオールの範囲外になり、意識を保てなくなったのです。


それで二人の動きが止まり、安全のために詩織さんが氷壁を作り、榎並英里佳が二人を回収し、余計な反撃をさせないためにソラにナズナさんがスキルで注意を引いて牽制。


おかげで読み通り、向こうが攻撃をした直後でこちらが行動を止めたので、向こうは何も攻撃せず安全に戻って来れました」



僕が10秒往復ダッシュしてる間に物凄い攻防があったらしい。


いや、正確には防御だけなのか?


なんか凄い疎外感だけど、ひとまずは良しとしよう。



「来道先輩、大丈夫ですか?」


「……ああ、すまん、情けない所を見せた。


ひとまず怪我はしてない」


「でも、らしくないですよ。


いつもならすぐに退却の判断するのに」


「ああ、本当に情けないが…………考え自体は浮かんだんだが、どうにもそれを紅羽に伝えようと思えなくなってきていた」



腑に落ちない、という表情でスヴァローグの方を見る来道先輩


さきほどの戦っている時とは、かなり様子が違って見える。



「スラブ神話のスヴァローグの言葉の意味は、輝き清い……火を神聖なものとする古代スラブ人にとって灯された火を前に声を発することは戒められる行為とされています。


あの牛がスヴァローグという神の伝承を元に、ディーが用意したのならばそれらをなぞっている可能性もあります。


近づいた当初はともかく、あちら側にいると言葉を発しようとする意志そのものが徐々に消えていくのかもしれません」


「スヴァ……え、何?」


「あとで説明するので、少し静かにお願いします」



天藤会長の疑問を無視し、スヴァローグを見ながら黙考する千早妃


この迷宮、神話とかに出てくるモンスターを模した迷宮生物も多数いるけど、ガチに神に類する存在と戦うのってこれが初めてなのでは?



「……ちなみに、スヴァローグを倒すみたいな神話ってあったりする?」


「……どうでしょう。


基本的には私は日本の神や妖怪についての知識が専門で、そういう神がいるという簡単な知識しかありませんから、そこまで深いエピソードは存じておりません。


今言った知識も、ネットで調べれば十分にわかる範囲ですし……ただ、スヴァローグは本来、人に恵みを与える農耕にも明るい神とされていますので、倒されるような悪として描かれる存在ではないかと。


どちらかと言うと太陽神――つまりは最高神のような立場ですから、神話で言えば一番強いわけで……漫画で言えば、主人公ですかね?」


「えぇ……主人公=無敵理論、現実に持って来ないで欲しい……」



でも確かに、光速移動(誤字ではない)を普通に実行できる理屈が小難しいものじゃなくて「主人公だからっ!」と言い切られる方がちょっと納得する自分がいる。



「…………よし、綾奈、文奈」


「「はい」」


「スヴァローグに攻撃するようなそぶりは決して見せず、普通に歩いて階段に向かいなさい」


「はい、畏まりました!」

「え――……か、カシコマリマシタ……」



綾奈さんの方は出番が来たとやる気満々だが、文奈さんの方は絶句しつつも無理矢理それを飲み込んだ様子だ。



「神吉千早妃、その二人を殺す気?」


「黙りなさい、榎並英里佳。


この二人の未来が消えていないことを確認した上での判断です」


「あの牛に未来視が働かないって言ったのはそっち。


それにあんたの未来予知はやり方によっては対処法もある以上、それも絶対じゃない。


その上で自分の仲間を使ってあの牛の様子を見るとか、正気じゃない」


「だからこそ、この場でもっとも私が信頼し、尚且つこの場で最も損耗が少ない人選にしたんです」



一触即発、という空気で視線をぶつけ合う二人。


しかし、これについては僕も言いたいことはある。



「千早妃、君なりに考えた結果かもしれないけど僕も反対だ。


いくらなんでも、日下部さんたちを犠牲にするかもしれない選択は認められない」


「しかし連理様、迷宮攻略には多少のリスクは付き物。


その上で、これがもっとも合理的な判断です」



意地でも自分の言葉を曲げない千早妃


こうなってはこちらの意見を伝えたところで、いくらでも理屈をこねくり回して自分の意見を通そうとするだろうが…手延



「わかった、言い方を変える。


千早妃、君自身嫌だと思うことを、僕はさせたくないし、させるつもりもない。


絶対に、もう二度と、だ」


「っ……」



そう、そもそも今、千早妃がここにいるのだって、ここに来たいと思って、協力してくれたのは、彼女がやりたくもないことをやらなくても良いと、僕たちが証明したからだ。


西部学園が体育祭で勝利するために体に負担の掛かる予知を、何度も何度も死んで蘇生して死んで蘇生してを繰り返して、周りが嫌だと思うことを無理矢理やらされ続けた。


僕が彼女を知る前から、やりたくもない予知をさせられ続けてきたはずだ。


そんな彼女に、僕たちのために大事な幼馴染でもある日下部さんたちを犠牲にするかもしれないという選択肢を取らせることは、絶対に認められないし、認めたくない。



「スヴァローグが本当に、手を出さなければ何もしないなら、僕が」「「「「「それは駄目」」」」ッス」



言い切る前に、千早妃以外のチーム天守閣全員から止められた。ちくせう。



「こほんっ……とにかく、どっちも駄目よ。


それに落ち着きなさいよ。


あの牛、本当に私たちを害するならこうして姿を確認できる場所で暢気に喋ってる私たちなんてとっくに消し炭よ。


そこまでみんなして悲観しない」



再び場を仕切り直す詩織さん。



「消耗した先輩たちは除外して、ここは一瞬であっちからこっちに戻ってこれる奴が様子を見に行くってことで良いんじゃないッスか?」


「そんなスキル持ってる人いるの?」


「お前、自分のスキル忘れてないッスか?」


「え………………あっ! 素立無場居スタンバイ!」



僕が特性共有ジョイントを発動している対象を一瞬で傍に呼んだり、逆に僕が近くに行ったりできる便利スキル


現在対象はチーム天守閣の僕、英里佳、詩織さん、紗々芽さん、戒斗、稲生、千早妃の七名で、日下部姉妹は枠に収まらなかった。


ただ、スキル発動の起点となる僕が除外となると……



「万が一攻撃されても対応可能な最低限の反応速度は欲しいわね」


「それだと私は無理かな」

「ユキムラ頼みだし、ユキムラも一緒に転移できるかわからないからちょっと……」

「……でしたら、私も駄目でしょうね」


ここで紗々芽さんと稲生、千早妃が除外。



「とっておきの回復薬としてエリクサーは用意できてるから、即死じゃなければ一応復活できるわ」


「自他ともに認める紙装甲なんで、俺もパスッスね」



ここで戒斗も除外


となると……



「私と英里佳、どちらかが行くのが無難ね」


「じゃあ、私が」


「私ならクリアブリザードで一発は凌げるわよ」


「防御が間に合わなかったら素の耐久性が高い私の方が生き残る可能が高い」


「私ならそもそも怪我しない可能性も高いわ」



なんかお互いに自分の有用性を語ってる風に見せかけて庇い始めた。


そんなとき、状況を生還していた鬼龍院が口を開いた。



「……おい、歌丸、お前の転移スキル、同時に二人っていうのは可能か?」


「あー……やったことないけど、できそう、かな…………うん、できる」


「……なら、二人同時に左右逆方向から回って階段を目指せばいいだろ。


どちらかに顔を向ける予備動作があれば、その間にトロイこいつでも攻撃が始まる前に呼び戻せるはずだ」



ふーむ……言い方はちょっと引っかかるけど、理にかなってる。


確かにあの牛、炎の身体になったときは物凄く早いけど、熱線を放つ牛の姿の時は僕でも目で追えるくらいの動きしかしてなかった。



「うん、確かにそれなら対応できるかも」


「「…………」」




と、いうわけで…………



「普通に通れるのかよ……」

「……なに、この、なんとも言えない敗北感」



スヴァローグのすぐ横を素通りして階段の前まで到着した英里佳たち。


それに続いて全員が無事に通れて、最後に警戒していた先輩たちも素通りできた時の言葉である。


このスヴァローグとかいう牛については、とにかく謎が多いが……ひとまずはドラゴンのクエストである60層には無事にたどり着けそうだ。




――MOOO



「ん?」

「きゅ?」



スヴァローグの鳴き声が聞こえ、僕とシャチホコは同時に振り返る。


今まで興味なさそうに僕たちを対岸から見ていたスヴァローグが、わざわざ首だけ動かして今は僕たちの方を見ていて……



「歌丸くん、どうしたの?」


「……あ、っと……いや、なんでもない」



……嘲笑っていた気がした。



しかし、牛の表情など分かるわけがないので気のせいだと思い、僕は英里佳に促されて60層へと続く階段を降りていく。








――それこそが、スヴァローグの本当の役割であること知らないまま


深く深く、底の見えない階段を僕たちは下っていく。

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